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Trick with Treat  作者: カオス学園文芸部
短編集『Trick with Treat』
24/46

トリック to トリート@天雲三兎

作者:天雲三兎

ジャンル:恋愛


 僕は波島表(なみしまおもて)。普通の高校一年生だ。平凡な顔と標準より少し高い身長をしている。只今丁度午後の授業真っ最中。体育のマラソンの後の相変わらず何が「であるからして」「したがって」「である」のか、全く分からないおじいちゃんによる物理の授業。睡魔との超絶な戦いだ。


「眠い…」


 この一言は、さも眠たげに言えば、これから寝るのが許された気分になる。なるものはなる。異論は認めない。実際、僕の周りの人は殆ど寝ている。

 と、言うわけで、いざ寝ようとすると必ず邪魔が入る。これ、学生あるある。


「波島君。起きなさい。折角学校に来てるんだから、授業はちゃんと受けないと」

「うっせ。昨日は夜遅くまで起きてて、しかもさっきまで走ってたんだから眠いんだよ」

「せめてノートを取りなさいよ」

「寝てんだから無理でしょ? それか、あれか? 浅野さんは僕に超人になれとでも言うのか?」

「だから起きなさいって言ったのよ」

「はいはい」


 邪魔の元は隣の席の浅野美由(あさのみゆ)。絵に描いたような真面目キャラで、メガネ委員長。授業中にサボろうとすると、必ずお叱りのありがたきお言葉が飛んでくる。

 そういうゲームとか漫画ならば恋に発展するのかもしれないが、委員長は真面目キャラのくせに彼氏がいる。よって、その展開は望めない。


 どうせわけが分からない物理の授業だ。それなら少しぐらいふざける権利もあるだろう。あるといったらある。異論は認めない。なんかこればっか言ってる気がするが仕方ない。学生の不満は爆発寸前なんだから。


 黒板に書かれている文字で、

『リア充爆発しろ』

 と、文字を並べて書く。一つ一つの字が計算式でできているので、式の場所がとびとびで理解できない。

 苦労したのは『爆発』の部分。


「ふう…」


 我ながらいい出来栄えだと思う。

 そんなことをしている間にチャイムが鳴り、授業が終わる。


「やっと終わった…」

「終わったな~」

「貴史、お前ずいぶんとスッキリした顔してんな」

「ああ、最高の睡眠だったぜ。キラン」

「一回死のうか。何がキランだ。寝れない僕の気持ちを考えたことあんのか」

「そりゃないさ。だって俺お前じゃないし」

「さいですか…」


 このモブキャラはチャーリー・アッペンデント・オコスティック・ファイナリティ・貴史。勿論、本名じゃない。今考えついた。いいじゃないか、どうせモブなんだし。顔もモブ。性格もモブ。体格もモブ。非常にモブモブしてるヤツだ。


 適当に貴史と喋っていると、担任の先生が入ってきて、帰りのホームルームが始まる。明日の予定をたんたんと伝えて、終わり。


 これから学生は二つに分かれる。

 一つはそのまま帰る帰宅部。

 二つ目は部活に向かう生徒。

 僕は後者で、文芸部に入っている。部員は五人だが、三人が幽霊と言う、実質二人だけの部活。


 モブにさよならをして、部室へ。一年生の教室がある本館から出て部室棟の二階の部室へ。先輩がいるだろうから、鍵は取りにいかない。

 そして、部室にたどり着いて扉を開ける。


「お疲れ様です、先輩」

「ああ、こんにちは波島君」


 文芸部に来ている僕以外の唯一の部員、五条魔為(ごじょうまい)先輩。先輩とは中学校が同じで、何の部活に入るか迷っていた時、文芸部に決めた。理由は知り合いがいるからだ。

 この先輩、物静かで黒髪黒目のザ、日本人な美人なのだが、普段は地味な伊達眼鏡をかけて目立たないようにしている。先輩の素顔を知ってるのは学校では僕だけで、素顔は口外禁止となっていて、僕だけが知る先輩の秘密だ。


