とあるハロウィンの赤髪青年の話し@ユダルナ
作者:ユダルナ
ジャンル:日常
10月31日。
誰もがご存知今日はハロウィンである。
街は仮装した小さな子供たちでいっぱいだ。
「人多いなぁ…」
寝不足で低血圧なオレは黙ってまだ早過ぎるマフラーに顔を沈め、制服姿の身体を引きずるようにして、歩いていた。
ここまでくるのに、どれだけの時間を消費しただろうか。夕日がいつの間にか沈んでいた。
「おじちゃんお菓子ちょーだい」
「残念だなぁ少年。自分はまだおじちゃんじゃないんだなぁ」
「じゃあくそジジイでいいや」
「ジジイでもねぇんだ」
家から出発して、早2分。公園の前で遭遇したどことなく親父狩りをしにきたようなフランケンシュタインの格好をした謎の少年に声をかけられた。
全くだ。息抜きをしにきたのに。
「おい〜マジかよ。お菓子も持ってねぇのかよ、ふざけんなよ〜。ろくなもんじゃねぇ」
「こっちの台詞だよ」
何でこうなるんだよ。運命って残酷すぎるだろ。いくらなんでもこれはあり得ない。
「飴で良いならやるぞ、ほら。お好きな味をどうぞ」
「マジで! サンキューおにじいさん」
「何か混ざってねぇ?」
謎の少年はケラケラと不敵な笑い声を上げながら走っていってしまった。
「変な奴…」
指定セーターの袖を目一杯引っ張って温かくしてからポケットに手を突っ込んだ。
公園を通り過ぎるとコンビニの前まで来て、まさかとは思ったがこれからまだいろんな人に出会いそうな気がして飴を追加するため、買いに入った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。鳥肉おあ豚肉だよ」
「は?」
「鳥肉おーるぶたにーく」
早々、コンビニを出た瞬間男女5人組に出会ってしまった。
「と、鳥肉? と豚肉?」
「そーそー」
「お菓子くれなきゃ内臓削ぐんだよ」
「削ぐ⁈」
作り物の斧を振りかざされ、急いで避ける。
「ちぇ、もうちょいだったのに」
心臓をバクバクさせながら、思わず地面に座り込む。
「あれか? もしかしてトリックオアトリートの事か?」
「違うわよ! 鳥肉おわ豚肉だよ!」
「絶対間違えて覚えただろ!」
「削がないの⁈」
「オフコース、削がねぇよ!」
小学生ぐらいの集団がオレを見上げながら納得したような表情をする。
「じゃあ、とりっくおあとりーとぅ」
「お好きな飴をどうぞ」
ダルダルになったセーターのポケットからそれぞれ違う飴を取り出して渡す。
「あ、兄ちゃん髪の毛赤い〜」
「お人形さんみたいで可愛い」
「ほんとだほんとだ! 学生さんだー!」
「髪の毛が血塗られてるー!」
「こら、仮にも地毛なんだから引っ張んな。てかセーターの中に頭突っ込むな。やめろって…あ、おい! 携帯返せ」
しばらく遊ばれると、大人しくお礼を言って去ってしまった。
コンビニの前から立ち去ると、しばらく歩いた路地裏にビールの缶を握ったおっさんが座っていた。
ヤバイと察してオレは俯きながら通り過ぎようとすると声をかけられた。
「は、はぁ…」
「トリックオアトリートって、知ってるか?」
「知ってるもなにも、何だよアンタ」
渋々立ち止まり、睨みつける。
すると、おっさんはビール缶を見つめながら勝手に話し始めた。
「昔、そう、あれは昔だった。まだ、侍が居た頃だ…」
「おい、ジジイ。勝手に話し始めんな」
「良いじゃないか、暇なんだろ? ジジイの話しでも聞いてけ聞いてけ」
「嫌だよ、それに暇じゃねぇし。飴やるからどこか行かせてくれ」
放る様にポケットから飴を投げる。
おっさんはそれをキャッチしてから、オレに向かって両手を合わせて拝み始めた。周りからの視線が痛いがまぁ、気にしないでおこう。
路地裏を通り過ぎて住宅街に出る。
住宅街なだけあって小学生ぐらいの子たちが沢山歩き回ってはお菓子を貰っていた。ロリコンの友達(女子)を連れて来ればよかった。
すると、何故かノラ猫を見つけた。だが、そのノラ猫は誰かにイメチェンされたようで、ハロウィンの帽子をかぶらされ、黒と黄色のワンピースまで着せられていた。
「お、ノラ猫だ。可愛いなぁ」
さりげなく癒されていると、ノラ猫は邪魔そうに帽子を脱いだ。
「誰に着せられたんだろうなぁ〜」
シンプルになった頭を優しく撫でてやる。
オレは今まで何をやっていたんだ。ハロウィンなのに。
ノラ猫が脱いだ帽子を持ち上げて、いろんな角度から眺める。と、ノラ猫が突然帽子に向かって唾を吐きつけた。
「げ⁈ 何だよノラ猫! びびるじゃねぇか」
どうやら、そうとう自分の格好に不満を抱いていたようで、服まで引きちぎり始めた。
「まてまてまて!飴やるから、もうやめろ」
ノラ猫はオレの方を見て、手に持っていた飴をかっぱらって遠くへ走っていってしまった。
「何だよあのノラ猫…ハロウィンだからって調子に乗りやがって」
ため息をついて、しゃがんでいた体制から、立ち上がろうとすると、誰かの声がした。
「キルユー・トリート!」
「いぎゃー!」
突然背後から本物のカッターで襲われ、本日二度目の盛大な転倒をみせた。
「やだなぁ、そんなに驚かないでよ」
「お菓子くれ〜」
カッターを振りかざしてきた正体は隣の家である田中さん家の小学生兄弟だった。
心臓をバクバクさせて、顔を青ざめる。
「どお? 魔女の格好、似合うでしょ?」
「あ、あぁ…でも、魔女はカッターなんか持ってないから。今すぐそれを家に置いてきなさい」
「僕はお化けだよ〜、がおー!」
「お化けはがおーって言わないかなぁ。多分」
静かに起き上がり、二人の頭を撫でる。
これだから、ハロウィンは苦手なのだ。
おとなしく二人に飴をやると、二人は笑顔で手を振って「ちょっと待ってて〜」といって何処かへ行ってしまった。
仕方なくベンチに座って待っていると、1分もしない内に沢山の友達を連れてきたのだ。
ぞろぞろと仮装した奴らに囲まれ、あっという間にシュールな光景が出来上がる。
一人一人に飴を渡していく。飴を貰ったら帰るかと思いきや、遊ぼうというお誘いがきて、どうやらオレには拒否権がないらしく、遊ばれた。
『ハロウィンなんて死んでしまえ』
そう思って寝た夜はこれでもか、というくらいにうなされた。