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超克☆ライダー!  作者: 三角谷偽女
一章 「狂ってライダー!~変身~」
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4話「初めての…」


 「わっ、わっ、トカゲ男!」


 「そんなことを言うあなたはさしずめカマキリ男ねぇ」


 階段を登ってやって来た彼は全身にウロコを張り巡らせたトカゲ顔の男。腰には二振りの曲剣を吊る下げ、赤い具足を身に着けていることから戦うことを生業とした戦士であることがわかる。―着込んでいる鎧は何故かボロボロだったが。


 「紅竜愚連隊、三番隊副隊長カーピブ…参る!」


 言うが早いかトカゲ男は腰の剣を抜いていきなり襲い掛かる姿勢を見せるではないか!「わあーっ!待った待った!!」俺は両手をあげて静止を求める。


 「何?名乗りぐらいなら聞いてあげるけど…」


 「そうじゃなくて!話が通じるならわざわざ争う必要は無いじゃないですか。私は訳も分からずここにいるだけで、別に貴方を害する気はさらさらありませんよ!」


 見るからに武人然としていて強そうなこの男とは戦いたくなかった。ひょっとしたらこの家の家主なのだろうか?だとしたら壁を穴だらけにしたことを怒っているのかな…。


 「あたしの家来を殺しておいて今更何言ってるの」


 そういうトカゲ男の視線はネズミたちの死骸(しがい)に移っている。

 えっ、このネズミたちと仲間だったの?明らかに種族が違うのに…。


 「フンッ!!」


 「ひょえ!」


 鋭い踏み込みから突き出された剣をギリギリで(かわ)す。強烈な死の予感に背筋が凍った。


 「(むし)も混じってるようだけどあなたからは人間の匂いがするし、あたしは魔族。戦う理由はそれで充分。それにその姿、その身体能力はあの女の作品である何よりの証……」


 「あの女って誰ーっ!?」


 横払いの剣戟を後ろ跳びで避ける。容赦の無い攻撃から相手が本気であることが伝わってきた。


 「…知らない訳がないでしょう?青い長髪で眼帯をしている女のことよぉ」


 「知らないものは知らねぇよ!こちとら自分の素性すら思い出せていないんだ、他人の事なんて分かるもんか!!」


 「なに…?ああ、そういうこと」


 そこでトカゲ男はなにか得心いったという表情。


 「あなたは異世界人なのねェ。異界の人がこの世界に召喚される時には必ず記憶を無くしてから来るから…きっとそれで消えちゃったんでしょ。かわいそ」


 (なんか重要そうなこと言ってるけど、命の危険が迫ってる時にポンポン言われてもよく分からねぇよ!!)


 右手に意識を集中―先程まで練習していた鎌飛ばしをするために狙いを定める。


 「やりたくねぇけど死にたくねぇからお前を倒す!」


 「―む」


 カーピブと名乗ったトカゲ男が身を構える。だが目にも止まらぬ速さで射出するこの攻撃は見てからでは避けられまい―!


 「くたばれッ」


 俺が右手の鎌を発射―しかしカーピブは屈むような一動作のみでそれを躱すと、一気に距離を詰めてくる。


 「なっ―ゲハァッ!?」


 すれ違いざまに胸を横一文字に斬られる―斬られた箇所が焼けるように熱くなり、呼吸することもままならなくなる。

 ―苦痛と激痛で頭がおかしくなりそうだった。


 「む、刃が通らない。頑丈な奴……」


 斬られた衝撃で硬直する俺。それをあざ笑うかのようにトカゲ男の影はあっという間に後ろへ回り込んでもう一閃―――気が付けば俺は(ヒザ)から崩れ落ちていて、何が起こったのかさえ分からない。