「ところで、波島君。明日はハロウィンよね」

「ああ、そう言えばそうですね。今回も何かやるんですか?」

「ええ。もちろん」


 この先輩、物静かな印象とは裏腹に祭り事が大好きで、七夕、夏祭りと色々やってきた。


「集合は一時。今回は部室で二人きりのパーティーをした後で夜に少し町を歩こうと思っているけど、問題ないわよね?」

「はい。明日はどうせやる事ないですし。ていうか、他の三人はもう来ないって決めてるんですね」

「ええ。今回はちょっと事情もあるし、呼ばない事にしたわ」

「そうですか」


 その後は特にやる事もなく、ダラダラ過ごして帰宅した。


 そして、家。

 夜の六時ぐらいに家につく。


「ただいま~」

「おかえりなさい、お兄ちゃん」


 玄関に入ると、妹が出迎えてくれる。本当に僕と血がつながっているのかどうか分からないぐらい美少女なのだが、一つ欠点がある。それは…


「お風呂にします? 混浴にします? 食事にします? 口移しにします?それとも、わ・た・し?」

「いや、色々とおかしいから、それ。普通にご飯食べよ」

「ちぇ、ケチ…でも、そんな焦らしプレイもいい!」


 うっとりとした表情をする妹、秘裏(ひうら)。もうお分かりだと思うが、極度のブラコンなのだ。困ったことに。


「母さんと父さんは?」

「死んだ!」

「へ?」


 聞き間違えだろうか。えらい言葉が聞こえた気がするが…


「あ、間違えた。飛んだ」

「ああ、また出張か…」


 この妹の脳内で何がどうなったらこんな表現になるのかは置いといて、『飛んだ』だけで理解できてしまう自分にビックリだ。


「だからね、今日から三日間、お兄ちゃんと二人きりなんだよ! いつでも好きなようにしていいからね! 私はいつでも準備オッケーだから」

「何がどう転んでもねえよ。あ、そうそう。明日は僕出てくからね」

「え!? 酷いよお兄ちゃん! せっかく事細かに分刻みに計画をたててたのに!」

「なおさらいる気がなくなった。朝から出てくから」

「そ、そんな…」


 この世の終わりのような顔をする妹にため息を送り、二階にある自分の部屋へ。そこで妹が入ってこれないように鍵をかけて着替える。


「ああ、寒ぃなあ…」


 殆ど11月に近い今日は昨日までに比べて大分寒くなった。年中平均気温なんて訳にはいかないのだろうか。


「あ、お兄ちゃん。スボン変えてパーカー出しといたから、それ着てね」

「おお、ありがと」

「ちなみにお兄ちゃんの夏ズボンは私の部屋に飾ってあります」

「洗濯して返せ」

「ひどい!」

「いたって正統」


 言われた通りにパーカーを着て部屋から出る。


「そのパーカーもうお分かりだと思うけど、しっかり三時間は着てたから、私のエキスがタップリだよ!」

「はあ…もういいや。どうせ僕の服は全部そうなんだろ」

「ご名答!」

「てい!」


 脳天チョップを落として、夕食のためリビングに行く。


「ドSなお兄ちゃんもいい…!」

「だまらっしゃい」

「あたっ!」


 もう一発チョップを落として、食卓へ。


「いただきます」

「いっただきま~す」


 その日は何事もなく(?)過ごした。


 次の日。

 妹から逃れるためにウチを早く出て、向かった先はゲームセンター。学生服にパーカーを被って少し誤魔化しながら。因みにブレザーはカバンの中。

 さすが休日なだけあって人も多かったが、幸いお目当てのリズムゲームは空いていて、助かった。

 しばらくプレイしていると、知っている声がかかる。


「お、波島じゃん!」


 貴史(モブ)があらわれた!

 表はどうする?


