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17.決戦準備は入念に

 さてさて、そうして迎えた次の休日。わたくしにとっては決戦の日です。


 わたくしはかつてないほどの気合に満ちておりました。当然です。せっかく旦那様に誘っていただいたんですもの。彼を落とすための千載一遇のチャンスです。むしろ、今日決めなかったらいつ決めるの!? って感じでしょう?



 そんなわけで、デートの準備は旦那様にお誘いいただいた当日からはじまりました。


 旦那様の好みを改めてリサーチし(情報源は当然プレヤさんです)、今日のための可愛いドレスを選びつつ、お肌のコンディションを内側からも外側からも整えます。

 お化粧品やアクセサリーなんかも新調しましたし、ヘアアレンジも色々と調べ、試しました。正直、時間は何時間あっても足りません。


 前日は早々とベッドに入りましたし、朝は日が昇る前に起きだしまして、いよいよ戦闘スタートです。



(いざっ!)



 鏡の前に座って、深呼吸をひとつ。入念にスキンケアとマッサージ、それから笑顔の練習をします。



(旦那様がついつい触りたくなるようなお肌に仕上がりますように……! 少しでも可愛いと思ってもらえますように……!)



 ナチュラルに見えるように……けれどしっかりとメイクをしていきます。

 旦那様はあまり匂いのきつい化粧品を好みませんので、香料少なめのものを選びました。臭いと思われたら嫌ですからね。結構重要なポイントです。


 眉毛を整えてから、目が大きく見えるようにアイメイクをします。わたくしは童顔ですし、旦那様はわたくしの七つ年上ですから、本当は大人っぽく見えるようなお化粧をしたいところ――なのですが、旦那様はそれも好まないらしいです。



『ハルトはさ、セクシーかキュートかの二択なら、迷わずキュートを選ぶタイプだよ』



 旦那様との付き合いが長いプレヤさんが言うことですからね。間違いありません! 

 なので、わたくしは潔く背伸びするのをやめました。――いえ、やれと言われたところでできる気がしないんですけれども。



 さてさて、キュートの定義というのがなかなかに難しい気がするのですが、プレヤさん曰く『自然体が一番いい』んだそうです。なので、アイシャドウとチークは色味が強くないものを選びました。



 だけど、口紅だけは別です。

 だって、選ぶときに店員さんから『これを使ったら男性がキスしたくなる』って触れこまれてしまったんですもの! 是非ともあやかりたい――試さない手はない、と思うじゃありませんか?



(どうでしょう? ちゃんと可愛くなっているのでしょうか?)



 あまりにも早朝すぎるため、侍女たちにはまだ眠ってもらっています。だけど、自分以外の誰かの感想が聞きたくてウズウズしてきました……! 

 最終的には旦那様に気に入っていただけなければ意味がないってわかっているんですけれども、今日という日に賭けているわたくしとしては、いわば最重要ポイントだと思うのです。



 それにしても、好きな人のためを想ってするオシャレというのは、本当に楽しいなぁと思います。


 元々オシャレは好きですし、流行にも真っ先に飛びつくミーハーなタイプではあります。だけど、これまで出席したどんな夜会よりも、お出かけよりも、今日が一番気合が入っていますし、心がウキウキと弾むのです。



(これまでは、夜会に出席しても、遠くから旦那様を眺めるだけでしたからね……)



 もちろん、少しでも目に留まるよう必死で研究や対策をしましたし(結果は惨敗ですが)、めちゃくちゃ気合は入ってました。


 だけど、旦那様は今日、絶対にわたくしのことを見てくださる。わたくしの時間がほしいと言ってくださったんですもの。これまでとは訳が違います。わたくしにとっては最高で特別な一日です。



「おはようございます、クラルテ様」

「まあ……! 今日はまた一段と……素敵ですね!」



 あれこれチェックしているうちに、いつも起き出す時間になっていました。ヘアアレンジや着替えを手伝うため、侍女たちが部屋にやってきます。



「そうでしょう! めちゃくちゃ気合を入れて用意しましたからね!」



 良かった、本当はちょっぴり不安だったのですが、太鼓判を押されたので強気になれます! 『今日のわたくしは特別可愛い』――旦那様にもこの方向で攻めるつもりです。



「それじゃあ、打ち合わせのとおりにお願いしますね」


「はい、かしこまりました」



 侍女たちが力強く請け負ってくれたので、わたくしは安心しておまかせします。



 髪は下のほうでゆるくまとめることにしました。

 これにはちゃんとした理由があります。なにか――旦那様が最近わたくしの頭をよく撫でてくださるからなんです!

 


 きっちり綺麗に結い上げると、旦那様の理性が働きそうだなぁって。手が動かなくなるような気がしましたので……少しぐらい乱しても問題ない感じの(けれど気合が入っているとわかる)髪型がいいなぁと。たくさん撫でていただきたい、撫でたくなるような本能に訴えかける可愛い髪型にしたいと選びました。



「それにしても、いつ見ても、クラルテ様の髪の毛は綺麗ですわね」


「もちろん! 時間もお金もしっかりかけて、めちゃくちゃケアしてますからね! 植物由来の香油とか、はちみつ入りのシャンプーとか! 自分にあうものがどれか色々と試してきましたし、髪の毛を綺麗にしてくれる食品を食べて内側からもケアしてますし!」


「努力家ですね……」


「すべては旦那様の愛情を勝ち取るためですから! 当然ですよ!」



 正直、わたくしには努力をしているという感覚はありません。全部自分が心からしたいと思うことですし、ものすごく楽しんでやっています。努力といえば努力なのかもしれませんが、まったくもって苦には感じません。



「届くといいですね」



 侍女たちがそう言って微笑みます。すごく温かく、勇気づけられる――そんな笑顔です。



「うん。しっかり届けてきます」



 決意を胸に、鏡の前の自分ともう一度向き合います。よし! と大きくうなずいてから、わたくしは旦那様の部屋に向かうべく、立ち上がるのでした。


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