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オカルトな彼女

(人物紹介)

東京の大学に無事合格。人以外のモノが見える 秋月海

ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?  ミソカとツゴモリ

能力は高いが見えなかった祖父        秋月コウジロウ

今回登場、いきなりナンパ?してきた女    春野美津子



 俺は東京での「夏休み」もとい「夏期講習」を終えて実家に戻った。


 当然、俺の式神となったミソカとツゴモリも一緒だった。

 その事を早速じいちゃんに話したら、軽率だと叱られた。

 学校以外は自室謹慎の上、ミソカ達は式神扱いではなく、協力者として扱うようにと言われてしまった。

 じいちゃんは俺にそれ以上何も言わないが、一年前の事件が俺に厳しくする理由なんだろうと思う。

 一年前の高校一年の夏、俺は一ヶ月程原因不明の高熱を出し入院した。

 あれは「原因不明」なんかじゃなかったし…、そのせいで、地元の大学への受験を諦め東京へ出る事となったのだけど…。

 この事件については、後日この当事者が俺の前に現れるので、その時にしよう。


 それから俺は、高校三年の夏も、今度は何事も無く東京で過ごして、無事に受験を終えた。


 今は、大学一年になる冬の終わりの三月末日。

 正式に東京へ上京した。

 やっと、これで今はもう完成したメゾンへ晴れて入居出来る訳だ。


 この日、引越をあと二日後に控え俺は、用事でいつもと違う私鉄の駅へ出て来ていた。

 朝、駅に向かう人たちで混雑する交差点で、俺は信号が青に変わり皆について歩き出した所、

「ちょっと、君。待って」と

 後ろから女に呼び止められた。

 何人かが俺と同じように振り返っていた。

 二十代半ばの白のニットを着た女がじっとこちらを見ていた。

 どうやら、声の主は彼女で、用事があるのは俺のようだった。

「は?俺ですか?」

 と俺は言った。

 女は何も言わずにただこっちを見ていた。

 正確には俺の頭より少し上を見ていたのだが、

「何か?」

 と俺が言うと彼女は視線を俺に戻した。

「え…っと、あのね。君は…」

 と呼び止めた時とは違って返事にもたついていた。

「……その…」


「と、あのさぁ。こっちへ…信号が変わってしまう」

 と俺はその女の腕を引いて信号を渡りきった所で手を離し、そのまま人混みの少ない所まで歩いた。

「で、何ですか?」

 と再度聞く

「何かの勧誘とかだったら無駄ですよ」

 と続ける。

「ち、違います。私は普通のOLです」

「じゃあ、何?教材とか映画のチケ?でないなら…」

「あの、いきなり変な事を聞くけど、それ何?」

「はぁ?」

 と彼女が指差した方を見るが何もない。

「別に何もないですけど、あなたには何か見えるの?」

「う、いえ、別に…何も」

 とうろたえた。

「あ、勘違いだったわ。いいえ。人違いね!ごめんねー。会社行かなきゃ!」

 と彼女はさっきの交差点の方に走って行って人混みに紛れた。


「…人違いねぇ…」


 俺は駅の裏手の高架下にある不動産屋に入った。

 いろいろな手続きをしてから駅前に戻り、駅前の本屋に入った。

 週刊誌のある棚からクルッと本棚をはさんだ形で店を一周して外に出る。

 そして、また駅前の交差点に向かい振り返り、

「ちょっと、そこのお姉さん。何の用?」

 と言った。


 俺の視線の先には、さっきの女がいた。

 不動産屋を出る時に気が付いたのだが、あそこに俺は一時間近くいたはずだ。

 その後、本屋にもついてきた。

 俺がきつい言い方で声をかけたのに彼女は逃げなかった。

 ごく普通の女なのに、何があるというのだろう?

