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超克☆ライダー!  作者: 三角谷偽女
一章 「狂ってライダー!~変身~」
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7話「追う者たち」


 あらゆる組織はそれ単独では成立しない。当然、軍隊の成立にも様々な協力者が必要となる。

 兵士が大人数で動くとなれば略奪相手ないし従軍商人たちがいなければ途端に飢えてしまうし、武具の整備や人員の補充はその組織が母体とする共同体(コミュニティ)無しには立ち行かない。魔族たちもこの例に漏れず、管理しきれない諸部族には名誉と報酬をちらつかせることで戦争に協力させ、そこで緩やかな連帯を保っていた。


 武門崩れの私設暴力団『(こう)(りゅう)愚連隊(ぐれんたい)』もその一つ。鱗竜族(ドラゴニュート)のみで構成された彼らは人間たちの村々を焼き払い、奪い取った物資や現地の情報を土産に尖兵(せんぺい)の役割を果たしていた。

 頭目の命じるままに暴れ回る彼らはヤクザ者とそう変わりは無い。主だった数名を除けば、規律と訓練によって磨かれた正規の魔族軍には数段劣る弱兵たちばかりである。しかし、彼らにはたった一つだけ他に類を見ない特徴を備えていた。

 その特徴とは―――


 「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 「ひぃぃぃぃぃッ!?」


 ―頭目が生粋の加虐主義(サディスト)であること。壁上から蹴飛ばされた男が地面へ激突。堀の高低差に人体が耐えられるはずも無く、鈍い音を響かせながら命が散った。

 辺りでむせ返るのは血の匂い―堀底には既にいくつもの死体が積み重なっており、壁上で()()生きている人々もこれから待ち受ける未来を思ってうつむいている。

 捕らえた捕虜を一人一人土壁から身投げさせているのだ。


 「お、お願いします…!あなた方に忠誠を誓います、一生逆らいませんっ、同じ人間とだって戦います…!!だからぁ…だからお願いします、どうか殺さないで…っ!!」


 「や~だね、そらっ!」


 「う“わ”あ“あ”あ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“!?」


 真紅色の鱗竜族(ドラゴニュート)にして紅竜愚連隊の長―ヒルドラは人間を突き落とし、その無様を見てゲラゲラと笑う。

 彼にとって弱者をいたぶることは勝利の証であり、最高の娯楽であった。


 「わぁーーっ!!」


 「うん?」


 死を前にした重圧に耐えきれなくなったのか、それとも単に発狂したのか、座らされていた男が突如走り出して自らを堀中へと投げ出した。どうせ殺されるなら死ぬ瞬間だけでも己の意思で選びたかったのだろう。

 ―だがその望みは果たされない。


 「…!?」


 彼は地面も何もない空間で落下を止められると―つまり空中で完全に”静止”すると―強風に運ばれて元居た場所まで押し戻されてしまった。

 ―高精度の風魔法。


 「戻りなさい」


 「あっ……」


 ヒルドラの後ろで控えていた青色のトカゲ―彼女が冷徹に肩を叩く。

 身投げに失敗した男はよろよろと力無く戻ると、そのままペタリと座り込んでしまった。


 「あーあ…やっちゃったんだァ」


 「ヒィ…ッ!?」


 怒気を含んだ声で肩を組んでくるヒルドラ。筋骨隆々の彼に挟まれただけで男は息が止まりそうになる。


 「投降したんだからお前らの命は俺のものなの。どう使うかは俺が決める。それをねぇ、自殺して勝手に無くしちゃおうだなんて…キミ、こりゃ泥棒と一緒だよ?」


 「あ…あっ…あぁ…!」


 「謝れや、土下座しろ。やれよ、聞こえねぇのか?聞こえねぇのか。オイ!!!」


 「うぎぃぃぃぃぃーッ!!?」


 ヒルドラは男の頭をつかむと、そのまま腰関節の曲がる“逆側”にへし折ってしまった。男は海老反りを畳んだような姿勢で悲鳴をあげる。


 ―だが男は死んでいない。否、死ぬことをヒルドラに許可されていない!

