Sweets Sweet Story@仮面
作者:仮面
ジャンル:恋愛
ご挨拶
皆様はじめまして。そうでないかたはハロー。仮面です。
TwT、今回のテーマはハロウィンですが、ハロウィンの要素が完全な空気になっているのではないかなと冷や汗だらけです。
話自体はそこまで重くなく、甘いテイストでお菓子のように仕上げてみましたので
これまでの作品たちとこれから読む作品たちの合間の息抜きとして気軽にお読みください。
それではお待たせいたしました。開演です。
-prologue-
『にいちゃんやだよぉ……! いっちゃやだぁ…!!』
ずいぶんと懐かしい夢を見ている。
確かこれは高校三年の卒業後の時だ。
大学生になる俺だったが大学が実家から通うのが大変な場所にあるから、俺は一人暮らしすることになっていた。
しかしそんな俺をいかせまいと服をしっかりつかんで泣きじゃくっていたヤツがいて…
『ハイハイ、大丈夫だって。帰ってくるから心配しない。』
『ホント? ほんとうにホント? ウソじゃない?』
『もちろん。俺は約束を守る男だ。』
あぁ……思いだしてきた。
俺はなだめるためにいろいろ手を尽くしていたんだっけ。
でもそれでも泣きやんでくれなかったから、“約束”したんだっけな。
『じゃあやくそく! かえってきたらそのときはボクをおよめさんにして!』
『おいおい、気が早くないか? いつ帰ってくるかもわからないんだぞ?』
『いいもん! にいちゃんだから!』
『ハハハ。そうか、それなら約束してやるしかないかぁ。』
『うん! やくそくやぶったらにいちゃんタイホだからね!』
『了解。逮捕はいやだからできるだけ早く帰ってくるさ。』
…………懐かしい。
眠りで閉じていた瞼を開き俺は懐かしさに浸る。
電車の窓の外は秋の色が鮮やかに彩られている。
父親が倒れたと聞き、父親の家業である酒屋を手伝わなければならなくなり、俺は今実家へと向かっている。
4年も離れていれば結構変わっているはずだ。
それが楽しみであり怖くもある。
窓に駅が映り動きが遅くなってゆく。
目的の駅に着いたみたいだ。
まずは病院へ行かないといけない。
アイツも元気だろうか。
ボストンバッグを肩にかけなおし、俺は電車を降りて改札へと向かった。
-1-
病院で父親は元気そうな顔を見せてくれた。
どうやら貧血だったそうだ。
異常は見当たらなかったそうだが大事をとって検査するらしい。
母親に鍵を渡されて先に帰っているように言われた。
それと財布を渡されて食料を買ってくるようにも言われた。
それと掃除洗濯食器洗いもするようにt……
そういうわけでとりあえず食器洗いと選択と最低限の部屋とふろ掃除だけ終わらせて現在は商店街へと向かっている。
あまり変わっていなかった。
四年もたっていまだ変わらない町並みというのは素晴らしいものだ。
「おう、悠張! お前帰ってきてたのか?」
「あ、魚っちゃんじゃないすか。久しぶりです。」
声をかけてきたのは商店街唯一の鮮魚店を開いている魚っちゃん。
多分御年63歳で、老いを一切感じさせない若々しい見た目である。40代でも通じるあたりが恐ろしい。
父親の古い付き合いで俺が高校生の時は酒盛りに付き合わされそうにもなった。
「帰ってきてるなら言ってくれよぉ! 今夜は宴会d……そうか、戸真牧の奴は入院してるんだっけな。」
戸真牧というのは父親の名前だ。
父親が『戸真牧』
俺が『悠張』
母親が『根夢』。
みんながみんなして読みづらいがそこは勘弁してくれ。
「大丈夫みたいですよ。さっき病院行ったら元気そうでしたし。あと、俺はついさっき帰ってきました。ただいまです。」
「そうかいそうかい! まぁ戸真牧があのままポックリだったら宴会できなくて困るしなぁ! それとおかえりさん!」
不謹慎に聞こえるが実際父親はかなりタフで、一升瓶5本とか当たり前の人だし、これまで入院とか兆しも見えなかったくらいだ。
これぐらい言われるのは当たり前でもある。
「あ、魚っちゃん、アジ頂戴。」
「あいよ! 特別におまけしてやる! ほかのみんなにも顔出しとけよ!」
「はい、ありがとうございます。」
晩御飯のことを思い出して急いで買い物を済ませる。
長話もいいが母親が一時間後には帰ってくるから早く帰って冷蔵庫に積み込まないと。
-2-
