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三鷹家の一族

(人物紹介)

人以外のモノが見える大学1年           秋月海

ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?     ミソカとツゴモリ

視えないが力は強かった祖父            秋月コウジロウ

いきなりナンパ?してきた霊媒体質女        春野美津子

高校の同級生 大学も同じになる          大川孝之



 季節が夏に変わり、またあの暑い日を思い出させる時期が来た。


 あれから3年。

 俺たちは再会した。


 俺、秋月海と大川孝之、三沢結花。


 俺たちは、あの日以来3人で会話する事がなかった。




 新宿の駅近くにあるホテルのラウンジで待ち合わせた。


 俺と大川が早く着いた、約束の午後2時の5分前に結花が現れた。


「お久しぶり」

 と結花が少し他人行儀に挨拶をする。

 彼女は淡い花柄のブラウスと白いスカートと低めのパンプスだった。

「元気だったか?」

 と大川が声をかける。

 俺はその横で手を振った。


 俺たちはホテル内のカフェに予約してあったテーブルについた。

 一通りの自分達の近況を話して会話は始まった。


 そして

「美緒ちゃんは元気?」

 と俺はあの事件に俺が介入するきっかけとなった彼女の事を聞いた。

「元気してる。あの子も本当はちゃんとあの時のお礼がしたいって言ってたけど…」

「ん…。俺の親に会わせてもらえなかったんだろ?」

「ええ…」


 窓の外はギラギラとした夏景色だ。

 あの夜は暑くて、そして寒かった。


「あのさ」

 と大川が口を挟んだ。

「電話で言ったけど、今日は高1の時の事を、カイが、話したいって言うんだけど」

 大川が俺を見る。

「…カイ、あのさ…嫌ならいいんだぜ。お前、言いたくなさそうだし…」

 と、へへっと笑った。


「…ん…言いたくないと言えば、そうだけど。いや、そうだなぁ…。これから話すのは、お前達は関わらないで居たほうがいい事なのかもしれない。とは思う。呼び出しておいて、言いたくないから帰れと言ってるように聞こえるけど…俺も、もちろん言える範囲でしか教えられない…だから、聞いたからといって害が及ぶような事はないけど…あまりいい話でもない。それでも聞きたいなら…」


「俺は聞きたいと思う。お前が言いたくない部分まで聞こうとは思っていない」

「秋月くん。私も…知りたい…」


「わかった」


「まずは、ちょっと出しておきたい物がある。一応、護身だ」

 と俺は携帯と、懐紙に包まれた塩を用意した。

 それをテーブルの真ん中に置く。


「そうだな、何から話せばいいのだろう。あの日…あそこに居たモノについてだけど、俺が、我皇と呼んだのが一番やっかいなヤツだった。旧校舎に居た訳だが…それについて話すのに俺の家について話さなきゃならない。俺の家の本家は、三鷹一族という霊能力者の集まりだ。その三鷹があの旧校舎に我皇を一時的に封じていたんだ。それを知らずに踏み込んでしまったという事だ」

「あの、白い髪の顔の長いのだろう?何でそんなのを…」

「経緯は、俺も詳しくは知らされていないんだ」

 結花は思い出したのか少し青い顔になった。


「我皇は怖くないよ。三沢」

「秋月…」

「我皇より怖いのは、人間さ。俺…俺達の方がやつらよりずっと怖い…。我皇より、俺の家の本家のが怖い。それを聞いてから、あの日の話をした方がわかりやすいと思う」


「お前の家が怖い?」

「うん」

 

 テーブルのアイスコーヒーの氷が溶けて涼しげな音を立てた。


「秋月の本家は三鷹と言って、平安時代から続く家柄らしい、始祖は陰陽師の一派だった。主に星詠みと暦、天候を見ていた。やがて星詠みが変化して予知になった。予知が当たる事で貴族社会で重宝されて、その後の武家社会でも色々と働いて、江戸時代に関東にやってきた。そう聞くと何かすごい事が出来そうな気がするよね?でも、予知なんてものは自分で作れる部分があるのはわかる?」

「作る?」

 と結花はわからないようだった。

「たとえば、誰かが病気になると予知したとする。どうすればいい?」

「え?」

「そう言われた人を病気にすればいいって事か?」

 と孝之が言った。

「当たりだ。そうすれば予知は当たった事になる」

「とんだはったりじゃねぇか?」

「ま、全部が全部、嘘だった訳じゃない。天候を読んでいたり、霊能力者も多く出しているから、でもね。そうやって権力者に贔屓にしてもらえるようにしていたのは事実なんだ」