 ヒルドラは回復魔術を発動して、彼の怪我を死なない程度のものに抑えてしまったのだ。


 「ヒッヒャヒャヒャッ!!人間の体って生きたまま何回まで折れるのかなぁ?!」


 回復術士にとって生殺与奪は思いのまま。ヒルドラは男の体を力任せに折り曲げ、その度に死なない程度に回復していく。

 1回、2回、3回…関節を無視して折り曲げられ続けた男はやがて人体の原型を残さず、ただ奇声を発するだけの丸い肉塊へと変じていった。


 「このヒルドラ様は愛してるんだぜぇ?お前ら人間をだぁ。テメェらの悲鳴を聞いた日にゃあよく寝れるからなぁ…!ヒッヒャヒャヒャヒャ……ゲーヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」


 ボールのような肉塊を思い切り踏み込み―そこから吹き出した返り血が、ヒルドラを元の赤よりさらに紅く濡らす。

 ―彼は幸福の絶頂を感じた。


 「若」


 先ほど風魔法を行使した青トカゲが―名をユリアという―急ぎ走って来た部下から何かを耳打ち受け、話しかけてくる。


 「なんだ、俺の遊びを邪魔するな」


 「別隊からの報告です。三番隊の副隊長カーピブが戦死しました」


 「あん?死んだ…あのオカマがか?」


 「はい。昨日の時点で未帰還だったので斥候(せっこう)を放ったところ、向かわせた地域は既に人間の軍勢に占拠され、中にあった物資も運ばれる最中だったとのことです。その中にはカーピブが愛用していた曲刀や赤鎧も含まれていたようで…」


 「……」


 思案顔でヒルドラは“おもちゃ“を地面へ叩きつける。球状になっていた彼は即死。

 だが蛮行はそれで止まらない。死体をグニグニと足で弄んで人体を冒涜し続ける。


 (…死んだ、ねぇ)


 カーピブは彼が持つ配下の中で最強という訳では無かったが、それでも上位の実力を持つ優秀な戦士であった。特に彼のしぶとさ―再生能力は鱗竜族(ドラゴニュート)の中でも突出していたから、任務を失敗することはあっても死ぬことはないだろうと踏んで潜入させたのだ。

 そんな戦士が死んだという―これは尋常の出来事ではない。報告の横で聞き耳を立てていた部下たちは、小声ながらもコソコソと騒ぎ始めている。


 「他にも改造体と思わしき男が人間共に回収されたようです。こちらは現在も捕捉しており、今は人間の拠点内にいる模様」


 「……へぇ」


 改造体―この単語の意味はいささかの説明を要する。

 ことの発端は2年前、魔族連合が人間領へ攻め入ってしばらくのこと。緒戦を圧勝して沸き立つ彼らであったが、その勢いを削ぐようなある事件が起きた。突如軍を構成していた一部の魔族たちが失踪(しっそう)したのだ。それも一人や二人でない、小隊単位の失踪が。


 事件の当初、魔族連合の実質的な指導者である将軍たちはこれを脱走と判断して事件を隠蔽(いんぺい)。人類との戦争を続けていく上で部隊単位の逃亡者が出たと知られればあまりに風聞(ふうぶん)が悪く、兵たちの間に事実が広がれば士気を下げかねないと判断したのだ。

 ―しかし、意外なことに失踪した彼らはすぐに見つかった。ただし敵として。


 「青髪の眼帯女が金色(こんじき)褒賞(ほうしょう)と大粒魔結晶五つ、改造体の生け捕りが一体につき勲章(くんしょう)一つか魔結晶三つと交換…だったか?」


 「はい、若。交換レートはそれで間違いないかと」


 ―見つかった魔族はその全てが人間と掛け合わせるようにして改造されていた。

 大鬼族(オーガ)の腕を生やした者、翼女族(ハーピー)の羽を移植された者、山岳馬人(ケンタウリヤ)の足を付けられた者…理性が残っている者や残っていない者、魔物としての原型をとどめている者やとどめていない者、改造の度合いはまちまちであったが、そのどれもが接触すればほとんど見境なく襲い掛かってきた。

