私達のハロウィン@里見ケイシロウ
作者:里見ケイシロウ
ジャンル:日常
※本作品は、里見ケイシロウの著作「魔法騎士 マジーア・ガット慶輔」を原作とした派生作品です。
原作URL→http://ncode.syosetu.com/n6247w/
◆◇◆里見ケイシロウの自宅◆◇◆
「さてと、今日はハロウィンだ! 張り切っていくよ、慶輔、広海、佳恵、麗奈!」
「OK!」
秋の兆しを少しずつ見せる10月。
紅葉がだんだんと色づいてくるこの時期、それは同時に大切な人への思いを見せる時期でもあった。
朝焼けの光が幕張に少しずつさしてきた頃、里見ケイシロウと慶輔は目を覚ました。
それに続いて佳恵や広海、麗奈やマトーヤが他のみんなに気付かれないように、忍び足でキッチンへと向かっていた。
キッチンに着くなり、ケイシロウはゆっくりと冷蔵庫を開けた。
その中から、たくさんの小さいケーキが作られていた大きな皿を取り出した。
しかも、その形が全部かぼちゃの人形に統一されており、普通の生クリームだけでなく、レアチーズ、ストロベリー、メロン、レモン、ブルーハワイ、ラムネという合計6種類のケーキが形よく出来上がっているのであった。
「よし、美味くできてるわ!」
麗奈はケーキの出来に満足すると、それを一つずつ丁寧に袋に入れていくのである。
「ケイシロウさん、あの子達はきっと受け取ってくれるかな?」
「大丈夫だよ、きっと慶輔が大好きだから受け取ってくれるさ、きっと」
笑みを浮かべたケイシロウは、あの娘達の事を思い出していた。
◆◇◆花見川神社◆◇◆
すっかり秋の音色がついた花見川神社。
そこにたっていたのはセシル、アーシェ、リノア、レフィア、オヴェリア、ローザの6人。
彼女達は、昔のトラウマがまだ残っていた。
それでも彼女達はトラウマを捨てたはずだったのに、忘れる事ができなかったのだ。
学校ではいじめに遭い、両親には性的虐待を受けて、挙句にお金の為に殺害されてしまったのである。
彼女たちはラグナのお陰で魔法が使える人間、ヴィオラードとして再生されたのであったがその代償として不老不死の人間となってしまったのである。
「そういえば今日はハロウィンだよね……、私達……、何でこの世に存在しているんだろう……。居る価値もないのに……」
「そうだよね……」
アーシェとローザは心の痛みをまだ抱えていて、ため息混じりにそんな言葉を述べていたのである。
その目には、ダイアモンドのような綺麗な涙がたまっていた。
今でも瞳を閉じるたびに、心の痛みとなっている原因であるいじめの記憶がビデオの如く蘇る。
紅葉が降りしきる花見川神社で、悪夢を思い出すセシル。
――――教えて……。私は何のために居るの?
