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ダンジョン社会の独立国  作者: 湊川琥珀
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プロローグ2.スタンピード


頭の中に声が響いた。ダンジョンの最終調整とはなんなのだろうか。そう考えてると大地たちが口を開いた。


「お前ら、今のきいたか?最終調整ってなんだろうな」


「知らないけど、やな予感するわね。彩はどう思うの?」


「私はダンジョンの状態を確認した方がいいと思う」


「それは必須でしょうね」


「お、大人たちもそう考えたみたいだぜ。青年団の一部が今見に行ったみたいだぞ」


 大地が放送室の窓から見て外の状況を教えてくれる。その情報を聴きながら美波が恒次に話しかけた。


「あら、行動が早いわね。で、私たちはどうする?」


「どうするってなんだ」


「気になるんじゃない?ダンジョンのことが。勝手に見に行くのも手よね」


「……俺も考えた。でも辞めとこう。それより道場に向かった方がいい気がする。少しでも多くの武器を取りに行く」


「勝手に抜け出すのは難しいと思います。人が多すぎます」


「なら体育館の裏から出て行けばバレねえと思うぞ」


「なら決まりね。早く行きましょう」


 そういって勝手に放送室を出ていく美波に4人はついて行きひっそりと体育館から抜け出し本多道場を目指して走る。道場につき扉を開くと宗近と道場の門下生が木刀をありったけリアカーに乗せていた。父はこちらに気づくと走って近づいてくる。宗近は怒りをあらわにしながら恒次に話しかける。


「恒次、なんでここに来た。危ないだろう」


「武器が必要になると思ったからここに来た」


「だとしても友人を危険な目に合わせるとは何事か。今すぐ帰れ。」


「分かった。迷惑かけてごめんなさい」


 恒次は父に頭を下げる。考えてみればもっともな意見だと思う。地震は止んだとは言え異常事態なのは間違いない。そんな状況で友人を連れてくるべきではなかった。反省する。そんな恒次の姿を見て宗近は表情を和らげながら恒次の頭を撫でた。


「分かったならいい。怒鳴って悪かったな。あの声を聞いてここに来るという判断は良かった。木刀1本持ってけ。学校に戻ったら避難者を纏めてる自治会長に今すぐ列を作って学校から隣町に避難しろと伝えろ」


「分かった」


「急げよ。おそらくもう時間が無い。俺らも急いで向かう。気をつけろよ」


「親父もな」


 恒次は友人を連れてまた学校へと走って戻る。その途中で美波が恒次に小声で話しかけた。


「悪かったわね。先走って」


「別にいい。俺も悪かった」


 学校に着くと自治会長に父からの伝言を伝え避難者の列を作った。1番前を青年団の1部としその次に高校生、その次に中学生、小学生、老人、婦人会、猟友会、青年団と列を整えていく。列が整うとすぐに宗近たちが戻ってきた。宗近が持ち帰ってきた木刀を青年団に渡しているとダンジョンの確認に行った青年団のひとりが自衛隊を3人と共にボロボロになりながら戻ってきき校庭に入るなりいきなり叫んだ。


「ダンジョンからモンスターが大量に出てきた早く避難しろ!自衛隊が抑えてくれてるがもうもたない!」


 それを聴き学校内はパニックになった。そんなパニック状態を見て宗近が声を張り上げる。


「落ち着けっ!列を乱すな。最後尾の青年団と猟友会から有志を募る。自衛隊がもたないということは今から全員で逃げても逃げきれまい。有志は学校横の橋でモンスターの足止めを行う。死ぬ確率が高い危険な役目だ。無理強いはしない。覚悟があるものだけ残れ!」


 宗近がそう叫ぶと最後尾の青年団と猟友会の殆どが有志として残ることを決意した。ダンジョンの現状を伝えに来たものと一緒に来た自衛隊の3人は避難者を守るために列に加わってくれることになった。宗近は最後に3分、家族と話す時間を有志たちに与え、自分は武器の最終確認をしていた。その後ろ姿に恒次は小百合と小夜を連れて話しかけた。


「親父、気をつけろよ。まだ教えてもらいたい技とかあるんだ」


「ああ。頑張るよ。恒次、これは誕生日プレゼントだ。忙しくて渡せていなかったからな。恒次、よく聞け。力ある者は自分の周りのものを護る責務がある。それを忘れてはいかん。お前は強い、俺の代わりにみんなを守ってやれ。分かったな」


