表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

02-E

 10リットルは入る折り畳み式のタンクいっぱいに入った水。袋詰めのパン、野菜に干し肉。そして、塩や胡椒などの調味料各種。

 この配給品1セットが、1日分だ。


 鍋や食器は借りられるし、火をおこすためのマッチも貰える。

 ほかに必要な物があれば、要望を出せばできる限り応えてくれるらしい。



「これ、全部タダなのかよ」

 リュシーが目を丸くするのも頷ける。


「ああ。ヘルムヴィーゲ政府に感謝するんだね。政府は戦闘地域で戦う傭兵たちのために、かなりの予算を割いてくれている。その予算の一部が、こうした配給品になって君たちに届くんだ」

「ほぇ~」

 協会員の説明を、興味無さそうに聞くリュシー。



 中央広場へ行くと、すでに何台もの馬車が停まっていて、大勢の協会員たちが配給を始めていた。

 馬車の荷台から次々と運び出される配給品を、列をなした傭兵たちが受け取っていく。私たちも列に並び、今、配給品を受け取ったところだ。


 配給品は、水のタンク以外、全て一つの革袋にまとめられていた。

 次回からはこの革袋を使い回すので、無くさないように、とのこと。



「まぁ、配給は水や食料に限られてるけどね。服はそこ、武器はそこで買ってもらうことになるよ」

 協会員が指差すのは、中央広場に面した店だ。



 その説明は、昨日クエスタに来た時に、御者を務めてくれた協会員から受けている。

 ちなみに、中央広場には、ほかに銀行や公衆浴場などの施設もある。


 その並びには、病院も含まれている。この街に唯一残された、医療設備が整った病院だ。

 今も、配給を待つ傭兵たちの列の向こうに、担架に乗せられた傭兵が運び込まれていく光景がある。



「よし、帰ろうぜ。タンクはマリサが持てよ」

 ぼーっとしている間に、私は水の入ったタンクを持たされていた。見れば、すでに列を離れて帰路につく2人の背中がある。


 私は早歩きで、彼女たちを追った。




 上空から襲いくる、巨大な鳥。その巨大な足は、私を攫おうと広げられている。

 ギラリと日の光に輝く鋭い爪。あれで串刺しにして、人間を捕獲するんだ。


 急降下による攻撃を躱しつつ、剣を振る。

 ギシッと硬い感触に押されるも、負けじと押し返し、振り切る。鳥は悲鳴を上げながら地面を転がっていく。


 直後、地面を叩いたのは、鳥の右翼だった。


 片翼を失い地面で暴れる鳥の頭を刺して引き抜けば、噴き出す鮮血の量に比例して、そいつの動きは鈍くなっていく。


 やがて、ピクリともしなくなったそいつから視線を外し、上空を見上げる。

 ……まだまだいるな。甲高い声は、威嚇なのか何かの合図なのか。



 昼食を終える頃、再びファミリア襲来の笛が聞こえた。

 外に出てみれば、東の空に鳥の大群。


 鷲型ファミリアの、ブラッディイーグルだ。


 眼球とくちばし、そして両足以外の全身が赤いため、その名が付けられたとされている、人間より遥かに巨大な鳥。

 翼を広げた大きさは、優に6メートルを超える。


 奴らは肉食。主食はもちろん、人間だ。

 その大群が、餌を捕まえるためにこの街にやってきたんだ。


 私たちはすぐに街の東へ向かい、すでに始まっていた戦闘に加わった。



 上空を旋回していた4羽の鷲は、一旦別れ、内1羽が私めがけて急降下。奇声を上げながら突撃してくる。

 あの鋭いくちばしで貫くつもりらしい。


 鷲の接近に合わせ、後ろ向きに走る。たまに大きく跳び、そしてまた駆ける。

 いくら走っても、鷲との距離は離れるどころか縮まっていく。

 これでいい。別に、逃げているわけではないのだから。


 むしろ逆だ。


 ひときわ速度を上げた鷲に合わせ、右へ跳ぶ。

 あの速度で降下してくれば、急な方向転換はできないはず。そこに大きな隙ができる。


「――!」

 しかし、鷲は地面に向かって突っ込んだものの、大きな足で地面を踏み砕いて着地したではないか。


 その頭がすぐに私の方へ向き、黒い双眸が凝視してくる。

 そして、着地した足を軸に回転しつつ、真っ直ぐ私に向かってきた。巨体は目の前。

 振り下ろされるくちばしは、私の頭を狙っている。


「くっ」

 なんて速さだ。その一撃をどうにか躱した私は、その勢いのままに鷲の身体の下へ滑り込む。


