お隣さんと202号室
「たーいーちー」
「なんですか、朝から」
朝6時
早すぎる時間帯に、同居人でも無ければ彼女でもないちのがいる
あまり広くないリビングの背高い椅子に座っていて、床についていない両足をパタパタと
忙しく動かしていた
「朝ごはんはー?」
「ついに朝ごはんまで共にするようになったか……」
「んあ? なんか言った?」
四角形のテーブルを間に太一が、ちのと同じ種類の椅子に腰掛けている
まだちのは、眠たいのか目がとろんとしていて、いつもと違う印象を受ける
肘をテーブルにつけて頬を乗っける姿のせいもあると思われる(違う印象を受けるのは)
「家族の方は何も言わないんですか?」
質問しておいてなんだが、今のは失言だ。と後悔をする
もし、何も言わないよ。と言われてしまったら自分が困るからで、どうする事も出来ない
しかし、そんな心配はいらないようで
「んーとね、家族っていうかパパとママは今お家にいなくてね
お仕事で遠い国に行ってるんだって。それで――」
小さい両手をあちらこちらに動かしながら説明をする
途中で言葉が途切れてしまったのは、よく分からなくなったとかそうゆうのではなく
「もう話さなくていいよ」
太一により、言葉をストップされたからだ
肘をついていた手を、ぐっと伸ばして言葉をストップさせた
「そ、そう?」
「そうなんです! 朝ごはんしますよ」
珍しくちのが動揺をした
眠いと人間はこんなにも変わるんだなあ、と思ってる矢先に朝ごはんをいうキーワードが
「ちの、眠くは……眠いんですね」
テーブルに両腕をぴったりとつけ、顔を乗っける
寝顔はこちらからは確認できないが、規則正しい呼吸が服が上下に動いているので分かった
自分は自分でやる仕事があるな、と両頬を叩き気合を入れる
そんな時だ
――――ピンポーン
ベルが鳴った
こんな早い時間に誰だろう、と思う以前にこのアパート住人が他人の部屋に尋ねることが珍しいと思った
「誰ですか?」
「隣の……202号室の滝城です」
扉を相手の顔だけ見れるように開けた顔は、お隣さんの滝城 芹夏だった
長く伸びた黒髪をポニーテールにして礼儀正しさが目立つ背高い女性
「あの、どうかしましたか?」
「あ、あの。ちのちゃんに……」
「ちの?」
なぜちのの名前が出てきたのだろう、ちのはフレンドリーだから
太一の部屋に来る際に出逢ったと思われる
「ふわぁぁ――あれ、たいち……?」
リビングの部屋の扉が開きっぱなしだったので玄関からの音が漏れて聞こえたから目が覚めたのだ
背伸びと欠伸をしながら、トテトテと廊下を歩く
無意識に音のする方に行く習性でもあるのか(しゅ、しゅうせーって……)
「あれ、芹夏さん」
「あ。ちのちゃん、これ」
芹夏が渡した大きな紙袋を受け取ると、ありがとうと笑う
黙って事の成り行きを見ていた太一が口を開いた
「ちの? 滝城さんとは一体どうゆう……?」
「んとね、この前太一ん部屋行こうとしたら間違えて芹夏さんの部屋にはいっちゃったんだー」
あははー、と紙袋を片手で持って余っている手で後頭部をさする
いたずらっ子のような顔で言われて、太一も脱力するしか出来なかった
(芹夏さんも朝ごはんどうですか?)
(え、いいのでしょうか……)
(ちのがお世話になりましたし)
(朝ごはん食べてないでしょー?)
(は、はい)