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この空の続く場所で

作者: 爱丽丝
掲載日:2026/03/12

はじめまして。

この作品を見つけてくださり、ありがとうございます。


この物語は、

「言えなかった恋」と「十年越しの再会」をテーマにした恋愛小説です。


高校生の頃、いつも隣にいた人。

一緒に笑った帰り道。

何気ない会話と、当たり前の時間。


でも――

一番大切な「好き」という言葉だけは、どうしても言えませんでした。


そしてそのまま、二人は別々の道を歩むことになります。


それから十年。


大人になった主人公が、

ふとしたきっかけで思い出したのは、

あの日一緒に見上げた空でした。


遠く離れていても、空はどこまでも続いている。

同じ空の下で、また会える日があるかもしれない。


そんな小さな願いが、

やがて思いもよらない再会へと繋がっていきます。


少し切なくて、でも最後には温かい。

そんな物語を書きたいと思い、この作品を作りました。


もしよろしければ、

主人公たちの十年越しの物語を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

「あなたは今、どこで何をしていますか?」

夕焼けに染まる空を見上げながら、私は小さくつぶやいた。この空は、どこまでも続いている。だからきっと、遠く離れた場所でも同じ空が広がっているはずだ。もしそうなら――あなたも今、この空のどこかの下にいる。そう思うだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。でも同時に、どうしようもない寂しさも込み上げてくる。なぜなら、その空の下にあなたはいても、もう私の隣にはいないから。


あなたと出会ったのは、高校二年の春だった。桜が散り始めた頃、教室の席替えがあった。私は窓際の席になった。

その隣に座っていたのが、あなただった。最初の印象は、静かな人だった。教室が騒がしくても、あなたはあまり話さない。休み時間も、机に肘をついて窓の外を眺めていることが多かった。ある日、私は思わず声をかけた。

「ねえ」

あなたは振り返る。

「何見てるの?」

あなたは少し驚いた顔をして、それから笑った。

「空」

私はつられて窓の外を見る。青い空が広がっている。

「……普通の空だけど」

そう言うと、あなたは小さく笑った。

「でもさ、続いてるだろ」

「え?」

「この空」

あなたは指で遠くを示す。

「どこまでも続いてるじゃん」

私は黙って空を見る。確かに、空は広かった。

「だから、いいなって思うんだよ」

あなたはそう言って、少し照れたように笑った。その笑顔が、不思議と心に残った。それが、私たちの始まりだった。それから、私たちは少しずつ話すようになった。

あなたは見た目よりずっと面白い人だった。

授業中、ノートの端に変なイラストを描いてきたり。

「これ見て」

そう言ってノートを見せてくる。そこには、先生をデフォルメしたような絵が描いてある。思わず吹き出すと、あなたは得意げに言う。

「似てるだろ」

「似てるけど怒られるよ」

「バレなきゃ大丈夫」

そんなくだらない会話を、毎日のようにしていた。放課後になると、私たちは一緒に帰るようになった。駅までの道は十五分くらい。短い時間だったけれど、私にとっては特別な時間だった。コンビニに寄ってアイスを買ったり。

テストの愚痴を言い合ったり。特別なことは何もない。

でも、あなたと一緒にいるだけで楽しかった。

ある日、帰り道であなたが言った。

「将来さ」

「うん?」

「どこか遠いところに行ってみたい」

「旅行?」

「いや、住むとか」

あなたは空を見上げる。夕焼けが広がっていた。

「知らない街とか、知らない景色とか。見てみたい」

私は少し寂しくなった。

「じゃあ、この街出るの?」

あなたは笑った。

「どうだろうな。でも」

そして私を見る。

「もし離れても、この空は同じだろ」

私は空を見上げる。

「だから、どこにいても同じ空見てるって思えばさ」

少し笑って言った。

「そんなに遠くない気がする」

その言葉を聞いたとき、胸の奥が少しだけ痛くなった。

なぜだか分からないけれど。でも、私はそのときすでに気づいていた。自分の気持ちに。

私は――あなたのことが好きだった。


三年生になっても、私たちは変わらなかった。

毎日話して、毎日一緒に帰った。

友達には「付き合ってるの?」とよく聞かれた。

でも、私たちは笑って否定した。

「違うよ」

本当は、違わなかったのかもしれない。でも、どちらもその一歩を踏み出せなかった。この関係が壊れるのが怖かった。ただ隣にいられるだけで幸せだった。そう思っていた。でも――その時間は、突然終わった。

