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Trick with Treat  作者: カオス学園文芸部
短編集『Trick with Treat』
31/46

「Trick or Treat」撃破を阻止せよ ~僕達の3時間戦争~@くまくるの

作者:くまくるの

ジャンル:文学


「Trick or Treat」


 トリックオアトリート

 お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!

 日本でも、もうお馴染みのハロウィンの決め台詞。


 大人は「ハッピーハロウィン」ってお菓子をくれる。


 ハロウィンは、仮装したり、お菓子をもらったり、子供達にとっては大切な大切なお祭りなんだ。


 それなのに・・それなのに・・。


 いつの間にか僕達は戦争をする事になってしまったんだ。



 始まりは、先月。

 僕達小学6年生は、近所の家々に、

「ハロウィンのお祭りをしようと思います。当日は小さい子もくるので、何かお菓子を用意して行事に参加してもらえませんか?」

 って頼んで歩いていた。

 僕達の住んでいる町はいわゆる『新興住宅街』といわれるもので、昔ながらに住んでいる人が少ない。

 子供会や大人の地域会議会も出来たばっかりで、何かの行事をしよう! となったら手探りで準備なんかをしていかなければならなかった。

 今回のハロウィンもクラスの女王の綾香ちゃんが、

「ねえねえ。私ハロウィンの日に魔女の格好をしてお菓子もらいに回りたい」

 なんて、思いつきでクラス内で発表してしまった事が原因だ。

 クラスの女子は綾香ちゃんの言いなりだし、男子は可愛い綾香ちゃんにデレデレして追従してしまう。

 そんな時に真っ先に被害を被るのが、クラス委員の僕だ。

「山田君。お願い・・。ハロウィンのお祭りして・・」

 ちなみに、綾香ちゃんが副委員。

 いっつも、何かして・・。って可愛く言うのが綾香ちゃんで、その思い付きを企画実行するのが僕。

 6年生になってから、何度も繰り返された光景だが、今回は少し荷が重かった。


 だって、ハロウィンは僕達だけじゃなくて、大人や地域の人も巻き込まないと出来ないからだ。

 しかも、僕達のクラスだけで、行うなんて出来ない。

 低学年の子や幼児なんかも参加させないと、大人の許可をとることは出来ない。

 そうなれば、必然的に地域子供会全域でしなければならない。

 まあ、そうしないとお菓子をもらえる子ともらえない子がいて不公平だし、しょうがないんだけどね。


「綾香ちゃん。さすがに僕には荷が重い。今回は無理」

 きっちりクラスでお断りしたさ。

「山田君のイジワル・・。私だって手伝うよ、今回は! だから、ダメって言わないで考えて」

 上目使い、涙目・・。

「はああ。じゃあ、クラスどころか、6年生全員手伝いの許可が取れるのなら、考えてもいい」

 そんなめんどくさい事したくない・・。興味もない。

 そんな僕にとってはこれでも譲歩出来るギリギリラインだ。

 まあ、僕と同じ考えから反対するやつはいるだろう・・って思ってたのに・・!!


「山田君。これ、ハロウィン協力の署名。6年生全員分」

 わずか数日で全員分の署名を集めてきた綾香ちゃん。おそるべし・・だ。

「約束・・したよね。これで、山田君が企画してくれる??」

 したさ・・。毎回こんなのばっかりだ僕。

「わかった。企画を立てるから、全員に協力依頼をして回るのは綾香ちゃんの役目だよ」

 自分で言うのもなんだが、僕の企画力と行動力は先生も一目をおく中々のものなんだ。

「うん。楽しみ。ありがとう」

 女子のお供を連れて立ち去ってしまった。

 別にいいんだけどさ、これを実現可能でなおかつ常識内で、なおかつ大人受けのいい行事にするのは大変なんだってちょっとわかってほしかったよ。


 そして、結局僕が考えたのは

1 地域子供会のこども全員が参加

2 後々、揉めてはいけないから、事前にお菓子のくれる家は把握して、お菓子をもらいに行く

3 仮装は自由だが、衣装用意の負担を減らすために基本は私服


 とっても常識内に落ち着いたのだ。


 そして、6年生のクラス事に担当地区を決めて、お菓子協力要請を一軒一軒行っていったのだ。


 僕の担当地域の中に、一軒広くて、でも古い、昔の武家屋敷みたいな家があった。

「まあ・・子供もいないだろうし、多分無理だろう・・」

(やはり、自分の子供を参加させたいお母さんのいる家は協力してくれる)

