表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/28

02-C

 原型を留めている建物は、街の中心部ですらほとんど無い。


 中央広場に面している建物のいくつかは、今も営業している店のようだけど、ドアや窓が無かったり、屋根が一部無くなっていたりと、普通なら考えられない有り様だった。


 ……そうか。今まで私たちは、まだまだ“普通”の場所で暮らしていたんだな。




 私たちの前にある、ツギハギだらけのプレハブ小屋。

 これが、ここクエスタの協会支部らしい。

 ……確かに、ドアの横にそうペンキで書いてある。


 何回建てても壊されるから、簡単に建て直せるプレハブ小屋にしたんだとか。


「あ? 誰もいねぇじゃねぇか」

 ドアを開けて中を覗いたリュシーが、そんな声を上げる。


「皆、外に出てるんだろう」

 支部の裏手に馬車を置いて戻ってきた協会員の男性が、そう言った。


 すぐさま、リュシーが噛み付く。


「出てるって、どういうことだよ」

「この辺りでは、ほとんど引っ切り無しにファミリアが出るからね。傭兵は仕事の報告をしようにも、支部へ足を運ぶ暇が無いのさ。だから、我々の方から報告を受けに回るんだよ」

 なるほど。


「じゃあ、あたしらの手続きはあんたがやれよ。誰かが戻ってくるまで待ってるなんて、ごめんだからな」

 指を差された協会員は、「もちろん、そのつもりだよ」と苦笑い。


「いくつか書類を書かなければならない。とりあえず入ってくれ」


 協会員に促され、私たちは支部の中へ。




 クエスタにある施設の中で最も重要視されているのは、協会支部ではなく、病院だ。


 毎日、必ず複数人が怪我を負って運ばれていくらしい。そして、週に10人前後は死人が出る。傭兵と協会員を含めてだ。

 病院には死体も運ばれ、引き取りの馬車が来るまで安置される。


 こんなところまで来てくれる医療関係者は貴重なようで、ファミリアと戦う傭兵たちよりも待遇が良いのだとか。

 確かに、医者に逃げられてしまえば、ここでの戦闘は続けられないだろうからね。


 それだけファミリアの多いこの街だけど、ここですら、最前線ではない。

 一体、戦闘地域の最前線はどんな状態なんだろうか。想像もできないな。



 そして私たちは今、家を求めて街を歩いている。


 いろいろと話をしてくれた協会員によると、この街には一般住民は残っていないから、好きな家を使ってくれて構わないとのこと。

 もちろん、無料でだ。


「好きな家を使えって言われてもなぁ」

 周囲をキョロキョロと見回しながら歩くリュシーの顔は、厳しい。


 どの家も、ほぼどこかしらが壊れているのだから、そんな顔になるのも頷ける。


「中央広場から、あんまり離れてない場所がいいよね。配給品を取りに行くのに遠いと面倒だし」

 テッサがそう言うと、リュシーは「ああ、配給品なぁ……」と溜め息。



 クエスタには、食堂など、食事を提供してくれる店が一切無い。店舗自体はあるけど、その従業員たちはとっくに西へ避難した後だ。

 それに加え、食料品などが買える店も無い。こちらも、店舗だけは残っている。


 だから、水と食料は、毎朝配給されるものだけでなんとかしなければならないらしい。

 今日のところはこれで我慢してくれと、水の入った大きめの容器と袋に詰められたパンを、協会支部を出る時に渡された。それらは今、私が持っている。



「なんか、いよいよやべぇところに来ちまったって感じだな~」

 周囲を見る動作を続けつつ、リュシーは呟く。


「そだね~。ボロボロの街、食事はロクな物が無い。そしてファミリアの数はアマビスカ以上。……戦場に来たって感じがするよ」

 いつもは穏やかなテッサの顔も、さすがに元気が無い。


 ……私は? 私はどんな顔をしているんだろう。

 そんなことを考えるのとほぼ同時に、リュシーがこちらを振り返った。


「おい、なんでそんなに楽しげなんだよ、あんたは」

「え?」

 楽しげ? 私が?