自分の心に問いかざすリノア。
彼女達にとって、あの悪夢は今でも苦しみの源になっており、記憶の中で何度もフラッシュバックしてしまうのである。
それを振り払うように、何度も何度も首を振る彼女達。
その記憶は何度首を振っても消すことはできなかった。
今でもセシルはフラッシュバックするたび、涙を流す。
強風で紅葉が飛び散る花見川神社の真中でポツリとたつ6人。
空はすでに夕焼けが綺麗に空を染めており、トンボ達が空を飛んでいた。
コオロギが音楽を奏でる頃、アーシェは涙を流し始めた。
「慶輔……、里見さん……」
いじめ、性的虐待。
どれを一つとっても女の子にとって苦しみを生み出す物。
この言葉を聞くだけで苦しみが増す。
そう考えているとリノアも涙を流し始める。
「私達、何のためにいるの……!?」
「里見さん……」
「慶輔……」
レフィア、オヴェリア、ローザがそうやって泣き続けていた、その時。
なにやらレフィアの胸に温かい感触が走った。
突然来た温もりにビクッとしたレフィアは、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳に映ったのは、レフィア達が父と慕っていた里見ケイシロウであった。
しかも後ろには慶輔、佳恵、広海、麗奈の姿が見える。
「里見さん……、慶輔……!」
レフィアの今の表情を見たのか、慶輔は悲痛な面持ちで彼の顔を見ていた。
「みんな、ここにいたんだね? せっかくのハロウィンなのに君たちが居なくなってたからさがしたよ!」
「私達の事を……?」
どういった言葉を返せばいいか困惑していたアーシェに、ケイシロウは躊躇いもなくアーシェを優しく抱き寄せて、彼女の額にキスをする。
「せっかくのハロウィンだから君たちと楽しくすごそうと思ってたんだけどやばい時に入ったかな?」
「ごめんなさい、里見さん……、もう泣かないってあなたに誓ったのに……」
必死に紡がれたアーシェの言葉に、ケイシロウは首を横に振った。
「無理しなくてもいいよ……。女の子は何度か泣いて本当の騎士になるのさ!」
「ケイシロウさん……」
笑顔をアーシェに向けるケイシロウ。
そこで麗奈がセシルに瞳を向けて言葉を足す。
「セシル……、あなたも良く頑張ったわね。知ってるよ? あなたが皆のために毎日戦ってる事を」
言葉を発しながら、セシルの頭を優しく撫でる麗奈。
麗奈がくれる優しくて温かい心に、セシルは我慢できなかった。
そしてセシルは麗奈にすがりつき、嗚咽を漏らしたまま静かに泣き続けた。
「私、慶輔や広海のように強い魔法騎士になりたかった……! でも私達は慶輔と同じ力を持ってないから第3次の時、みんなの命を守れなかった……! そんな私達にハロウィンを楽しむ資格なんてあるはずがないよ!」
セシルを抱きしめながら、麗奈は心の痛みを感じるかのように言葉を聞いていた。
誰かを守れなかったセシル達の後悔と懺悔。
「それでハロウィンを過ごすのやめようとみんなで考えてたんだね?」
単刀直入のケイシロウの言葉にアーシェとリノアは思わずドキッとした。
しかし、佳恵と広海の言葉でアーシェの心が揺らぐ。
「そんな事ないわよ……! 第3次で死んでいった人達が今でも後悔と懺悔で苦しむあなた達を見て喜ぶと思ってるの?」
「誰もお前達が一生不幸でいろだなんて思っちゃいねえよ!」
言い切る直前で言葉をさえぎられた。
セシル達の心は、天秤のように揺れ始めていた。
それはケイシロウにも分かる。
そこでケイシロウはセシル達に言葉をかける。
「死んだ人が望んでいるのは懺悔や後悔じゃない。今を生きている幸せなんだ。だから君達は幸せになって欲しい。それをしてくれれば僕は何も言わないから」
暖かく感じる、ケイシロウの言葉。
それは、“もう苦しまないで そして悲しまないで”と言う意味も込められていた。
「だからさ、せっかくのハロウィンを楽しもうぜ! 散っていった人達の分まで、な?」
「広海……」
感激しているせいか、レフィアの体が震えているのに気付いたケイシロウは、レフィアの頭を優しく撫で始める。
そして佳恵もまた、震える手でリノアの背に腕をまわした。
「懺悔と後悔はもう終わりにしましょう?」
「佳恵……」
唐突な佳恵の言葉に、リノアは思わず目を見開いた。
わずかに距離で、広海はオヴェリアの表情を見つめた。
セシル達の頬を紅葉のような赤に染めながら笑顔を向けるその表情に、ケイシロウの胸は熱くなった。
「それじゃあ、ハロウィンを始めよう! まずはお腹が空いただろう? ケーキを焼いてきたんだ」
すると、突然ケイシロウは手荷物の中から何かを探し出した。
取り出したのは、小さな6個のかぼちゃの絵が描かれている箱。
それを彼女達に手渡すのであった。
「みんな、ケーキが好きだっただろ? 僕の会社の社販用ケーキは冷凍物だから駄目だけどこれしかなかったんだよね……」
「いいの?」
「私達の為に?」
セシル達はその箱を受け取り、ゆっくりとその箱を開けた。
ケイシロウと慶輔達が今朝包装したケーキだ。
「ありがとう慶輔! そしてケイシロウさん!」
笑顔で微笑むローザ。
すると、慶輔はクスクスと微笑んだ。
「やっと笑顔が戻ったね!」
―――えっ!?
