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39.手紙の真相

この話を書いている間中、ブラッ●メール送信 ずっきゅん な感じの音楽が頭の中で流れてました(懐)

 倉庫に放たれた炎はスタンバイしていた魔術師団の面々にあっという間に消し止められました。ザマスコッチ子爵は元々魔法の才能なんてないお人――普段放火のときには、幼くてまだ分別のつかない魔法使いを実行犯にしていたのがその理由です。


 それでも、彼が負った火傷はなかなかのものらしく、倉庫から運び出された今もウンウン痛そうに唸っています。救護魔法を使えばいくらか痛みは和らぐのですか、誰も助けようとはいたしません。まあ、捜査当局に引き渡されたあとに治療を受けられるでしょうし、わたしは知ったこっちゃありません。



「お疲れ様、クラルテ」



 ハルト様と一緒に倉庫の外に出ると、プレヤさんから声をかけられました。

 彼です。彼こそが今回の謀の首謀者です。



「プレヤさん! 上手くいった、といって大丈夫でしょうか?」


「もちろん、上出来だよ。本当に無事で良かった……と! ハルト、危ない! 危ないから!」


「それで? 一体、なにがどうして、こういうことになったんですか? さっきから『あとで説明する』の一点張りで、俺は気が狂いそうだったんですよ!?」



 ハルト様がプレヤさんに詰め寄ります。予想はしておりましたけど、この間事情をまったく説明してもらえてなかったみたいです。気の毒なハルト様……思わず彼の頭を撫でてしまいます。



「どこから話せばいいのやら……正直、クラルテがザマスコッチに言って聞かせたことがすべてなんだけど」



 今回、プレヤさんは倉庫のなかに『目』と『耳』となる魔法を多数仕込んでおりました。つまり、わたくしとザマスコッチ子爵の会話はハルト様たちに筒抜けだったわけです。

 これなら現行犯逮捕に加え、証拠もバッチリ押さえたことになるので、言い逃れは絶対にできません。逃がすつもり、ありませんしね!



「俺が聞きたいのは、どうして! クラルテがこんな役回りをすることになったのかってことなんです!」



ハルト様が怒ります。こんなときになんですが、ちょっぴり嬉しいです。本気で心配してくださってたんですね……。



「だって、クラルテったらザマスコッチから保険の勧誘を受けたって言うし。おまけに口説かれかけたって言うからさ。この状況を使わない手はないなぁって思って」


「だからってこんなこと! クラルテが危ない目にあうじゃないですか!」


「そう言うと思ったから、おまえには内緒にしてたんだよ。ね、クラルテ」



 あっ、このタイミングでこっちに話を振っちゃいます? 矛先こっちに変えちゃいます? まったく、プレヤさんはなかなかに酷い人です。


 とはいえ、ハルト様も怒りで興奮していらっしゃいますし、このへんで一つ落ち着いていただかなくてはなりません。



「……わたくし、一刻も早く犯人を捕まえたかったんです。ハルト様との平穏無事な結婚生活のために」



 言えば、ハルト様はムッとした表情で頬をほんのりと赤らめます。繋いだ手のひらにギュッと力がこもりました。……よかった。少しだけ落ち着いてくださったみたいです。



「ハルトは猪突猛進型だからな。ザマスコッチのことを伝えたら証拠が不十分な状態でも突撃しかねないと思った」


「うっ……」



 ごめんなさい。こればかりはわたくしもプレヤさんに同感です。もちろん、そんなハルト様の融通のきかないところ、わたくしは大好きなんですけどね。



「それで、俺には内緒でクラルテにザマスコッチと手紙のやりとりをさせてたんですか? やつをおびき寄せるために?」


「はい残念、不正解。おまえ、さっきクラルテが言ってたことをちゃんと聞いてなかったな?」


「そんな、正直あのときはザマスコッチへの怒りでいっぱいいっぱいで、詳細まで聞きとれませんでしたよ」


「まあそうだろうな。大変だったんだぞ、クラルテ。ハルトを抑え込むのに僕たちがどれほど苦労したか、君にも見せてやりたかったよ」



 プレヤさんはそう言ってケラケラと笑っていらっしゃいます。わたくしはハルト様にギュッと抱きつきました。



「ハルト様、わたくしは名前を貸しただけなんです。……あっ、手紙の清書はしましたけど。文面を考えたのはわたくしじゃありません」


「じゃあ、一体誰が」


「僕に決まってるだろう?」



 ドヤ顔を浮かべつつ、プレヤさんはご自身を指さしました。ハルト様は呆然と目を見開きつつ、プレヤさんのことを凝視していらっしゃいます。



「え……?」


「僕が。クラルテの名前を借りて手紙を書いていたんだよ。まあ、あいつはクラルテのことをよく知らないし、文字は紛れもなくクラルテのものだったし、ナルシストで女好きの浮気男って性格が幸いして、騙すのはすごく簡単だったよ。もしも相手がハルトだったら、絶対に引っかかってくれなかっただろうからな」


「当然です! ハルト様は真面目で誠実な最高の男性ですもの。他の女性から手紙が来たところで、返事を書いたり、いそいそと会いに行ったりしませんよ!」



 ムッとしつつプレヤさんをにらみつけたら「ごめんごめん」と軽く返事をされました。



「……じゃあ、家に届いたザマスコッチからの手紙は?」


「使用人たちにお願いして、わたくしの部屋からプレヤさんの執務室に直接転送をしていました。そちらのほうが早いですし、わたくしはあんまり関わりたくなかったので。一応子爵からなんて手紙が来たかは確認しておりましたけれども」



 数日前、侍女からハルト様に手紙を見られたことは報告を受けておりましたけど、まさか送り主の名前まで見られているとは。なるほど……ようやく合点がいきました。



「……ハルト様ったら、だから様子がおかしかったんですね? わたくしが浮気をしていると思ったんですか? ザマスコッチ子爵と?」


「…………」



 あっ、お返事がありません。これはガチで勘違いしていらっしゃった感じですね。


 だけど、事情をちっとも聞かされていなかったのですし、当然かもしれません。わたくしがハルト様の立場だったら、絶対絶対嫌ですしね。



「わたくし、ハルト様一筋ですよ」


「うん」


「めちゃくちゃ愛してますよ」


「うん」



 ああ、ハルト様が拗ねてます。多分ですけど、すでに状況は理解できているし、納得もしているのでしょう。それでも、心で飲み込めないことってありますものね。



「……それだけわたくしを愛してくださってるってことでしょうか?」



 おっといけない。心の声が漏れてしまいました。

 ハルト様はほんのりと目を見開き、それからわたくしのことを両手でギュッと抱きしめます。一瞬だけ見えた彼の顔は今にも泣き出しそうで。愛しさのあまり、わたくしも涙が込み上げてきます。



「うん」



 耳元で囁かれる先ほどとまったく同じお返事。けれど、この二文字からハルト様の想いが痛いほど伝わってきます。



「……だったら、一生手放さないでくださいね」


「当たり前だ。クラルテなしの人生なんて俺にはもう考えられない」



 ああ、本当に、わたくしの婚約者様はなんて愛おしいのでしょう。チュッと触れるだけのキスをして、わたくしたちは笑い合うのでした。



 


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