 すると、テッサが私の右腕に腕を絡めてきた。


「マリサはこう言いたいんだよ。私は、あなたたちと一緒にいられればどこでもいいよ、って」

「はぁ?」

 ニヤリとしながら言うテッサに、リュシーは頬を歪めた。


「ねぇ、マリサ。そうでしょう?」

 時々見せる、テッサの意地悪な笑みだ。


 ……間違ってはいない。だから私は頷いて見せた。


 テッサは「ほらぁ」とリュシーを見る。リュシーは溜め息一つ、立ち止まった。


「どこでもいいっつったってなぁ。見ろよ周りを。まともに生活できそうな家があるか?」

 言いながら、私の方へ振り返るリュシー。


「まぁ、こんな場所でまともな暮らしができるとは思ってねぇけどよ、寝る時くらい落ち着ける家じゃねぇとな。最低限」

 妹の言葉に、テッサは「だね~」と同意。私の腕から離れる。


「ちゃんと屋根があって、ドアと窓には鍵をかけられるのが条件かな」

 姉の言葉に、リュシーは「そうそう」と同意。何度も頷く。


「……」

 その後もあーだこーだと話し合う姉妹をよそに、私は通りに面したある一軒家を見つめていた。


 ……条件に、合うんじゃないか?


「ねぇ」

 その家を指差す。


「あ?」

「どしたの、マリサ」


 姉妹も、私の指に促されてその家を見た。


「屋根もあるし、ドアも窓もある」

 そこにあるのは、平屋の小さな家だった。


「おお、なんだ。壊れてない家もあるじゃんか」

 リュシーとテッサが、通りを渡ってその一軒家へ駆けていく。私もその後に続き、3人並んで目の前の家を見上げる。


 狭い敷地内に佇むその家は、外観はそこそこ汚れているものの、どこかが壊れているような感じは無い。

 アマビスカで住んでいた家よりだいぶ小さいけれど、身体を休めるくらいならこれで充分なんじゃないだろうか。


「ここなら、中央広場からそんなに離れてないし、いいかも」

 微笑むテッサに、しかしリュシーは目を細め、「問題は……」と家の敷地に入っていく。


「先客がいるかもしれないってことだな」

 そう言いつつ、玄関のドアをノックするリュシー。


 ……反応は無い。


 リュシーはおもむろに、ドアノブを動かす。すると、ガチャリと音がしてドアが開いた。


「随分ホコリっぽいな。誰も住んでねぇんじゃねぇか? これ」

 中を覗き込んだリュシーは、そう言ってドアをいっぱいまで開く。


「入ってみようぜ」

 顔だけ振り返るリュシーに、テッサは「うん!」と玄関へ。私も続く。




 家の中には、確かにホコリっぽい臭いが充満していた。

 おそらく、長期間空気の入れ換えがされていないんだろう。歩くたびにホコリが舞い上がる。


 とりあえず、換気のために窓を開ける。


「荒らされた様子も無ぇし、家具も大体揃ってんな」

「うん。掃除さえすれば、すぐに住めるようになりそう」

 2人の声を背中で聞きつつ、私は窓から外を眺める。


 家の前は、すぐに大通り。その先に見えるのは、壊れた建物が並ぶ、戦場の光景。

 決して、楽しめるような景色ではない。


「どうする? ほかも探してみる?」

「いや、とりあえずここでいいだろ。街の中にファミリアが来るなら、そこらじゅうを歩くことになるだろ? もし別に良さそうな家を見つけたら、そん時移動すりゃいい」


「そだね。ねぇ、マリサ。あなたもここでいい?」

 テッサの声に振り返り、「うん」と頷く。


「よっし、決まりだな。んじゃ早速、掃除しようぜ。こんなホコリまみれの場所で寝たくねぇからな」

「掃除道具、あるかな~」


 そうして私たちは、日が暮れるまで家の掃除を続けた。




 静かな夜。

 今も、街の東側では絶え間なく戦闘が続いているはずだけど、その音はここまで届かない。


 私はソファに寝転がり、窓の外に見える星空を見つめていた。


 隣のソファでは、リュシーが寝息を立てている。そのソファは、ほかの廃墟から運び込んだ物だ。

 テッサは、元々家にあったベッドで眠っている。ベッドで寝るかソファで寝るかは、毎日くじ引きで決めることにした。


「……!」

 突如、あることを思い出し、ゆっくりと上体を起こす。


 そういえば、あの家って……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