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ろくろっ首

ようやっと4人目

静流先輩と梨子先輩に許可をもらい、明日を思い遠い目になりながら授業を終えて、机にクラス日誌を広げ書こうとしたところに森木さんが『明日よろしくね!』と声をかけてきた。もう帰るらしい。バイバイと言いながらパタパタと駆ける後ろ姿を見送り、机に向き直った。


うちのクラス日誌は他のクラスと違って結構手が込まれている。なぜなら、棗先生が『ポイント制』を設けたのだ。日直である生徒がサボらないよう、また少しでも楽しんでもらえるよう、その日のクラス日誌に先生がポイントを付ける。そうしていって、学年末に1番ポイントが高かった人になにかご褒美をあげるんだとか。焼肉食べ放題やら1年学食タダ券とか何でもいいと大盤振る舞いだ。だからみんな少しでもポイントをもらえるように色んな工夫を凝らす。でも内容はもちろん学校に関すること限定で。

そういうのが苦手な子もいるけど、真面目に書けばちゃんとポイントをくれるみたいだから、そこらへんはちゃんとしてるなーって関心する。ちなみに今日の日誌には、『お昼に立川美晴と屋上に行きました。まだ6月に入ったばかりだというのに、日差しが強くて、日焼けに気をつけなければいけない時期になるなと思いました。先生は、色黒よりも色白で、小柄で20代半ばでも可愛らしい人が好きだと思うのですが、そんな方のために肌が焼けないように屋上にパラソルを設置してみてはいかがでしょう。是非とも職員会議でのご提案をお願いします。』と書いておいた。ポイントは期待してない。


日誌を書き終え、職員室に向かった。職員室は役員棟にあるが、これまた本舎の各階と繋がっているので不便はない。特別棟と役員棟も2階で繋がってるし。

2階にある職員室で棗先生に日誌を渡し、立ち去ろうとしたが、それよりも前に棗先生に捕まってしまった。


「森木が弓道部を見学したいとか言ってたらしいが…。」


情報早いね。


「はい。明日見学に来ることになりました。入部出来るかどうかは先輩方が決めますが。」

「そうか…。もし入部することになったら面倒見てやってな?」


いくら下の名前で呼ばれてちょいちょい迷惑だと思っていても、やっぱり気にはなるらしい。まぁ5月も半ばに登校し始めたからね。クラスで浮かないようにと気をつけなきゃね。


「わかりました。先生も頑張ってくださいね。」


そう返しておいた。何を頑張るのかわからない先生は訝しんでるけど、日誌を見れば気づくと思う。そして挨拶をした後に目に入った人物に突進してった。


実里(みのり)先生!」

「あら、咲倉さん。今日は部活じゃないの?」

「今日はお休みの日なんです。この間また面白い歴史の本見つけたんです!今度持ってきますね。」

「本当?嬉しいわぁ。私も新作見つけたら咲倉さんに知らせるわね。」


実里あゆみ先生は日本史の先生。日本史だいすき!なわたしにとっては誰よりも尊敬する先生だ。いつもぽわぽわしてる小動物みたいな先生だけど、怒らせるとめっちゃ怖いらしい。歴史の本を貸し借りするまでの間柄になったわたしは想像も出来ないけど。

そして棗先生の片思いの相手でもある。今までも結構アピールしてるっぽいんだけど、激にぶちんな実里先生は全く気付かずという不憫さ。泣けるわ~。

この情報は弓道部の絵美歌先輩から。絵美歌先輩は恋愛に関して『だけ』情報通だ。どっから仕入れてくるんだと言いたくなるほど人の恋話に詳しい。ちなみに、サッカー部のキャプテンは卓球部の女子マネと付き合ってるんだとか。なぜセオリー通り自分のとこの女子マネと付き合わんのだ!と思ったら、その女子マネは将棋同好会の部長と付き合ってるんだって。しかも最近はバスケ部の女子マネがバイで、男バスと女バスの両方から彼氏(彼女?)が欲しいらしく画策してるらしい。…どっちかにしとけ!


