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傭兵生活の始まり

ヴォリアン籠城(ろうじょう)

 翌日ケランが言った町はずれの広場へ行くと、20人ほどの荒々しい男たちの一団が既に集まっていた。ケランは男たちに説明を始めた。

「ヴォリアンの連中が戦闘員を集めている。籠城戦で厳しい様子だ。食い物も不足している。行きたい者には城塞(じょうさい)への入り方を教える。入城できるのは5日後の日没までだ。入城後ヴォリアンの役人と直接契約することになる」

 アンドレイを見つけたケランは、彼を指さして続けた。

「そいつは、入団を希望している。ヴォリアンに行くなら味方だ」

 結局、10名ほどがケランの周りに集まり、詳細を聞いた。アンドレイもその中の一人だった。


 ヴォリアンは東の果てにある城壁で囲まれた城市(じょうし)で、二つの対立する勢力の戦場となっていた。アンドレイ達は、さっそく城市の守備を任された。状況は暗澹(あんたん)としており、物資は尽きかけ、住民たちは死に物狂いだった。

 戦いの混乱の中、アンドレイは熟練した戦士たちだけでなく、否応(いやおう)無しに自分たちの家を守る一般市民とも肩を並べて戦った。この包囲戦で、アンドレイは戦争の人間的側面を目の当たりにすることになる。家族が引き裂かれ、子どもたちが崩落寸前の城市で生き延びようとし、彼自身と変わらない年頃の兵士たちが、栄光のためではなく、愛する者のために戦っている姿を見た。

 ある夜、アンドレイと一部の守備隊が西門を守っていたとき、敵が城壁を突破した。アンドレイは守備隊の間にパニックが広がるのを見た。以前彼が逃げ出した戦場で彼を襲った恐怖と同じ恐怖が今彼らを襲っているのが分かった。今回、彼は逃げずにその場に踏みとどまった。それどころか彼は周囲の兵士たちを奮い立たせ、小さなグループを率いて果敢な反撃を行った。そして補強の兵士が到着するまでの間、突破口を(ふさ)ぐことに成功した。都市はさらに一週間耐え抜き、最終的に敵が撤退し、多くの命が救われた。

 アンドレイは、自分が恐怖に直面してもしっかりと持場を守り、直感的に行動し、周りの者を奮い立たせて反撃することができたことに自身驚いた。町の人々が彼や仲間に感謝を述べたとき、彼は金や称号、家柄では決して得られない喜びを感じた。

挿絵(By みてみん)


ストーンブリッジ(とりで)の裏切り

 更に幾つかの戦闘に参加したアンドレイは、その夏ストーンブリッジ砦のダリン卿と契約を結んだ。ダリン卿は隣国のライバルから自分の要塞を守るために、アンドレイと数人の傭兵を雇った。アンドレイと仲間たちは、戦いが激化する中、名誉ある領主とその民を守るために戦っていると信じて、激しく戦った。

 敵が撤退すると、ダリン卿はアンドレイと傭兵たちを砦に招き入れ、勝利を祝った。しかし、(うたげ)の最中、アンドレイが小用に立ったとき、ダリン卿の側近達がひそひそと話をするのを立ち聞きしてしまう。それによると、ダリン卿の真の意図は、なんと傭兵たちを殺して報酬を支払わないつもりなのだった。

 アンドレイはダリン卿と直接対決する代わりに、迅速かつ慎重に行動した。他の傭兵たちに警告して脱出計画を立て、深夜彼らは砦を静かに去った。しかし、アンドレイはダリン卿の裏切りが罰せられないまま終わらないよう画策した。彼は地元の傭兵ネットワークに、ダリン卿の裏切り話を広め、誰もダリン卿のために二度と働かないよう工作した。その後、ダリン卿は孤立し、脆弱な立場に追い込まれていった。

 ストーンブリッジ砦での裏切りは、アンドレイに信頼と人間の本性の暗黒面の苦い教訓を教えた。この出来事以来、彼は仕事を受ける際や人を信頼する際、はるかに慎重になった。それはまた、彼の中で膨らむ騎士道モラルを明白にすることにもなった。彼は権力を乱用する者のための道具にはならないと決意した。



カーヴァ村での疫病との戦い

 アンドレイがカーヴァという小さな村を通った時、そこでは異なる種類の戦いが繰り広げられていた――疫病がその地域を襲い、若者も老人も命を落としていた。アンドレイは近隣の町で仕事を探そうと村を通りかかったのだが、カーヴァの苦しむ人々を目の当たりにして、そのまま通り過ぎることができなくなった。

