20回目のハロウィン@aswad
作者名:aswad
ジャンル:ファンタジー
あらすじ
弟に捧ぐ
10月31日と言えば、世間はハロウィン一色だ。
カボチャをくり抜いたジャック・オ・ランタン、魔女や吸血鬼などをイメージした衣装、そして甘いお菓子がいっぱい。
まあ異文化を排他しない日本人らしく、否定する気はないけど。
「……さすがに、これはないと思うんだ……」
私―――鈴谷未夜―――は、お菓子でいっぱいになった袋を見て、げんなりしてしまった。
洋服が入るくらいの大きな袋に、ぎっしりと言ってもいいくらいだよ?
そりゃ曲がりなりにも女子だから、甘いものは好きだけど、こんなに大量にあったら飽きるね。
おまけに今、一人暮らしだし。
同僚や先輩たちももらっていたけど……食べるんだろうなあ、この量だとしても。
どうしようか、と私は大きく溜め息をつく。
とにかくいくつかお菓子をつまみつつ、普段通りに一日を終了した。
「……で、ここどこよ?」
目を開けたら見知らぬ夜の街でした―――ってどこの小説だ。
都市でも町でもなく、街って言葉がしっくりくる感じのとこ。
しかも街灯は変わったデザインで、少なくとも日本ではお目にかかれないガス灯みたい。
天を突くように伸びたビルはなくて、その代わり教会が一番大きな建物のようだ。
パジャマで寝ていたはずなのに、今の格好はスーツだし、片手にはなぜかあのお菓子が詰まった袋を持っているし。
夢なんだろうなぁ、とは思う。
だって、私は確実に寝ていたし、まだ起き上がってもいないしね。
ただ、自分の呼吸の音やひんやりと感じる空気なんかは、本物のような気がする。
なんだこれ、ここはどこだ。
ああもう、本当に訳がわからない。
万が一ここが異世界だとして、どうして私が飛ばされるのかがわからない。
だいたい異世界トリップなんて女子高生までの特権だと思う。
まだギリギリ許せて女子大生でしょ。
バリバリ社会人の私が飛ばされてどうするんだ。
異世界トリップして、別の世界のイケメンと熱ーい恋愛! なんて夢を見る年齢でもない。
根本的な問題として、恋愛に興味がないし。
こんな枯れきった女を飛ばしたところで、何か得するものでもあるんだろうか。
「……なぁ」
神様は信じてるけれど、だけどトリップして何かやって来い、なんて無茶ぶりする神様は信じてないし。
「……なぁ、って」
さて、どうしたもんかなぁ。
「なぁ、そこの姉さんってば!」
「ふえっ!?」
突然響いた、低めの心地いい声と掴まれた方に驚いて、奇声をあげてしまう。
慌てて振り返ると、そこには。
「はぁ、やーっと気がついた」
溜め息をつきながら苦笑いしているらしい――――カボチャ頭がいた。
いや、何を言っているんだとか言わないで。
本当、体はどう見ても人間なのに、ジャック・オ・ランタンを被ってるみたいなんだよね。
気さくに話しかけてきたけど、うん、不気味。
動揺が収まっていない私は、思わず素で呟きましたとも。
「……今どきのナンパは顔を隠してやるんだ。新しいね」
「ナンパじゃないよ!? っていうか姉さん、混乱してない!?」
しているともさ。
目を開けたら見知らぬ夜の街にいてもしかしたら異世界トリップかな嬉しくないよとか思ってどう考えても夢にしか思えないのに感覚はやたらリアルで突然声をかけてきたのはカボチャ頭だしお菓子の袋持って腕は疲れてるしああもう訳わかんないぃ――――っ!!