 とは思ったのだが、一応確認の為、ブサーを鳴らした。


 ブビーブビーってひっくい、聞いた事もないような低音でベル? が鳴って、

「はい・・・・」

 これも聞いた事もないようなひっくい声でおっさんが出た。


「すみません。僕は新第1小学校の6年生の 山田太陽やまだたいようって言います。実は今度、子供会でハロウィンの行事をする事になりまして、お菓子のご用意の協力の為に・・」

 僕の言葉はおっさんの「待て」ってひっくい声にさえぎられた。

「ハロウィンってのは、あれか? お菓子をくれなきゃイタズラするぞ! ってやつか?」

「そうです。当日は僕達子供が来ますから、お菓子を・・」

「いいだろう・・。」

 え?? いいんだ! おっさん声が低くて怖そうなのにいい人じゃん・・なんて思った。次の言葉を聞くまでは・・。

「ただし、俺に勝ったらだ」

「はあ??」

「ハロウィンの日は、菓子を用意してやる。ただし、様々な困難を勝ち抜いて、おれの家の玄関まで来れたヤツにだけやろう」

 めんどくせー・・・。

「じゃ・・いいです。すみませんでした」

 そりゃそうだろ?何もこのおっさんにこだわる事はない。

「待て・・俺の一言で、この近辺の地主は結構いう事聞くぞ。ハロウィンに菓子くばり禁止だって言ったら、新興住宅地もどうなるか・・。菓子なしハロウィンになる可能性が高くなるな」


 ・・・何?? なんて大人気ないおっさんなんだ。

 僕は別にいいけど、楽しみにしてくれている小さい子や綾香ちゃん、そして、お菓子協力を快くしてくれた地域の常識的な大人の皆様に申し訳が立たない。

 そして、、僕の完璧な企画を潰そうとする、おっさん。アンタコソ、ツブスヨ。


 僕の闘争心に火がついた。

 こんな大人気ないおっさんに、大人っぽい僕が負けたなんて思われたくない。

「わかりました。ただし、全員でこの家に来るのは無理です。なので、6年生3人だけ来ます。必ず来ますからみんなの楽しみの邪魔しないでもらえますか? おっさん!!」

 おっさんはハッハッハッってマンガみたいに笑った。

「いいだろう・・。こっちは、俺1人だ。大人1人対子供3人・・。どっちが強いか戦争だ」


 こうして、ハロウィンのお菓子を守る為の戦争が開戦される事になったのだ。



 僕は翌日、光喜こうき直哉なおやの悪友2人に昨日のおっさんの出来事を話した。

 光喜は、眼鏡の秀才タイプで、直哉は小さい頃から柔道をしている肉体派だ。

「それは・・大人げないと言うか、なんというか。無視は出来ないの? おっさんの言う事がウソかもしれないじゃん。お菓子を配らせないようにするなんてさ」

 光喜の言う事は最もなのだが、僕はもう、おっさんに腹が立って腹が立って・・。

「本当だったら、どうするんだよ。古い家の昔からの住人なんだ。僕達の知らない横の繋がりとかが、ありそうじゃん。1回禁止ってなったら、もうお菓子は配ってもらえない。そうなったら、ハロウィンはもうお終いだ。ただの仮装行列とその他の行進になってしまう」

