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第2章 8 異世界映画鑑賞


   八

  

 変身しての作業。自分自身がミシンなので仕方が無い。

 マスクの目の部分が投写機のように、使えることがわかり、動画を流しつつのながら作業。自分の部屋と同じような感覚で仕事が出来ている。

 今回の衣装は、三時間ほどで完成した。あとは、靴の塗料が乾くのを待つだけだ。

 それにしても、二人とも帰ってくるのが遅い。流石に心配になってくる。

 と、モヤモヤしたまま、リメイク映画のコアラマスクを見ていると、「たっだいま~」とベラ達が部屋に戻ってきた。

 ノック、ノックをだね、するのがマナーじゃないかね? 人生で観た作品を観ることが出来ると言うことは、十八禁の作品も見ることが出来るわけでして……。

 今後、そういう作品を見る際には、部屋のドアに鍵をかけよう。

「おかえり」

 二人は赤ら顔で、しこたま酒を飲んできたことがわかる。

 二人の視線は壁に投写された映像に釘付けになっている。

「何これ⁉」

 かなりの興奮状態。江戸時代の人間が、タイムスリップしてきたかのような反応。ペタペタと、投写された映像の人物に触れようとしている。

 俺は苦笑いしつつ、これが自分の世界の、記録された映像であることを説明した。ついでに、地球にあるテレビなどについても説明する。流石に、ネットや動画にまでなると、理解が追いつかないと思い、テレビの説明に終始した。

 一応、この世界にも写真はあるらしく、そのおかげで、テレビの説明は比較的すんなりと理解された。動く写真という説明。理屈をイマイチ理解していない、文系ならではの、理屈抜きの説明だ。

 二人は、酒場での出来事を説明することなく、映像に見入っていた。

「最初から見るかい?」

「いいの⁉」

「勿論。折角なら、何かつまむ物でも用意したいね」

 すると、いつものドヤ顔で、酒とつまみをテーブルに並べだした。

「お土産よ!」

「って、夜だけで、食べるの三回目じゃない⁉」

 健啖家にも程がある。と言うか、太るって、ソレ。今日作った衣装が、明日切れない可能性すら出てきた。それは流石に困るってば。

 しかし、視聴の前にしてもらうことがあった。

「これ、合わせてもらえる?」

「え、もうできたの?」

「うん。まあ、慣れてるし。そこまで難しい服じゃ無かったからね」

 あと、コアラマスクの機動力がデカい。普通なら、ここまで早くは出来ない。

「ま、着てみる」

 受け取ると、ベラは浴室に消えていく。

 一仕事終えた安堵から、お土産の酒を木製のジョッキに注ぐ。これは、旅の際に外で使うために用意した、自前のジョッキだ。

 酒の種類は、火酒と呼ばれているそうだが、多分、ウイスキーーだ。材料は麦芽らしいが、スコッチと違って、三年縛りなどは無いようだ。ま、概ねはスコッチと言ったところか。

 ダラダラと飲みたいので、水で割って飲む。うん、雑に美味い。個人的に高いウイスキーは、飲むのに姿勢を正してしまい、ちょいと疲れる。が、このくらいのウイスキーなら、適当に飲める。

