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②干し椎茸

ようやくです。お待たせしました……!

新学期2日目。

恐る恐る教室に入ってみると、そこにはなんと……!!

いつも通りの風景だった。

昨日の奇妙な状態は起こっておらず、普通にみんなで夏休みの出来事について話している。

よかったーー。まじで安心したわ。今日も男子らが森木さんに群がってたらどーしよーかと思った。なんもする気ないけどね。


昨日の一件についてわたしなりに考えてみた。

だって誰がどう考えたっておかしい。

うちのクラスの男共のことも、生徒会長・栗坂先輩・榊先輩のことも(下敷きにしちゃったので先輩扱い)。中心にいるのは森木さんだ。

でも、彼女が望んでやったことなのか、それ以上にどうやったのかがわからない。色々な可能性を捻くり出してみたけど、男子に囲まれてるときは戸惑ってたし、先輩方と昨日は接触してないはず。そしたら望んでたことじゃないってことだよね?だったら誰がこんなこと……

とまぁ、ぐるぐるした結果、わからない!という結論に達した。

仕方ないじゃないか!わたしはただのへーへーぼんぼんなじょしこーせーだ。こういうのは頭のいい人に任せるに限る!

今のとこ何かしらの実害があったわけじゃないから放っておいても大丈夫だと思うし。

ただ1つ気がかりなのが……


ブーブー

んあ?メールだ。しかも杏望先生から。

『放課後、保健室まで来てください。渡したいものがあります。』

なんだろ?まぁ部活は明日からだから別にいいけど。

すぐに了承のメールを出す。そういえば杏望先生とメールするのは初めてだなぁ。特に用も無いしね。


その後は実力テストを受けて(休み明け初っぱなからですよ。鬼ですか)、午前中が終わる。うぅ、お腹すいた…。さっさと先生の用事を済ませてもらって帰ろう。なんかお菓子持ってくればよかったなぁ。


ギュルギュル鳴るお腹を押さえながら保健室を開ければ、そこには顔色真っ青で蹲る杏望先生がいた。


「先生!?大丈夫ですか!?」

「…まい?あぁ、やっと……」


慌てて駆け寄ってみれば汗をかきながら話す先生。これヤベーんじゃないか。とりあえず他の先生を呼びに行こうと立ち上がろうとするのを、先生自身の手で止められる。

次の瞬間、わたしは杏望先生に抱き締められていた。

うぉい!離せや!って思ったけど、そんなこと言ってる場合じゃないぐらい先生は震えていた。


「あの、今誰か呼んでくるので、離してくれると……」

「…このままで……」


その時間はほんの数秒か、何十分だったのかはわからない。でも、まるでしがみつくようにしてくる先生の背を擦ってあげたわたしは偉いと思う。

しばらくすると、ふか~いため息を吐いて開放してくれた。その顔色はさっきよりも余程良くなっていて、安心した。


「…いきなりすみませんでした。もう良くなったので大丈夫です。」

「ならいいんですけど…。ちゃんとお医者さんに行った方がいいですよ?」

「ええ。そうします。」


立ち上がった先生に倣って立つと、イスを勧められる。え、帰りますけど。


「本当にもう大丈夫ですから。あなたに渡したいものがあるので呼び出したんです。とりあえず座って下さい。」


本当は帰りたかったけどそこまで言われちゃ仕方ない。なんでしょうか?


「他の皆さんには夏休み中に渡せたんですけど、舞は風邪を引いたと守杏さんに聞きましたから。なら今日渡そうと思いまして。」


そう言って先生が出してきたのは、『矢筒』だった。その名の通り、『矢』を入れる『筒』。今までは弓を引く練習も少ししかしてなかったから、静流先輩が、本格的に引くようになったら矢と矢筒を揃えようって話をしてたんだ。

それがまさか杏望先生が用意してくれるなんて!しかもちゃんと学校名と名前まで入ってる!


「先生、これ…」

「あなたたち1年生ももう弓を引く練習が始まりますからね。顧問ではないですが、教えてる立場としてはこんなこともしてみたかったんです。学校のを借りてるだけだと味気ないでしょうし。使ってくれますか?」


もちろんですとも!

こんな嬉しいプレゼントはない。みんなと同じものを持つ。これって意外と重要だと思うんだよね。なんかチームって感じがする!

嬉しくってほくほくしてると、先生は急に真面目な顔になって頭を下げてきた。


「昨日はすみませんでした。あなたも階段を落ちたのに追い出すような真似を…。保健医として失格です。」

「いえいえいえいえ!わたしなら全っ然大丈夫でしたから!榊先輩をクッションにしちゃったし。杏望先生が気にすることじゃないです!」

「ですが……」

「本当ですって!それよかわたしは先生の方が心配ですよ。さっきもすごい具合悪そうだったし、もしや昨日も良くなかったんじゃないですか?無理しないでくださいね。」

「…………はい。ありがとうございます。」


ようやく納得してくれたみたいだ。よかった。

それに先生の顔色もだいぶ良い。なんか"いつも通り"って感じがした。


それから夏休みにやった部活の話とかをして帰らせてもらった。お腹が限界をむかえてる。まぁ、茶菓子をちゃっかり貰いましたけど。ぐふ。


さぁーーて、矢筒を部室に置いて帰ろう。

本当は家に持っていって家族に自慢したいんだけどね。明日から使うから置いていこう。


職員室で弓道場の鍵を借りて向かうと、人影があった。

あれは―――――




彼女が帰り、静まり返った部屋で男は呟く。


「私を治したのはあなたですよ。舞……。」




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