 僕は自分の想像に震えた。

 シュールすぎる・・。

「戦おうぜ! おっさんの家の玄関まで入ればいいんだろ? 簡単だ」

 肉体派の直哉はそう言ってくれると思って声をかけたんだ。

「光喜も協力してくれないか? 僕達でハロウィンのお菓子を守るんだ」

「・・ケガとかしなければいいよ。仮装よりも、おもしろそうだし」

 大人っぽい僕達だけど、やっぱり戦争ごっことかにはワクワクしてしまう。

 しかも、大人相手だ。

 ヘンなおっさんだけど、子供っぽいけど、一応大人だ。


 重要なのは・・作戦だ。

 ハロウィン仮装行列は夕方の6時から晩の9時までの3時間。

 その夕闇の中を、こっそり、あるいは大胆におっさんの家に入らなければならない。

 第1の関門は、まずは玄関より前にある門だ。

 昔の家だから、塀が家の周りをぐるって囲ってて、時代劇みたいな長屋門がある。

 あの門を突破出来なければ、お話にならない。

「あの・・長屋門。あれを、どう突破するか・・だな」

 おっさんも門を閉めて鉄壁の構えで来るだろう。

「長屋門なんて、あるのか? それは・・想像以上に難関だな」

「門から入れないなら横から入るしかないだろ? 俺が塀を登って、中から鍵を開ける」

 大柄の直哉が言うが、正直登れそうに思えない。

 いや・・直哉の体型うんぬんの前の話だ。

「あの塀を登れるとは思えない。僕達の背丈の2倍ぐらいある。近くの木から飛び移るなどの方法もあるが、適切な木がない。電柱ならあるが・・」

 僕がおっさんの家の造りを思い出しながら言うと、光喜がニヤッと笑った。

「自分達で開けれないなら、おっさんに門を開けさせればいいのさ」

 光喜のゴニョゴニョ言った作戦に僕たち3人は高笑いした。


 第2の関門は、長屋門の向こう側がどうなっているのか、まったくわからない事だった。

 僕もこの前は門の所に設置されているブザーを押しただけだからだ。

 こればっかりは、頭を使って立てる作戦ばかりでなく、足を使って調べなければならない。

「誰が、あのおっさんの家の内部を知ってるだろうか?」

 僕達、新興住宅地メンバーでは、誰も知らないだろう。

 昔からここに住んでいる子、もしくは大人だ。

「・・・綾香ちゃんだ!」

 女王綾香。何も可愛いだけで、クラス内部で今の地位にいるわけではない。

 親がこの辺りの地主なのだ。

 子供に、そんな事は関係ないって思うだろうけど、日本人の意識の奥深くに地主信仰があると僕は推測している。

 まあ、僕も綾香ちゃんには弱いしね。

 これは、綾香ちゃんにも協力してもらわなければ・・。

 そもそもハロウィンなんて言い出したのは綾香ちゃんで、そこに僕の男のプライドや遊び心が加わって、現在のややこしい出来事になってしまったのだから、情報提供の協力義務ぐらいはある。


 僕達は綾香ちゃんを放課後に呼び出して、おっさんの話をした。

 綾香ちゃんはキレタ。私のハロウィンを邪魔する気ね! あの親父!! ・・と。

「綾香ちゃんは、あのおっさん知ってるの?」

「この辺じゃ有名な変わり者のおじさん。家に篭って仕事にも行かないで、いい年して土地を売ったお金で食いつないでて、しかも・・」

 おっさんの悪口が山のように出た。なる程・・・

「わかった。おっさん情報はもう、いいよ。それより、あの家の門から先ってどうなってるか知ってる?」

 おっさんの経済状態より、おっさんの家の造りの方が、今の僕達には重要なのだ。

「私は知らないけど、お父さんかおじいちゃんなら知ってるかも。今日聞いて明日、家の間取りを図に書いてもってきてあげる」

 翌日には、心強い情報提供者により、おっさんの家の間取り図まで手に入った。


 後は当日まで、色々な武器(いたずら用品)を用意して待つばかりになったのだ。


 おっさん! 「Trick or Treat」撃破を目指してるんだろうけど、そうはさせないからな!


 おっさんにはそんなつもりはなかったのかも知れないが、おっさんの言動は僕達の、お菓子をくれない人にはイタズラを・・精神を多いに鼓舞する結果になったのだ。



 そして、開戦当日。



 仮装は大変だから、私服でいいよ・・と事前に伝えたにも関わらず、仮装率は8割ぐらいになっていた。魔女や妖精、ドラキュラ、おばけかぼちゃ、セーラー服に猫耳。なんでもありだ。

 そして、数グループに別れて、6年生を先頭にお菓子をくれる家を目指しハロウィンを楽しんでいる子供たちは去って行った。

 もちろん僕たち3人も楽しむさ。


 おっさんの家の門はやはりガッチリ閉まっていた。

 僕はブザーを鳴らす。

「・・・・はい」

 おっさんの、ひっくい声が聞こえた。もしかして今日の事忘れてないか??

