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10.出火

修司との住まいである、みつわ荘を模した八神家が燃えているという連絡を受けたのは、画廊から帰宅する途中のことだった。


修司と容子ははじめ何を言われているのか一瞬理解できなかった。


あの家が燃えているなんて。


気が動転するのを堪えて、修司の運転する車で駆けつけた。


必死の消火作業が行われているのだが、まだ中に人がいるようだと言う声が聞こえてギクリとした。


容子には、山瀬の姿が咄嗟に浮かんだからだ。


容子を和佳と間違えて、留守中にまた訪ねて来たのではないのかと。


それは的中し、徐々に火の回る家の中で「和佳」と呼んで泣きじゃくる男の声が聞こえて来たからだ。


「お兄さん、和佳はここです!早く外に出てください!!」


容子はあらん限りの声で叫んだ。


「和佳はここにいます!!」


容子は呆然とする修司の横で何度もそう叫んだ。


「和佳、和佳···」


山瀬は煙にむせながら泣き叫んでいる。


消防士がようやく山瀬を助けだした。


それをまるで待っていたかのように宵闇に火柱が上がった。


容子はどっと涙が溢れた。


なぜこの家が燃えているのか


なぜ燃え落ちて行くのか



私の、私達のみつわ荘が燃えている······。



修司の方をみやると、修司は放心しながらも静かに泣いていた。


容子は駆けよって、修司の腕を掴んだ。


容子は大丈夫ですかと修司の背をさすりながらむせび泣いた。



なすすべなく、修司と容子の家は焼け落ちた。




ローカル局の火事の速報で、1名死者が出たと誤って報じられてしまい、修司の職場では一時騒然となった。


修司の携帯電話には安否確認メールのラッシュが起きた。


住人(修司達)は転居していたので無事だったと訂正されると皆安心した。



出火の原因は放火だった。


出火当日、呪いのカードを送りつけ容子をホームで押したあの横田美咲の母親が家の付近で目撃されていた。


横田本人は悪質な行為の責任を問われ退職処分、結婚する筈の相手とも破談になった。

「娘を追いつめ傷つけたあの人達が悪いのよ」

という逆恨みから、横田の母親が放火するに至ったと警察から聞かされることになった。


横田母娘は、思考回路と行動が一卵性母娘だった。


立花沙羅の時も容子への本人からの謝罪はなかったが、沙羅の両親は平謝りだったのに対して、横田美咲とその母親は最後まで謝罪の言葉を口にすることはなかった。


しかも、お前達がいけなかったのだから、示談にしろとまで言って来た。


今回は容子も修司も示談には頑として応じなかった。


ただし、容子のストーカーの件を配慮してもらうよう要請し、被害者の実名、住所等は報道されなかった。

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