第7感
(人物紹介)
人以外のモノが見える大学2年 秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪? ミソカとツゴモリ
視えないが力は強かった祖父 秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女 春野美津子
高校の同級生 大学も同じ 大川孝之
高校の同級生 カイが好きらしい… 三沢結花
予知というものがある。
俺はそれは出来ない。
じいちゃんはそれが出来たのではないかと思う。
たまにオカルト関係の依頼で「未来を視て下さい」と言われるが、
それが出来たら俺はここに居ません。
と答えていたが、本当にそうだ。
そう未来は見えない。
だから生きていけるんじゃないか。
明日死ぬとわかってしまってもそれ以前と同じ生活がおくれる人はいないでしょ?
死にたがっている人なら変わらないかもしれないけどさ…。
「あなたには未来がありません」
そんなのが出てしまうのが怖くて視ないようにしているだけなのかもしれない…。
だからそんな風に迷う人を正しい道に導くのが法なのだから、
人は法に従っていれば良いのだと思う。
春野の友人の妹が殺された。
恋人とのドライブ中、ふとした事で口論になり絞殺された。
当時未成年だったのと、彼を罵倒する彼女の姿の目撃者と新しい彼氏の出現などで、
二転三転した裁判は長引いていた。
これは2年以上前の事だ。
まだ裁判中でその犯人の後に妹が見えるのだと
友人が言うので俺達は裁判所へ向かった。
彼は冤罪なのか?
動機は何だったのか?
彼は真犯人だと俺は思う。
人を殺すなら自分も死ぬ覚悟がなければ殺してはならない。
そうでなければ…後悔の念に絡まれた霊は存在しないはずだ。
裁判所からの帰路
「春野さん。俺はこの事件に関して何も言わないよ」
珍しく、さん付けで呼ばれた春野美津子はドキっとした。
カイがそういう言い方をする時は、依頼通りに動けない時だったから…。
「どういう事なの?もう依頼は受けちゃったじゃない」
と、わざとごねてみた。
「妹さんは俺に何も言ってこないからさ…」
「それじゃ、未練があって出てきているわけじゃないのね」
「そう…理不尽だと思うのは、それは人だからさ。生きているから…」
「何が見えたの?」
「何も…」
春野は最近カイの様子がおかしいと大川と話していた矢先だった。
自分が持ち込んだこの事件でカイを悩ませてしまった事を後悔し始めていた。
おもしろ半分で始めたこの「何でも屋」も、もう1年近くになる。
私と大川が動くごく普通のちょっとした事件とカイが扱うオカルト事件のその「重さ」の違いがはっきりしてきていた。
それなりに解決してきているので、相談件数も増える。
カイの場合は、電話で解決できてしまう物はその場で答えを出してしまっているので相談件数は多くても解決して来ているものは月に1件くらいだったが、中には今回のように動きたくても動けない物もあった。
「寝た子を起こす」
「火に油を注ぐ」
「火を以て火を救う」
その辺りか…もっと酷いか…。
春野はそれでもこの問題は解決しないといけないような気がしていた。
「秋月幸次郎さんですか?いつもお世話になっています。春野美津子です」
春野は幸次郎に電話をかけた。
「こちらこそ、いつも孫を助けてくれてありがとう」
「いいえ、いいえ。私は助けてなどいません」
「春野さんがおるから、あの子はそこで元気にやっていられるんだと思うぞ」
「私なんか、出会った時から問題ばかりで…」
「それが、あの子には必要な経験なんだ。色々知って色々悩むのが青春だろう」
「でも、最近カイくんの様子が…」
「人間不信になっているようだの」
ああ、そうか。
カイは人の醜い部分を見過ぎたんだ。
「そ、そんな時はどうすれば…?」
「あんたたちが傍にいれば立ち直るよ」
私と大川は「商店街の福引で当たった」と嘘をついて旅行を計画した。
行き先は横浜。
日帰りで行ける場所だけど1泊にした。
外人墓地とレンガ倉庫、大桟橋の観光コースそして、中華街。
夜は中華、食べ放題のバイキング。
「紹興酒はねぇ…」
と春野が機嫌良さげに言う。
「最初は砂糖入れると良いんだよー」
「砂糖を入れたって、僕らは飲めないから、ハルノ」
春野はざるとまではいかなくても普通に強かった。
「まったく役に立たないんだから…」
食べすぎでベッドで唸る2人を見て春野が呟く
カイは食べすぎなのに、額にタオルを乗せて冷やしている。
ここ1年の付き合いで春野には、彼がこうして頭が痛いと言っている時は何らかの能力を不用意に使った後か、気がかりな事がある場合に起きるのはわかっていた。
「…役に立たない?」
やがて、いびきをかいて眠てしまった大川をみて
「いつもと違う所へ連れて来ればって、俺が絶対聞き出してやるって言ってたの」
と春野は言った。
