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愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!  作者: 鈴宮(すずみや)
【3章】攻守交代……のはずが、ハルトのターンが終わらない
27/41

27.と、わたくしの婚約者様が申しておりますので

 月日が経つのは早いもので、夜会の日はあっというまにやって来ました。

 わたくしはこれまた気合を入れまくり、今日という日に備えました。


 だってだって、夜会ですよ! 貴族の社交場ですよ! 今夜を堺に、わたくしはたくさんの貴族たちに『ハルト様の婚約者』だって認識してもらえるわけです。

 噂好きな奥様方は、こぞってわたくしたちの婚約話をしてくださることでしょうし、今夜出席していないご婦人方にも、あっという間に噂が広がります。つまり、今後わたくしのハルト様を狙う女性は排除できるって寸法です! 既成事実って大事ですよね!



「クラルテ、準備は――」



 部屋にお迎えに来てくださったハルト様が、わたくしを見て言葉を失いました。これです! この反応を待ってました! 狙い通りの反応に、正直ニマニマが止まりません。



「どうですか? 似合ってます?」



 むしろ似合っていると言ってほしい――そんなふうに圧を送っていると、ハルト様は真っ赤に頬を染めながら、わたくしのことを抱きしめました。



「ビックリした……似合ってる。すごく可愛い。本当に、可愛い」



 つむじにすりすりと頬ずりをされ、頬には触れるだけの口づけを。……すっごく嬉しいけど、その分だけ恥ずかしいです! 逃げ出そうともがくのに、ハルト様が全然放してくださいません。全身が熱くて、心臓がドキドキして、なんともたまらない気分です。



「困ったな……誰にも見せたくない」


「ハルト様ったら」



 ハルト様はわたくしの肩口に顔を埋め、熱い吐息を吐き出します。あっ、これは割とマジなやつですね。ハルト様、冗談で言ってない。わたくしは彼をそっと抱き返しました。



「せっかくおめかししたんで、他の人にも見ていただきたいです! というか、わたくしはハルト様と夜会デートがしたい! みんなに『ハルト様はわたくしの婚約者なんですよ!』って自慢して回りたいので、連れて行っていただかないと困ります。ずっとずっとわたくしの夢だったんですから」


「夢?」



 キョトンと目を丸くして、ハルト様が尋ねてきます。大きくうなずいてから、わたくしはハルト様の頬に手を伸ばしました。



「わたくし、友人たちがパートナーと一緒に夜会に出席するのを見ながら、羨ましいなぁって思ってたんですよね。ほら、アカデミーでも半期に一度は夜会を開いているでしょう? ダンスだってたくさん練習したのに、一度も披露できていませんし」


「一度も? ……それじゃあ、誰からも誘いを受けなかったのか? クラルテが?」



 そんなまさか、とつぶやきつつ、ハルト様はわたくしを見つめます。



「お誘いは受けてましたよ。だけど、最初のダンスはハルト様がいいからってことで、全部お断りしてきました。ねえハルト様、わたくしってめちゃくちゃ一途な女でしょう?」



 えへへと笑って見せれば、ハルト様は感極まった様子で、わたくしのことを抱きしめます。



「――やっぱり、独り占めしたらダメ?」


「ダメです」



 苦笑しつつ、わたくしはハルト様の頬に口づけるのでした。



***



 さて、夜会会場にはすでにたくさんの貴族たちが集まっていました。魔術師団関連の顔見知りもまあまあいますが、商会関係の方々は普段接する機会がないので、はじめましての方も多いです。



 入場してすぐに、わたくしたちはプレヤさんを見つけました。妖艶な美しい女性と並んでおしゃべりをしています。女性のほうはわたくしたちに微笑みかけると、すぐに別の場所に移動していきました。



「ハルト! クラルテも。お揃いだね」



 プレヤさんはそう言って、わたくしの手をとり膝をおります。次いで唇が近づいてきましたが、すぐにハルト様が阻止しました。



「……挨拶ぐらいしてもいいだろう?」


「ダメです。というか、挨拶ならすでにしましたよね」


「ハルト、こういうときにはその場に即した大人の貴族の挨拶ってものが」


「ダメです」



 ハルト様はそう言って、わたくしとプレヤさんの間に入ります。普段よりもちょっぴり過保護ですし、警戒心が強いようです。思わず苦笑してしまいました。



「改めまして、こんばんは、プレヤさん」


「クラルテ〜〜、今の見た? 聞いた? こんな独占欲強い旦那で本当にいいの? こいつ、結構束縛するタイプみたいだよ?」



 プレヤさんはそう言いながら、ニヤニヤと笑っていらっしゃいます。どうやらハルト様をからかって遊びたいみたいです。わたくしにも一緒に煽ってほしいようですが、わたくしはハルト様の味方ですから! 意地悪なんていたしません。



「えーー? わたくしは束縛、どんとこいですよ。だって、わたくしが他の男性と一緒にいるときにハルト様に平気な顔をされていたら嫌ですもん」



 嫉妬も束縛も大歓迎。正直わたくしは、簡単に手放せるような安い存在にはなりたくありません。決闘してでも奪い取りたいと思えるような女になりたいのです。


 ……認めましょう。わたくしも独占欲が強いんですよ。


 だって、こういう場ですから。もしかしたらハルト様の元婚約者も来るかもしれないなぁって。今夜はちょっとだけ意識しちゃってます。

 そんでもって、わたくしのことはロザリンデさんみたいに手放してほしくないなあって。そういう遠回しなアピールだったりします。ハルト様が気づいてくださるかはわかりませんけど。



「クラルテが他の男と? まさか。そんなこと、俺が許すはずがない」



 ハルト様はわたくしを抱き寄せつつ、チラチラと周囲に視線を送りました。いわゆる牽制というもののようです。そういえば以前、夜会でそういうことをしたいっておっしゃってましたものね! なんだかむず痒い気持ちです。



「ホント、人間って変われば変わるもんだよね。以前のハルトは誘ってもなかなか夜会に来なかったし、婚約者をエスコートしている姿だって想像できなかったし、こんなふうに独占欲丸出しになるなんて……僕は夢にも思わなかったよ」



 プレヤさんはこらえきれず声を上げて笑いながら、ハルト様の肩をポンと叩きます。



「それじゃあ二人とも、またあとで。……あっ、そうだ。クラルテ、僕と一曲踊ってよ! ハルトのあとでいいからさ」



 と、プレヤさんがわたくしに手を差し出してきました。



「ダメです。クラルテが踊っていいのは俺だけですから」



 コンマ1秒。わたくしが返事をするまもなく断りを入れるハルト様の姿に、わたくしたちは思わず顔を見合わせます。



「……と、わたくしの婚約者様が申しておりますので」



 苦笑交じりの微笑み。プレヤさんはわたくしの返事にアハハと笑い転げました。



「仕方がない。独占欲強めな婚約者様に免じて、今夜のところは諦めるよ」


「……なに言ってるんですか。今夜だけじゃありませんよ。この先ずっと、クラルテが踊っていいのは俺だけです」



 ハルト様は至極真剣な顔つきで、そんなことを言い返します。



(ああ……本当に、わたくしの婚約者様はなんて可愛くて愛しいんでしょう!)



 ハルト様の腕を抱きしめながら、わたくしは満面の笑みを浮かべるのでした。


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