「さっき、会社に行くって言ってたよね?」

 と俺は語気を和らげて言ってみた。

「会社には有給届けを出して、今日は休みを…」

「……あのさ、それで?休んだりして…俺に何が…」

 とここまで言った時、

「だから、ここじゃ。見つかっちゃうから、あの」

「……」

「あの、時間があればお昼おごるから、移動しない?どうしても君に聞いて欲しい話があるの」

 最初の「あの」以外がほぼ強制的な言い方だった。

 ってか、「腹はくくった!」って感じだった。

 俺は仕方なく…急ぐ用事も無かったので、

「ご飯だけなら。何か変な風だったら、即逃げますけど…」

 と2人は駅前から移動した。


 彼女は駅から坂を少し上がった隠れ家風の和食の店に行こうと言った。

 店はランチが十一時からだったので列に並んで待つ事になった。

 その間、彼女は俺に大学生?と聞いた後で、自分の会社がここから近いけど今なら誰も出ていないしとか、自分の家は駅の向こう側にあるとか、会社の上司がうるさいのとか話した。

 それは俺を安心させる為に言っているのはわかる。

 十一時少し前に店が開いた。

 入る前に、そんな世間話以外の話が本題となるのならと、俺から探りを入れてみた。

「さっき、俺の後ろに何かって言ってましたよね?それが用事なんですか?」と。

「…えっと…」

 彼女は明らかに狼狽していた。

「…それで、どうしたいの?」

 と俺が聞いた時、

「お二人さまの春野さま」

 と店員が俺達を呼んだ。




 彼女がこの店を選んだのはここが落ち着いた感じでゆっくり話が出来るのと、個室があったからだった。

 学生の俺には落ち着くというより、変に緊張する空間になっていたが、俺には値段が高いなと思えるランチを二人は頼んだ。

 彼女には食前酒が付いてきた。


 それを口にしながら春野は切り出した。

「呼び止めて、ご飯なんかに誘ってごめんなさい」

「いえ…」

「ついて来てくれてありがとう」

「それで?話ってなんですか?」

「それはね…。変な事を言う女だって思わないでほしいんだけど…」

 こんな事をしておいて、十分、変な女じゃないか。と思った。が、

「用はなんです?」

「それは…。やっぱり、あなたの後ろに何か見えるのよ」

「……」

「そ、それでね…」

 と言った所で、ランチが運ばれてきた。

「あ、食べながら話しましょ。はい」

 と彼女は俺に箸を差し出した。

「箸は…ここに付いてますけど…」

 ランチは何とか花見弁当という名前がついていて、弁当の前に箸が置いてあった。


 彼女がその後そこで話したのは、こうだった。

 俺の後ろに何か見えるのだけれど、それが何かわからないという事と、そういうのは高校時代から見えていたけど、君のは、はっきりと見えているから、君に何か起きるのじゃないかと思わず声をかけてしまった。と。

 それから、最近、自分も頭が重いのだと言った。


「そりゃ、重いでしょう。何か憑いてるのそっちですから…」

 と、俺は言いたかった。



「まったく…」

 俺の荷物が届くのは明後日、明日には親父もやってくる。

 それまでにいろいろと買い物を済ませないといけなかった。

 俺は彼女と別れた後、近くのホームセンターと家電屋へ行って買い物を急いで済ませた。

 本当は明日行くつもりだった区役所への届けも済まし、俺は、昨日から泊まっている駅前のホテルに戻った。

 戻って荷物を置き、すぐまたホテルを出る。

 歩きながら、彼女、春野へ電話をかけた。

 もう夕方になっていた。


 朝、交差点で「何かが憑いている」と思ったのは俺も同じだった。

 だから、無視をせず、手を引いて交差点を渡らせた。

 アレで簡単なモノは消える。

 彼女が寄せ付ける体質なのでそういうのが寄ってくるのは仕方ない。

 それだけならそれで終わりなんだが、彼女が言った「頭が重い」のはまだ憑いていた。

 別にそこまで気にする事は無い類に俺には見えたが、一応ミソカに相談をして、電話をかけていた。

 俺はランチの後で、

「その手の話に詳しいのがいるから、聞いておくので俺の用事が終わったら電話をするから、また後で会いませんか?」

 と言ったのだ。

 これには、彼女の方が驚いたようだった。

「バカな話だって言わないのね。やっぱり君も何かあるんだね」

 と何となく嬉しそうに言ったのだった。

 この手の話をちゃんと聞いてくれるのは少ないからだろう。


 だけど、俺が気になったのはそこでは無かった。

 そう、俺は今日、あの鈴は持っていなかったのだ。

 それなのに俺の背後に何かいるとは…。

 それは俺には見えないもの?

