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Trick with Treat  作者: カオス学園文芸部
短編集『Trick with Treat』
25/46

Kiss or Treat?@MONDO

作者:MONDO

ジャンル:恋愛


「うわぁー! カボチャがいっぱいだねー」


「そりゃそうだろハロウィンなんだから」


 ――――今日、10月31日はハロウィン。

 ハロウィンとは、キリスト教の諸聖人の日『万聖節』の前夜である10月31日に行われるお祭りのことであり、カボチャが目印のあのお祭りのことである。……らしい。

 そんなハロウィンムード真っ盛りの住宅街を、俺は1人の女性と歩く。


「ねえねえユキくん、ハロウィンの時の合言葉ってなんだったっか覚えてる?」


「はえ? えっと、その、えーっと、あれだ、“お金をくれなきゃ、いたずらするぞ!”みたいなやつ!」


「……何その犯罪臭プンプンする合言葉。もう、正しくは“お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!”で、“トリック・オア・トリート”でしょ?」


 腰に手を当てて、そう言う彼女は、紗綾さや。俺の彼女だ。

 頭脳明晰、容姿端麗。幼馴染であるこいつとは昔から結婚まで決まってたらしい。所謂、許嫁。まぁ異論などないが。


「何だよ結構似てんじゃんか。ニュアンスも似てるし」


「似てません!」


「ほいほい。……それよりまだか? タカの家」


「えっと、もうすぐ着くよ。“荻原(おぎわら)”って表札があるお家で、玄関にカボチャのプレートがかけてあるらしいよ」


「ふーん」


 今俺たちは友達数人とハロウィンパーティーを行うため、その会場を提供してくれたタカという友達の家に向かっているところだ。

 今が……6時40分か。まだまだ時間はあるな。


「あー寒いなー。手が冷たいなー。特に左手が寒いなー!」


「……まだ10月だぞ?」


「もう11月よ」


「……11月は暦上では秋だぞ」


「でも手が冷えてしょうがないの。こういう時彼氏はどうすると思う、普通?」


「…………カイロでも渡すんじゃね?」


「15点」


「いやカイロは温かいぞ? 人肌なんかよりよっぽどa」


「もういい! ヘタレ! ばーか!」


「はぁ……」


 そう言って彼女は、プンプンと効果音がつきそうな様子でぷっくり頬を膨らまし、怒りを露あらわにした。ちょっと可愛い。

 アイツはすぐ手を繋ぎたがるけど、俺はそうは思わない。物心ついた頃には隣にいたような仲だ。好きという感情はあっても何だか恥ずかしい。


「もうっ、本当ヘタレ。告白の時もあたしからさせたし」


「恥ずいんだよ。許してくれ」


「……将来大丈夫なのかn……あれ? この家じゃない?」


「ん? 本当だ。“荻原”って書いてある。カボチャのプレートって……あれか」


 俺が指差した先には、カボチャに顔がついているプレートがあった。顔の下には‘Welcome!!’の文字。


「アイツらそんなに歓迎しててくれたのか……」


 いつもは間違いなく『ようこそ!』なんて言わなさそうな奴らだったので少し驚いてしまった。

 そんなことを考えていたら横から俺の袖を引っ張る感覚が。


「とりあえずここで間違いないみたいね。さぁ入ろ。――そうだ! 玄関入る時は大きく“トリック・オア・トリート!”って言いながら入ろうよ!」


「それ意味あんのか?」


 俺はお菓子をそんなに欲してないのだけど。


「それぐらいいいじゃーん。ね?」


 サヤの目はキラキラと期待の眼差しで輝いていた。断りにくい。


「もう、分かったよ」


 結局了承してしまう俺。そこまでして彼女は合言葉とやらを言いたいのか。


「じゃあ開けるよ? せーのっ!」


『トリック・オア・トリート!』


 ああ、またアイツらに『よっ、バカップル!』とか言われるんだろうなぁー。バカップルじゃねえっての。もう夫婦確定だっての。ってそういう問題でもねーよ。

 しかし、俺の予想は大きく裏切られることになる。


「おお! やっと来たか浩司こうじ! 待っておったよ!」


「……!?」


「遅かったわね2人とも。お父さんなんて今日ずっとウズウズしちゃってて」


「お、おい! そんな事ないわ!」


「ふふふ、美咲妃みさきさんも遠いところ疲れたでしょう? さあさ上がって」


「…………?」


 浩司? 美咲妃? ……いや誰ですか?