三年の夏だった。放課後の教室。窓から夕日が差し込んでいる。あなたは静かに言った。

「俺、引っ越すことになった」

世界の音が消えた気がした。

「……え?」

「父さんの仕事の都合でさ」

あなたは机に視線を落とす。

「来月にはもう、こっち出る」

胸が強く締めつけられた。

「急だね」

それしか言えなかった。

「俺も昨日聞いたばっか」

あなたは苦笑する。沈黙が流れる。言いたいことが、頭の中で渦巻いていた。行かないで。寂しい。好き。でも――

何も言えなかった。


あなたがこの街を離れる日。駅のホームで、私はあなたを見送った。夏の風が強く吹いていた。

「元気でな」

あなたはいつもの笑顔で言う。その笑顔を見るだけで、涙が出そうになった。

「うん」

それしか言えない。電車がホームに入ってくる。ドアが開き、あなたが乗り込む。そして――ドアが閉まる直前。

あなたが言った。

「またな!」

手を振るあなた。電車がゆっくり動き出す。遠ざかっていく背中。その瞬間、胸が張り裂けそうになった。

言わなきゃ。

そう思った。

「待って――」

でも、声は電車の音に消された。電車は小さくなり、やがて見えなくなった。ホームには、私一人だけが残った。

そのとき、初めて気づいた。私はどれほどあなたに支えられていたのか。どれほどあなたの笑顔に救われていたのか。失って初めて、分かった。私はその場で泣いた。声を上げて泣いた。でも――もう遅かった。


それから、何年も経った。大学に進学し、社会人になり、

忙しい日々を過ごしていた。それでも。夕焼けを見ると、思い出す。帰り道の十五分。コンビニの前。そして、あなたの笑顔。もし、あのとき。気持ちを伝えていたら。

もし、あのとき。引き止めていたら。何度もそう思った。

でも、時間は戻らない。あなたとの時間は、まるで風のように遠くへ流れてしまった。それでも、私は空を見上げる。この空は、どこまでも続いている。だから、きっと。

どこかであなたも――同じ空を見ている。


あなたがいなくなってから、季節はいくつも過ぎていった。高校を卒業して、大学に進学した。新しい街。新しい友達。新しい生活。最初は毎日が慌ただしくて、あなたのことを思い出す時間もあまりなかった。

けれど――ふとした瞬間に、思い出してしまう。夕焼けの空。コンビニの前。帰り道の十五分。そして、あなたの笑顔。そのたびに胸の奥が、静かに痛んだ。


大学三年の冬。久しぶりに高校の友達と集まった。居酒屋で、懐かしい話をしていた。

「そういえばさ」

友達の一人が言った。

「あの人、どうしてるんだろうね」

私は一瞬で分かった。あなたのことだ。

「引っ越したんだよね?」

「うん」

「連絡取ってる?」

私は首を横に振る。

「取ってない」

正確には、取れなかった。あなたが引っ越してからしばらくは、何度かメールのやり取りをしていた。でも、だんだん回数が減っていき、いつの間にか途切れてしまった。

新しい生活に追われていたのは、きっとお互い様だったのだと思う。

それでも――

最後に送ったメール。

『元気?』

その返事は、結局来なかった。


社会人になってからも、私は忙しい毎日を送っていた。

朝早く起きて会社へ行き、夜遅くに帰る。そんな生活が当たり前になっていた。ある日の帰り道。駅を出たとき、空が真っ赤に染まっていた。思わず立ち止まる。夕焼けの空。あの頃と同じ空。胸の奥が、少しだけ締めつけられる。そのとき、不意に思った。もし今、あなたがここにいたら。きっと言うだろう。

「空、綺麗だな」

私は小さく笑った。

「本当だね」

そうつぶやく。でも、隣には誰もいない。


社会人三年目の春。久しぶりに実家に帰った。母が、押し入れから古い段ボールを出してきた。

「これ、高校のときの荷物」

中にはノートやプリントが入っていた。懐かしくなって、一枚ずつ見ていく。そのとき。一冊のノートが目に入った。見覚えがある。授業中、あなたが落書きしていたノートだ。いつの間にか私の鞄に入っていて、そのまま返しそびれていた。私はノートを開く。ページの端には、あの頃と同じイラストが描いてあった。先生の似顔絵。変な動物。思わず笑ってしまう。ページをめくる。すると、最後のページに文字が書いてあった。私は息を止めた。

そこには、あなたの字でこう書いてあった。

『もしこれを見つけたら』

『空を見てほしい』

胸がドクンと鳴る。

続きがあった。

『俺、将来どこか遠い街に行くかもしれない』

『でもさ』

『空は続いてるだろ?』

私はページを握る。涙がにじむ。

『だからさ』

『もし俺がいなくなっても』

『同じ空を見てくれたら嬉しい』

最後の一行。

『いつかまた会えたらいいな』

視界がぼやけた。

「……ばか」

私は小さくつぶやく。どうして今まで気づかなかったんだろう。どうして、あのとき――気持ちを伝えなかったんだろう。涙がこぼれた。でも同時に、心の奥で小さな光が灯った。いつかまた会えたらいいな。その言葉が、胸の中で静かに響いた。