 この謎の事件は各地で頻発(ひんぱつ)し、魔族たちは転戦する先々で戦友や同族の面影を残すこの改造体(キメラ)と戦うことに苦しんだ。

 強者揃いの魔族をどうやって誘拐しているのか、いかなる技術で改造しているのか、そもそも首謀者は誰で、その目的は一体何なのか。その全ては謎だった。


 こうした正体の分からない出来事ほど兵を不安がらせるものはない。難儀した将軍たちはこの事件を解明するために見つかった改造体に懸賞金を掛けて情報を収集。結果、一つの結論にまで辿り着いた。

 ―それは改造体が見つかる近辺では高い確率でとある女が出没するということ。青い長髪で、眼帯をしている、老人口調の妙な女。その女について分かっていることはとんでもなく手練れの魔術師であり、未知で強力な魔術をたやすく使ってくるということだけだった。

 将軍たちは彼女が事件の真相を握っていると見て、青髪の女と改造体を指名手配して各地の魔族たちへ通達。褒賞を付けてこれらの捜査と捕獲を命じた。


 「ユリア、実際のところ改造体なんてものを作ってる奴が青髪一人だけで収まると思うか?」


 「…分かりません。改造体が人間たちと争っていた事例もあると聞きますし、彼らも一枚岩ではないのでしょう。ですが、事件の規模から考えても青髪の後ろには大勢の人間が関わっていると考えるのが普通ではないでしょうか」


 「だよなぁ…てことは組織的な活動だ。そうなると後から来て改造体を回収した軍勢ってのが怪しい」


 「確かめますか?」


 「ああ、野郎共に準備をさせておけ」


 「了解しました」


 数十体の魔物をさらい改造するような行為が、なんの協力や支援も無しに行えると考える方が不自然。青髪個人は大きな組織を構成する一人の実行犯であり、その出所を暴けば莫大な功績に繋がると考えたのだ。

 元々独自で青髪の足取りを追って『ある施設に青髪が頻繁(ひんぱん)に出入りしている』という情報をつかんだり、カーピブをそこへ向かわせていたのも(ひとえ)にヒルドラの功名心故である。目標の得た魔族たちがせわしなく動き出していく。


 「ま、待ってくださいよヒルドラ様ぁ…別にこれ以上欲をかかなくたっていいじゃありませんか」


 「あ?」


 後ろで控えていた別の魔族が口を挟む。


 「たかが人間とはいえ軍隊と戦うだなんて俺たちにゃ荷が重すぎますよ。戦争なんて真面目な連中に任せて、俺らは影で物をブン捕っていればいいじゃありませんか。大体もう十分生活が成り立つだけの稼ぎはしたんだ、これからはもっと後方で…「バーーーカ!!!」「あぁっ?!」


 そこでヒルドラは彼の後頭部を殴打。垂れ下がった頭を踏み潰し、狼狽する部下を叱咤(しった)する。


 「タコ将軍も言ってただろ?向上心の無ぇ奴ァ馬鹿なんだよ!!俺は出世したいから軍隊の真似事をやってるんだぜっ!?目の前で手柄がウロウロしてんだからこれをつかみに行かねーのはオカシイだろーがぁぁぁッ!!!」


 錯乱したそれを人間と同じように堀へ突き落とし、炎魔術を起動。右手から作り出した極大の炎―それはカーピブが口から吐いた曲芸紛いのちゃちな炎ではない。触れる石鉄が溶けだすほどの巨大な火柱―が投げつけられ、数十の死体を焼き尽くす。


 「出世街道こそ男の花道!俺の邪魔する奴ァどこの誰だろうがブッ殺してやるぜ!!ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 元の鱗や赤い鎧以上に、彼は常に返り血を帯びて紅く染まっている。それは争っている人族の血でもあったし、彼に従わない同族の血でもある。

 ヒルドラが“紅竜”と渾名(あだな)を受けた所以(ゆえん)であった。



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