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マーセナリーガール -彼女たちのその後-  作者: 海野ゆーひ
フランカ編「第二王女の真実」
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01-A

 傭兵候補生制度を他国にも導入してもらうため、直接交渉の旅に出ることを決めたシルヴァーノお兄様。

 私はお兄様の護衛の1人として、旅に同行することになった。


 多少の障害はあったものの、旅は予想以上に順調に進み、最初の傭兵候補生期間終了からわずか1年3ヶ月ほどで、訪れた全8ヶ国から承認を得ることができた。


 でも、その間ずっと旅を続けていたわけではない。

 合間合間に、お兄様は報告のためにオルトリンデへと戻った。もちろん、護衛である私たちも一緒に。


 旅先から戻ると、10日から2週間ほどの準備期間を経て、次の旅へ移る。

 その期間を利用して、共に傭兵になった親友と待ち合わせをし、それまでにお世話になった人たちのもとを訪れたりしていた。

 ……懐かしい。




 私の親友、ティナ・ロンベルク。

 彼女は今、どうしているのだろう。


 ……そんなことを考えていた、旅が終わった翌月のこと。

 ある日突然、私は彼女と再会することになった。


 しかし、私の心はそれどころではなかった。



 私には、兄弟が2人いる。兄と姉の2人だ。


 兄シルヴァーノは、私の事情を理解し支えてくれる、私の味方。

 しかし、姉ヴァレリアーナには、私の味方である確証が無かった。


 お父様に酷い扱いを受けていた私を、お姉様は一度たりとも慰めてくれなかった。

 いつも遠くで、関心の無さそうな目を私に向けていたのを覚えている。


 おそらく、お姉様もお父様と同じに、私のことを嫌っていたのだろう。

 子供心にそう思ってから、今もその認識に変化は無い。



 そのお姉様が、私の親友と共にお兄様の別荘へやってきて、お父様の容態について、お兄様に説明をしたようだ。

 そしてお兄様は、お姉様と共に城へ戻ることをあっさりと決めてしまった。



 ……では、私はどうすればよいのか。


 お父様からの扱いに耐えかね、城を出てから2年以上が経った今、帰るべきなのか否か、お父様に顔を見せるべきなのか否か、私自身、答えを見つけられずにいた。


 ……家出をした私を、お父様は誰にも探させることなく、放置したまま。

 やはりお父様は、私のことなど露ほども愛してはいない。

 結局、邪魔者としか思っていなかったのだろう。


 そのような人のもとへ行き、一体どのような顔で会えばいいのか、私にはわからない。

 いや、そもそも、会いたくないという気持ちがあまりに強すぎて、胸を握り潰されるような思いだった。



 そこで、聞いてみた。どうすればよいのかと。

 私の親友に。


 すると、彼女はこう言った。



 ――フランカさんの気持ちを考えると、今すぐ会いに行くっていうのは難しいと思う。でも、いつか必ず、遅くとも王様が亡くなる前にどうにかして会いに行って、顔を見せてあげるべきだと、私は思うよ――と。



 その返答に対し、私の心に最初に浮かんだ言葉は、「そんなことはわかっている」だった。

 しかし同時に、「その通りだ」とも思った。


 あの人のもとへ行くことなど、考えたくても考えられない。そんな覚悟などまるで無い。

 ……そう強く思っていたものの、あの人がどのような人でも、自分の父親であるという事実は揺るがない。


 だから、いつか必ず会わなければならない。

 そのことだけは理解していた。理解していただけだけれど。



 ――王様に会ったら、聞いてみなよ。どうして自分に冷たくするのかって――



 親友のその言葉に、私はハッとさせられた。

 それは、私がずっと気になっていたことだったから。


 その瞬間から、お父様に会いに行く覚悟は相変わらず定まらなかったけれど、会いたいという気持ちだけはじょじょに膨らんでいくのを感じていた。


 ……聞きたい。その理由を。

 実の娘にあれだけ冷たくなれる理由を、納得に足る理由を、聞いてみたい!


 もしかしたら、その気持ちこそが、私の覚悟だったのかもしれない。




 帰り際、窓辺でこっそりと見送っていた私に気付いた親友は、私に向かって手を振ってくれた。

 手を振り返すと、彼女は一つ頷き、馬車へ。


 その後すぐに、お兄様とお姉様、親友を乗せた二台の馬車は、草原の向こうへ走り去っていった。




「……」

 溜め息をつきながら椅子に腰を下ろした私は、そこで複数の視線が自分に向けられていることに気付く。


 そちらへ顔を向けると、私のいるテーブルからやや距離を取って立っている、4人の使用人の姿が視界に入ってきた。


「……なんて顔をしているの、あなたたち」

 彼らは一様に、心配そうな顔を私に向けている。


「いかがなさるおつもりですか、姫様」

 最初に口を開いたのは、暗い茶髪を後ろで束ねている女性。ジゼルという名の侍女頭だ。


 答えに困っていると、その横に立つ黒髪黒瞳の青年が一歩前へ。


「陛下に、お会いになるのですか?」

 彼はレオーネ。私の護衛としてここにいる。


「そうね。今すぐにとはいかないけれど、いつかは……」

 そう答え、俯く。


「でも、大丈夫なのですか? 城に戻ったら、何をされるか……」

「もしかしたら、捕まっちゃうかもしれないですよ」

 続けざまに言葉を放つのは、侍女のロザリーとキアラ。


 ……捕まっちゃうかも、か。


 以前の私なら、それを最も恐れたのだろう。

 でも、もう、その心配は……。


「……そうならないように、お兄様ともよく相談するから大丈夫よ」

 顔を上げ、努めて穏やかに微笑んで見せると、2人は顔を合わせつつもどうやら納得してくれたようだ。


「そうですね。お会いになるのであれば、それなりの準備は必要ですものね」

 そう言って頷き、レオーネに視線を送るジゼル。それを受け取ったレオーネも首肯した。



 窓の外に広がる青空を見る。


 ……なんの根拠も無いけれど、おそらくお父様は、私を捕らえるようなことはしないと思う。

 そう、今までのように。


 お父様が本気で私を連れ戻すつもりなら、私は外を自由に歩くことはできなかっただろうし、とっくに発見され、捕らえられていたことだろう。

 我が国の騎士団は、優秀なのだから。


 けれど、城を出たあの日から今まで、私は外の世界で生き続けられている。

 だから、根拠が無くとも言い切れる。お父様に会っても問題は無いと。


 むしろ私は、お父様に会話を拒否されてしまうことの方が怖い。

 顔を見せるだけでは駄目なんだ。


 私には、聞きたいことがあるのだから。

今日から28日まで、毎日投稿していく予定です。

読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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