 いや、見ようとしていないのかもしれない。

 何もわからなかった。


 それに気がついた彼女に俺は興味を持ったのだった。

 でも、それは春野が俺の後をつけて来なければ、もう会う事もない二人だったのだけれど…。



 夕方の駅前は朝と同じように混雑していた。

 不動産屋の前にある喫茶店に行こうか?と春野が言う。

 そこは、彼女が俺を見張っていたあの喫茶店だった。

「それじゃ、少し聞きますね」

 と俺はいかにも人に聞いてきた風に手帳を出して質問をした。

「頭が重いのはいつから?」

「今年に入ってからかな?」

「その頃どこかに行きましたか?」

「さぁ、普通に正月だったから、初詣には行ったわよ」

「他に変わった事は?」

「さぁ…、先月、財布を落としたわ。出てきたけど。アレは大変だった。カードとか色々と止めてもらったから…」

 と彼女の話は続いている。


 俺は携帯がかかってきたふりをした。

「どうですか?」

「別に問題はなさそうなんだけど…」

 とミソカが俺の横で答える

「何?」

「女の霊なんだけど…ね…」

 とミソカ

「なんだよ。はっきりしないなぁ…」

「この人さ。男運が悪いみたいで…それで…」

「は?それで?」

「同じように男運が無かった女が仲間意識持っちゃって、離れたがらないの」

「それだけ?…で、どう…。ソレって、どうしたらいい?」


「彼氏でも紹介してあげれば、離れていくわよ」

「か…彼氏…」


 彼氏を紹介する? 

 そんなの俺にどうしろって…。

「どうしたの?」

 俺が思案にくれてしまったのに気がついた春野が心配そうに聞いてくる。

「えっと…ですねぇ…春野さんて彼氏いる?」

「ええ?なんでそんな事聞くの?」

 俺はこういう問題には疎いんだ。

 俺自身彼女いない暦十八年だというのに…いや、紹介するのは男なんだから…。

 紹介出来るような親戚や友人は……。

 と考えていると、携帯が鳴った。

 助かった。

「秋月、お前、合格したんだってな。ならまたバイトしないか?」

「せ、先輩!先輩って…彼女いましたっけ?」

「へ?何?居ないけど…」

 俺はこの昨年夏にも短期バイトしていた先の先輩と春野を引き合わせる段取りをする事になる。


「何で彼氏を紹介するって事になったの?」

 と言う春野に俺は

「春野さんに憑いてたのは、女の人で、男嫌いだからだそうです」

 と俺が答える。

「…そっか…それで彼氏が出来なかったのね」

 と春野は妙に納得したようだった。



 これが、この先色々な問題を起こす春野との出会いだった。



 

 ミソカが見たところ、その女の霊は何もしていない。

 霊がいるから彼氏が出来ないって言うのでも無くて、

 二人が付き合っても付き合わなくても問題は無さそうだ。

 そう、俺が春野と居れば自然に離れていくそんな感じだった。


「それじゃ、無理して二人を合わせなくても俺がいれば十分じゃん」

 と言うと

「何?まだあの女に連絡取るわけ?それで、カイが付き合うの?」

 とミソカ

「え、付き合うって…そんな事思っていないって」

「ホント?」

「本当。だけど…。彼女とはこれだけじゃ終わらない気がする」

「カイ。ポテトのL、二つ買って!」

「二つ?」

「コーラも!」

「コーラまで?」

「今日の見積り代よ」

「…了解」


「なぁ、ミソカ。お前以外…俺に何か憑いてるか?」

「…ううん。いないよ」

「そうか」


 春野さんの見間違いだったのだろうか?

 彼女には視る能力は無い。

 ただ霊に好かれやすいだけ…。


 そう、二~三人、背負っちゃっている人はたまにいるのだ。

 生きていればそんな事もある。

 俺も例外ではないんだと思っておこう。



 

      おわり




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