 玄関を開けると出てきたのは、高校生の友人数人らではなく、すっかり見たところ50歳ぐらいの老夫婦だった。

 それよりも、だ。俺たちは家を間違えたらしいな。

 とりあえず家を間違えた趣旨を説明して、おいとますることにしよう。これ以上絡まれたら厄介だ。


「すみません、家をまちg」


「ほらほら入った入った!」


「いや、だから」


「美咲妃さんも久しぶりだなぁ。またべっぴんさんになって!」


「へ?」


「料理を用意していますよ。たくさん食べてくださいね?」


「いや、ちょっ! だから!」


 といった具合で俺たちはなし崩し的に、全く知らない老夫婦の家に招かれることとなった。



 + - + - + ― + ― + ― + ― + 



「浩司。酒はいいのか? 今日はハロウィンなんだぞ?」


「……はい」


 だって未成年ですもん……。


「ふうむ……そうか」


 とりあえずここまでこの老夫婦と会話してきて分かったことがある。

 ①――この人たちは今日はハロウィンパーティーをしているということ。

 ②――俺を息子の浩司さん、紗綾を浩司さんの妻の美咲妃さんと勘違いしているということ。

 ③――浩司さん夫妻が実家に帰ってくるのは一年ぶりということ。

 以上3点。

 なぜ高校生の俺たちを既婚の夫婦と間違えたのかに関しては全く分からない。大体、実の息子の顔を忘れんなよ。

 でも俺には考えがあった。メールでタカを呼んでこの家に来てもらうのだ。恐らく近所だと思うので顔も知っているだろう。

 という訳で俺は携帯でメールを打ち始めた。


[助けてくれ。家を間違った。荻原って家だ]


「よしっ……。送信」


 これでタカが来ればこの環境から抜け出せる。何かもう、このおじいさん達が楽しそうに昔話とかするもんだから罪悪感で押しつぶされそうなんですけど。


「……紗綾」


「……どうするのユキくん、この状況。あの2人完全にあたしたちを勘違いしてるよ……!」


「今タカをメールで呼んだ。それまでの辛抱だ」


「そうだね。それまで適当に演じて乗り過ごそう」


「ああ」


「……なぁ浩司。もうそろそろ……孫の顔が見たいんだが」


『ぶっ!!』


 急に何言い出すんだこの人! あんたは今高校生相手にそう言ってんだぞ!?


「だってお前たちもう結婚して3年になるだろう? わしとばあさんもそんなに長くは生きてられんのじゃよ」


「えっ……それはどういう」


 まさか重度の病を患っているとか……。


「どうしても孫の孫も見たくてな」


 ……知るかよじいさん。高望みしすぎだろーが。


「はあ……」


「まぁそれは冗談じゃが、そろそろ考えてみてくれんかの」


「了解っす……」


「了解なの!?」


 と、驚いた表情の紗綾。


「マジなワケねぇだろ……!!」


「だよね……? ハハ、ちょっとビックリしちゃった///」


 いや何でそんな、まんざらでもないみたいな言い方なんだよ。やめろよそーゆーの。


「それより御飯がすすんでないじゃないか2人とも。遠慮せずに食べなさい」


「えっと……」


 食卓に並べられたのは、ローストビーフ、サラダ、カボチャのスープ。とても美味しそうだ。

 だが、ひと口も食べるわけにはいかない。なぜなら俺は浩司さんじゃないからだ。


「あら、お父さん。ラブラブな2人はお互いが食べさせあうのよ。前に来たときはそうしてたでしょ。でもきっと私たちの前だから恥ずかしくてできないんだわ」


 浩司さんと美咲妃さん、お前らマジか! 親の前でも食べさせ合ってたのか! 俺だったら吐血するわ!


「そうなのか! じゃあ2人とも、気にせずいつも通り食べさせあってくれ」


「……っ!」


 こんな事できるワケない。何が食べさせ合うだよ。何があ~んだよ。自分の手で食べろよ、小学生でもできるわそんな事。


「……そうですか! じゃあ遠慮なく。ほらあなた、あーん」


 そう言って紗綾はあろうことか、口を開けてきた。よく見ると少し口角が上がってるような気がする。

 まさか……コイツ今の状況を利用する気か!!


「…………」


 しかし戸惑ってられない。本物の浩司さんと美咲妃さんは親の前でもあ~んし合うほどのバカップルなのだ。俺たちはそれを演じなきゃいけない。

 落ち着け俺。これは演技だ。本物の紗綾と思っちゃダメだ。そう、これはマネキンなんだ。こいつは口を開けて餌を親から与えられるのを待つ、雛鳥ひなどりの剥製なんだ。何も緊張する事はない! そうだろ!!


「はい、あ~~ん……」


「はぁ~ん」


「どう美味しい……?」


「うん! 美味ひい!」


「……っ!」


 時々こいつは無邪気な笑顔を見せることがあるんだよな。やっぱり昔からかわらず可愛いな。

 それよりも、タカの奴まだか? 返信もないし。


「わしらにもあんな頃あったなぁ」


「ふふっ、そうですね」


「そうですか……」



 はやく帰りたいよぉ。

 そんな俺とは違って、紗綾はこの擬似夫婦体験をたのしんでいるかのようだ。調子にのりおって。


「あっ、そうそう! 2人は今でもキスしたりするの?」


「おい母さん!(なりきっているのでこう呼ぶことにした)」


「どうなんだ浩司」


「父さんまで……。そんなのするわけn」


「もちろんしますよ、お義母様、お義父様」


 はあ!?