「……ごめん、そこまで混乱してると思わなかった。とりあえず落ち着こうよ」
「……え、もしかして口に出してた? 私」
本当に申し訳なさそうな声に、ようやく我に返った私は問う。
すると、「おぅ」と言う返事が返ってきた。
さすがに恥ずかしくなったよ……。
ただ、思いっきりぶちまけたおかげで、だいぶ落ち着いたのも事実。
もう一つ深呼吸をして、私はカボチャ頭に向き直った。
「ところでジャックくん、君はずいぶんと女遊びをしているのかな?」
「してないけど!? しかもジャックくんって俺の名前!?」
打てば響くようなツッコミに、ああいい子だなぁと思いながら私は笑う。
「だって私は君のことを知らないし。それに君の声のかけ方が、実にナンパっぽくて心配になったんだよ」
私の言葉に、ジャックくんは少し沈黙したあと、笑って答えた。
「……ま、ジャックくんでいっかな。姉さんの呼びやすいように呼んでよ。……うーん、馴れ馴れしいのは姉さん限定だよ、って言ってもナンパっぽいけどさ。ま、できれば気にしないで」
ふむ、と私は一つ頷く。
一応こっちも社会人として、触れて欲しくないところには踏み込まない、という処世術くらいは身につけている。
それに、知らないとは言ったけれど、この子は誰かに似ている気がする。
とっても身近な誰かに。
考えても仕方がないから、私はまた笑った。
「で、ジャックくん、ここはどこかな?」
私が踏み込まなかったことに安心したみたい、彼はほっと息をついてから答える。
「どことも言えないどこか。強いて言うなら、夜、かな」
「なるほど、なんのヒントにもならないね」
「やめてそんなこと言わないでっ!?」
余りにもいい反応をするものだから、ついついからかってしまうんだよ。
私の笑みにジャックくんは少し怯んだ(みたいだ)。
ふっと、そのカボチャ頭が私の片手を見る。
「あれ、そういえば姉さん、お菓子持ってるんだっけ?」
「あれ、私、言ったっけ?」
「大混乱してた時に言ってた」
どこか嬉しそうに言うジャック君に苦笑して、私はお菓子だらけの袋を持ち上げた。
「一人暮らしなのに、こんなにいっぱいあるんだよね。良かったら一緒に食べる? というかむしろ、遠慮なく食べなさい」
「姉さん、最後命令になってる」
普段の私なら、身も知らぬ―――というか顔も見えない―――相手と、何かを食べよう、なんて思わない。
でも、よくわからない土地で、一人じゃないってことに安心したんだと思う。
それに、このジャックくんが誰かに似ていると思ったことも大きかった。
よく知る身近な誰かに、本当によく似ているんだ。
話し方や動作、反応なんかが。
「でも、食べていいって言うなら食べるよ。じゃ、俺が持つね!」
私が物思いにふける前に、ジャックくんはひょい、と袋をとってくれた。
女の子慣れしてるよな、と思う私をよそに、ジャックくんは声をあげる。
「姉さん、せっかくだから仮装しようよ!」
「はい? 何を言っているのかなジャックくん」
「だって、今日はハロウィンだし」
ジャックくんの言葉に、あ、と納得した。
そういえばそうだったね、だから私はこんなにお菓子をもらったんだったね。
「って言っても、仮装なんてしてことないよ? 服も持ってないし」
訝しげな声で聞くと、ジャックくんは人差し指を立てる。
「想像してみてよ」
「はい?」
「姉さんが、こんな服を着たいなー、って想像したものに勝手に変わるから。
何はともあれ、とにかく実践! どんな服が着たい?」
唐突な無茶ぶりに、私はとりあえず目を閉じて考える。
えーと、こんな服を着たいなぁ。
それと同時に、ポン、と音が鳴った。
「……姉さん、趣味が透けて見えるね」
「え?」
ジャックくんの台詞に、私は目を開ける。
味気ないスーツだった私の格好は、黒のフード付きローブに黒いスラックス、紫のワイシャツに黒いジャケット、編み上げブーツという格好になっていた。
「趣味っていうか、これなら動きやすいしフォーマルっぽいでしょ」
「……いやうん、知ってた」
私の台詞に、ジャックくんは脱力したように呟く。
機能性重視の私に、一体何を期待していたんだろうね、ジャックくん。
それでも、彼はすぐに顔を上げ、私の手を掴んだ。
「ふえ?」
「じゃ、行こうよ。パレードへ!」
私より一回りも大きな手が、私を引っ張る。
どこぞの小説なら、こんなことから恋愛が始まるのかもしれないけれど、あいにく枯れきった私にそんな感情は一欠片もない。
それ以上に、何だかこの子の手は安心するんだ。
身も知らぬ相手なのに、どうしてこんなに安心するんだろう。
パレードに合流するまで、私はずっとそんなことを考えていた。
そのパレードは、実にカラフルで。
実に楽しげで、愉快で、大騒ぎだった。
「よーう、遅かったなぁ!」
ミイラ男に扮した男の声に、ジャックくんが答える。
「ごめん、迎えに行ってたんだ!」
そのままジャックくんは―――駆け出した。
手を引かれたままの私も、同時に強制的に走り出す。
「え、ちょ、いやいやジャックくん、このままじゃパレードの人たちに突っ込んじゃうよっ!?」
「大丈夫だから、心配しないでついてきてよ!」
ついてきてよじゃない、アンタが引っ張ってんだ!!
