クレヨンと画用紙
夕方の6時を知らせる鐘が町内を覆った
子供の帰る時間のせいか少しばかり外が騒がしい気もした
チリンチリンッと自転車のベルを鳴らして帰る者もいれば、歩いて楽しそうに会話をして帰る者
十人十色の世界がこの、ちっぽけなアパートから覗いてわかった
そんな中、帰る者の中にある意味`帰る`者もいた
「たーいーちっ!」
もらったばかりの真っ白なマフラーを棚引かせながら、階段を登る音
そして、まだ少女の幼くてちょっとばかり響く声が聞こえた
「ちの! こんな時間に……っていつもそうでしたね」
「うわーいっ太一早くあげてあげて!」
がちゃっと一般的な扉を開けて、階段方面を見る――間もなく飛びつかれた
身長差的な問題で腹に体当たりを食らったような感覚に襲われるが、ちの自身が小さいので衝撃は少なく簡単に受け止めることが出来た
そして太一の部屋事情なんてお構い無しに催促を強請る
まあ、事情なんて太一の部屋には存在しないのだが
「見て見て~くれよんもらった!」
がさがさ、と紙袋を漁りながらちのが言い、太一が眉を八の字にして一瞬戸惑う
クレヨンってなんだっけ? そんな心情だろうか
「くれよん? ああ、クレヨンですか、懐かしいですね」
どこに入れていたの? と疑問を持つほど大きな紙袋の中には懐かしいクレヨン
あの独特の香りが紙袋いっぱいに詰まっていた
「あとおっきい画用紙もあるよ~」
「わっ確かに大きいですね……誰からもらったんですか?」
ちのが両手をいっぱいにして広げてようやく収まるくらいのサイズの画用紙が紙袋からはじめ、丸まった状態から出された
当然、誰からもらったのか気になるわけで。画用紙を床に敷き、伸ばしてやりながら問う
「んとね、お隣のおばあちゃん! お庭のお手伝いしたらくれた!」
「お隣? えっと、ちのの家のお隣ですよね?」
「うん! お庭に沢山落ち葉があったよ」
画用紙の上に乗っかり、赤色のクレヨンで落ち葉の絵を描く
意外に上手いな、と内心思う太一であるが顔に出たらしく、ちのが画用紙から太一の顔を見ると
花が咲くように笑って喜んだ
「僕も、描いてもいいですか?」
「うん! クレヨンの色いっぱいあるから、だいじょーぶ!」
「そうですね。僕は何を描こうかなあ……」
まだ描くのを決めてなかったのか空を仰ぐ
あ! と声を上げて黒色のクレヨンを握るとスラスラ~と描いていく
「なーに、これ?」
「ちのですよ」
「え!? わ、わたし!? わー! ありがとうっ」
ふにゃ、と顔を緩めて笑うちの。
どうやら想い出にするらしく、このスペースには描いちゃ駄目! と黄色のクレヨンで似顔絵の周りを枠で囲った
外の風が強くなるのも気にしないで、二人は気のすむまま絵を描き続けたとか
(ち、ちの! もうこんな時間ですよ!)
(え!? わー! もう帰らなきゃ!)