買い物を済ませ、早足で家へと向かう。
日が落ちると寒くなってくる。
厚着をしていてよかったと心から思っている。
変わらない道の先に家が見えた。
さらにスピードを上げていくと家の前でだれかが塀に寄り掛かっているのが見える。
街灯に照らされて見えた姿はかわいらしい女の子。
ふと懐かしいものが頭をかすめたが無視をして声をかけた。
「キミ、こんな時間にどうしたの?」
「……」
少女は気付かないふりをして空を見上げる。
明らかな無視がわかるだけになんか腹立たしい。
数分だが数時間にも感じるにらみ合いが続く。
俺の訴えの視線とそれを受け流し続ける少女。
少し不毛に感じてきた自分がいる中、少女がぽつりとつぶやいた。
「覚えてないんだ。」
一瞬だけ少女がこっちを向いた。
その目はつらそうで悲しそうで。
同じ目を見た記憶が頭をよぎり、息がとまり頭痛がした。
「じゃあね。」
少女は気付けば走り去ってしまっていた。
あの目をしていた子は一人しか知らない。
なぜ自分は姿を見て気付けなかったのだろうか。
なぜ彼女が誰なのか言えなかったのだろうか。
俺は言いようもない後悔を感じ母親が声をかけてくるまでその場に立ち尽くしていた。
-3-
その子……西宮姫歌との出会いは俺が高校一年生の時のハロウィンパーティーだった。
地元の町内会はお祭りごとが好きで何かと理由をつけて宴会やら開いていた気がする。
その中で子供たちが参加していたのだが大人たちが途中で恒例の酒盛りに入り、俺たちは避難。
子供たちはほとんどが遊び疲れて寝てしまっていた。
そんな中で姫歌だけが独りぬいぐるみを抱きしめて隅でうずくまっていた。
俺は見過ごせずに声をかけたのだが…
『大丈夫かい? どこか痛い?』
『……ううん。』
『じゃあ眠いのかな? トイレ行きたい?』
『…ちがう…』
どんなに話しかけても一言だけで言葉を返してくる姫歌。
次第に声をかける内容がなくなり互いに黙りこくってしまった。
時間にすると短いのに長く感じる沈黙。
まるでさっきのにらみ合いのような空気。
そんな中口を開いたのは彼女のほうだった。
『なんでかまうの?』
その声はか細くそれでいて拒絶を含んだ声だった。
この後に姫歌の母親の明莉さんに聞いたのだが、この時期姫歌は小学校でもなかなか馴染めていなかったらしい。
そのためか小さな世界での疎外感を感じ、悪循環で殻に閉じこもっていたそうだ。
その問いかけに俺はどやっとした顔でこう答えてた。
『俺がさびしいから。』
『ふぇ…?』
思えばこの日以降だろうか。姫歌が少しずつ明るくなっていったのは。
最初は俺の背中で恐る恐るだったのに一年半経つと少年みたいに走り回ってた。
俺の中ではその少年のような姫歌が印象的だったのだろう。
だから今日だってまったく気付けなかった…
「約束…破棄はやだなぁ。」
いつからだろう。
姫歌と離れ離れになってすごくさびしく感じていたのは。
いつからだろう。
姫歌の顔が見たくて夢をあきらめそうになったのは。
いつからだろう。
父親が倒れて、不謹慎ながらも帰る口実ができたと喜んでいたのは。
いつからだろう。
「あいつを大好きになったのは……」
顔を腕で覆って想いにふける。
4年の空白というものは存外大きいものだと痛感した。
自室のベッドの上で寝返りを打つと不意にカレンダーの日付が目に入った。
「10月…そうか、明日はハロウィンか。」
ハロウィンで思い出すことは姫歌との出会いとその翌年で窓の外にかぼちゃお面かぶった姫歌がサプライズで家に泊まりに来たことだ。
「ん…? かぼちゃのお面…? サプライズ…?」
その瞬間俺の頭にはひらめきが起こったのだ。
「これならいける…よし。まずは……かぼちゃのお面買うか。」
厚着をしてまだ空いているであろう雑貨屋さんへ向かう俺であった。
-3-Side Himeka
「あーもう! バカ! バカ! バカ、バカ、バカッ!」
家に着いてママにいつものように挨拶をせずに直接部屋に向かって枕を持ち上げ部屋の壁に投げつけてゆく。
10回ほど壁に投げつけてから息を整え、ベッドに倒れこむ。
「…にいちゃんのバカ。」
にいちゃんこと『海道悠張』さんが帰ってきたと聞いたボクは友達に断って即帰宅し、精一杯のおしゃれをしてにいちゃんが買い物から戻るという時間を見計らって待ち伏せをしていた。