私の叫びも虚しく、二人で楽しげなパレードに突っ込んだ。
「わあああああああああああ!?」
「あはははははははっ!」
かなりのスピードだったけど、私たちは無事にパレードに巻き込まれた。
―――正確には、巨大な狼みたいな生き物が、受け止めてくれたんだけどね。
もふもふふかふかで、思わず堪能しちゃったけどね!
「おうおう、新しく来たのは何だい!?」
「現代版エリート系魔女だね!! 可愛さより機能性一番!!」
冷やかしのような質問に半ばヤケになって答えると、周りの人達がどっと笑った。
ジャックくん以外にもカボチャ頭の人がいるし、吸血鬼も狼男もフランケンシュタインもミイラ男も、とにかく何でもいる。
男だって女だって、とにかくなんでもアリだ。
ごちゃごちゃで賑やかな、楽しいパレード。
「よーし、歌うぞぉ!」
一際大きな声が聞こえたかと思うと、明るい音楽が響き出す。
―――夜のパレード 一夜限りの楽しいパレード
みんなみんな 楽しく騒いで歩こうぜ
子供は夜更かししていいし 大人ははしゃいでいい夜だ
世界にいくつも夜はあるし どこだって夜になるけれど
楽しく大騒ぎをしていいのは 今夜だけ
さあさあみんな 一緒に歩こうぜ―――
夜の街に響き渡る楽しい音楽、明るい歌。
もみくちゃにされながら歩いているけど、本当に楽しい。
あんなに怖くて不安しか感じなかった街が、今はとても素敵に思えるから不思議だ。
「姉さん、どう?」
横にいるジャックくんが、声を張って聞いてきた。
みんなの歌声が大きいから、隣にいても大声を出さなきゃ聞こえないんだ。
私は満面の笑みを浮かべて答える。
「すごく楽しいよ!」
そう言うと、ジャックくんも笑っていた―――多分。
ずいぶん大騒ぎして歩いたところで、休憩になったみたいだ。
パレードも音楽も止まり、みんなが思い思いに座り込む。
私はふっとお菓子の存在を思い出した。
何だか少しお腹が減っていたし。
「ジャックくーん、お菓子食べようよ」
「あ、そうだね。すっかり忘れてたな」
ごそごそと袋からお菓子を出していると、一緒に参加していたらしい子供たちが周りに寄ってきた。
ジャックくんが確認するように私の方を見たから、私はにっこりと笑顔になる。
「お菓子食べたい人はおいで!」
私の言葉に、子供たちが一斉にわあっと飛び出してきた。
一人一人のお気に召すお菓子を渡し、ついでにちらちらとこちらを見ていた人たちにお菓子を渡し……とやっていたら、残りは袋の三分の一くらいになっていた。
「あー疲れたかも」
配り終えてジャックくんの隣に座ると、お疲れ様、と声がかけられた。
「手伝ったのに」
「いいの、子供は癒しの対象なんだから」
私が胸を張って言うと、ジャックくんは笑った。
「ほら、ジャックくんにも」
「……へ?」
私がお菓子をあげると、ジャックくんは間抜けな声を出して固まってる。
何を驚いてるんだろうか。
「パレードに参加させてくれてありがとう、ってことで」
それに、渡さなかったら何か、怒りそうな気がしたし。
続けた言葉に、ジャックくんはふっと吹き出した。
肩を震わせて笑っている。
「……っく、もう、姉さんはっ……!!」
「何さ、そうとしか思えなかったんだよ! 妹だってあげなかったら怒るし!」
口をついて出た言葉に、ふっと気がついた。
そう、ジャックくんは。