 村は地元の領主によって隔離され、治療のための外部との出入りが許されていなかった。村人たちは医療も救援も受けられず、ゆっくりと死を待っていた。アンドレイは、村人たちの絶望状態に心が動かされ、彼らを助けることを決意した。彼は、動くことができる村人たちを率いて封鎖を()(くぐ)り治療師がいる近隣の町まで突き進む危険な任務を自身に課した。


 村に密かに潜入したアンドレイは、村人に彼の意図を説明し、動ける人たちを集めた。彼は夜の闇に(まぎ)れて逃げる計画を立てた。兵士たちの交代時間や地形を利用し、彼の忍びの知識を活かして茂みを通って村人たちを導いた。彼らは音を立てず、開けた場所を避け、村人たちがよく知る隠れ道を使って移動した。ある時、彼らは哨兵(しょうへい)に遭遇したが、アンドレイは迅速に対応し、警報を鳴らされる前に彼を制圧した。この緊迫した脱出は、彼らがどれほど危険な状況にあるかを村人たちに強く実感させた。

 隔離を突破した後、次に彼らが直面した障害は、村と最寄りの町を隔てる湿地だった。湿地は危険な生物で(あふ)れており、毒蛇、皮膚を刺す虫の大群、夜活動する獣たちが彼らを待っていた。さらに悪いことに、地面は不安定で、突然足元が崩れて人を飲み込んでしまうような沼地が点在していた。

 アンドレイが先頭に立ち、慎重に村人たちを導いたが、疫病や栄養失調で弱っていた彼らは、ついていくのに苦労した。ある少年が、突然崩れた地面に吸い込まれそうになったが、アンドレイが素早く引き上げたため、間一髪で助かった。が、村人たちは身に迫る危険に動揺した。彼らは絶え間なく皮膚を刺す虫たちに悩まされ、衣服は常に湿って冷え、彼らの体力は消耗していった。年配の村人の一人が寒さと湿気にやられ動けなくなったとき、アンドレイは腹を(くく)ってその老人を背負い、しばらく行路を進んだ。彼を置き去りにすれば死んでしまうことは明白だった。


 湿地を越えた後、彼らが次に直面したのは、村と町の間にある無法地帯だった。アンドレイは傭兵としての経験を活かし、主要な道を避け、森の中の隠れた小道を使ってグループを導いた。しかし、この時間がかかるルートは新たな危険をもたらした。彼らの持っていた物資は限られており、食料が不足し始めた。ある晩、遠くから(さわ)がしい声を上げて馬に乗ってやってくる集団の音が聞こえた。彼らは乱暴な男たちで、襲撃や殺人を躊躇しない略奪者だ。アンドレイは、彼らを振り切ることはできないと判断し、即座に決断して偵察時に見つけていた古い猟師小屋に村人たちを導き入れ、隠れているよう指示した。そして自分は一人で道端に立ち、(おとり)になった。

 略奪者たちがやって来た時、彼らが目にしたのはアンドレイただ一人の姿だったので、簡単に仕留められると踏んで近づいてきた。アンドレイは冷静に対処し、一撃で二人の略奪者を仕留めた。他の者たちは、彼が手向かってきたことに驚き、退散した。

挿絵(By みてみん)

 やっと彼らが町に到着する直前、グループは最後の大きな障害に直面した――町当局が設置した厳重な検問所だ。疫病が広がることを恐れた町当局は、出入り口に警備兵たちを配置して、隔離された村から来た者の入場を禁止していた。兵士たちは、感染の疑いがある者はすべて追い返すか、場合によっては殺す命令を受けていた。

 アンドレイは、力ずくで検問を突破することも密かに侵入することも難しいと判断し、直接警備兵たちと交渉することを決断した。しかし、兵士たちはどうしても入場を許さないため、必死のアンドレイはやむを得ず自分の正体を明かすことにした。父から贈られた剣を見せ、彼はテリシア王国の王ブランニスの息子であることを明かした。彼の中にまだ残っているかもしれない王家の血筋を頼りに、慈悲の名のもとに村人たちを受け入れるよう懇願した。

 最初、警備兵たちはアンドレイを信じなかったが、彼の威厳ある態度と、必死な説得が検問所の隊長を動かし、厳重な隔離措置を遵守(じゅんしゅ)することを条件に何とか入場が許可された。こうして、アンドレイと村人たちはついに町の治療師のもとに辿(たど)り着くことができた。

挿絵(By みてみん)

 この治療師は、疫病治療に()けたことで広く知られていた。彼はアンドレイと村人たちを受け入れ、必要な治療と薬草を提供し、カーヴァ村での疫病の広がりを止める手助けをした。アンドレイと生き残った村人たちは薬草を持って村へ戻り、まだ病に負けず生き延びている人々を救うことができた。アンドレイは、それを見届けて村を去った。

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