「分かった。これ、ありがとう」


 恒次は細長い袋に入ったものを宗近から受け取る。持ってみるとわかる。多分、刀だ。父が大事に手入れをしていたウチに1本しかない真剣。プレゼントとして貰うには重すぎる。だがこれを託してくれた父に恥じないようになると決意した。そんな恒次の横で小夜と小百合が宗近に話していた。最後に宗近と小百合が抱き合い宗近が小百合にあとは頼むと声をかけ、宗近はみんなに出発の指示と防衛に加わるものたちを集め作戦会議を行った。その姿を見ながら避難者は自衛隊の先導で隣に向かって歩いていく。恒次は父の姿を目に焼き付けながら列に沿って歩いていく。父の後ろ姿はとても大きく頼もしく見え、自身の理想を体現しているように思えた。


 -------宗近side-------


 息子達、避難者が橋を渡るのを確認し、防衛ラインを作る。どのくらい足止めすることが出来るだろうか。ここに残ってくれたものには悪いが自分も含めここにいるものは全員死ぬだろう。なんせ自衛隊が壊滅する程なのだ。それをわかった上で残ってくれたものたちには感謝しかない。自分1人でも残るつもりではいたが1人では足止めすら出来なかっただろう。だから残って貰うのはありがたいのだが……こいつら緊張感が無さすぎではなかろうか。全員楽しそうにダンジョン話に花を咲かせている。たしかに俺らの時代はゲームといえばRPGでダンジョンに憧れがあるとは言え死ぬか生きるかの瀬戸際でもここまで楽しそうにできるのだろうか……それと猟友会のジジイどもはRPGやったことないだろっなんでそんなお気楽そうなんだ。

 俺が呆れていると青年団の1人であり息子の友人の大地の父である大介が話しかけてきた。


「おいっなんでそんな顔してんだよ。ビビってんのか?」


「そうじゃない。お前らに呆れてんだ。緊張感をもてよ……」


「楽しくいこうぜ!それにみんな安心してんだよ」


「安心?こんな状況で安心できんだろう」


「俺らの事じゃねえ。俺らは死ぬ。家族との別れも済ませた。みんな覚悟は出来てる。だがな、子供だけは生きて欲しい。みんなそう思ってる。本当はそこが心配なんだ。だけど後ろにはじいさんばあさんや嫁たち、それにつー坊がいる。だから安心できるのさ。絶対、子供たちは助かるってな」


「じいさんばあさんや婦人会はともかく恒次はまだ子供だ。そんな力があるか?」


「何言ってんだよ。お前、酔うといつも言ってるじゃねえか。息子は強い。いずれ日本最強になるってよ。みんなそれを信じてるんだぜ。お前は嘘つかないからな。それともお前は信じてないのか?」


「……信じてるに決まってんだろ。俺の息子は最強だ。」


「じゃあ、安心だな。」


 そう笑う大介に合わせてみんなも笑った。緊張感は相変わらずないがこれもまたいいものだろう。みんなで笑いあっているとダンジョンの方角からモンスターが迫ってくるのが見えた。100体はゆうに超えているだろう。ゲームで見た事あるスケルトンやゴブリンが見える。ただの狼に見えるものまでいる。あの所々にいるデカイのはオークだろうか……10分止められたらいいほうだろう。宗近は笑いながら木刀を持つ手に力を入れ後ろを振り返り皆に檄を飛ばす。


「みんな、敵は多い。ビビるなと言うのは無理だろう。だが後ろの子らを護るために逃げる訳にはいかない。だから糞尿を垂れ流してでも木刀を振るえ、前を向け、俺についてこい。」


「「「「「「「「おーーーー」」」」」」」」


 俺の言葉に皆が答えてくれる。皆、木刀や猟銃を構える。その姿を確認し命令を出す。


「猟友会は狼の頭を狙って絶対に仕留めろ。アレはさすがに木刀じゃ相手できん。青年団はスケルトンやゴブリンを相手にしろ。所々にいるオークの相手は俺がする。」


「お前1人でオークを止められんのか?」


 大介が質問してきた。他のみんなも気になっているらしい。心配そうだ。俺は笑いながら口を開く。


「大丈夫だ。俺は最強だからな」


 そんな俺の軽口に大介は笑いながら俺に突っかかってくる。


「最強はお前の息子じゃなかったか?」


 大介の言葉にみんなが笑う。……こいつ、今そんなとこに気が付かなくてもいいだろう。カッコつけたかったんだよ。


「……今は、今だけは俺が最強だ」


「そりゃ頼もしい。信用してるぜ、最強」


「ああ。任せとけ」


 俺は木刀を構え近づくモンスターの大群を睨む。

 もう近くまで来ている。10mまで迫ったところで狼やオーガに向けて猟友会の銃が放たれる。狼の一部が倒れる。オークも狙ったようだが、さすがに1発じゃ倒れないようだ。目の前まで迫った時、1番前にいるオークの頭に向かって地面を蹴り飛び木刀を思いっきり叩きつける。後ろにいるみんなもスケルトンやゴブリンに木刀で殴り掛かる音が聞こえる。


