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春待草

(人物紹介)

人以外のモノが見える大学1年生        秋月海

ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?   ミソカとツゴモリ

視えないが力は強かった祖父          秋月コウジロウ

いきなりナンパ?してきた霊媒体質女      春野美津子

高校の同級生 大学も同じになる        大川孝之

高校の同級生 海の事が好きらしい       三沢結花

 結花は3年振りにあの日の話を話せた事が嬉しかった。


 あの日の事は、1年の時に謝ってあったし、高校時代、彼らとは、普通の会話が出来ないという訳では無かった。

 だけど、事件の話は自分が話せば話すほどに海に悪い噂を付けるだけだったので、話してはいなかった。


 大川からの電話で海が事件の話をしておきたいと聞いた時、自分はどうすればいいのか、と思った。


 そして、電話を切ってからうかれている自分に気が付いた。


「海くんに会える」


 その日の為に、服や靴を買って、髪もセットして化粧方法まで変えた。

「香水も買ってきたりして、私ってバカみたい…」

 それでも、それだけでも、嬉しかった。


「君を守らせて欲しいんだ」


 あのミソカというカイくんの式神を見せる時に、彼は確かにそう言った。

 その言葉は、あの日を思い出させた。



 小学校の頃、

「私はあんな子何とも思わない」

 同級生が秋月くんを良いと言うのを私は気にもしていなかった。

 気にしていなかったのに、妹の美緒がカイくんを良いと言い出した。

 その所為で私達は塾の帰りが一緒になった。

 ごく普通のおとなしい男の子、別におもしろい所があるわけじゃないのに、皆は何処が良いのだろうと思っていた。

 それでも、彼の行った中学の行事には美緒に付き合わされて良く行っていた。


 中3の時、進学塾の帰りに私の自転車がパンクした事があった。

 もう店もやっていなくて、押して歩いている内に雨が降ってきた。

 傘も無くて、みじめになって寂しくて泣きそうになってた時、彼の家の前を通り過ぎた。

 少し行った所で彼が傘を持って追って来た。


 傘を私に渡して

「自転車、俺が押してくよ。それと、遅いし送っていく」

 と言った。

 その時、初めて彼が私の背を抜かしている事に気が付いた。

 ここ1年以上、こんなに近くで話す事が無かった。

 彼が急に異性に見えた。


「カイくん。背が伸びたね」


「ん、半年で、10cmくらい一気にきたかな。親に筍みたいだって言われた」

 と笑った。

 視線の位置が違うとこんなに違って見えるんだ。


 と、

 別に何とも思っていなかった。

 髪と目の色が少し薄い所も私をドキドキさせた。

 ちょっと低くなった良く通る声も…。

 私はそれからは、ずっと彼の顔が見れずに手だけ見ていた。


 そう、私は彼を好きになった。




 あの事件の日、妹の美緒が彼に助けを求めたのは、彼に霊感があるとかだけの理由じゃない。

 妹が彼を好きで、私も彼を好きだと知っていたから…。


 私を助けられるのは、カイしかいないと美緒は思ったのだ。


「美緒は?」


「危ないから帰らせた」


「今頃は家に電話しているだろう」


「大丈夫だ」


「君を連れてここを出るから」


「俺を信じて待ってて」


 きっと、とてもすごく大事なあの独鈷を渡すのは勇気がいっただろう。

 それでも、泣き出してしまった私の為に残していってくれた。

 泣き出したのは怖かっただけじゃない。


 思いがけなく彼が現れたから…。 

 


「結花、俺を呼んで」


 カイくんは、私の事を結花と呼ぶ、皆は「ゆか」と言うけど、カイくんは「ゆっか」と何となく小さい「っ」が入る感じだった。

 小学校の頃から気付いていたけど、カイくんはあまり人を苗字で呼ばない。

 女子であっても本人がイヤがらない限り名前で呼ぶ事が多かった。

 だから、こちらからもカイくんだった。


 でも、さすがにカイくんも、中学に入ってからは名前で呼んだりするとからかわれたりするので苗字で呼んだりしていたが、それでも呼べる範囲は名前で呼んでいたらしい、その辺りの親しげな所が女子から人気を集めた理由なんだろう。


 高校1年のあの事件の後で、カイくんが入院した病院にお見舞いに行った時、私はなかなか会わせてもらえなかった。

 1度だけおじいさんが病室に入れてくれた時、私は思わず「好きです」と言ってしまった。


 でも、私は事件を起こした当事者で、彼は助けに来てくれたのに、私が色々言った所為で変な噂まで立ってしまっていたから…。


 だから、もう。

 この気持ちはあの病室で言った事で終わり。

 


 そう思っていたのに…。


 また私を守ってくれると言う。


 それは、嬉しかった。


 また会えて話せたのも嬉しかった。

 だけど、もう甘えてはいけない気がした。



 守れられるだけじゃなくて、私にも何か出来る事はないの?


 カイくん。


 その方法を教えて。











「三沢結花をまだ好きだろう?」


 孝之がそう俺に聞いた。



 そう。


 まだ好きだ。

 だけど、それだけだ。


 あの事件で彼女を助けられた事で俺はこの気持ちを留めよう。

 と思っていた。


 もし付き合えたとしても俺は彼女には告白はしない。


 どこかで終止符を打たないといけない。


 俺が好きでいると彼女に危害が及ぶ、俺が一緒にいちゃダメなんだ。




 孝之が俺に彼女が出来るまで自分も作らないと考えている事を俺は快く思っていない。

 だけど、俺も結花に彼氏が出来る事を願っている所がある。


 そうすれば、俺は解放される。



 でも、それで俺は良いのだろうか?



 春野の所に式を残した、狭山誠記。

 あいつの行動が理解できる気がする。


 俺たちは「三鷹」に縛られている。



 俺は15の時の、あいつのあの宣戦布告で「三鷹」を壊そうと決めた。



 だけど、あの頃は俺には何もなかった。

 今は、ミソカやツゴモリ。

 あの我皇までいる。


 けど、これでも、まだ全然足りない。

 力の差が歴然としている。



 俺は強くなりたい。


 それにはどうすればいいのだろう。


 俺自身に足りない物がある。

 あいつにあって、俺に無い物。



 俺は守られていてはいけない気がする。


 俺自身の甘えを取り除く方法を見つけないといけない。


 






 だが、これは俺の驕りでしかない事に俺はまだ気付いていなかった。 






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