表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーセナリーガール -彼女たちのその後-  作者: 海野ゆーひ
イライザ編「花嫁募集」
17/28

03-C

 募集要項によると、書類選考を通ったら、カランカで国王と対面できるらしい。

 そこで何をやるのかはわかんないけど、国のトップと会えるってのは、それだけですげぇことだと思う。



 書類選考を通った人には、集合日時と場所が書かれた手紙が届くらしい。

 つまり、それが届かなかったら終わりってことだ。




 ……応募用紙を出してから、もうすぐひと月が経つ。


 始めの1週間は、結構期待に胸を膨らませたりしてたんだけど、だんだん熱が冷めて、最近では何も届かないでくれと思うようになっていた。


 やっぱり、そんなあるのか無いのかわかんねぇモンに賭けるより、自分で地道に出会いを探した方がいいもんな。


 だからあたしは、この頃中央の方まで仕事に出るようになった。

 都会に近けりゃ、若い男もたくさんいるだろうと考えてのことだ。実際、たくさんいたし。


 でも、まだ出会いは無し。

 まぁ、始めたばかりだし、これからこれから。




 とかなんとか、自分に言い聞かせてたある日のことだった。


「ん?」

 仕事帰り、ドアの郵便受けを開けたあたしは、一通の手紙を発見する。


 妙に洒落た封筒だな。そう思いつつ送り主を見た瞬間、心臓が大きく揺れた。


「え……?」

 封筒の裏に記されていたのは、「オルトリンデ城」の文字。


 まさか……!




 慌ててリビングへ駆け込み、荷物を放ってソファへ飛び乗る。

 そして震える手で封を開け、中に入っていた紙を取り出し、開く。


「……」

 そこに書かれている文字に、目を走らせていく。


「……嘘だろ」



 ――書類選考を通過したことをお知らせ致します。つきましては、下記の日時、場所にて最終選考を行いますので、ご確認の上、お越し下さい――



 確かに、そう書いてある。間違いない。


「マジ……なのか?」

 その内容を、なかなか受け止められずにいる。理解が追いつかないというか、頭がぼーっとしてる感じだ。


 書類選考を、通った? あたしが?

 再び、その文章に目を通す。


 ……見間違いじゃない。


 あの写真で、選考通っちゃったよ。すっぴんだぞ、あれ。あんなんでいいのかよ。

 一体何が、どこが評価されたんだ?