ボクの予定ではにいちゃんが可愛くなったボクにドキドキしてくれるという手筈だったのに…
「気合い入れすぎちゃったかなぁ…」
メールはしてきたがこれまで写真をボクからにいちゃんへ送らなかったのも原因かもしれない。
再会した時に驚かせようというボクの気合いがアダとなった結果なのかもしれない。
いろいろ頭でぐるぐるしているのだが…
「今更戻ってあいさつなんてむりだよぉ…」
プライドがうんぬんというのもある。
だがそれだけではなく、単純に恥ずかしいのだ。
こんな気合い入れた恰好で今から戻って挨拶するとお義母さんからの視線がつらい。
かといって着替えていくとにいちゃんに服のことを言われる気がして怖い。
ほかに誰にも見られないという安心があったから気合い入れておしゃれもできたのだが…
「うぁー!バカァァ!!」
考えれば考えるほどますますにいちゃんが悪く感じるのが自分の怖いところだ。
携帯電話を手にとって時間をみる。
「にいちゃんさすがに覚えていてくれているかなぁ。」
ボクとにいちゃんの出会いは町内会のハロウィンパーティ。
自分がいらない子だと思い込んで独り隅にいたボクににいちゃんが話しかけてきたのが始まりだ。
しばらくはうっとおしくて無視を決め込んでいた。
だけど必死に話題を探そうとしてがんばるにいちゃんに少しだけ心を開いた。
あのあとにいちゃんがドヤ顔で「俺がさびしいからだ(キリッ」って言ったときには驚いたけど笑ってしまった。
思えばあの時にはすでに惹かれていたのかもしれない。
だから一緒にいるとどんどん好きになってたんだなと気付く。
だからこそ別れ際にあんな約束もしたわけで…
「ウァー! ……はぁ……今日は寝よう。」
素直に会いに行けない自分ときづいてくれなかったにいちゃんに内心悪態をつきながらボクは考えることをやめた。
-4-
朝目覚めた俺は部屋を見渡しため息をついた。
昨夜3時ほどまでひたすら布や糸やなにやらを切ったり張ったりしていたのだがその残骸が散らかり放題だった。
掃除をせねば母親に痛い目にあわされる気がする。
朝ごはんを食べる前に掃除をして母親の不信感をあおらないようにする俺だった。
「アンタ姫歌ちゃんに会いに行ったの?」
飯の席に着くなり母親が開口一番こう言った。
「後で会いに行くさ。夜にでもな。」
実際日中は仕事で忙しく覚えることも多い。
姫歌に会いに行くのは後回しになってしまうのは否めなかった。
だがそんな懸念は母親によってざっくり二つに切り裂かれた。
「まだなら今から行きなさい。仕事は明日からでもいいから。あと今日は帰ってくんな。」
「ちょっと待ってくださいお母さま。」
「何よ。」
さらっと言ってのけた母親に問いただそうとするが突き放すように手でさっさと行けとジェスチャーされた。
どうやらこの母親は本気らしい。
仕方がないので夜まであいさつ回りしながら散歩でもしようと思う。
母親の威圧に押されるようにセカセカと家を出るのであった。
母親の口元がニヤリとつりあがっていたことに気づかぬまま…
あいさつ回りもそこそこに一息つこうとコンビニでお茶を買い一か所の公園へ立ち寄った。
ところどころ錆びついた遊具が見当たるそこは、姫歌との約束をした場所であった。
『じゃあやくそく! かえってきたらそのときはボクをおよめさんにして!』
『おいおい、気が早くないか? いつ帰ってくるかもわからないんだぞ?』
『いいもん! にいちゃんだから!』
『ハハハ。そうか、それなら約束してやるしかないかぁ。』
あの時の約束が一日ぶりに脳裏によみがえる。
少しやるせない気持ちを感じ、立ち去ろうかと思ったその時。
「にいちゃん…?」
「ぇ……?」
目の前には姫歌がいた。
-5-
「えと…姫歌……? ええと…」
今までいろいろ言おうとしていた言葉が言えずにぐるぐると頭を回っている。
もはや頭が真っ白になっている感覚だ。
そんな中で一言だけ浮かんだ言葉があった。
「ひ…姫歌!」
「ひゃいっ!?」
緊張で上ずったまま姫歌の名を呼ぶ。
姫歌は呼ばれると同じように上ずった声で直立不動に立つ。
落ち着け。ここでいわなくちゃ男がすたる。
数回深呼吸をして姫歌を見据える。
「姫歌。」
「ふぇ…ふぁい…」
「約束を、果たしに来たよ。」
言えた!