慶輔に言われて、ようやくローザは今頃になって笑顔を見せたことに気づいた。
そう思った瞬間、セシルとローザも思わず笑ってしまった。
「そうだったね……!」
「なんて私、馬鹿なんだろう……!?」
そこでケイシロウは何かを思い出したかのようにバックのポケットを探り、小さな箱を6個取り出した。
かぼちゃの絵が描かれたシール、リボンが掛けられた箱である。
箱には「ハッピーハロウィン」と書かれた言葉が書かれている。
「そしてこれは僕からの君達へのご褒美!」
それをセシル達に手渡す。
予想だにもしていなかったことに、オヴェリアは思わず頬を染めた。
「本当にいいの!?」
「あけてご覧?」
セシルは、ケイシロウに言われたとおり箱を開けてみると中には、徳川家康の家紋が彫られた指輪とペンダントにイヤリングであった。
しかもこれは慶輔と同じ物である。
「これ、慶輔と同じ物でしょう!?」
「私達のお給料じゃ買えない高級品だよね!?」
「どうやって手に入れたの!?」
「信じられない!」
今でも驚くアーシェ、リノア、レフィア、オヴェリア。
そこで慶輔は6個の指輪を手に持って、それをゆっくりとセシル達に着けた。
「似合ってるよ、君達最高に可愛いよ!」
「じゃあ、今度はあたしの番ね!」
佳恵はその言葉の後、プレゼントのペンダントを差し出した。
佳恵はそれを手にとり、セシル達の首にかけた。
「よくできてるじゃない!」
「お前等、前より可愛くなったじゃねえかよ」
思わずまた頬を赤く染めたセシル達に、佳恵と広海は笑みを浮かべた。
そこで慶輔はセシル達にプレゼントの種明かしをしてみた。
「このアクセサリーはラバナスタで入院していた患者さんの遺族の方々がセシル達にプレゼントしてくれって頼まれたんだ。僕は奈良原さんに今日のハロウィンまで預かってくれって頼まれてたんだよ」
「この患者さんって癌で亡くなった人のご遺族でしょう!?」
恐る恐る彼に聞いてみるオヴェリアの言葉は、震えていた。
シンは一瞬だけ考え、そして答えを出した。
「患者さん、亡くなる寸前にこう言ってたよ? セシル達の笑顔が可愛かったから私は天国に行ける様な気がするって」
「そ、そんな……! 死の瞬間まで私達の事を……!?」
そう言ってから間もなく、セシル達はひざを突く。
ケイシロウはセシル達の位置に合わせるかのように屈み込む。
レフィアは再び涙を流す。
そんな彼女にケイシロウは言葉をやさしくかける。
「その患者さんは亡くなる前にセシル達にお礼をしたかったらしいんだ。このアクセサリーはその患者さんの思いが篭っているからセシル達はきっと大事にしてくれるよね?」
アーシェの顔は、これ以上ないくらい真っ赤に染まっており、涙がいっぱいになっていた。
「そんな……。私、たいしたこと出来なかったのに……!」
ケイシロウは顔を覗くと、オヴェリアの表情は泣き笑いの状態になっていた。
そして、ケイシロウはオヴェリアの頭を優しく撫でるのである。
慶輔は泣きじゃくるセシル達に言葉をかける。
「この患者さんもきっと君達の事をずっと見つめているはずだから笑ってよ? 君達は笑顔が武器なんだからさ、音?」
それからしばらくの間、セシル達は膝をついたまま、可愛い声で泣きじゃくるのであった。
こんな嬉しいハロウィンはきっと世界で一つしかないだろう……。
今日もきっと命が輝きますように……!
ハッピーハロウィン!