 ……気を取り直して、もう一度紙を見る。


 書類選考を通過したことを伝える内容の下に、明後日の日付と午後2時までという時間指定、カランカの駅前という集合場所が書かれていた。

 そこに、馬車が待っているらしい。


「……」

 紙を封筒へ戻し、テーブルへ放る。そして、ソファに背を預け、天井を見つめる。



 ……いや、まだわかんねぇぞ。まだ、騙されてるって可能性はある。

 だって、やっぱおかしいもんな。国王が、一般から花嫁を募集するなんてさ。

 どう考えても、冗談としか思えない。それも、悪い冗談だ。


 でも、だからこそ、あたしは行かなくちゃならない。

 行って、この目で確かめてこないと。


 嘘なら、それでいい。今ならまだ、騙されたこっちが悪いんだと思えるからな。

 それで済むなら安いもんだ。むしろ、そんなオチの方が、逆にホッとできるかもしれない。


 ……あんまり、期待しないでおこう。


 落ち着け落ち着け。期待するな期待するな……。




 翌朝、協会支部へ向かったあたしは、仕事を探すついでに例の件についてシンシアに報告した。



「えっ! 通ったの? マジ?」

「あ、ああ。どうやらそうらしい」


 目を見開くシンシアに、昨日届いた手紙を見せる。


「……ホントだ。えぇ? 嘘、信じらんない」

「あたしだって、信じられないよ」


 目を合わせる。シンシアの顔は、動揺のあまり引きつっている。


「……い、行くの?」

「そりゃな。行かなきゃ、ホントかどうかわかんねぇだろ?」


 シンシアから返してもらった手紙を、ジャケットの内ポケットにしまう。


「それで、相談なんだけどさ。……何着てけばいいと思う?」

 昨日から、そのことをずっと悩んでいた。


 すると、シンシアは「う~ん」と腕を組む。


「就職の面接じゃないんだから、スーツはちょっと固すぎるかな」

 それは考えた。結論も同じだ。


「ドレスとかで着飾って行くのも、なんか違う気がする」

 あたしは貴族でも金持ちでもないんだから、それにも同意だ。


「……となると、やっぱいつもの格好で行くのが一番いいんじゃない?」

「いつものって、……今着てるこういうのとか?」

 自分の服を見下ろすと、シンシアは「そうそう」と言った。


「いやいや、さすがにこれは無いだろ」

 ジャケットにシャツにショートパンツ。あたしは、大体いつもこんな服装だ。動きやすさ重視。


 仕事ならこれでいいけど、国王の花嫁候補ってことを考えると、ちょっといただけないんじゃないか?

 足なんかほとんど全部出てるし、はしたない、とか言われるよきっと。


 だけど、シンシアは首を振る。


「さすがに着古したヤツは駄目だと思うけど、服装としてはそれでいいと思う」


 ……一応、聞いてみるか。


「もしかして、それも勘?」

 シンシアは、微笑んで「うん」と頷いた。やっぱりな。


「私の勘に従って、書類選考通ったでしょ? 次も従ってみなよぉ」

 それも言うと思ってたよ。


 ……だけど、事実ではあるか。

 短く溜め息をつく。


「わかった。同じようなヤツを新しく買うよ」

 今回も、シンシアの勘を信じてやるか。


「今日の仕事は、すぐ終わるでしょ? 夕方頃、服見に行くの付き合ってあげる」

 楽しそうだな、おい。


 まぁ、でも、そう言ってもらえるのはありがたい。


「うん。頼むよ」

 シンシアに手を振り、協会支部を出る。


 さて、仕事頑張りますか。




「着れた~?」

「うん」

 返事をすると、すぐに試着室のカーテンが開いた。


「おー、いいねいいね。やっぱイライザは、この格好じゃないと」

「……ホントに、これでいいのかぁ?」

 いつもこの服装でいるから慣れているはずなのに、今は妙に恥ずかしい。


「大丈夫だって。ありのままのあんたを見せればいいんだよ」

「ありのまま、ねぇ……」

 すごく不安だ。


「よし。あとは、色違いでもう1セット予備として買っておこうか」

「予備? 要るかぁ?」

「もしものことがあったら困るでしょ? 備えはしとくに越したことはないんだよ」


 もしものことって、なんだよ。

 ……まぁいいや。


「? あれ? シンシア?」

 ハッと気付いた時には、目の前にいたはずのシンシアの姿が無かった。


 店内を見渡すと、女性店員を引き連れて戻ってくる彼女を見つけた。


 ……やれやれ。自分のことのように楽しそうだな。




 日はすっかり暮れ、オラーリャは夜闇に包まれた。

 通りの街灯の明かりも、頼りない。


「送ってくれて、ありがとね」

「ああ。今日は付き合ってくれてありがと。シンシア」


 シンシアが暮らす集合住宅の前で、あたしたちは向かい合う。


「……明日、国王様に会えるかもしれないんだよね?」

「まぁな」

「もし本当に会えたら、……頑張ってね。私、応援してるから」

「ん? ああ。ありがと」


 笑い合う。


「じゃあ、明日。駅で」

「ああ」


 手を振りながら集合住宅に入っていくシンシアを見送った後、手に持っている紙袋を見下ろす。


 ……頑張ってね、か。


 何を頑張ればいいのかは、向こうに行ってからじゃなきゃわかんないんだよな……。




 その後、自分の部屋に帰るまで、そして帰った後も、国王に会った時のことを想像して、イメージトレーニングを続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