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9.転居 3

自宅に帰ってくるなり、女は怖い、でも容子は別だからと修司は言って容子を抱き締めた。


「修司さん、私も場合によっては半殺しにしますからね」


容子の猫パンチ、全然怖くなさそうな容子のファイティングポーズは見てみたい気はする。


「私、今後のために護身術を習いたいです、武術でもいいですよ」

「もうちょっと落ち着いてからで頼む」


姉の凛子のような有段者になる必要はないが、護身術を身につけることは確かに悪くはないと修司も思った。


「とにかく解決して良かった」


それにしても、こんなに続け様に自分の恋人や嫁の身を案じるシチュエーションにばかりなる奴っているのだろうか?


修司は溜め息をついた。


これでひとつ片付いたが、和佳(佐和)のこともスッキリさせて、心置きなく式を挙げたいものだなと修司は思った。


利便性の面から、修司の仕事が落ち着くまでは、このままここで過ごそうということになった。




容子と二人で画廊海霧へ赴き、主人に和佳について知っている限りのことを教えて欲しいと頼んだ。



画廊に飾られている絵のタイトルのみつわ荘とはどこのみつわ荘なのかと尋ねると、「これは架空のものですよ」と答えた。


「架空?」

「モデルは実在していましたが、建物と窓からの景色は写真などを参考にして描いただけでしょう。

実際には当時の和佳も山瀬もみつわ荘には行ってはいないと思います」


「ではこのタイトルは?」


「適当にそれらしく見えるものをつけただけでしょうね」


海霧の主人は池澤弘治といい、和佳とは高校時代に付き合いはじめ、池澤がまだ美大生だった時に結婚をしたのだという。


お互いに恋愛感情はあったが、あれは偽装結婚のようなものだったと語った。


和佳の育った家庭は、父親の女癖の悪さから母親が3回も代わっていた。継母とは折り合いが悪く家を出たがっていた。


更に父親に暴力を振るわれるようになって、家と親から逃げるために、上京していた池澤に山瀬家とは縁を切りたいから結婚してくれと和佳が頼んだのだった。


池澤が大学に通う間、和佳は必死に外で働いた。


そして美大を卒業し池澤が画廊で働くようになって3年ほどが経った時、離婚届だけを残して失踪してしまい、今に至るという。


「書き置きもなく理由がわかりませんでしたが、私が勤め先のオーナーの娘に気に入られて、後を継ぐ婿に入らないかという話が当時持ち上がっていたのです。


もしかすると、和佳はそれを知って身を引いたのかもしれません。


もちろんこれは私の勝手な憶測でしかありませんが」


地元に戻って来た池澤は、身よりの無い山瀬とは元義兄弟として時々面倒を見ているのだとか。



実はあの絵は山瀬が描いたものではなくて、池澤が高校時代に描いたものだと打ち明けた。


山瀬が描いたことにして、店に飾る口実を作っているのだとか。


だからこれは非売品なのですよと池澤は微笑した。

残りあと2話になりました。


読んでくださりありがとうございます。

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