「おじさん。この前お菓子を要請しに来た、山田太陽です。やっぱり、戦争すると言う意見は変わりませんか? 今なら無条件降伏で許せますけど?」

 ちょっと煽って言ってやった。

「はっ!! 奇襲を仕掛けないとは、中々見事だ。それでこそ、日本男児。えーただ今の時刻18時17分・・開戦!!」

 宣言だけして、声がブチッと切れた。

 やはり戦争を回避する事は出来ないようだ。やったね。

「開戦だ」「開戦だ」「開戦だ」大声で叫びながら僕たちはそれぞれ、所定の位置についた。


 まずは、光喜。

 門の一番近い所から、生卵をぶつける。

 これは、ハロウィンの定番だ。

 グチャぐちゃって音がして、立派な門にどんどんと卵の染みが広がっていく。

「うはハハハハハハむふうううう」

 光喜のテンションが上がり、背負っていたリュックからさらに卵を取り出し投げつけようとする。


 こんなに弾けた光喜を見たのは初めてだ。やはりお祭りは楽しい。


「いたっ!!」

 光喜が持っていた卵を落とした。

 見ると、門の右側の塀の上に知らないおっさんが立っていて、右手にパチンコを持ってニヤツイていた。どうやら、光喜の手にパチンコで何かをぶつけたらしい・・。

「敵発見!!敵発見!」

 直哉が塀のおっさんに硬式の野球ボールを投げたが、おっさんには当たらず高い壁に跳ね返って光喜に当たった。

「痛い!! 危ないじゃないか! 直哉!! 硬いものは禁止だろ?? 普通さ」

「だって、俺の手榴弾はボールしかなかったし。卵とか考えつかなかった・・」

 喧嘩になりそうだった2人を僕は止めながら、小声で、

「作戦B・・これは使いたくなかったが仕方ない。おっさんはどうやら門の汚れにはびくともしない」


 僕は作戦Bの爆竹を取り出した。中国のお祭りなんかで使われている音と煙が派手で火が出ないタイプのやつだ。(この為に中華街までいったのだ)


 パンパンパンパンパン!!バチバチバチバチ!!


 ものすごい音と煙の為に後方に一時避難する。

「スゲー・・」「これは・・火あぶりだな」「やばいかも?ご近所に迷惑が・・」

 ちょっと引いてしまった僕達だったが、心配は無用だった。

 先ほどの塀の上からおっさんが、ホースを片手に爆竹に水を浴びせかけた。

「ふっ・・所詮は子供の浅知恵よのお」

 ちょっとニヤついて言われた。オトナゲナイオトナだな!

 作戦Bまで封じられてしまった。


 これは・・ヤバイ・・。

 焦る僕たち3人におっさんが水鉄砲で思いっきり水をかけてきた。

 安っぽい、こどものおもちゃではなくて、大きな水がたっぷり入るけっこうなお値段の本格的水鉄砲でだ。

 大人はどうやら、財力に合わせて武器が調達できるらしい。

 僕達は一旦退却を余儀なくされた。


 後方で考える。

 プランBなら間違いなく焦ってあの門がひらく予定だったのに、悔しすぎる。

 時刻はただ今・・19時。。19時!!!! ヤバイめっちゃ時間がかかってしまっている。


 大人なら家を生卵で汚されたら怒るだろう・・と思ったのにダメ。

 爆竹ならしたら驚く+近所迷惑だから出てくるだろうと思ったのにダメ。

 おっさんには、どうやら僕たちが考える大人像はまったく当てはまらない・・。

 それじゃあ・・子供が怒る事をしてみては如何だろうか?


 おっさんの家の前に立って、大声で叫んだ。


「おっさんの弱虫、ヘタレの意気地なし! 僕たちが怖いからって遠くからしか攻撃できない女男! バーカ、バーカ、バーカ!!」

 小学生低学年レベルの攻撃をしてみた。


 しばらくしたら、バタバタバタって門の向こう側に人が近づいている音が聞こえた。

「誰が弱虫で、誰がお前らなんか怖いんじゃーーーー!!!」

 開かずの門が少し開いた。

 直哉はその隙を見逃さず、門に突進。助走+直哉の大人並の体重によっておっさんは門の向こうで「うわあ・・」と情けない声を上げ、門は子供なら1人通れるくらいに開いた。

「俺がここで、門を守るからお前らは行け!!」


 お言葉に甘えて僕と光喜は門の隙間から中へソッと入った。

「おっさんが・・消えた」

 門の向こうで尻餅をついて、悔しい顔をしていると思ってたのに、完璧に計算外の行動をする大人だ。

 おっさんがその辺に隠れてないか木陰などを丹念に調べている僕を置いて、光喜は数十メートル先の母屋の方へ走っていってしまった。


「うわああああああ」

 光喜の叫び声だけが響いたが、姿が見えない。何が起きたんだ!!

 僕は慎重に、慎重に母屋の方へ歩いて光喜を探す。

「たすけて・・」

 光喜の助けを求める声が下から聞こえる。ん??? 下??