内心でガッツポーズを決める。
緊張で固まりながらも伝えたただ一言鮮明に浮かんだ言葉。
姫歌は少し固まっていたが、はっとなるとポロポロ涙を流し始めた。
俺はあわてて駆け寄る。
「ひっ!? 姫歌!? 大丈夫か!」
「ううん…ちがうよ…ちがうよぉ……」
腕で涙をぬぐいながら笑顔になる姫歌。
そして俺の体に抱きついてきて一言だけ言ってくれた。
「昨日それ聞きたかったんだから……っ!」
そして顔を胸に埋め顔をこすりつけ続けた。
恥ずかしいながらも嬉しさで顔がにやける。
「ごめん。ただいま。」
そして俺のほうからも姫歌の体を包むように抱きしめた。
4年分の間を互いに埋めあうように。
-epilogue-
「それにしてもこのカボチャどうするかなぁ。」
「うわ、にいちゃんそれどうしたのさ。」
「いやぁ…姫歌にサプライズしようかと思ってさ、雑貨屋でお面探した後家にあったかぼちゃの破片とかくっつけたりしてたんだよ。」
「無駄になっちゃったね。」
「そうでもないかもなぁ。お願いしたからさ。うまくいきますようにって。」
「御願いがフライングでかなえられちゃったじゃない。」
あの後二人で俺の家へと向かうことになり、今はその道中。
親に帰ってくるなと言われたことを話したら、姫歌から呆れた顔で「なんとなくわかった」と言われ、姫歌に言われるがままに家に向かっているのだ。
姫歌と腕を組み合って町中を歩く。
ご近所さんがたがニヤニヤしているところを見るに明日には町中に伝わっているのだろうなと感じる。
だけどそんな雰囲気が心地いいと感じている。
4年ぶりに歩く道で四年ぶりに話す相手。しかも恋人。嬉しすぎて鼻血が出そうだ。
「にいちゃん、着いたよ。」
「お…ああ。ただいまー!」
姫歌に促され玄関を開けると…
『御帰り! そしておめでとう!!』
西宮一家と海道一家がそろってクラッカー鳴らしてくれやがりました…
姫歌が呆れた顔で俺の背中を押して家に入る。
そして母親たちを振り返っていう。
「やっぱりママたちの仕業ね!」
「アラーバレター?」
「これだから姫ちゃんはだめね。勘がよすぎるわ。」
全く話に付いていけない俺に姫歌が説明をしてくれる。
どうやらあいさつ回りの道筋や最終的に公園へ行くように仕向けたのは明莉さんであったそうだ。
というより町全体がグルになっておやじが倒れたと大ウソをでっちあげて俺を呼び戻す計画だったそうだが、嘘から出た真なのかおやじがその直後ほんとうに倒れたらしい。
なんというかあまりにご都合過ぎてあきれがとまらない。
まぁ…しかし両家公認であることなので感謝をしようと思う。
「最低のハロウィンかも。」
「違うよ。最高の、だろ?」
「そうだけど…にいちゃんのバカ。」
寄り添いあって壁に凭れる俺たちの視線の向こうでは大人たちが酒盛りをしていて酔い潰れていた。
まるではじめて出会ったあの年のように。まったく同じように。
いかがでしたでしょうか?
緩い感じで読めていただけましたでしょうか?
今回のTwT、前回の企画に不参加であったために今度こそはと奮闘いたしましたね。
前回でドタキャンしてしまったのに快く受け入れてくれた真坂同志に感謝と労いの想いを送らせていただきたいと思います。
お付き合いいただきありがとうございました。
仮面