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Trick with Treat  作者: カオス学園文芸部
短編集『Trick with Treat』
13/46

Tricks Than Treats@零零機工斗

作者:零零機工斗

ジャンル:日常


 2013年、10月31日。

 10月の最終日である。


 1517年10月31日に、ドイツのマルティン・ルターが、「95ヶ条の論題」を教会の扉に提示した日であったり、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』シリーズの最初の短編集が刊行された日でもあったりする。


 しかし、もっとも『10月31日』で有名なのは、ハロウィンだろう。


 ハロウィンとは、毎年10月31日に行われる古代ケルト人が起源と考えられている祭りのことだ。

 もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事だそうだ。


 しかし、今や『トリックオアトリート』という行事がハロウィンの祭りという認識となってる。


 トリックオアトリート。


 それは、仮装した子供達が「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」という脅迫をしながら家から家へと移動してお菓子を貰う祭だ。

 元々は悪戯を恐れてお菓子を上げていた家の大人達だが、最近ではただお菓子をあげれば良いということになっている。

 今時は小さい子供とその親も参加しているから悪影響になりそうな『悪戯』など誰もしなくなったのだ。


 駄弁りながら家から家へとお菓子を『受け取りに』行く。

 特に刺激もないそれはなんてつまらないのだろうか。


 しかし、刺激はある。

 ハロウィンに気合を入れる者は多い。


 それは何故か。


 それは勿論、自ら家を『ハロウィン仕様』に改造するからである。


 それが『お化け屋敷』ともいえるものであり、人々がその仕掛けや飾りを見て回るのもハロウィンの楽しみ方の一つでもある。






 アメリカ合衆国カルフォルニア州、ロサンゼルス付近のとある住宅地の通り。

 そこでは既に仮装した人達が幾つかのグループに集まっており、『トリックオアトリート』を始めていた。



「そろそろ行こうぜ」


 それは周囲の人々が使っている英語ではなく、流暢な日本語だった。

 無論、そう呟いた少年も黒髪黒眼の純日本人だ。


 今は『狼男』に仮装しているが。


「家に帰りたい……日本帰りたい……正直こんな行事どうでもいいんです……」


 弱弱しくそう繰り返していたのは、同じく日本人の少年。

 『科学者』の仮装をしており、白衣を羽織ってメガネをかけていた。


「何弱気になってるのよ、私を見習いなさい!」


 無い胸を張ってそう言い放つ少女。

 こちらは純日本人ではなく、アメリカ人とのハーフの金髪青眼の少女だった。

 しかし、日本語は流暢だった。

 彼女の仮装は『魔女』だ。


「にゃぁ、後ろに何かいるよー?」



 そう言って『魔女』の後ろを指差すのは黒い猫耳のカチューシャを付けたショートボブの黒髪少女。

 少しつり上がった目が印象的である。

 『黒猫』の仮装らしいが、手抜きなのか、下は黒のパーカーに黒い猫の尻尾飾りを付けているだけだ。


「へーん、そんな見え透いたジョークに引っかかる訳――きゃああああ!?」

「……驚かせて、ごめん」


 ぬっ、と魔女の後ろから現れたのは高身長の少年。

 こちらも黒髪黒眼の日本人だが、身長は170cmを超える。

 漆黒のマントを纏っていた彼の仮装は『ドラキュラ』。

 黒のマントが夜の暗さに紛れていたため、魔女は振り返るまで気づかなかったらしい。



 この5人は全員、日本から来た体験入学者である。

 そして今夜一緒に肝試しも兼ねて、「お化け屋敷」に改造された家の多いと言われるこの通りでトリックオアトリートをしようと約束し合ったのだった。