「おはようのキスと行ってきますのキスとただいまのキスと☆☆☆の時のキスとおやすみのキスは毎日」


 ふざけ倒せよお前! しかも途中伏字になってんじゃねーか!


「どういう風にするんだい?」


 黙れよジジイ!!


「ここで見せてもらってもいいかしら?」


 お前もだよババアァ!



「はいもちろん! ほらあなた、んっ」


「…………」


 いやいやこれはない。手もつながないカップルがキスってふざけんなよ。できるわけねぇだろが!


「んっ」


 瞳を閉じた彼女は柔らかそうな唇を俺につき出してきた。まるで、早くしてくれとでも言うように。

 どうする俺? する? しない? するのはものすごく恥ずかしいから極力したくないんだよね。でもしないと疑われる……。

 さあ! 決めろよ俺!


 と脳内で悶々と考えていた時だった。


「あーもう! んっ」


「ん!?」


 唇に柔らかい感触が。これは? こんにゃくか? いやこんなにこんにゃくは温かくないな。じゃあ何?

 何だろう? 閉じた唇に何か入り込もうとしているのだが。怖い怖い、なにこれ? 


「んっ……」


「ぐ……んっ……くぁは」


 俺の口内に何か入ってくる。俺の舌とそれが触れた。柔らかいような硬いような。じゅるじゅると口内が吸われる。苦しい。

 息ができない。口が塞がれているのだろうか。ん? 頭が痛い。そうか……息してないから酸欠なのかな。

 顔が熱い。それはもうとてつもなく。まるでサウナ室に入っているかのようだ。


「んっ……!」


「$#&☆Z¥~!」


 そうか解ったぞ。

 俺いま、キスされてるな。しかもガチなやつ。

 そんなことより頭が痛い。何か意識が朦朧としてきた。体に力が入らないし。

 あれ? タカ? それにお前ら。来るのが遅えよ。こっちは災難だったんだからな。

 おじさん、おばさん? ものすごく心配そうな顔してるけど……。誰のせいでこうなったと思ってんだよ本当に。

 ああ、頭が回らない。どうして――――。


 そうして俺は意識を失った。



 + - + - + ― + ― + ― + ― + 



「……っつー訳でこれは全部ドッキリだ! どうだ見事だろう!」


「…………」


「あの、ごめんねユキくん。あたし熱はいちゃって……///」


「…………」


 ベッドに寝かされた俺の周りには紗綾とタカを始めとする今日ハロウィンパーティーをするはずだった友達達。

 どうしてこいつらがここにいるのかと言うと、こいつらは俺たちにドッキリを仕掛けるために隣の部屋にいたらしい。

 発案者のタカ曰く、この老夫婦はタカ自信の祖父母らしく、このドッキリの為に協力してくれたらしい。つまり浩司さんも美咲妃さんも架空の存在である。

確かにおかしいと思ったよ。高齢者予備軍がキスとか言わねーだろが。

 そして気になる動機だが、


「や、ユキ、お前が全然紗綾ちゃんに構ってやらないから、そういう機会を作ってやろうと思ったんだよ」


 だそうです。


「あのなぁー、タカ、お前ぇ」


 と、俺が1つや2つ文句を言ってやろうかと思ったその時、


「それと! もう1つ理由がある」


「あんだよ?」


「ユキ、てめぇハロウィンパーティーの費用払ってないよな?」


「……あっ」


「ハロウィンといえば?」


「……カボチャ?」


「違う」


「……“トリック・オア・トリート”?」


「その通り。つまり、“費用をくれなきゃ、いたずらするぞ!”って事だ」


「ぐうの音もでない……」



 ――俺がついさっき言った“お金をくれなきゃ、いたずらするぞ!”が現実になった瞬間だった。



 + - + - + ― + ― + ― + ― + 



 あの後は本来の目的であるハロウィンパーティー。タカの家族を交えてだ。

 そのパーティーであのおばあさんから言われたセリフ、

『高校生なのにあなたたちすごいわね』

 は、忘れられない。俺が望んだんじゃないんです。

 まぁでも楽しいハロウィンだった。


 そして解散した後、つまり今。2人で家に向かって歩いている。

 先程あんなことがあったばっかりだ。気まずい。


「――――ねえ」


「ん?」


「今なら――手、つなげるでしょ?」


「何でだよ。んなわけねえだろ」


「さっきはあたしとディーp」


「あぁぁぁい! 分かった、分かったからさっきの事を思い出させないでくれ」


 俺、あれで酸欠で気絶したんだぞ。よくサヤは息が続いたものだ。


「それと比べたら手なんて……ねっ?」


「あぁぁぁそうだな! ほいっ!」


 そうして俺はサヤの手を握った。指と指を交互に絡ませる、恋人つなぎだ。


「んふふっ、Kiss or Treat?」


「ああ。Happy Halloween」


 そう言って俺は彼女にキスをした。

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