それから数ヶ月後。

会社の研修で、地方へ行くことになった。新幹線で三時間ほどの街だった。研修が終わった帰り道。私はふと駅前の広場で立ち止まった。夕焼けが広がっていた。その空を見上げたとき。なぜか、強く思った。

あなたは今、どこで何をしているんだろう。

この空の続く場所にいるのかな。いつものように笑っているのかな。今はただ、それを願うしかないとそう思って歩き出そうとしたとき――後ろから声がした。

「……やっぱり」

私は振り返る。でも、そこには誰もいなかった。気のせいだと思った。でも胸がざわつく。私はもう一度空を見る。夕焼けは、どこまでも続いていた。

まるで――

何かが始まる前のように。

私は振り返る。人が何人も歩いている。でも、その声は聞き間違えようがなかった。胸がドクンと大きく鳴る。

ゆっくりと視線を動かす。そして――その人を見つけた。

時間が止まったような気がした。そこに立っていたのは、

あなただった。少し背が伸びた気がする。髪型も変わっている。スーツを着ていて、少し大人びていた。

でも――その笑顔は、あの頃と同じだった。

「……久しぶり」

あなたが言った。声が震える。

「どうして……」

やっとそれだけ言えた。あなたは少し照れたように笑う。「本当に会えるとは思わなかった」

「え?」

「俺、この街に転勤になったんだ」

頭が追いつかない。

「今日、初めて駅前来てさ」

あなたは空を見上げる。

「夕焼け見てたら、なんか懐かしくて」

そして私を見る。

「そしたら、いた」

信じられなかった。

10年。10年も経っていたのに。

「……ずっと会いたかった」

気づいたら、口から言葉がこぼれていた。あなたは驚いた顔をした。でもすぐに、優しく笑った。

「俺も」

その一言で、胸がいっぱいになった。しばらく二人で黙って空を見ていた。夕焼けは少しずつ暗くなっていく。

あなたが言った。

「覚えてる?」

「何を?」

「空の話」

私は笑った。

「覚えてるよ」

「どこにいても繋がってるってやつ」

「うん」

あなたは少し遠くを見る。

「正直さ」

「うん?」

「最初は寂しかった」

その言葉に胸が締めつけられる。


「でも、空見るたび思い出してた」

あなたは笑う。

「お前もどこかで見てるのかなって」

私は涙が出そうになった。

「私も」

声が震える。

「ずっと思ってた」

私はバッグからノートを取り出す。

「これ、覚えてる?」

あなたは目を見開いた。

「それ……」

「あなたのノート」

最後のページを開く。

あなたが書いた言葉。

『いつかまた会えたらいいな』

あなたは少し恥ずかしそうに笑った。

「そんなの書いたっけ」

「書いてた」

私は言う。

「それ見つけて、泣いた」

あなたは驚いた顔をする。私は深く息を吸った。そして言った。

「私、ずっと後悔してた」

あなたが静かに聞いている。

「あの日、駅で」

声が震える。

「好きって言えなかったこと」

空気が止まったようだった。

でも、私は続けた。

「本当は、ずっと好きだった」

涙がこぼれる。10年間、言えなかった言葉。やっと言えた。あなたはしばらく黙っていた。それから――小さく笑った。

「俺もだよ」

「え?」

「ずっと好きだった」

世界が止まった気がした。

「でもさ」

あなたは苦笑する。

「引っ越すって決まったとき、言えなかった」

「どうして?」

「遠くなるの分かってたから」

あなたは空を見る。

「中途半端な気持ちにさせたくなかった」

胸が締めつけられる。

「でも、後悔した」

あなたは真っ直ぐ私を見る。

「だからノートに書いた」

「……会えたらいいなって?」

「うん」

あなたは少し照れて笑う。

「そしたら本当に会えた」

涙が止まらなかった。10年の時間が、一気に溶けていく。

あなたが一歩近づく。そして言った。

「もう後悔したくない」

夕焼けが二人を包む。あなたは少し緊張した顔で言う。

「好きだ」

胸がいっぱいになる。

「ずっと好きだった」

私は泣きながら笑う。

「私も」

その瞬間、風が吹いた。夕焼けの空が広がっている。

どこまでも続く空。あなたが言う。

「やっぱさ」

「うん?」

「空は繋がってるけど」

そして、少し照れて言った。

「隣にいるほうがいいな」

私は笑う。

「うん」

帰り道。

駅までの道を二人で歩く。十五分の道。あの頃と同じ道。でも、今は違う。あなたが隣にいる。

「なあ」

「うん?」

「これからも空見るたび思い出すと思う」

「何を?」

あなたは笑う。

「今日のこと」

私は空を見る。夜が少しずつ広がっている。星がひとつ光っていた。そして思う。あの頃、何度も問いかけた言葉。

あなたは今どこで何をしていますか?

この空の続く場所にいますか?

その答えはもう分かっている。

あなたは今――

この空の続く場所で私のすぐ隣にいる。


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