「……でも…それでも、カイくんの力は本当よね?」

「ああ、残念ながら俺のは嘘じゃない。でさ、ここからがちょっとグロイんだけど…」


「大丈夫?」

 と俺は彼らに再度確認をした。


 2人は無言で頷いた。


 たとえ、彼らが興味本位で聞きたがったとしても、そこで彼らは聞く方を選んだ。



「霊能力に関してだけど、陰陽師だった時代からそれなりの力があったらしい。その力は一族の中で、血の中で継続されてきた。その意味は一族以外の婚姻がされなかったって事なんだ。能力を持つ者だけが当主になれる。大きな権力を持つのには争いがある。その争いで家が絶えないようにと、血を守る為に、一族は4つに分かれた。四季に合わせて、春は雪下家、夏は日比野家、秋は秋月家、冬は霜月家。それと、遠縁になるが…京都に残った松月こと、九条家。とこんな感じだ」

「……別にグロイ事ないじゃないか?」

 孝之が聞いてきた。

「充分、グロイんだってば…」

「殺し合いとかあったのか?」

「犬神家みたいなの?」

 と結花が言った。

 俺と孝之は顔を見合わせた。

 おいおい。せめて「ひぐらし」だろう?と孝之が言った。

 俺はそれならまだ「犬神家」のが近いと思った。


「あ、いや。それなりに家督争いはあったし、色々とモメたりとかはしたんだろうけど、能力の有無で決着が着くからね」

「そか…」

 と結花が恥ずかしそうに俯いた。

 

「だから、問題は血族なんだって。より能力の高い子供が産めるかどうかになるんだ」


「あ、近親婚か?」

 と、孝之が静かなカフェで言った。


「………おい」

「大川君、声が大きい」


「家系図として文書には残ってないけど、そういう…兄と妹とか…親子とかのが…そうやって血は継続された。今は、雪下家と日比野家は絶えてもう無いんだけど。冬の霜月家はここ何年も能力者を出していない。で、俺の家だけど、秋月家はじいちゃんが見えないけど強い人なんだ。あの日、結花に渡した独鈷はじいちゃんの物だ」

