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君の瞳に恋してる  作者: 優流
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突然の出来事

「メデューサさん?」


樹は隣から覗き込むようにメデューサを見つめる。鮮やかな茶色ではなく、もっと暗い茶色の瞳。でも、不純物を感じさせない清んだ濃い茶色の瞳。その瞳がメデューサを見つめる。いつか"彼"が見つめた鋭い視線とは違って、もっと穏やかで、見つめられているというのに、どこか安心感がある視線だ。でも、その視線は真っ直ぐでメデューサを離さない。


「"あの人"とは違いますね」


「あの人?」


樹の表情が一瞬曇った。あの人という単語が何だか胸に引っ掛かったからだ。誰のことか聞きたい気持ちはあったが、樹はその気持ちはを飲み込んだ。

その時だ。展望台側の駐車場から車のドアの開閉の音が聞こえてきた。ここなら人が来ないという安心が、樹を油断させていた。来ない訳ではない。来る可能性が低いだけだ。

樹は焦った。この展望台には遮蔽物は無く、メデューサを隠せる場所も当然無い。加えて駐車場から展望台までは一本の道と一本の階段で繋がっている。遭遇は免れない。


「心配しなくて大丈夫です」


メデューサは焦る樹を落ち着かせるように微笑んだ。しかし、樹は"別の理由"で動悸が速まってしまった。





何を話しているかわからないが、若い男女の話し声と二つの足音が近付いてくる。一つはおそらくスニーカー。階段を踏む音が鈍く、自分のペースを崩さない歩きやすそうにしている男の足音だ。もう一方はおそらくハイヒール。甲高い足音の後に少し揺らぎがあり、歩くのが大変そうな女性の姿が目に浮かぶ。たぶん、男は結構自分勝手で自己中心的な考えを持っている。女性をまるでアクセサリーか何かだと思っているのだろうか。大変そうに登る女性を気に掛けている様子が足音から感じ取れない。一方の女性は健気に男に付いていくが、内心イライラしているのが伺える。おそらく関係は上手くいっていないが、それに男は気付いていない。

緊張のせいか何なのかわからないが、樹は無駄に鋭い洞察力を発揮した。展望台に現れたのは予想通り若い男女。男はスニーカーを履き、女性はハイヒールを履いていた。思ったとおり、女性は少し歩きにくそうにしている。

現れた二人の視線が一瞬、樹達に向けられる。しかし、二人はメデューサを見ても騒がなかった。内心、不思議に思いながら樹は隣にいるメデューサに視線を向けた。

メデューサはずっと変わらない姿で樹の隣に立っている。ただ頭の蛇が眼を赤く光らせて何かをしている。


「これが……幻視……」


樹は小さく呟いた。

メデューサは幻視、つまり現れた二人はメデューサ本来の姿ではなく、幻を見ているのだ。どんな姿のメデューサを見ているのか、樹にはわからないが、男の方が隣の女性の目を盗んで、チラチラと視線を向けてくる。相当美人の幻を見せているのだろうか。


「便利ですね。これなら昼間出歩いても問題無いですね」


「そうでもないです。幻を見せられるのにも限界はあります」


樹は慌ててメデューサの顔を見ると、少し辛そうに歪めている。


「は、早く車へ」


樹はメデューサの手を引いて、展望台から立ち去った。





幻視の魔法はどうやら幻を見せる相手との距離と幻を見せていられる時間に制限があるようだ。時間は10分程度。距離は半径50メートルといったところだろうか。

制限は厳しいが、それでも樹のアパートに入るには充分だった。

樹は地方の某私立大学に通っている。アパートはその大学から程近い場所にある住宅街の一角にある。昼間に誰かが仕切りに出歩く姿は見ない。子供達も遊び場は公園ではなく、部屋の中だったり、小学校のプールだ。幻視の魔法を使う必要は無いかも知れないが、用心に越したことはない。

樹はアパート二階の自分の部屋に近い階段の側に車を停めた。


「車を出たら、すぐに魔法を使ってください」


「わかりました」


樹は後部座席のドアを開けると、メデューサが現れた。頭の蛇が四方八方を向き、赤く眼を光らせた。魔法を発動しているようだが、樹には何故かメデューサの幻が見えず、魔法がちゃんと機能しているのかわからない。

樹はメデューサより先を歩いて、部屋のドアに辿り着くと鍵を開けて、メデューサを中に誘った。樹に誘われるままメデューサが部屋に入るが、入った後も下半身がまだ残っていて、ドアを閉めたくても閉められない。


「夏川さん!!」


下の方から声が聞こえた。視線を声のした方に向けると、眼鏡を掛けた中年の女性が立っていた。


「お、大家さん?どうしましたか?」


「どうしましたか?じゃありません!!ここは駐車禁止ですよ!!」


樹は視線を足下のメデューサの下半身に向けた。しかし、下半身はまだ部屋に入りきっていない。おそらく、メデューサの魔法で大家からは見えていないだろう下半身が入りきらないとドアを閉められない。


「す、すみません!!ちょっとトイレを急いでて……済んだら移動するので、すみません!!」


苦し紛れの嘘。


「なら、さっさと済ませなさい」


それだけ言い残し、大家は歩き去った。しかし、念のため大家の姿が完全に見えなくなるまで見送った。

やがて、大家の姿が完全に見えなくなり、樹はまだ入りきらない下半身を持って、部屋に入った。メデューサの下半身はリビングへと続き、玄関マットが真っ黒になっていた。人間とは違い、数メートルの下半身で歩くメデューサがマットで汚れを落とせば、こうなることぐらい予想できたはずだった。


「よくよく考えてみれば、そうだよね」


洗うのが大変そうだとため息を漏らした。

部屋の奥に視線を向けると、少し疲れた様子のメデューサが行儀よく座っていた。少し窮屈なようだが、下手に外にいるよりは安心だ。

樹も部屋の奥で一息付こうと思ったその瞬間、樹の視界が突然真っ暗になった。何が起きたのかもわからないが、全身から力が抜けていく感覚に襲われ、必死に堪えるが、堪えきれずに床に倒れた。

樹が倒れたのに気付いたメデューサが目を閉じたまま、樹に視線を向けた。


「…………………………樹?」


メデューサは突然の出来事に茫然としていた。

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