7:アンドレ、勘付く
アンドレは焦っていた。
食べかけのクッキーをルートが食べたことも驚きだったが、ルートがクッキーを差し出しながら微笑んでいるのだ。
ドコドコと鳴り響く心臓の音を無視しながら、クッキーを喰む。すると、またもや残りのクッキーをルートが食べるのだ。頬を染めながら。
――――くそぉ。
なぜだか分からないが、今すぐ押し倒して唇を重ねたい。そう本能的に思ってしまった。
初めての感覚に、思考が追いつかない。
混乱を治めるためにアンドレはガンガンとお茶を飲んでいた。そのせいで尿意が襲ってきた。
「ちょっと、お花を摘みにいってまいります」
「あぁ」
ルートが先に立ち上がり、アンドレをエスコートする。そこまでは順調だった。
アンドレが一歩踏み出した瞬間、ガゼボのテーブルに勢いよく足を引っ掛けてしまい、ルートに体当たりをするような形になってしまった。
ルートは慌てて抱きとめたものの、二人一緒に倒れてしまった。
何たる失態だ、王太子殿下に怪我をさせてしまったかもしれない。そう思いながらアンドレが起き上がろうとした時だった。
「んっ……」
ルートの胸に置いた手に感じる弾力に違和感を覚え、何度か揉みしだいてしまった。
するとルートの顔が何故か真っ赤になったうえに、微かに漏れた吐息が妙に艶かしかった。
「ししししししつれい、いたしましたっ! 本日はこれでお暇させていただきますっ!」
アンドレは、全速力で馬車へと向かった――――。
――――何なんだアレ!
手のひらに残る柔らかくて暖かくて、なんとも言えない弾力。
アンドレがワキワキと指を動かしながら、あの感触を思い出していると、侍女に心配するなと言われた。
王太子は絶対にアンドレに惚れているから、あんなことでは怒らないだろうと。
傍からだと、不敬罪に怯える令嬢のように見えていたのだ。
――――違うそうじゃない。
問題はそんなことではない。
あれは、自分にはないもの。
男同士のはずなのに、違う感触。
アンドレは屋敷に帰り着くと、すぐさま父親の執務室へと駆け込んだ。
「この婚約は両家が納得して結んだんだ…………ですわよね!?」
「お? おお。すまない、アンドレと二人きりにしてくれ」
父親が使用人たちに命じて下がらせている僅かな間も、アンドレにはとてつもなく長い時間に感じ、足先をタンタンと鳴らし続けていた。