 酒なんてのは、こういう安酒が良い。

「あら、結構いける口でしたのね?」

「種類は選ぶけどね」

 そういうと、ロズィは、自分の部屋から、自分用のジョッキを持ってきた。

「まだ呑むのかい?」

「ええ。折角、タケルと呑む機会ですから。それとも、女性と呑むのはお嫌いですか?」

「いんや、そんなことは無いよ。というか、基本的に一人で呑んでいたから、新鮮かな」

「ふふ、酔って襲ってしまったら御免なさいね」

「からかわないでくれ。これでも、ショック受けているんだからね」

 そんな話をしていると、着替えを終えた、ベラが戻ってきた。

 髪型はツインテールにしていないし、靴も自前の物のままだ。

「サイズはどうかな?」

「……ピッタリ!」

「いや、腹引っ込めてるでしょ。こりゃ、明日にまた合わせた方が良さそうだね。食べ過ぎだよ」

「うう……」

 酔った赤ら顔を、更に赤らめながらベラは呻く。

 再び、浴室に戻り、着替えてくるベラ。

 戻ってくると、こちらの食べている姿を恨めしげに睨むが、手を伸ばしてくることは無かった。

「じゃ、再生するよ」

 壁に、映画が投写される。

「お~」と三才児のように、感嘆の声を漏らす二人。

 なんとも、ほのぼのとした光景だ。

「観ながらでいいから、新しい情報があったら、教えて欲しいんだけど」

「あ、うん」と、生返事のベラ。

 本当に三才児か! 反応が、テレビを観ている子供そのものだ。

 ロズィは、苦笑しながらも、酒場で得た情報を話してくれた。

「黒っぽいね」

「ええ、黒っぽいですわ」

 互いに納得し、再び酒を口にする。

「今度は、わたくしにもお洋服、作って下さいね」

「ああ、勿論」

 というか、普段使いの服を作っても良いかも知れない。別に、自分はコスプレ衣装しか作れないわけではない。そもそも、普通の服を作るための学校に通っていたのだ。

 九十分の映画を見終えると、ふはぁ~、と興奮バリバリのベラが感想をマシンガントークで放ち始めた。

「あれ、タケルの鎧よね!」

「うん。あれを真似てるんだよ」

「に、二号は居ないの⁉」

「居ないよ」

 居たとしても、地球に居る。

「じゃ、じゃあ、あたしが今着ている衣装の、作品も観ることが出来るの?」

「あ~、うん、出来るけど……」

 この衣装は漫画準拠だ。

 漫画も、投影出来るのだろうか? 親友の家で読んだので、記憶の中にはあるはずだ。

 すると、おやっさんのはからいか、漫画が投影された。再び、興奮気味にベラが作品を見つめている。

「ねえ、この世界に漫画ってあるかい?」

 ロズィは、キョトンとした表情で考え込んだ。そして、「漫画って、なんです?」と質問が返ってきた。

「あ~、紙に書いた物語。今、壁に映し出されている奴」

 この世界の言葉に、吹き出しの中身は翻訳されている。本当に便利。

「無いですね。というか、絵は、写本が難しいですから」

 ああ、そうか。この世界では印刷技術は、それほど発展していないのだ。すると、本の複製は写本に限られる。読めれば良い文字ならともかく、絵がメインな漫画の写本は厳しいだろう。

「こ、こういうことが出来るようになるの⁉」

 屋根から屋根へと飛び移る怪盗ツインテ。最早、素の中学生の身体能力ではない。というか、オリンピック選手でも出来ないだろう運動神経だ。

「そのはず。自分以外のためにコスプレ衣装作るの初めてだから、確信は持ててないけど」

「う~、早く試したいわ。靴が乾かないと駄目なのよね?」

「じゃないと、完成した衣装に、色が付いちゃうからね。我慢してよ」

 クリスマス前の子供のように、わくわくとしたベラを見ていると、思わず頬が緩む。いや、実年齢は高校生のはずなんだけどな。

「今後も、このマスク使っていい?」

「構わないよ。ただ、変身する必要があるから、常にってわけにはいかないかな」

 実は、常に変身していることを考えていた。なんせ、スーツを着ていなければ最弱生物だ。

 が、それはおやっさんに止められた。

 スーツは、着用していないときに、修理されるらしい。常時着用していた場合、劣化し、故障する確率が増すそうだ。

 この世界で、コアラマスクの衣装が壊れるのは致命的だ。それを避けるために、必要なとき以外は着用しない方がいいという結論に至った。

 ま、適度にベラ達に作品を見せるのは構わないだろう。今後、コスプレをしてもらう際に、作品の履修は必要になる。

 幸い、ベラはオタクの素養がありそうだ。ロズィは、それ程でもないが、必要な作品は観てくれるだろう。

 久しぶりの酒かつ、疲れが出たのだろうか。気がつくと意識は、暗闇の中に沈んでいた。

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