6.呪いふたたび 3
容子は修司へ相談する前に決断した。
今度は素早く警察を頼った。
きっと修司も警察を頼る筈だろうから、修司の負担を減らすためにも迷わず行動した。
呪いのカードを提出し、駅のホームで押されたこと、過去のストーカー被害のことを包み隠さずに話した。
くれぐれも身辺にはお気をつけてと言われるのは同じで、定型文のようなものなのだろう。
迷いや先送り、楽観視が被害や事態を悪化させてしまうことを身を持って痛感した容子は、自分がというよりも、もう修司や他の誰かに不必要な罪や痛みを背負って欲しくないのだ。
今回のこの状態がこの先どう転ぶのかはまだ容子には見当もつかなかったが、取りあえず通報したことでほんの少しホッとしたのは確かだった。
でも、今度は沙羅の時と違い、かなり展開が早いように思う。
呪いのカードが送りつけられるようになってから一週間も経たないうちに、ホームで押されてしまうなんて。
容子はターゲットはやはり自分なんだと思い知った。
明日、修司が帰って来たら全て話そう。
庭の手入れを手短に済ませ、一息つこうと部屋に戻り紅茶を淹れた。
久々にクッキーを焼いたので味見をしていると、レースのカーテン越しに部屋の中を覗こうとしている男の姿が視界に入った。
男は「和佳」と呟くと窓ガラスにへばり付いた。
「ひっ」
容子は凍りついた。
(なんでこんなにホラーテイストなの?)
窓ガラスに張り付いた男は、容子の方を見てまた和佳と叫んだ。
(山瀬さん、この登場の仕方は心臓に悪すぎです······)
容子はカップに紅茶を淹れ、クッキーを添えて縁側に山瀬の分も用意した。
「どうぞ」
家に上げることはできないので、縁側に座布団を敷き、ストーブを近くに寄せて迎えた。
「和佳」
「容子と申します」
「和佳、和佳だろう?」
「和佳さんに似ているとよく言われるのですが、容子なんです、私」
「···和佳じゃ···ないのか?」
「はい、容子です」
「···よ、ようこ」
「はい、なんでしょう、山瀬さん」
「······」
しばらく待っても何も答えないので、取りあえず期待せずに容子は質問してみた。
「海霧に飾ってある絵のモデルは妹さんですか?」
「ああ、妹だ。······腹違いの」
「妹さんとは仲良しだったのですね」
それには答えずに、それきり黙ってしまった。
髪はほぼ白髪で振り乱し歯がボロボロではあるが、衣服は清潔に整えられていた。
(この人も亡き和佳さんを追いかけているのだろうか······)
しばらくすると家の前に車が止まって、中から画廊の主人が降りて来た。
「ここはあなたのお宅だったんですね」
「越して来たばかりなのですが」
「郷愁を感じるような良い佇まいですね」
「ありがとうございます」
山瀬はまた「和佳」と叫び出した。
「山瀬さんもう帰りましょう、義兄さん、しっかりして」
池澤はヨロヨロと足元のおぼつかない山瀬を抱きかかえ、車に乗せようとしている。
「えっ、あの、山瀬さんとはご兄弟なのですか?」
「和佳は、私の元妻です」