たたかう


⇨しゃべる


どうぐ


ムシする


にげる


「おはよう。貴史」

「おお。これ、一緒にやっていい?」

「どうぞ」


 100円を入れて、2pモードでプレイ開始。

 流れてくる曲に合わせてボタンを押して、画面をスライドするだけの単調なものだが、単調故に面白い。シンプルイズザベスト。これ基本。


「そーいやさ、何でお前制服なの?」

「この後先輩と部室でパーティーするんだよ。今日ハロウィンだろ?」

「ああ、なるほどな。誰も相手がいない俺を放って貴様は先輩といちゃこらする訳か。死滅すればいいのに、リア充は」

「そうですか」


 なんて会話をしていると先輩との約束の時間に近づいていた。


 貴史に別れを告げ、学校へ。部室に入ると、先輩はもう来ていた。


「早いですね、先輩」

「ええ。少しね」


 まだ時刻は12時40分。


「少し早いけど、始めましょうか」

「はい」


 持ち寄ったお菓子を開け、まずは二作連続映画鑑賞。無断でテレビを持ち込んだので、バレたら怒られるがまず大丈夫だろう。顧問来ないし。


「ねえ、波島君。やっぱり二人きりのパーティーなんてつまらないかしら」


 映画を見ている途中、先輩が不安そうにそんな事を聞いてきた


「そんなことないですよ。ウチは妹がうるさいんで、静かなパーティーっていうのも新鮮で楽しいんです」


 だから、先輩が不安にならないように、笑顔で返す。全て本音だ。まあ、パーッとしていないパーティーをパーティーと呼ぶかは別として、こんな綺麗な先輩と二人きりでいれるなんて、誰からどう見ても嬉しい事だろう。僕も嬉しいし。


「その笑顔よ……。もう……」

「? 何か言いました?」

「いえ、何でもないわ」


 二作連続で見てかかった時間は5時間。時間は6時ちょっと前。そろそろ本格的にご飯を食べたい筈なのだが、お菓子のせいであまり空いていない。


「先輩、ご飯どうします? あんまし空腹ではないんですけど、食べないのもちょっとマズイですよね……」

「ええ、そうね。じゃあ運動も兼ねて街を歩きましょうか」

「ああ、なるほど……」


 学校を出て、街の中をただ本当にブラブラしていると、一つ大切な問題を思い出した。


「ご飯はどっかで食べるんですか?」

「内緒。歩いてからのお楽しみにしておいて」

「……」

「どうしたの?」

「……いえ、何でもないです」


 珍しく、本当に珍しくイタズラっぽく笑う先輩に見とれていたなんてまさか言えるはずもなく、誤魔化す。



「……ここを登るんですか?」

「ええ、そうだけど」

「ここって思いっきり裏山ですよね……」

「ええ、そうね」


 街を一時間ほどかけて歩いた後、たどり着いたのは学校の裏にある山。何というか…


「いい腹ごなしになりそうですね……」

「さ、行きましょうか」

「はい……」

「Trick or Treat……か」

「何か言いました?」

「いえ、何でもないわ」


 そこから山道を登る事15分。広い空き地に出た。空き地と言うよりは公園か。遊具こそないが、ベンチと柵で囲ったスペースは空き地というよりは公園だ。


「こんなとこあったんですね……」

「ええ。知らなかったでしょ。意外と穴場なのよ、ここ」


 そこからは街が見渡せて、意外と綺麗な夜景にビックリする。


「さ、食べましょうか、ご飯」

「え? でもそんなものどこにも……」

「あるのよ」


 気付けば先輩の膝の上に乗っている赤と黄色の二つの弁当箱。黄色の方は少し赤よりも大きい。


「はい、これ波島君の分」


 そう言って差し出された黄色い弁当箱。

 戸惑いつつもそれを受け取った僕は、中身を見てもっと驚く。


「先輩、これ……」

「手作りよ。一応親にも味見をお願いしたから大丈夫だと思う」

「すげえ……」


 先輩の手作り弁当の中身は色鮮やかで、凄く美味しそうだった。二段になっていて上の方は卵焼き、プチトマト、キュウリ、唐揚げ、など。したの方は白米にふりかけをかけたもの。