 「あっ…が…ひぅ…!」


 足に力を込めるが立ち上がれない。痛む足首の辺りを見ると、パックリと裂けて骨が見えている。


 「あ…足が!俺の足が…ッ!!」


 「足の腱を切ったわ。あなたはもう満足に歩くことも、誰かの手を借りずに立つこともままならない。立派な不能者よぉ」


 「こ…のおッ!」


 振り向き際に左手の鎌を発射するが、首をわずかに動かすだけで避けられた。

 豪速の鎌は虚しく後ろの天井を突き破る。


 「な、何で当たらない…っ!?」


 「だってそれ真っすぐにしか飛ばないじゃない。飛ばす腕の向きを見て、射線さえ見切ればどこに攻撃が来るかなんて一目瞭然(りょうぜん)…簡単に躱せるわぁ」


 退屈そうな顔でそう言いながら蹴りの姿勢―衝撃。

 先程斬られた箇所の装甲が割れ、みぞおちに強烈な質量がそのまま襲い掛かってきて―


 「ごっ…オエエエェェェ…ッ!!!」


 胃液を()き散らしながら地面にのたうつ。もはや痛みで体のコントロールすらままならない。更にカーピブは俺の頭をつかみあげ、口に手を突っ込んで舌を引っ張り出す。


 「舌よ、舌を見せてみなさい」


 「あがっ…!」


 何かを確認しているようだがその真意は分からない。「よし、今度は大丈夫そうね」口の中を一べつすると、額を突き合わせて問いかけてくる。


 「一応聞くけど、青髪で眼帯をしている老人口調の女のこと…本当に知らないのよね?本当に記憶が無いのよね?」


 「…っぁ、……ぁぇ?」


 「この世界に来てからどれくらいが経つの?いつ、どんな場所で目を覚ましたの?あの女はどうやって私たち魔族をさらっているの?犯人はあの女一人だけなの?その真意は一体どこにあるの?」


 「……」


 質問の意図も意味も分からない。それにさっきの蹴りで俺の意識は朦朧(もうろう)としていて何も答えることができなかった。


 「……ちぇ、後でゆっくりと尋問してあげるわ。えぇと…何か縛るようなものは……」


 無言が何かを隠すための黙秘だと思ったのだろう。俺を床に投げ捨てると、そのまま歩き出すトカゲ男の背が見えて―――ふと、腹が立つ。


 (ぶっ殺してやる)


 こちらを無視するようなその態度、勝ち誇ったような背中が気に食わない。

 俺は遠くなった意識を殺意で強引に塗りつぶし、無理やりに体を起こす。


 「―むっ」


 渾身(こんしん)の力で右手の鎌を再度発射。が、俺の放った鎌はトカゲ男が避けるまでもなく、遥か後方へと通り過ぎていく―――


 「一体どこを狙って……えっ!?」


 突如鳴り響く爆音と部屋を揺るがす振動。

 俺の放った鎌がトカゲ男のさらに後ろ―部屋隅に建っていた石柱の台座に直撃したのだ。


 「ぬおおおおおおっ!?」


 かねてより壁と天井に穴を開けられていた部屋の一角が倒壊。トカゲ男に瓦礫(がれき)が降り注いでいく―――!


「―――」


 トカゲ男の顔に初めて浮かぶ驚愕の表情。飛び込むようにして瓦礫を躱していくが、後方に落下した破片の一つが彼の尻尾を巻き込む。

 尻尾が挟まれた形となり、とたんに動きを鈍らせるトカゲ男。


 「―ッ!!」


 千載一遇の好機!

 少しでも気を抜けば激痛で意識を手放しそうな最中、俺はこのままでは終われないという反骨心だけで狙いをつけて―左手の鎌を発射した。


 「ぉぉぉ…う“お“お”お“お”お“ッ!!!」


 殺意が一条の直線を描く。

 研ぎ澄まされた意識がわずかな時間をスローモーションのように感じさせ、敵の状態と自分の攻撃をはっきりと知覚する。


 (これなら当たる…!)


 鎌が伸びて敵の眼前に迫る。動きが制限されている状態でトカゲ男がこれを回避するのは不可能のはず。狙いは心臓のある左胸につけているため逸らすような動きも間に合うまい。そう思い勝利を確信した瞬間―


 ―トカゲ男は自らの尻尾を切り落として拘束から抜け出した。


 「なっ?!」


 胸を貫く筈だった左鎌が通り過ぎて壁に突き刺さる。会心の一撃が外れたのだ。


 「……」


 「今の攻撃は中々よかったわよ」


 気が付けば影を落とす敵の姿。トカゲ男の掌底(しょうてい)が俺の顎下(あごした)を撃ち抜く―


 俺の意識は今度こそ失われた。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 「ざっとこんなものね」


 鱗竜族(ドラゴニュート)の戦士、カーピブはそう言って荷物をまとめ終わる。ここは人間たちの勢力圏であるため、限られた時間でこの施設の全てを綿密に調査することは不可能。重要そうな資料だけを持ち帰るつもりでいた。


「しっかし、まさか改造体を生け捕りに出来るなんて…ラッキー♪」


 先程気絶させ、今は縛り上げている鎌男のことだ。

 かねてより続出している魔族の誘拐、改造事件の手がかりを見つけることは将軍(トップ)から直々に発せられている大命であった。『指名手配(青髪)』こそ見つけられなかったが、その作品である彼を持って帰ればそれだけで大手柄になる。

 ただ、一人でこの男を運ぶのはいかにも重労働。斥候役(せっこうやく)のネズミたちも死んでしまったし、隠密性を優先して少人数で任されたことが裏目に出てしまった。

 これをどうやって1人で運ぶべきか、考えを巡らせるために鎌男を見て―


 「…んっ?」


 そこで鎌男がドス黒く変色していることに気が付いた。



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