牛脂
すんません。昨日は残業しすぎて力尽きました…。
「咲倉舞さん?ちょっと時間いいかしら。」
という問いかけに対して全くもって良くはないが、一応話だけは聞くことにしておいた。でも、体育館裏とか校舎裏とかじゃぁありません。普通に廊下ですよ。
「わたしに何か用事ですか?」
「えぇ、その……あなた、森木華鈴さんと同じクラスよね?さっき名簿見て気づいたの。」
おやや?わたし的だと、『榊クンに近づくんじゃないわよ!』って言われるもんだと思ってた。いや、近づいてないけどね?恋する女の子は盲目だって言うじゃない?
それがなにゆえ森木さんのことなんだ?
「はぁ、そうですけど…」
「森木華鈴さんとは仲が良いのかしら?」
「いやぁ、クラスメイトですけど、あんまり話したことはないんですけど…」
「そうなのね…。」
それっきり考えこんでしまった先輩方。ちなみに、3人いますが、みんな2年生だ。うちの学校は学年で制服のリボンやネクタイの差し色が違うからわかる。ちなみに近隣校の中ではダントツ1番でかわいい制服なのだ。エッヘン。
まぁ、それはおいといて。
さっきまで喋ってた人とは違う人が今度は話した。
「森木さんって、クラスではどんな感じ?」
「……どういう意味ですか?」
「例えば……すんごい情報網だとか、千里眼を持ってるとかかなぁ?」
かなぁ?って聞かれても困る。なにが知りたいんだ。
「正直に言うとね、彼女の行動がおかしい気がするの。全部知ってる訳ではないのだけど、どうやら太一クンや棗先生、最近では杏望先生と守杏くんにも近づいているようなの。それがなんというか……変なのよ。」
いつの間に森木さんは榊太一と親しくなっていたのだろう。しかも変って?そんなのうちのクラスの子ならみんな知ってると思うけど。
「彼らの行動を『先回り』してるの。後から偶然を装って近づくならわかるけど、彼らが行く場所に先に来ているのよ。それも2、3回じゃないわ。全員に確認した訳じゃないから、何とも言えないんだけどね。でもそれで太一クンが『ボクは彼女を無意識にストーカーしてるのかも!?』って言って騒いでるし……。彼、ああ見えて繊細だから。
心配になって、棗先生や静流さんにも聞いてみたら、そういえばって言ってたし。杏望先生は保健室から基本出ないからわからないんだけど。これっておかしいと思わない?」
う~ん。確かにおかしい気もするけど、GPSとか盗聴機でもつけてなきゃ出来ないんじゃない?あっ、だから千里眼か。
「別にあなたに彼女を見張っててほしいとか言う気はないわ。ただ、クラスメイトなら何か知ってるんじゃないかと思っただけなの。ごめんなさいね、こんなことで時間を取らせて。」
「いえ、それはいいんですけど…。でもどうして先輩方が?」
「恥ずかしい話だけどね、私たち、太一クンや守杏くんのことが好きなの。でもだからって近づく女子たちをいじめたりしないわよ?それじゃぁただの悪役でしょう?私たちは私たちで好きな人の役に立ちたいだけなの。まだ何も出来てないけど。」
そんなことありません!十分ですよ!ってかかーわーいーいー!!恋する女の子はすてキングっ!
内心ちょっと悶えて、しかしそれは表面に出さず、『そうですか。何かわかるといいですね。』とだけ言って立ち去った。
えっ?協力?そんなもんするわけないじゃないっすか。なんでわざわざ自分から面倒ごとに首突っ込まなきゃいけないんだ。
でも森木さんの行動はやっぱり気になるからたまに注意したりはしよう。うん。
あとは副会長だなぁ。まさかそんなことに巻き込まれていたなんて。そういえば、この間の日曜日もあの広いショッピングセンターの中で会ったんだっけ。ちょっと様子とか見れればいいんだけど、月曜日から見てないし。かといってわざわざ呼び出すのもなぁ。
悩みながら歩いていたせいか、誰かにぶつかってしまった。…避けてくれりゃいいのに。
「おや、大丈夫かな?ごめんね、ちょっと考え事してたもんだから。あぁ、キミのかわいい鼻が赤くなってしまったね。こんな罪深いワタシを許してくれるかな?」
どこの舞台役者ですかと言いたくなるような台詞をはいたのは欅田かおる先輩だ。
そこらへんの男に負けないぐらいのイケメンで、理想の王子さまみたいに女の子に優しい。恐らく、学校一モテるはずだ。
スカート履いてるけど。
イケメンでも女は女。勝手に男子制服の着用は認められなかったらしい。それに大層乙女たちはがっかりなさったそうな。
「大丈夫です。」
キッパリハッキリ言って進もうとしたのに、欅田先輩が止めやがった。
「待って。キミが噂の咲倉舞ちゃんだね?」
「なんでわたしの名前…」
「いや、ちょっとね。」
ちょっとってなんだ。榊太一と言い欅田先輩と言い、なんなんだ。肖像権の侵害だ(違う)!!
