秋風とマフラー
ひゅぅうー……素肌を横切る冷たい秋風がちのの頬に触れる
ついこの間まではあんなに暑かったのにな、と唇を尖らせながら目的地に向かう足を早ませた
「たーいーちーっ!」
「はいはーい。ってちの……寒くないんですか? そんな格好で」
頭に沢山のハテナマークを浮かべるちの
寒がりの太一にとってちのの現在の格好は見ているだけで寒い
秋を意識したとか、そういったのは関係無しにちのは、ミニスカートにレギンスを穿いて上は薄そうな長袖Tシャツとネコ耳フードがついているパーカの格好
「お部屋あったかあったか!」
「暖房つけたんですよ……って冷蔵庫何あさってるんですか?」
「えー。ほらこの前、芹夏さんに買ってもらったアイスを出そうかなーって」
特に叱る気もないのか、ああ。と理解して太一は座っていたソファーから立ち上がり、ちのの傍に立ち寄った。身長的な問題から冷蔵庫の奥にあったアイスに手が届かなかったからだ
「芹夏さんに懐いてますね」
「しっと?」
「嫉妬じゃないですよ!! 芹夏さんに嫉妬するわけないでしょ」
何処で覚えてきたのか分からないがちのの放った言葉にドキリと胸が高鳴ったのは確かなことで案外ちのは鋭い性格なのかもしれない
「たいちー」
「なんですか? あ、ありがとうございます」
ついでに太一も冷蔵庫の中にあったりんごジュースを出して、ふたつのコップを持ってきてテーブルの上に置くとちのがスプーンに一口サイズのアイスを乗せてやってきた
名前を呼ばれて、振り向くと同時に口の中に甘い香りが漂った
「バニラですか」
「うん! シンプルでどうかなーって思ったんだけど、案外美味しいっ」
「僕もバニラ好きですよ。今度買い置きしておきますね」
ありがと~、とふにゃりと笑って、ぱくりとまたアイスを食べる
そうして食べるたびに色々な顔になるのを楽しそうに眺めていると窓に何かコツコツと当たる音がした
何だろうと思いながら席を立ち見てみると特になにも変化はなかった
(秋風……か)
マンションを囲むように生えている木々が右に行ったり、左に行ったりと慌しく動いているのを見てそう感じた
次にちののファッションを思い出して、ふと思った
首元がいくらパーカで守られているとしても寒いものは寒い。所詮はパーカなのだ
「ちの」
「んー?」
「マフラー、欲しいですか?」
口に入れていたスプーンを勢いよく外すと部屋に響くような声で、こういった
「マフラー!? 欲しいっ! むしろ太一がくれるものなら何でも欲しい!」
「そ、そうですか……えっと、直ぐには用意出来ないんで、僕のお下がりでおければ」
意外な反応に戸惑う太一。ちのは本当に嬉しいのか目を輝かせて太一の一言一言を聞く
そして`お下がり`というキーワードに異常な反応をした
「太一のお下がり欲しい! すっごく欲しいよ~」
「じゃあ、今持ってきますね」
ソファーから立ち上がりアイスと、その持っていたスプーンを置き、足踏みをする
幼稚園児が遠足に行く時みたいに嬉しいようだ
(あ、あったあった)
(太一のマフラー! もっふもっふ!)
(もっふもっふです、ね)