「―――あははははは、姉さんはどこまでも姉さんだね!」
―――似てるんだ、私の妹に。
どうして気づかなかったのか、愕然としてしまう。
気がついてしまうと、今までの言動だって妹とそっくりだったことがわかってくる。
身近だと思ったのは、それもあるのかもしれない。
でも、それ以上に。
「……あ」
ジャックくんが、何かに気がついたように声をあげる。
その視線の先を見ると、水平線が紫色になっていることに気がついた。
他の人たちも気がついたのか、それぞれに声をあげたり、立ち上がったりしている。
ジャックくんも立ち上がって、私に手を伸ばした。
「残念だけど、時間だよ、姉さん」
ジャックくんの手をとって立ち上がった私も、その言葉の意味はわかっている。
私の視線を受けて、ジャックくんは何かをポケットから取り出した。
「はい、姉さん。ハッピー・ハロウィン」
「……え?」
それは、紫色のシャーペン。
ジャック・オ・ランタンやコウモリ、魔女の帽子のシルエットが散りばめられた、おしゃれなもの。
「良かったら、大切に使って。それと」
彼は今まで被っていたカボチャに手をかける。
そうして、一気に脱いだ。
「これ、置物になるから。お菓子入れか何かに使ってくれたら嬉しいな」
ポツポツと話しながら、ずいぶん空いた袋にカボチャを入れる彼。
あまりのことに声が出ない私。
だって、その顔は、どう見ても。
初めて見るけれど分かる、その顔は。
声が出ないまま、私のぱあっと足元が光った。
「今日は楽しかったよ。一緒にパレードに参加してくれてありがとう、―――未夜姉さん」
ほら、やっぱり。
私は息を大きく吸い込んで、声をしぼり出した。
「・・・・・・っ、蒼夜」
はっ、と肩を震わせる彼―――蒼夜。
泣きそうな、でもいたずらっ子のような笑みを、浮かべる。
「じゃあね―――未夜姉さん!」
私も深呼吸して、にやっと笑った。
「私も楽しかった!!ありがとう、―――蒼夜!!」
直後、私は光に包まれた――――
*
我が可愛い弟、蒼夜へ
全くアンタは、私の弟で、真夜の兄だよね。
姉弟揃っていたずら好きだなんて、どうしようもないね。
あのハロウィンの日、すっごくびっくりしました。
目を開けたらよくわからない世界にいて、よく分からないことになっていて。
小説は好きだけど、そんな小説のように劇的な人生が好きなわけじゃないしさ。
異世界トリップじゃなくてよかった、と心底思っていたのは秘密です(笑)。
それにしても、ハロウィンだからカボチャ!!って安直すぎない?
妙に女の子慣れしてるとしか思えないし。
姉さんはアンタの将来―――ってか、来世が心配だよ。
女に恨まれるような人生送らないようにね。
というか、まだ生まれ変わってなかったことにも驚いたけどね!
アンタが真夜の守護霊だ、とでも言うなら許すけど(笑)。
でも本当、心底驚いたし、嬉しかった!!
一度でいいから会いたいと思っていたんだ。
ま、アンタがまだこっちに留まっているって言うなら、何度会っても構わないけどさ。
もしダメでも、私はあの一度で十分だから。
私たちの幸せを願ってくれるのも嬉しいけど、アンタの幸せだって大切だからね!
楽しく、幸せに。
じゃあね!!
いつまでもアンタの姉、未夜より
追伸:父さん母さんはともかく、真夜のとこには顔出しなさい!!
それと、20歳の誕生日、おめでとう!!