棗先生の羨ましそうな視線を華麗にスルーし、実里先生と一通り話したあとようやく図書室に向かうことにした。

図書室は特別棟の1階半分以上の広さを持つため、閲覧スペースと勉強スペースが仕切られている。家では集中出来ないわたしのような人間にはうってつけの場所だ。

図書室に向かうために役員棟の階段を降りていたわたしはまたしても見たくなかったものを見てしまうはめになった。


階段の踊り場を曲がって、1階の廊下が見えた瞬間。女子生徒と男子生徒がぶつかった。幸い、男子生徒が支えたため、女子生徒が転ぶことはなかったが、前も見ずに突進してきた女子生徒を男子生徒が注意をした。その時。


「なんなんですかいきなり!偉そうなこと言わないで!!」


と平手打ちをかました。えぇーーって思っている間に女子生徒―森木華鈴―は走って去っていってしまった。

頬を押さえて、森木さんが立ち去った方向を眺めていた男子生徒の顔が歪んだのを見てしまったわたしは慌てて駆け寄った。


「生徒会長、大丈夫ですか?」


殴られた生徒会長こと、漆木龍(うるしぎりゅう)先輩は歪んだ顔そのままに振り向き、


「……だいじょうぶだ」


大丈夫そうじゃねぇーーと突っ込みたくなる返事をした。


「ちょっと見せてください……あー引っかき傷が出来てますね。保健室行きましょう。」


そういって先に歩き出す。1人にしたら恐らく手当てをしないだろうし。

保健室にはちゃんと杏望先生がいたので、とりあえず杏望先生に会長を任せて一端廊下に出て電話をかける。


「もしもし、樹里ちゃん?舞です。ちょっとお願いがあるんだけど…」


通話を終えて保健室に戻ると、手当てを終えた会長が肩を落としていた。おれの言い方が…とか、気を悪くさせてしまった…とか、やっぱりおれには生徒会長なんて…とかぶつくさ言ってる。正直に言おう。めんどくさーい!!だから声は掛けずにおとなしく彼女の登場を待つことにした。

ものの5分と経たずにやってきた鏑木樹里ちゃんは保健室のドアをバターン!と開け、


「龍さま!大丈夫ですの!?」


と会長に駆け寄って具合をみる。


「舞さんから連絡を受けて慌てて来たんです…。どうして龍さまがこんな目に…。龍さま、傷が治るまで私がついてますからね。龍さまがご無事で本当に良かった…」

「樹里…。おれはやっぱりダメなやつだ。女子生徒1人まともに相手できない。おれのせいで女子生徒を傷つけてしまった。おれは…おれはっ…」

「龍さまはダメな方なんかじゃありませんわよ?とても立派なお方。ちょっと言葉足らずだっただけなのかもしれませんわ。お家に帰ってどうすれば良かったか、私と一緒に考えましょう。」


おーい。ここにはわたしと杏望先生がいますよー。2人のザ・ワールドじゃありませんよぉ。戻っておいでー。と思ったら気づいたらしい樹里ちゃんが、


「舞さん、知らせてくれてありがとうございました。このお礼はまた後日に。今日はこれで失礼させていただきますね。」

「お礼なんていいよー。それよりちゃんと復活させてね?会長サマが腑抜けたままだと生徒会まわんないからさ。さっき泣き出しそうになってたし。」

「はい。龍さまのことはお任せください。ではまた。」


樹里ちゃんは会長を回収して帰って行った。

鏑木樹里ちゃんは、生徒会長の婚約者だ。しかも家同士が決めたとかじゃなくて相思相愛のカップル。樹里ちゃんはまだ中学3年生だけど、会長よりよっぽどしっかりしたお嬢さんだ。

生徒会長は見た目はワイルド系のイケメンで、立ち振舞いも威圧感があるけど、中身はヘタレ以上のネガティブ男だ。ちょっと失敗するとすぐおれなんか…っていう面倒くさい男。それを樹里ちゃんが引っ張って持ち上げてなんとか外側の体面を保っている。わたしには出来ないけど、樹里ちゃんはそれを苦もなくやっているのだ。会長が好きで大切だから。会長にはもったいないなぁ。

ちなみに樹里ちゃんとわたしはお稽古で一緒になって仲良くなりました。茶道をおかあさんがやらせたがって、通った家元のところのお嬢さんだったのだ。歳が1つしか変わらないというのもあってすぐ仲良くなって、婚約者の(つまり会長の)ノロケ話を散々聞かされました。その話のイメージと外見が伴わすぎて最初は信じられなかったけど。


会長たちが帰ったので、わたしも図書室に向かおうしたのだが、杏望先生がお茶を淹れてくれるとのことだったのでお言葉に甘えてみた。だって疲れちゃったんだもん。

次は保健医のターン

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