 起き上がる勢いを借りて、剣を突き上げ、腹を刺す。悲鳴を上げ、暴れる鷲。


 逃がさない。

 剣を両手で握り、足を踏ん張って胴を裂いていく。どばどばと鷲の血が身体に降りかかるのを感じつつ、そのまま巨体の下から抜け出す。


「――!」

 が、抜けた先に日の光は当たっていなかった。


 見上げれば、3羽のブラッディイーグルが私を包囲し、三対の眼光を浴びせかけていた。

 腹を裂いてやった鷲も、鈍い動きながらもその包囲網に加わる。


 ……なるほど。私を囲むための作戦だったわけか。


 一斉に降り注ぐ、くちばしの雨。躱せば、それは地面を粉砕し、石や土塊が弾け飛ぶ。

 すぐに視界が利かなくなり、しかし尚もくちばしによる攻撃は止まない。


 ……意識を集中する。視覚が駄目でも、聴覚がある。研ぎ澄ませれば、空気を切って接近する音だけで回避は可能だ。


 目を閉じ、最低限のステップで攻撃を避け続ける。

 避けながら、左手で腰のナイフを抜き放つ。


 目を開け、一番最初に目についた奴へ、ナイフを投げる。それはそいつの腹部に命中し、4羽の攻撃リズムを崩すことに成功。


 その機を逃さずに、前へ。


 ナイフが刺さって身体を揺らす鷲の足元を通り抜けざまに、一閃。左足を切断する。

 ぐらりとバランスを崩したのを見逃さず、そいつの背後から身体に飛び乗り、体毛やら羽を掴みながら、上へ上へ。


 翼の付け根まで来たところで大きく飛び、剣を振り上げたまま落下。落下の勢いを借りて、そいつの左翼を斬り落とす。


 着地する私へ、体勢を立て直した3羽が一斉にくちばし攻撃を再開。内1羽は怪我のせいか動きが鈍く、脅威となるのは残りの2羽のみ。

 そう考えた私は、元気な2羽の内左の奴へ肉薄。くちばし攻撃を軽く横に跳んで躱しつつ、頭部の毛を掴む。


 狙い通り、そいつは頭をもたげた。私の身体は、一気に地上3メートル以上の高さまで引き上げられる。


 振り落とされる前に、そしてこいつが飛び上がる前に、決める。


 剣をくるりと逆手に持ち替え、間近にあった右目に振り下ろす。直後張り上げられる、悲痛な叫び。


 暴れ、飛び上がろうと翼をばたつかせる鷲。私は剣を引き抜き、今度は少し角度を変えて、再び右目を刺し貫いた。脳を破壊するためだ。

 鷲は身体を痙攣させ、そのまま横倒しになっていく。


 再度剣を引き抜き、倒れゆく鷲の頭の上に立った私は、仲間の様子に硬直していた隣の鷲へとジャンプ。

 そこでようやく私の接近に気が付いたその鷲は、空中にいる私を貫くために、くちばしを突き出してきた。


 刃を下にして剣を構え直し、迫るくちばしにタイミングを合わせて振り下ろす。

 ガキッという衝撃が伝わると共に、私の身体はさらに上へと跳ね上がった。

 そして空中で身体を回転させながら剣を再び構え直し、落下の勢いを借りてそいつの頭部へ。


 ずぶりと、そいつの目と目の間に剣が埋まっていく。直後、くちばしの付け根に着地。

 剣を引き抜き、さらに隣の、最初に腹を裂いてやった鷲へと跳ぶ。


 そいつは私に気付いてはいたものの、やはり動きが鈍い。さっきよりも格段に。

 やはり、大量の出血が効いているようだ。


 刃を上にして剣を構え、手負いの鷲の首へと飛び込む。

 刀身が喉を裂き、首の骨を撫で、反対側へ抜けた。


「ぐっ……」

 そのまま地面に着地。さすがに、足にかなりの負担がかかり、膝をつく。


 背後で、鷲たちが倒れていく音が重なる。

 一息ついて立ち上がった私は、その光景を振り返り、足と翼を切断しただけの1羽へ歩み寄る。


 そいつは、私の姿を視認するや、慌てて身体を起こそうと動き出す。

 しかし、片方の翼が無いので身体を起こすこともできず、仮に起こせたとしても、片方の足がないので立つことはできない。


 その哀れさに、しかし私は何ら感慨を抱くことは無い。


 そいつの身体の上へ跳び上がり、後頭部から剣を埋め込む。潰れたような声と共に痙攣。

 鷲はぐったりと動かなくなった。


「……」

 上空には、まだまだブラッディイーグルが飛び回っている。


 街じゅうから、戦いの音が届く。まだまだ戦闘は終わらない。

 私は剣についた血と振り落とし、敵を引きつけるために駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