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ダンジョン社会の独立国  作者: 湊川琥珀
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プロローグ1.田舎の武士


20××年、世界各国に謎の地下洞窟や遺跡がいきなり出現した。各国は突然の出来事に戸惑いつつ調査団を派遣し謎の解明をはかった。しかし、調査団が目にしたのは現実とは思えないバケモノの姿だった。調査団はすぐさま引き返し各国の政府にこう伝えた。

「私たちがフィクションだと思ってた世界があの中には広がっている」と。

詳しく内容を聞き出すと物語の世界の住人であるゴブリンやスケルトンと思われるものが襲いかかってきたという。世界各国の政府はこの調査からこれらの地下洞窟や遺跡を「ダンジョン」と呼称し政府関係者以外の出入りを禁止した。そのうえでダンジョンの周りを各国は軍隊で護りダンジョンの中からモンスターが出てこないようにした。

 そんな事態から1年、国連はダンジョン研究機関を新たに作り謎を解明しようとしたが研究は進まなかった。しかしその中でも分かったことがあった。ダンジョンのモンスターはダンジョンの外に出られないことが分かったのだ。その事実が分かると各国の軍隊はほとんどの兵をダンジョンの警備から撤収させた。あともうひとつ分かったことがある。この事実は各国政府が情報統制を取るほどのものだった。それはダンジョンでモンスターを倒すと魔石と呼ばれるエネルギーの結晶と現実離れしたアイテムが手に入ることだった。それがわかると政府はダンジョンに軍を派遣しモンスターの討伐を行った。

 しかし、軍隊によるダンジョン侵攻も半年も経たずに終わることとなる。なぜならダンジョン内に戦車やミサイルなどは大きさの問題で持ち込めず、銃やナイフ等で戦わなければならなく、なおかつダンジョン内には電波が届かないのだ。そんななかでの戦闘は難しいものでありダンジョンは地下へ進むほど敵が強くなる傾向があった。そうなると当然武器にかかる費用も増える。更に軍隊が進むことが出来た地下5階までの敵から得られる魔石ではスマートフォン3回充電できるほどのエネルギーしか蓄えられておらず、安全面や費用対効果の悪さから軍の派遣は無駄という結論が出てしまった。

 こういった経緯で2年が経つ頃にはダンジョンは放置され世間はダンジョンの存在を忘れていった。

 ダンジョンが現れて3年目となった日、そんな世界で変化が起ころうとしていた。


 




静岡県にある山と川に囲まれる田舎町、沼川町。こんな田舎町にも一つだけ特徴があった。この町にはダンジョンがあるのだ。それも3つ。立ち入り禁止のため誰も気にせず普通の暮らしを送っているが万が一のための自衛隊の小型基地まである。そんな町の中心にある商店街で1人の和服姿の少年が歩いていた。


「おっ、つー坊じゃねえか。また剣術大会で優勝したんだろ。すげーじゃねえか」


「子供の大会だからすごくない。次は大人の方に出て優勝してやる」


「はっはっは。頑張れよ。ほれ、これもってけ。お祝いだ」


「あんがとな。おっちゃん」


「おう、良いってことよ」


 少年-恒次は貰った魚を片手に商店街をさらに進んでいく。進む度に左右から声をかけられ荷物が増える。

商店街を抜ける頃には荷物で両手が塞がり前が見えないほどになっていた。



 

 商店街をぬけていく恒次を見ながら商店街の店の面々が恒次について話していた。


「つー坊は優勝して当たり前のように言ってたがやっぱすげーよな。子供大会って言ったって20歳以下の大会だろ。まだ10歳なのにどんだけ強いんだあいつは」


「さすがこの町自慢の剣術道場の倅だね」


「弓と槍の大会も前に優勝したんだからさながら武士だな。」


「ちげえねえ。この町誇りの田舎侍よ」



 