防衛隊とモンスターの大群が今、ぶつかった。


 -----------------------


 防衛隊とモンスターが戦いを始めていた頃、避難者たちは町と隣町を繋ぐ唯一の崖と川に挟まれている道路に向かっていた。


「もう少しだ。みんな、慌てず歩け。この調子で行けば逃げ切ることが出来る」


 みんなの戦闘を歩く青年団の一部が声をかける。みんな、元気は無いが希望を胸に歩みを止めず道路に急いだ。


 皆が隣町に続く道路を視界にとらえた時、その悲劇は起こった。どこからか飛んできたミサイルが自分たちの頭上を通り道路の上の崖にぶつかり崖を崩した。皆ミサイルに驚き、崩れた崖によって通れなくなった道路を呆然と見つめていた。誰も何が起きたのか分からなかった。なぜ、ミサイルが飛んできたのだろうかなぜ、ミサイルがモンスターではなく崖に向かって落ちたのだろうか。全員の頭が思考を停めている中、青年団の1人が我を取り戻し自衛隊の1人に詰め寄って凄い剣幕で怒鳴った。


「なぜ、ミサイルがこっちに飛んでくるんだっ。どういうことか説明しろっっっっ」


 詰め寄られた自衛隊員は顔を逸らし言いにくそうな顔をしながら口を開いた。


「……俺らも何も知らない。だが、推測することが出来る。おそらくどこのダンジョンもモンスターが外に出てきているんだろう。そのためこの町にさく戦力がない。なんせこの町にはダンジョンが3つもある。少人数での防衛は不可能、大軍も送り込む余裕が無い。だから唯一の町の外に出ることが出来る道路を破壊しモンスターを外に出さないようにしたんだろう……つまり俺らは捨てられたということだ……」


「国は俺らに死ねというのか!!子供だっているんだぞっっ」


「この町1つで被害を食い止められるなら必要な犠牲という考えなのだろう……」


「そんなことってあるかよ。どうすればいいんだ……」


 自衛隊に突っかかっていた男がうなだれ地面に膝を着く。その姿を見て誰もが希望を無くす。自分たちは捨てられたのだと理解するとあとは死ぬのを待つだけだ。そんな中、詰め寄られていた自衛隊員がみんなに声をかけた。


「希望を捨てるのはまだ早い。山を越えれば隣町に行けるはずだ。俺たち自衛隊がモンスターの足止めをする。だから山に向かってくれ。子供たちを死なせる訳には行かない。お前ら大人が諦めてどうするんだ。立ってくれ!」


 自衛隊の声で大人たちの目に力が戻り立ち上がる。最初にうなだれていた青年団の男がみんなに指示を出す。


「青年団は全員残れ!ここでモンスターを止める。婦人会はじいさんばあさんと子供を連れて早く山に登れ」


「若者だけに任せてられるかっ。ワシたちじじいもここに残って止めるぞ」


 老人のひとりが声をかけ老人たちが防衛に加わる。

そのほかのみんなは指示に従って山に向かう。指示を出した男はそのまま自衛隊員に喋りかける。


「さっきは怒鳴って悪かったな。ここは俺らが食い止める。だからお前らは山に向かってくれ」


「詫びのつもりなら必要ない。俺らに怒鳴るのは当たり前だ。民を守る国が民を捨てたんだからな。俺らだって自衛隊、少しでも民を守る。それが正しい姿のはずだ。だから遠慮せず俺らを頼ってくれ。信用出来ないとは思うがよ……」


 そういって苦笑いを浮かべる自衛隊員に首を横に振って男は口を開き頭を下げる。


「お前らを信用してないんじゃない。逆だ。ここで俺らと残るより子供たちを最後まで護って山に登って欲しい。ここでの防衛だってすぐ崩れるだろう。その後子供たちを護れる戦力がないのは困る。だから頼む」


「分かった。最後の最後まで子供たちを守る。頭をあげてくれ、ここは任せた。」


「おう、任せとけ」


 男と自衛隊員は拳を合わせると男は青年団と老人たちと共に防衛陣形を作り、自衛隊員は残りの2人を連れて避難者たちを追いかけ山道に入った。


 

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