「すみません。気を使わせてしまって…」
「いいのよ。カイくんの事件。私たちのより重いんだもの。塞ぐ時もあるわよね」
重い?重くなんかないよ。
それは人がそう判断するだけ…。
「ありがとう。春野さん」
春野はカイの表情を読んでいた。
カイは普通の人が言いにくい、謝罪や感謝の言葉は口に出来るくせに肝心の悩み事は言ってこない。
「カイくん。私はね。謝ってもらう為にこんな事したんじゃないのよ」
そう言って春野はツインのベッドの方にイスを向けて座った。
「今度の事は私が持ち込んだ事件。しかも殺人事件っていう重大事件なの」
「…はい」
「だからね。そこの学校に何かが出るとか、真夜中の最終列車とか、コックリさんをやったとか、そういう事件じゃないの。だから、ちゃんと皆が上手くいくようになんて解決しようなんて思わなくていいのよ。変な答えでもいいの。それが妹さんの本当ならそれでいいのよ」
「春野さん…」
カイが天井を見つめたまま春野に問いかけた。
「春野さんは俺をどう思っていますか?」
「どうって…」
いつもの雰囲気なら「好きよ」と言える所だが、春野は思わず聞き返していた。
「そうだな、好きとか嫌いじゃなくて、俺が怖くないですか?」
「怖い?カイくんを私が怖がるの?」
「そう…」
「怖くないわよ」
「ですか…」
「大川くんもきっとそう言うわよ」
「…大川に俺をどう思っているなんて聞きたくないなぁ…」
とカイは少し笑った。
「でも、きっと、怖いなんて思っていないわ」
「じゃあ、俺が何をしても信じてもらえます?」
「え?」
「あ、いえ、何を言っても信じてくれる?」
「ええ、もちろんよ」
カイは温まってきたタオルをひっくり返して目に乗せてこう言った。
「あの妹さんは…彼が生き長らえるのを望んでいるんだ」
「生き長らえる?どういう事?」
「2人は多分、本当に愛し合っていた。だけど、ささいな事で喧嘩をして殺した」
「…ええ」
「殺された時に彼女はとても後悔した。彼も激しく動揺して自分も死のうとした。これは事実だ。だけど、彼は死に切れなかった。彼女は彼が死なないように必死に止めた」
「……」
「やがて、彼は捕まり裁判になった。彼女はずっと傍にいて死なないようにしていた」
「じゃあ、反省の言葉は本当だったの?」
「そう。彼は本当に後悔して死でもって償おうとしていた。最初はね」
「最初は?」
「最初の一ヶ月くらいはそう思っていたみたいだけど、弁護人が付いて色々吹き込む内に生きたくなったんだ。だから、その後の証言はとても着色されている。死人に口無しだ」
「じゃあ、偽証なの?」
「残念ながらそこまでの嘘はない。それに、俺達ではそれが嘘だと証明出来ない」
「俺は生きたくなった彼を責めていない。彼女がずっと生きてと願っているのが哀れなだけだ」
「カイくん…」
「うん…?」
「それのどこが、言えない事だったの?」
「だって、そうだろ?家族にどう言えば良いんだ?自分を殺した相手を今も愛しているなんて言っていいのか?」
「良いんだって、それが事実なら。そう言っても」
「…良かないよ…」
「今まで、カイくんは、踏み切りの時も、学校の時も、コックリさんだって、依頼人が傷つかないようにって考えてたよね?それで自分で罪を被ったりもしてたでしょ?でも、それはさ、もう話せない人の思いを、事実を伝えてない事になっちゃってない?」
「……でも、言うと…」
「でも、それでカイくんが段々人間嫌いになったら私が困るもの」
「…人間嫌い……」
「そうよ」
「なってないよ…」
「ねぇ、カイくん。私をどう思ってる?」
と言って春野はカイのタオルを取って上から覗き込んだ。
目の前の春野の顔と髪と胸。
「は、春野…さ…ん」
春野のいきなりの行動にカイは慌てた。
「こ、これは、さっきのお返し…?」
「ふーん。ごまかしたり強がっても無駄だからね。どう思っているのか、ちゃんと答えなさい」
「す、好きですよ…」
カイは真っ赤になり目をそらし答えた。
「目を見て言って欲しかったけど、言えた事で許してあげようかな?」
と春野は抱きついてきた。
「わっ。春野さん。離れて!酔ってますよね?」
「酔ってないわよ。あれくらいで平気よ。気分が良いだけ。お姉さんは嬉しいの」
「やっぱり、酔ってるでしょ?離れて下さい」
やがて、春野はカイのベッドで眠ってしまった。
「やれやれ…」
カイは毛布を出してきて一つを春野に掛けて、自分も包まるとさっきまで春野がいたイスに座った。
「視たままの真実が正しいと言えないんだけどね…」
俺から聞いたこの話を春野は友人にしたという。
その友人がどんな答えを出したか俺にはわからない。
春野とまだ付き合っている所を見ると彼女はそれで納得がいったのだろう。
俺は先を視る事が出来ない。
それは俺自身が先を視るのが怖いからなのだろう。
視たままが正しい訳じゃない。
どれが正しいのかはやはり人それぞれが決める事なのだろう。