商店街を抜けて橋を渡り歩き左手にある学校を曲がるとすぐに恒次の実家である本多剣術道場がある。恒次は家の中に入りもらったものを置くとすぐさま道場に向かう。

道場に入ると父であり師範でもある男が刀を振っていた。その男-宗近は道場に入る恒次に気がつくと刀を振りながら声をかけてきた。


「優勝おめでとう。どうだ、強いやつはいたか?」


「いない。つまらなかった」


「わはははは。そうか、さすが俺の息子だ。でも慢心してはならんぞ。お前より強い子はいないかもしれんが大人にはごまんといる。そいつらを倒すためにもっと強くならんといかん」


「わかってる。俺はもっと強くなる。親父にも勝つ」


「まだまだ小僧には負けん。だが良い心がけだ。安心して稽古しろ。お前は強くなれるよ」


「分かった」


話が終わると2人は並んで木刀を振る。型を意識しながら綺麗な太刀筋を目指して何回も何回も振っては構えて振っては構える。そんなことをしていると日が暮れ母屋から声が聞こえてきた。


「2人ともーご飯よー」


「母さんが呼んでる。そろそろ戻ろうか」


「分かった」


 母-小百合の声を聞いた父が木刀を振るのをやめて恒次に声をかけ2人で母屋に戻る。

リビングには母と家に住んでいる少女が作った料理が沢山並べられていた。


「早く席につきな2人とも。今日はお祝いだよ」


 母に促されて席につき料理を食べる。どの料理も美味しく腹がすいている恒次は全部食べ切る勢いで食事していると少女が声をかけてきた。


「その野菜炒め私が作ったんですけど美味しいですか?」


「美味い」


 この少女の名前は小夜。将来美人になりそうな顔立ちの恒次の同級生である。父の親友の娘だが母が出産時に亡くなり2年前に父まで交通事故で失ったことから天涯孤独になってしまい本多家が引き取ったという過去をもつ。今では家族のように過ごしていた。そんな小夜にぶっきらぼうに返事をする恒次を見て父と母が会話に参加する。


「せっかく小夜ちゃんが作ってくれたんだからもっと大事に食えよ。それに俺にも残してくれ」

 

「そうだよ。まったく、もっと落ち着いて食べなさい。それと稽古行く前にちゃんと魚とかナマモノは冷蔵庫に入れて行きなさい。小夜ちゃんがすぐ見つけてくれたからいいものの放置してたらせっかくの魚が腐っちゃってたからね。気をつけなさい。あなたはいつもいつも稽古以外のことを疎かにしてそんなんじゃ苦労するわよ。聞いてるの恒次」


「ああ」


「ああじゃないでしょ、この子は。少しは小夜ちゃんを見習って家事するとか畑仕事手伝うとかしてみなさい。だいたい宗近さんもですよ。今日の夜までにすると仰ってた屋根の修理は済ませたんですか?」


「いえ、してません。まあ、飯終わったらしておくからさ、今は祝いの席、焼酎もうひと瓶お願いします」


「はあ、うちの男どもと言ったら……」


 母が小言をいいながら酒を取りに行くのを見ながら父が小声で話しかけてくる。


「母さん怒らせると怖いから気いつけろよ。酒の管理までされちゃたまらん。」


「飲まなきゃいいだろ」


「祝いの席で酒がないなんて耐えられるか。こういう時には飲むもんよ。ほら、お前もジュース飲め。注いでやるから。小夜ちゃんもな」


 そういって父の手で注がれたジュースを飲み食事を再開する。その間に母も戻り宴会は続いた。


 宴会が終わりを迎え風呂に入り眠りに部屋に戻る時父から声をかけられた。

 

「そういえば明日、恒次の誕生日だろ。何が欲しいか考えとけよ。なんでも買ってやるからな」

 

「別に欲しいものない」


「じゃあ、取っておきをくれてやる。楽しみにしておけ。じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」

 

 とっておきとはなんだろうか。そんなことを考えながら恒次は眠りについた。


 翌朝、5時半。日本全土、いや世界で未曾有の事態である地震が起きた。震度自体は大したこと無かったが世界が同時に揺れたのは初めてである。

 本多家は全員の無事を確認したあと6時には緊急避難場所である隣の学校に逃げ込んだ。学校の体育館には若干の人が集まっており、大人は自分の子を体育館に入れると手分けして近所のお年寄りの所へ向かっていき体育館には子供だけが取り残された。残された子供たちは年上が中心となって誰も外に出ないように体育館の中心で輪を作り恒次と小夜も体育館の中央に集まっているその子供の輪に加わった。輪に入ると近くの子供が話しかけてきた。