「うん。かわいいね。みんなが可愛がるのもわかるよ。」
よし!合格!
例え欅田先輩が女の子全員に『かわいい』と言っていようが、お世辞だろうが、『意外と』『普通に』をつけられるよりはマシだ。人間褒めて伸ばそーぜ!って話よ。うん。
あっ、この人なら
「副会長はまだ生徒会室ですか?」
「ワタシのかわいい発言はスルーなんだね…。
うん。今日は早く終わらせるって息巻いてたけど、太一がサボったからその分もやってるよ。ほっとけばいいのにねぇ。」
やっぱりあの男、手伝いと称してサボってやがったか。許すまじ。
「透流に用があった?」
「いえ、用と言う程でもないので、別にいいんですけど、ってなにしてっ…!」
「もしもし透流?仕事は終わりそうかな?……うん、そっか。今ワタシの目の前に咲倉ちゃんがいるんだけど…特別棟と本舎の渡り廊下だよ。」
わたしはいいっていってんのに電話しやがりましたな。『あと3分で着くって』って、早すぎだろ。仕事の邪魔したくなかったのになぁ。
「じゃぁ、ワタシはもう行くけど、透流、疲れてるみたいだから、元気わけてあげてくれるかな。よろしくね。」
そう言っていなくなった欅田先輩と入れ替わるように副会長がやってきた。早いなおい。
「あー、その、すみません。大した用事はなかったんですけど、この時間ならまだいるかなって思って欅田先輩に聞いてみたんです…。お仕事の邪魔しちゃいましたかね。」
「全然そんなことないよ!ちょうど帰る準備してたところだったし。それより、舞から僕に会いに来ようなんて珍しいね?」
「いやぁ、やっぱり直接会ってお礼言いたかったですし。このヘアピン、すごく気に入ってます。ありがとうございました。」
「ううん。本当はもっと気のきいたものあげたかったんだけど、それ見たときに絶対舞に似合う!と思ったんだ。気に入ってもらえたんなら良かったよ。……舞の黒髪に良く似合ってる。」
そう言ってヘアピンに触れたあと髪を鋤かれた。指通りがいいのはわたしの日々の手入れが良いからです。
「……ずっと触っていたくなるな…。」
「えっ?」
「いや、なんでもない。帰ろっか。送るよ。」
よく聞こえなかったけど、やっぱり疲れているんだろうか。
家まで送ってくれなくてもいいと言ったのだが、それこそ却下されてしまった。人が気遣ってんのにぃ。意外と強情だな。
「副会長、最近困ったこととかおかしなことないですか?」
帰ってる道中にいきなり聞いてみた。なんて切り出せばいいかわからなかったし。
「?特にはないけど…どうしたの急に。」
「いえ、ないならいいんです。」
ないのか。いや、副会長なら気づいてない可能性の方が高いな。うん。これからはちゃんと様子を見なくちゃ。
「あれ?」
「副会長?どうしたんですか?」
「うん、なんか誰かに見られてるような気がして…気のせいかな。」
急に振り返るから何かと思えば、はっ!まさか森木さんが?でも彼女は千里眼(仮)の持ち主だから違うか。ほんとに気のせいならいいんだけど、副会長はイケメンさんなのに天然だからな~。なーんか危なっかしいんだよねぇ。
家まで送ってもらい、去り際に注意を促しといた。
「副会長!ストーカーとか、本当に気を付けて下さいねっ!」
「それ僕のセリフじゃ…」
そんなことありません!
どうしよう…書けば書くほど私の最初の透流くんじゃなくなる…。