 因みに全員学年は同じで、日本でいうと中学2年生だ。



 ――勿論ドラキュラも174cmではあるが、中学2年生だ。



「……で、どこから始める?」

「うーん、あの家でいいんじゃにゃーい?」


 狼男の問いに、適当な方角を指差す黒猫。

 実にいい加減な決め方だが、それ以外に決める方法というのもこの状況では少ない。


「じゃ、あの家からお菓子を頂きますか」


 狼男を先頭に歩き始める5人。

 最初に辿り着いた一軒屋は、「お化け屋敷」には改造されてない普通の家だった。

 オレンジ色のLEDやジャコランタンなどで少し飾っているだけだ。


「とりっく・おあ・とりーとォー!」


 狼男が堂々とドアを叩き、あまり流暢ではない英語でそう言った。

 少し日本語に近いアクセントで他のアメリカ人にとっては違和感ありまくりだろう。


「ちょっと、ドア叩かなくてもドアベルあるでしょうが!」

「いいんだよ、俺、狼男だから」

「それ理由になってるの!?」


 魔女のツッコミを無視して待ち続ける一同。

 数秒ほど経ち、やっとドアが開いた。


「Sorry for takin' long. Here ya' go(待たせてごめんなぁ、ほらお菓子)」


 部屋着の老婦人が顔を出し、手に持った籠から全員のお菓子袋に一つずつお菓子を入れた。


「お、おおう、えーっと、ゆーあーうぇるかむ?」

「落ち着きなさい、『サンキュー』すら言えなくなってるわよ。 Thank you very much!」

「おー、流石にゃ」


 英語の成績が低い上に緊張してしまった狼男の言葉を訂正しつつ、老婦人に流暢な英語で礼を言う魔女。


 因みに、『ユーアーウェルカム』は『どういたしまして』の英訳である。

 何故それを間違えることができたのか、狼男の成せる技の一つなのであった。

 勿論良い意味でとはいえないが。


 この5人組で唯一英語が不得意なのは彼だったりする。








「なあ、先頭の人(リーダー)を交代しながら行かないか?」

「ど、どういうことですか?」

「……詳しく」


 既にリーダー格となっている狼男の提案に、科学者は少し疑問そうに、ドラキュラは興味深そうに狼男に詳細を求めた。


「家一軒からお菓子を貰う度に、先頭の人を変えるのさ。 先頭の人はどこに行くかを決める。 それだけだ」

「おもしろそうね」

「私はどうでもいいにゃー」

「……別に、構わない」

「いいですけど……」


 全員の了承もあり、狼男の案の通り、次に魔女が先頭となった。


「次の家は……あそこは良いのがもらえそうね」


 二階建ての大きめな一軒屋を指差す魔女。

 確かにあれほどの家に住んでいれば、ある程度は良いお菓子をもらえる可能性はある。

 勿論、家主がケチでなければの話だが。


「へー、お化け屋敷にはしないんだ」

「うっさいわね、アンタだってごく普通の家選んだじゃない」

「最初だから当たり前じゃねーか。 それとも、怖いのか?」


 「怖い」という単語を強調させる狼男。


「怖い訳ないじゃない!」

「でもさっきのドラキュラへのリアクションを見る限り、そうは見えないぞ?」

「う、うっさい! アンタだって怖いんじゃないの!?」


 逆切れ気味に聞き返す魔女。

 が、


「え? 別に全然? むしろ今のお前の表情が面白くて....ククッ」

「黙れぇぇぇぇ!」

「ちょ、待て殴るのはぐはぁぁあっ!?」


 魔女の拳が狼男のマスクにめり込み、彼は少し浮かされて吹っ飛んだ。

 意識が辛うじてあるらしく、「なんで、顔面パンチ……」とうわ言の様に呟いていた。


「フンッ」


 興奮で顔が真っ赤になりながらも鼻を鳴らしてそのまま一同を先導する魔女。


 自分より重い男を顔面パンチのみで浮かせたということの重大さに気づいてはいない。

 怒りに身を任せただけなのだから、それも当然かもしれないが。








 十数分後、彼らのお菓子袋の中身は順調に貯まっていた。

 既に1~2件ほどのお化け屋敷も見て回っていた。