 僕の目の前に大きな穴が開いていた。光喜は穴にすっぽり嵌っていた。

「たすけて・・太陽」

「ごめん。助けたいが、僕1人の力では光喜を持ち上げる事が出来ない。すぐに、おっさんとの決着をつけて、ここに衛生兵を派遣する。しばし、耐えろ! 友よ」

「わかった。武運を祈る」

 敵は想像以上の強敵で、僕は遂に最後の1人になってしまった。


 慎重に進むうちに、わかった事がある。

 おっさんは落とし穴を超掘ってる。普通の地面と感覚が違うからすぐにわかるのだ。

 落とし穴を避け、周囲を警戒し、ムカツイタから生卵爆弾をその辺に繰り広げているうちに、母屋の玄関が見える距離まで来た。

「おっさんが、ここまで僕を通すなんて何か罠があるに違いないぞ」

 時間はただ今19時30分過ぎ。辺りはもう真っ暗で警戒するにしても、限度がある。

 時間的余裕はあるが、罠が怖い。

 残り数メートルが果てしなく遠くに感じる。


 僕は戦争で散っていった友の顔を思いだした。(散ってないって思わないで気分だから)


 勇気を振り絞り、1歩進む。

 カチッと何かを踏んだ感触が足元からした。


「ウヒャヒャうひゃひゃウヒャヒャ!!!!!!」

 ものすごい大きな機械的笑い声に僕はビクッとなり、立ち止まった。

 笑い声は、右からも、左からも、前からも、後ろからも、上からもする。

 真っ暗で、辺りにはヘンな笑い声が響き、しかも一人ぼっち。

 久々に目に涙が浮かびそうになる。

 それでも、友の為に進む。1歩また1歩・・。


 目の前を右から左へ白い何かが横切った。そう思ったら次は左から右へ・・。

 立ち止まってしまった僕の横で今度は白い何かが立ち上がった。それにライトが当たり・・

「うわあああああ」

 ドラキュラだった。なぜか、僕に十字架を向けて突っ込んでくる。

 冷静な時の僕なら鼻で笑うようなちゃちな攻撃。

 それなのに、怖くて判断力を失った僕は逃げた。暗い門の方ではなく、母屋の方へ・・。

「待てーーー待てーー坊主!!」

 後ろでドラキュラが叫んでいたが耳に入らない。

「うわあああ」

 半泣きになりながら、母屋の玄関を勝手に開けて、中から勝手に鍵をかけた。

 後ろで母屋の玄関をドンドン叩いてる音がしたが、僕は耳を塞いで座り込んだ。


 どんどん「坊主」どんどん「開けて」どんどん「鍵持ってないんだ」どんどん「お願い」


 ・・・・・


 少し落ち着いてきた僕は少しだけ冷静に考える事が出来るようになった。

 これは・・母屋の玄関まで入ったのだから、僕たちの勝ちなのではないか??と。


「おじさん。負けを認めますか? 僕は玄関に到着しましたよ。認めないと家中の鍵を閉めて、立てこもります」

「誰が認めるか」

 さっきのドラキュラはやっぱりおっさんだ。なーんだ。

「おじさんが何を言おうが、母屋の玄関まで来たら確かお菓子をくれる・・・あっ」

 冷静になった僕が見たものは、玄関先に大量に積んであったお菓子の山だった。

 おっさん・・僕達にくれるために用意してくれてたんだ・・。素直じゃないおっさんだ。


 僕は笑ってしまった。

 本当に大人げのないおっさん。

 でも、おっさんもきっとハロウィンを楽しみたかったんだな。

 大人になってお菓子を渡すだけじゃなくて、子供みたいに楽しんで遊びたかったんだ。


 そう思うと、なんとなく戦意が削げて、僕は玄関のお菓子を1つとって鍵を開けた。

 そして、おっさんに言ってやった。


「ハッピーハロウィン!!お菓子をどうぞ」

 今日は少しだけ僕の方が大人だ。

 おっさんは少しびっくりした顔で僕の差し出したお菓子を少し嬉しそうに受け取った。


 その後、僕たち3人は結局おっさんと一緒におっさんの家でお菓子を食べた。

 お茶と一緒に用意してくれたのは高級シュークリームで、すごくおいしそう・・。

「いただきまーーす」

 僕たち3人は一斉にかじった。


 口から火が出た。

 わさびとからしのシュークリームだった。中身を変えやがった!!


「Trick or Treat」

 おっさんがすごい嬉しそうな顔で言った。



 色々あっても、大人も子供も楽しいハロウィンの夜。


 さあ、みんなで一緒に楽しもうよ。

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