1:王太子、ルート
レンブリッヒ国王と王妃は、国を揺るがすほどの秘密を抱えていた。
病弱な王妃には、子供はもう望めない。
側妃を迎えるなどの手もありはするが、王は様々な理由から首を縦に振ることはなかった。
そのため、唯一の子供であるルートを王太子に据えた。
本来であれば、据えることが出来ない子を。
ルートは幼い頃から、気を張って生き続けていた。
誰にも弱みを見せず、全てを完璧に。
そのおかげで、『氷柱の王子』という通り名がつけられてしまった。
銀に近い水色の髪と瞳も、それを助長していた。
「ルート、婚約者が決まった」
「――――はい?」
ルートが十九歳になったこの日、国王から告げられた言葉に、ルートは初めてにも近い焦りを覚えた。
「お前もいい年齢だ。そろそろ伴侶を得た方がいい」
「それはそうでしょうが…………」
一体どちらの意味でなのか、とルートは本気で戸惑った。
令嬢と白い結婚をしろと言いたいのか。
女に戻れと言いたいのか――――。
◆◇◆◇◆
男子しか継ぐことの出来ない王位。
生まれたのは女児。
王と王妃は国のため、国民を騙すことに決めた。
一部の老獪な貴族院の議員たちは、外面だけは良く治世など一切する気がない王弟とその息子の扱いやすさに目を付けた。
二人の王位継承権の固定を何度も議題に挙げられていた。
歪な笑顔で、『国の存続のため』と唱えるのだ。
それは、王妃が懐妊するまで続いた。
だからこその性別詐称。
王と王妃は様々な取り決めをした。ルートが本当に嫌がったのなら、国民に全てをさらけ出すつもりでいた。
最初の転機は十歳。
初潮が始まる前に真実を告げると決めていたのだ。
両親からの説明を聞き、ルートは今までの違和感に納得し、受け入れた。二人の想いを、幼さの残る身に抱え込んだ。
「私がこの国を支えます」
「すまない」
この日、王は初めて涙を流した。
幼い子供に背負わせていい運命だったのか、この選択は正しいものだったのか、未だに分からない。
ただ、真摯に応えてくれた我が子への申し訳無さと感謝で、心臓が締め付けられた。
ルートは、そんな父の姿を見て更に心に固く誓う。
自分は一生男であり続け、この国を支える柱となり、国民を護る者なのだと。
◇◆◇◆◇
だからこそ、ルートは困惑したのだった。
「相手のご令嬢にはなんと?」
「……両家で取り決めをした。向こうは乗り気だ」
「私抜きでですか」
ルートの声に落胆したものが混じる。
自分のことなのに、国の未来に関係するのに、相談してもらえなかった。
「相談せずに決めたことは、すまないと思っている。だが、これはどちらにも利点がある。とにかく、アンドレ嬢との婚約は決定だ」
「…………承知しました」
悔しさと落胆がルートの心を蝕むのだった。
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