9:二人で紬ぐ未来
父である公爵に事実を確認したのち、アンドレは王城のルートの部屋に突撃した。
止める使用人たちを振り払い、続き間からルートの部屋に飛び込むと、部屋の真ん中に座り込み虚ろな表情でアンドレを見上げるルートと目があった。
「ルート殿下!?」
銀水晶の瞳からポロリと雫がこぼれ落ちるのを見て、アンドレの心臓は甘く締め付けられた。
ルートはどれほどの重責を抱え込んでいたのだろうか。父親である侯爵から彼女の出生の秘密を聞き、他人事とは思えなくなった。
「全員、下がりなさい」
「ですが……」
「下がりなさいっ!」
アンドレの一段低く大きな声に、使用人たちが慌てて頭を下げ部屋から出て行く。
それをしっかりと確認すると、ルートの目の前に座って彼女の手をそっと握った。
「ルート殿下」
「……っ?」
アンドレから聞こえる低い囁やき声。それはまるで男性のような低さだった。
「殿下。どうか、怯えないで下さい。どうか、泣かないでください」
「っ…………泣いていない! 王太子がっ………………泣いてなどっ」
「殿下、大丈夫ですから」
アンドレの湖面を揺らすような低く穏やかな声は、ルートの閉じ籠もりかけていた心を優しく包み込んだ。
「父から話は聞きました。結婚、しましょう。私が殿下を支えます。二人でなら、きっと乗り越えられます」
「…………でも、貴女の未来は? 貴女が将来抱けるかもしれない子供は?」
ルートはどこまでもアンドレの事を考えていた。そしてアンドレもルートの事を考えていた。
アンドレは自身の事を気にかけてくれるルートをいじらしく思うと同時に心配にもなった。
――――庇護欲、というものだろうか?
握りしめた手を解いた瞬間、ルートの顔が一瞬強張った。
それはあまりにも可愛らしく、良くもまぁ今までバレなかったものだと心底思ったのだが、自分も触れる瞬間まで気付かなかったのだから、案外バレないのかもしれない。
「ルート殿下、私にもひとつ、大きな秘密があります」
アンドレが両手でルートの頬を包み込み、ゆっくりと顔を近付けていく。
柔らかな唇が触れ合い、重なり、割り開き、深まる。
「……んっ」
「ルート殿下、私は男だ」
「へ? んぶっ!?」
唇を少し離して爆弾を投下したあと、アンドレはまた唇を重ねた。
何度も何度も重ねながら、更に爆弾を投下する。
「子供は、貴女が産んでくれ」
「へっ!? んっ……」
「きっと、貴女にそっくりな可愛らしい子になるだろう。二人で紬いで行こう」
――――二人で、未来を紬ぐ。
アンドレのその言葉は、凍り付いていたルートの心と表情までも溶かしていった。
頬を染めて柔らかな笑顔のルートは、今なら誰が見ても少女だと思うだろう。
これは、厳重に隠しておかねばならないなと、アンドレは固く決意した。
「アンドレ……嬢?」
「はい……?」
ルートは『嬢』と付けたものの、アンドレは『はい』と返事したものの、事実を知った今は違和感でしかなく、妙に笑いが込み上げてきた。
「っ、はははは!」
「あははは!」
ひとしきり笑いあったあと、ルートが立ち上がり、アンドレに手を差し伸べた。
アンドレはそれに応えて目の前に立ったのだが、今度はルートが床に膝をついた。
「アンドレ嬢、どうか貴方の人生を私に縛り付けることをお許しください。その代わりと言ってはなんですが、一生愛し続けます。貴方と紬ぐ未来を、私は見たい」
「っ…………それは……私の役目では?」
膝をつきプロポーズすること、それは男の役目であるはずだ。そうアンドレが言いたいのは理解できた。
「私は王太子だから、ね?」
「っ! くそっ、格好良いな……変な扉が開きそうだ」
ルートは、王太子である。
それは誰にも覆させない。
「では、私は王太子妃として、いつまでも側に」
「ははっ! 私も変な扉が開きそうだ」
二人はくすくすとわらいながら、何度も何度も唇を重ねた。
◇◇◇◇◇
ルートは膨らんたお腹を擦りながら、二人の出逢いを思い出していた。
今は王太子妃が妊娠したということにし、信頼のおける侍女二人だけを連れて辺境の別荘に籠もっている。
理由としては、王太子妃の体調があまり良くないので、空気のいい場所で長期療養する、というものだ。当の王太子妃本人は元気になぜか筋トレをしているが。
「あ……動いた!」
「え、ほんと? 触る触る!」
初めは令嬢と婚約破棄したいと願っていたのに。
婚約者が女装令息だった、なんて物語みたいなオチがあるとは思ってもみなかったな、とルートは笑う。
二人で紬ぐ未来は、明るい。
―― fin ――
はい、ということで完結です☆
短期集中連載。というか、昨日から自転車操業で書きまくってました。
久しぶりに真面目に三人称。なかなか疲れたぁ。
また何かの作品でお会いできることを願って。
笛路
あ、ブクマや評価とうしていただけますと、笛路が喜び踊り狂いますヽ(=´▽`=)ノ♪