「次は……ドラキュラが先頭だな」

「ん」


 頷き、一同の先頭を歩き始めるドラキュラ。

 しかし、その向かう先に一同は驚愕した。



 お化け屋敷に改造された家だ。

 それも、ただならぬ雰囲気を纏った、それなりに広そうな屋敷だ。


 屋敷の門は開いており、ちょっとした人だかりができている。


『そんなにお菓子が欲しかったらガレージまで来やがってください』


 綺麗な英文字がデカデカと書かれたポスターが、開いた門に張られていた。

 綺麗な文字の下に「F●●kin' little brats!(ファッキンリトルブラッツ!)」と殴り書きされていた。

 訳せば「このクソガキどもが!」となる。

 決して良いとは言えない言葉だからか、既に誰かがペンで一部を塗りつぶしていた。


 ここの家主はよっぽど子供に恨みを持っているらしい。


 回るのは広い外庭からガレージまでとなっているとのこと。

 流石に屋敷の中までは入れないのだろう。


 外庭は植え込みでできた壁によって迷路になっており、高く伸びているので上からも下からも仕掛けが施されているだろうと5人には予想できた。

 植え込みがどこか偽物くさいのを見ると、恐らくこのためだけに購入したプラスチック製のものだろう。


「……行こう」

「あ、ああ、そうだな」

「え、ええ、問題ないわ」

「れっつ・ごーにゃ」

「ホントに大丈夫ですか、ここ……?」


 それぞれがドラキュラに返事をしながら、植え込みによって作られた緑の迷路へ入った。




 それからは、悲鳴の続く一分間であった。


 足場に、植え込みの壁に、植え込みの上に。

 仕掛けだらけの迷路だった。

 実質、外庭がそれまで広大という訳ではなく、入り組んでいるだけなのだが。

 それにしては家主の気合の入り方が異様である。


「なななななんで血まみれの手がいきなり飛び出しててて」

「おい落ち着け! ニセモノだ! かなりリアルだけど!」

「うわあぁぁぁ手が、手ががが僕の足を――――」

「にゃー! 科学者さんしっかりー!」

「……なかなかの仕掛け」


 悲鳴を上げているのは彼らの内2人だけなのだが。

 狼男、黒猫、ドラキュラの3人はそれなりの耐性があるからか、そこまで怖がった表情を見せなかった。


 その代わり、魔女と科学者が瀕死だ。


「あ、あぁぁ、もう無理……」

「か、帰りたい……」

「頑張れ、もうすぐガレージに着くにゃ!」


 そして虚ろな二人の呟きと常にポジティブな黒猫の励ましをBGMに、一同は緑の壁に挟まれた長く狭い道を抜けた。


「……あ、あった」


 狼男が思わず呟く。


 ゲートの開いたガレージに入ると、奥にそれ(、、)は視えた。


 お菓子の入った壺だ。


「や、やっと終わる……」


 彼らには、この『ゲームのエンディング』が何故か感動的に感じられた。


「おっさき~!」


 狼男が我先にと飛び出す。


「……待って、まだ――」


 ビンッ。

 糸が張られる音が響く。


 そして、大量のお菓子が狼男の頭に降り注いだ。



「うぎゃあああああ!?」

「あっ、天井にお菓子いっぱいのバケツが大量に!?」


 暗くて見えなかったのか、糸で作動する「お菓子を取ろうとする者をお菓子で埋める仕掛け」に一同は気づくことができなかったらしい。

 というか既にそこら辺中にお菓子が散らばっているのだが、暗い空間だからか「ちらかっている」と誤魔化されている。


 ドラキュラは何かしらの罠を予想していたが。


「……まあ、この降ってきたお菓子を貰えばいいんじゃない?」

「それもそうですね」

「そうだにゃー」

「……大量」


 床に落ちたお菓子をかき集め始める4人。

 狼男はまだお菓子の下じきである。



 因みに、ここにたどり着いた者は全員同じ様に落ちたお菓子を持って帰るだけだったりする。





 トリックオアトリート、これにて終了――――。

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