16話「始まりの終わり」
「ええと…つまり魔族を口に入れると、その魔族の能力を使えるようになる…ということですか?」
「たぶんそういうことかと思います」
翌日、陣内まで魔族が侵入していたことで大騒ぎになり、それを俺が倒したということで二重の大騒ぎになった。
事件の経緯を説明するためにイレーネとレオナにかくかくしかじか報告して今に至る。
「本当かお前、聖典鎧でも能力を奪える力なんて聞いたことが無いぞ」
「ホントですよ、ほら」
変身して透明化を使ってみる。
残念ながら倒したカメレオンほど完璧な透明にはなれないが、止まっていれば分かりづらい保護色ぐらいには体を透けさせることができた。
「うおっ…気味が悪いな」
「ひどい…」
「でもこれは凄いことですよ。歴史上最強と名高い聖典鎧は数あれど、成長できる鎧なんて初めて知りました」
イレーネは興味があるのかしげしげと俺の体を見ては興味深そうにしている。
可愛い女の子にジロジロ見られていると悪い気はしないが、少しだけ恥ずかしい。
「確かに…我が国の戦力としては有効ですな。よしお前、これから魔族の死骸をジャンジャン持ってくるからガンガン食べろ」
「嫌です…」
「あ“?」
「強くなれるからって等身大のトカゲやネズミを食べたいかっていう話ですよ!!そんなの食べてお腹を壊したらどうするんですか!!!」
「お前さっき私のことを命の恩人だとかなんだとか言ってたじゃないか!言うことを聞かんか!!」
「それとこれとでは話が別ですよ!あ、あと私魔族を食べてからチョットだけ記憶が戻ったので知っているんですが、キチンと処理や保存をしていない腐肉を食べることには大変なリスクがあってぇ……」
「…記憶が戻った?本当ですかシラオ」
「わっ!」
身を乗り出してくるイレーネに驚いてしまう。近い。
「以前にも話しましたが、本来異世界人が失った記憶を取りも戻すことはあり得ないはず。どうやって思い出したのか詳しく聞かせて下さい」
「え、えっとですね…なんか魔族を食べた直後にお腹の辺りが熱くなっていって、それから頭の中で鍵が開くようなカシャンって音が響いたのです。それから幾つかの記憶が脳に流れ込んできまして……」
「サッパリ分からん」
そう言って口を尖らすレオナ。しょーがないでしょ感覚的なものなんだから。俺だってよく分からんもの。
「だが上手くいけば異世界の知識や技術が得られるチャンスかもしれん。よし、お前には何としてでも魔族を食いまくってもらうぞ!!」
「ぐわーーーっ!?片手で持ち上げられたァー!!?人間じゃない!もうコイツが一種のメスゴリラ魔族だろおおおぉぉぉ!!!」
「あらら…レオナ、無理強いをしてはいけませんよ」
その後兵士に儀式の準備が終わったことを告げられるまで、俺たちは三人で騒いでいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「汝―その身を以て何とする。その身を以て何を為す」
「我、一振りの劔なり。この一身、御身を守護する一振りの劔なり」
―まだ梢から白露が落ちきらない時分、陣幕の一角で人の群が集まっている。
周囲には簡易ながら香が焚かれ、不思議な匂いが届くとそれを嗅いだ者から心を落ち着かせていく。この儀礼には少なからず信仰を伴った神聖さが要求されるが故、神妙であれと語ったのは主君イレーネである。
「劔の本懐は薙ぐのみに非ず。忠誠と、礼節と、愛を知らねば聖は成らず。」
「心に刻み、誉とします」
俺は彼女の前でひざまずきながら頭上より発せられる問いを聞き、応える。
一振りの剣を握ったイレーネが所作を済ませ、儀式はつつがなく進んでいく―。
「神を崇めては四方を守り、末席を赦されたくば引く勿れ―聖典の座にて汝、魂魄へと刻む銘を何とする?」
「―――」
彼女が最後の文言を唱える。言葉の意味は『あなたは何のために戦うの?』という問いだ。
この問いだけはあらかじめ何を言うか決められていた今までとは違い、問われた側が本心を思うままに答えなければいけないらしい。
ここであけすけな答えや欲望を返しても問題にはされず、むしろ秘めた想いをありのまま伝えることが尊ばれるとかなんとか。
俺は本心を隠さず、ふと胸に浮かんだ想いをそのまま言葉にする。
「私は…自分が何者であるのかが知りたい。記憶を取り戻し、己が何者なのかを知りたく思います」
「―よろしい。いと高きに御座す神界が序列、その末席に加わるべきものをここに認め給う―――」
振り返った彼女が天に向かって剣を掲げ、叫ぶ。
「汝に三大神と七精霊の祝福あれかし!」
「「「汝に三大神と七精霊の祝福あれかし!」」」
周囲の人々も復唱―これで自他共に臣従が認められたのだ。
「おめでとうシラオ。略式ではありますが、これで今日から正式な臣下です」
「ありがとうございます」
―異世界に来て記憶を無くし早数日。
まだまだ分からないことだらけだけど、自分の居場所のような場所をこうして見つけられたのは幸運ではないだろうか。
(まずは…ここで生きてみよう)
俺はどこか浮き立つような気持ちを感じながら、この新世界を生きる決心をしたのだった。
「さて、国境沿いの魔族も一掃できたことですし、これでようやく内乱を終わらせに行けますね。さぁ!向こうで鎮圧軍に加わりましょう!!」
「はい!……ゑ?」
…内乱?
俺たちの敵って魔族だけじゃなかったの?
―2章へ続く―
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