「お、つーと小夜も来たのか。あっちに美波と彩もいるぞ。学年ごとに集まるんだってよ。あとはお前らだけだから俺、探しに来たんだ。」


 話しかけてきた子供は大畑大地。恒次と小夜の同級生であり農家の息子だ。


「学年ごとって俺らの学年、5人だけだろ」


「まあ、集まりやすくていいじゃねえか。早く行こう。美波が怒ってんだ。集まるのが遅いって」


「俺らもかなり早めに来たはずだが」


「つー君と宗近さんが地震が終わったあともしばらく起きなかったのでその分遅れてしまったんですよ」


「そうだったのか。それは申し訳なかったな」


「じゃあ行こう。あいつら体育館の二階にある放送室にいるんだ」


「なんでわざわざ2階にいるんだよ。どうせまた体育館中央に集まらされるんだから無駄だろ」


「美波が私はごみごみした場所は嫌いなのって言ってそこを占拠してんだよ」


「美波さんがいいそうなことですね。」


 小夜がくすくす笑いながらそう言う。3人で話しながらステージ裏の階段から上がって放送室前にたどり着く。放送室前に行くと大地が小声でお前が開けてくれと言ってくる。恒次は無言で頷きドアのノブをひねるが鍵が掛かっていて開かない。ドアノブをガチャガチャしながら中に声をかける。


「おい、美波開けろ。俺だ」


「あら、遅れて来た割にずいぶん偉そうじゃない。ここを開けてもらいたいならここを開けてください可憐な美波様といいなさい」


「小夜、言ってやれ」


「分かりました。ここを開けてください美波様」


「小夜に言わせても意味ないじゃない。あなたがいいなさいよ。どうせ遅れてきたのだってあなたの寝坊でしょ、一回寝たら全然起きないし」


「正解です美波さん」


「答えなくていい小夜」


「おーい、俺は入れてくれよ。ちゃんと2人を連れて来ただろ」


「嫌よ。あなた入れたらつーも入ってきちゃうじゃない。」


「つー早く言ってくれ。そろそろ中に入りたい」


「……ここ開けろ可憐な美波」


「……まあいいわ。入りなさい」


 そう美波の声がすると鍵が開いた。放送室の中に入ると2人の少女が待ち構えていた。1人は先ほどの偉そうな女-緒方美波。美波はこの町で小学5年生にしてかなり顔立ちが整っており小夜さえかなわないほどの圧倒的美少女である。だがその代償に清い心を母親のお腹の中に落としてきた女だ。もう1人は彩。いつもおどおどしているが優しい女の子だ。この2人を含めた5人がこの町の小学5年生である。小さい町ゆえ子供が少なく全学年含めて小学校に64人、中学校に40人しかいない。高校にいたってはこの町になく隣町から電車に乗って3駅先がいちばん近い高校である。高校生はこの町に30人ほどいる。今は早朝のためまだ高校に行っておらず子供たちの統率は高校生が中心となって行っていた。


 時刻は回って6時半。まだ時折小さな地震が起きてはいるが沼川町に住んでいる全ての住人が避難を完了しており体育館と校庭には赤ん坊からお年寄りまで全ての人が集まっていた。



 7時になるとずっと小刻みに揺れていた地面は揺れることをやめた。世界各国はこの1時間半の間に地震がどこから来ているか確認した。するとどの国でも驚愕すべき事実が明らかになった。地震はダンジョンを中心として起きていたのだ。なぜダンジョンが地震を起こしていたのか調査しようとしたが調査する時間はなく原因が分からぬまま地震は止まった。


 地震が止まると全世界の住民の頭にどこからともなく声が響いた。


 《ダンジョンの最終調整を開始します》


 

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