「い、いただきます」

「どうぞ」


 先輩の作ってくれた弁当の中身はどれも美味しかった。ご飯は味付け海苔を挟んであって、おかずが無くても飽きる事無く食べられた。


 そして先輩も僕も食べ終えてしばらくしても二人とも黙って夜景を眺めていた。ふと時計を見ると午後8時過ぎ。結構いい時間だ。


「先輩、8時も過ぎましたしもうそろそろお開きにしますか?」

「……そうね。でも最後に一つ重要なことを伝えるから、待って」

「はい……」

「今日はハロウィンよね」

「ええ、そうですね」

「ハロウィンにはTrick or Treatって言葉が付き物よね」

「ああ、悪戯かもてなしかってヤツですね」

「そうね。じゃあ、Trick or Treat」

「え……と、?」

「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ?」

「そんな小悪魔風に言われても……丁度さっき部室で食べ終わってますし……」

「そうかぁ……じゃあ悪戯しかないよね」

「――え、」


 そう言うと先輩はいきなり抱きついてきた。先輩の突然の行動は僕の言葉を無くさせるには十分だった。


「私と、付き合って下さい」

「……へ?」

「急に言われてビックリした? でも、告白の方も本気だよ。私は心からあなたの事が大好きです。付き合って下さい」

「え……でも、だって……ええ?」

「驚きすぎ。別にそう変じゃないでしょ? 笑顔が素敵な優しい、かっこいい後輩に猫を被っている先輩が惚れるだなんて」

「え、え? かっこいい? 猫を被ってる? え?」

「うん、猫を被ってる。本当はあんな物静かな性格じゃなくて、さっき君が言ったみたいに小悪魔系なんだよね」

「え、へ、へえー」

「棒読みだね……」


 そりゃそうだ。やっと思考が落ち着いてきたからある程度は察したが、まだ話の20%も理解できていない。


「少し、時間をもらえますか?」

「うん、いいよ」


 まずは状況の整理だ。まず僕はあの先輩から告白をされた。どうやら冗談でもないらしい。僕を好きになった理由もハッキリしている。そして先輩は猫を被っていたと。

 ……うん、無理。落ち着けない。

 でも、取り敢えずハッキリした事がある。僕は先輩から告白をされた。それに答えるのが一番先だ。


「先輩。Trick or Treatって悪戯かもてなしかなんですよね」

「そうね、少なくとも和訳はそうなってるわ」

「で、先輩は悪戯を選んだ」

「ええ」

「じゃあ、僕は最高級のもてなしでお返ししますよ。僕も先輩の事が好きです。もしよかったら付き合って下さい」

「…………またその笑顔」

「え? 笑顔?」

「自覚ない事にビックリだけど、あなたの笑顔、すごいイケメンなのよ?」

「え、何それ」


 笑顔だけって地味に落ち込む…


「でも、まあ目的は果たせたし晴れて私たちもリア充の仲間入りか…」

「ああ、そうか」


 なんか実感わかないけど僕には彼女が出来たんだよな……。

 少なくとも一日一回はリア充爆発宣言をしてた自分としては、なんだかいたたまれない。


「まあ、これからヨロシクね表」

「……はい、魔為先輩」

「ふふっ」


 先輩は嬉しそうに微笑むと「今日はこれでお開きね」といって、一人で山をおりていった。

 しばらく余韻に浸ってから、僕は帰路につく。


「……あ」


 送ればよかったなぁ、なんて思ったのは些か遅すぎた。


 ウチに帰ると、妹様が待ち構えていて、


「お兄ちゃんから他の女の匂いがする!」


 といって、尋問にあったのはまた別の話。

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