 俺は思わず結花と言ってしまった。

 でも、あえて言いなおしはしなかった。


「それじゃ、海くんのおじいさんが三鷹を継ぐことになるの?」


 あの日、独鈷を持った時の安心感は結花にもわかったのだろう。

 結花にじいちゃんに対する怖さは無かった。

 それを俺は嬉しく思った。


「ううん。強くても見えないのはダメなんだ。三鷹は今、従兄弟が継いでいる」

「でも、それだと、長男とかの直系に力の強いのが生まれなかったら、どうなるんだ。お前は見えるんだろ?その相続に関わったりしないのか?」

 と孝之が言う。

「従兄弟は僕より8つ上の26歳で、まだ継いで間もないから、俺自身は関係ないよ」

「その従兄弟よりお前が強くなったりしたら交替とかなるんじゃないか?」

「彼は俺より強い。だから、それはないな」

 と俺は笑って言った。


 三鷹には得体の知れない怖さを俺は感じているので、出来れば相続なんて考えたくもなかった。


「それで、あの日の我皇なんだけど…。あ、そうだ。これを一度持って」

 と俺は結花に赤い紐の鈴を渡した。

「おい、その鈴って。何をするんだ?」

「この前、俺が学校でお前に助けてもらっただろ?あの時、従兄弟の声を聞いたんだ」

「三鷹を継いだ?」

「そう。三鷹誠記ミタカマコトと言うんだけど、今まで、そんな風に声が聞こえるなんて事無かったんだ。その時」

「何て言ってたんだ?」

「俺が倒れていた時、そんな事をしてたら守れないぞ。って」

「何を?」

「大川や、春野さん。それと三沢さんを…」

 そこで俺は結花から鈴を返してもらい

「あの旧校舎での事を、三鷹が知っているのは当然だとして、ただのご近所さんの春野さんを知っているのはおかしいだろ?それに守れないってどういう意味なのかと…」

「春野さんって意外に有名だったりしてな」

「まぁ、彼女の事はいいよ。後で考えよう。今は…」

 と俺は立ち上がり結花をエスコートするように手を出した。

「カイ?」

「結花さんも守ってくれるように、ミソカに会わせようと思って、それともう一人いるんだ。ここじゃちょっとマズイから外へ行って来る。孝之には後で会わせるよ」

「……秋月くん…」

 何が起きるのかわからない結花は怯えだした。


「大丈夫だから、俺を信じて」


 それは、あの日、結花を守ってくれた言葉だった。

 結花は独鈷を握り締めて、彼が無事に戻って来るのを待ったのだ。

 3年前の気持ちが湧き上がりそうだった。


「大丈夫。秋月くんを私は信じている」





「カイを出し抜こうなんて考えたのが、間違いだったんだ…」


 結花と秋月の2人がホテルの外へと行っている間、孝之はそう思っていた。

 俺はあの日、我皇ってのに飛ばされた。カイが結花の方に走ってゆくのを見て俺も彼女を助けようと廊下を歩いた。

 階段を曲がって、あの化け物と対峙しているカイを見た。



「俺は死んでもいいから、皆を守れる力を」



 あの言葉は、あいつの何処から出てきた言葉なのだろうと思った。

 カイは俺から見たら、普通だった。

 勉強や運動、背も普通だ、顔は母親似だからか優しい感じはするが、普通だ。

 髪と目が少し茶色だったが、気になる程じゃない。

 1年の時は、今よりもっとおとなしくて、今は俺様的な部分はあるけど…。

 普通のやつなんだ。


 あんな…自分の命を人の為に…なんて…。


 普通じゃ出来ないだろ…。


 どこの、ヒーロー物なんだよ。

 どうやったら、そんな言葉が出てくるんだ?

 かっこつけでもない、

 本当に死ぬかもしれないあの状況で…。

 あんな時だからこそだったのか?


 さっき聞いた「三鷹」の家の変な血の繋げ方と「秋月海」との根本的な違いを俺は感じていた。


 俺は普通だと、俺より下だと思っていた秋月が俺よりも上をいっているのかもしれないと思って、友人としてやってゆく自信がなくなった。

 それで、俺は高校の間ずっと悶々として過ごした訳だが…。

 カイが東京へ行く事になって、俺も東京を目指した。

 結花が何を思って出て来たかは、わからないが、俺とそう違わないんじゃないかと思う。





「うわぁぁぁーー」


「はい。静かに」

 とカイが俺の口を押さえた。


「なんだよ。お前、結花さんよりうるさいじゃないか…」


「だって、だってよ。俺、これに殺されかけたんだぜ…」

「それなら、結花さんだって同じだろ?」


 驚く俺の横で結花がクスクス笑っている。

 この子は意外に度胸が座っているのかもしれないと俺は思った。


 しかし、驚くな。と言う方が無理なんだ。


 カイの横には、あの「我皇」が居るのだ。



「俺との対決に負けたからって、俺の式になるって言うんだよ。それって、なんかポケモンみたいだろ?」

 とカイが笑って言った。

「ポ…ケモン…」


「我皇が驚かせた事を2人に謝りたいっていうから連れてきた」

 彼は霊力が高いから、人前では出せなくて、とカイが言う。

「お前も、これに殺されかけただろ?」

「ああ、そうだな。俺は彼よりずっと弱いから、独鈷が助けてくれなきゃ危なかったな」

「…俺、お前の考えが読めない…」


「我皇は怖い霊じゃないんだ。でも、こちらが攻撃すれば当然反撃してくる。その力が半端ないってだけなんだ」

「猛獣みたいなもの?」

「理性のある猛獣だね」

 とカイは笑う。

「まぁ、本音を言うと俺は三鷹にこいつをおいて置きたくない気がしただけなんだ」



 そして、俺たちは三沢を見送った。




 それから、数日後、あの桜のある公園に春野を呼び出した。



 こういうのが大好きな彼女は大喜びで、俺に「我皇とのツーショット」をデジカメに収めさせた。

 我皇もまんざらではないようで、彼女の守る事を引き受けてくれた。

「タカユキにはツゴモリね」

 とミソカが言う。


 合計3体の式神を出しているカイに

「カイくん。能力上がってるよね?」

 と春野が聞いた。

「んーと、これのおかげなんだ」

 とカイはバッグから独鈷を取り出した。


「それって、大事な物なんだろ?」

「ま…前みたいに勝手に持ち出したんじゃないぞ。ちゃんともらったんだ」

 とカイがあわてた。

 カイが独鈷をしまうと、ミソカたち式も消えた。


「結花がちゃんと理解してくれたかはまだわからないが、今度は春野に話す番だ」


「じいちゃんから独鈷をもらった時に、聞いたんだけど」



「あの狼みたいなのの正体がわかったんだ」

 


 俺と春野は見てはないが、カイから話は聞いていた。

 春野は夢遊病者みたいにここまで来た事を覚えていたし、

 俺はあの日、2人を尾けていた事は話してあった。




「春野、高校のアルバムを見せてくれる?」

 と静かに言った。







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