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2 氷巫女

 2 氷巫女(こおりみこ



 陽炎は失意に駆られていた。今世での家族を二人も一度に亡くした。

 到底、容認できることではない。折角、転生したのにこの仕打ちはあんまりだった。

 目の前の少女……氷巫女と言われていた少女は陽炎の存在に気付くと、

 驚いたような表情を一瞬だけ浮かべ、またすぐに無表情に戻った。

 何で陽炎に驚いたのかは皆目見当がつかない。まさか、転生者だと気付かれる筈もない。


「陽炎様と言うのですね。貴方様の今世での名前……大事にして下さい」


 氷巫女はアッサリと陽炎が転生者だと見抜いた。陽炎は驚き戸惑う。

 少女の全てを見透かすような眼は成程……極めて理知的で神々しい。


「氷巫女、俺が転生者だと何故分かった?」


 陽炎は警戒しながら、氷巫女に恐る恐る尋ねる。氷巫女は微笑し、相好を崩す。


「そこまで警戒しなくても大丈夫ですよ。私は貴方様の味方。

 私は貴方様をお慕いしています。今世での貴方様の人生をお支えします」


 氷巫女は優雅に一礼して述べた。この少女は所作が洗練されていて美しいと陽炎は思った。

 破壊の使徒を容易に退かせる確かな実力。そして陽炎を転生者だと見抜いている。

 そこまで全知全能ならば、息絶えた今世での家族を蘇らせるのも造作もないかもしれない。

 陽炎は氷巫女に縋っても良いとさえ思った。自分はこの少女に惹かれている。


「陽炎様……死人を蘇らせる術は禁忌とされています。

 ですが、家族を亡くされた辛さは計り知れないでしょう。

 しかし、それは貴方様の元いた世界でも同じこと。世界が違ってもそれは同じことです」


 対話を重ねる内、どうやら氷巫女が心を読む力を持っている事がハッキリと分かった。

 氷巫女は手に持っていた杖を掲げると淡い光が、降り注ぎ、惨劇の場である広間を浄化した。

 陽炎の意を汲み、奇麗に弔ってくれたのだ。陽炎の心に深い感謝の念が押し寄せた。


「いずれ、惨状を聞きつけた衛兵がやってくるでしょう。

 なれど、お互いに話したいことが色々あるみたいですね。それならば『時間停止』」


 再び、氷巫女は杖を振るい、魔力を放出させた。時が止まったかのような静寂が辺りを包む。

 時間停止と言う奴であろうか。氷巫女は大抵の事は何でもできるらしい。


「何でも質問をどうぞ?」


 氷巫女は陽炎の為にわざわざ質問タイムを作ってくれた。さっきから至れり尽くせりである。

 自分が、この少女に好意を持たれていることに陽炎は素直に嬉しかった。


「君が俺をこの世界に転生させたのか?」


「いいえ、陽炎様を転生させたのは私ではありません。

 本来、転生できる者は持ち得る魂のレベルが高次元で無くてはなりません。

 陽炎様は転生するに相応しい魂をお持ちなのです。

 そして、陽炎様が記憶持ちで転生したのは一種のバグのようなもの……。

 記憶を持って転生することは極めて稀です。陽炎様が特別なのです」


 氷巫女は陽炎の質問に理路整然と的確に述べる。一体、彼女は何者なのであろうか。


「……分かった。次の質問。俺の元いた世界を君は知っているのか?」


 重要な質問だ。氷巫女が、陽炎の……三村隆景がいた世界をどれだけ把握しているのか。

 それ次第によって、この少女の力を測ることが出来る。果たしてどこまで知っているのか。


「勿論、存じております。陽炎様……いや、三村隆景様の世界。

 地球と言う惑星ですね。陽炎様が日本人である事、

 そして、異世界に興味を持たれていたことも存じております。

 しかし、これだけは伝えておかなければなりません。悲しい事実です」


 氷巫女は無表情を作る。一瞬だけ、氷巫女の表情が強張るのを陽炎は気付いた。

 しかし、それが何なのかは皆目見当がつかない。


「何が言いたい……?」


 陽炎は不安な気持ちに駆られる。悲しい事実と言うのは何を指しているのだろう。

 ゴクリと生唾を飲み込み、氷巫女の返答を待つ。


「陽炎様の元いた世界は滅びてしまいました。陽炎様が転生した五年後の事です」


「滅びた……だと? 何で? 何処かの国が核兵器でも使ったのか?」


「いえ、核兵器ではありません……余り多くは言えませんが、大魔王コールドの存在……」


「大魔王コールド? 何者だ?」


「その正体を知れば貴方様は大きく驚く事でしょう。陽炎様が知るべきことではありません。

 良いではありませんか? 陽炎様はこの世界に転生したのです。この世界の事を考えるべきです。

 それに陽炎様が元の世界に愛着が無いことぐらい分かりますよ」


 氷巫女ははぐらかして、優しい声音を吐いているのに陽炎は気付いた。

 しかし、それは彼女が、陽炎の身を案じての事だと信じて疑わない。

 彼女は……氷巫女は陽炎の全てを理解してくれている。元の世界で行われた仕打ちも知っている。

 陽炎は氷巫女が、自分に好意を持っているのを信じるしかない。彼女が自分を裏切る筈が無いのだ。


「これだけは聞きたい。君は一体何者か? 何故、君は俺にここまで好意を持っている?」


 一番聞きたかった質問だ。何故、氷巫女は自分を贔屓しているのか。

 何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。猜疑心が強いのは転生しても治らないようだ。


「それは言えません。でも、私は陽炎様にとても興味を持ちましたよ。

 ここまで人間に興味を持ったのは軽く千年ぶりでしょうか。

 私は氷巫女。このコールドアースの象徴です。陽炎様、またお会いしましょう。

 その前に一つ。貴方様は剣士としての才をお持ちです。良い師匠に着けば一流の剣士となるでしょう。

 私の配下の剣士を一人寄越します。気難しい者ですが、その実力は折り紙付きです。

 それでは名残惜しいですが、一先ずお別れです」


「また会えるのか?」


「いつでも会えますよ。貴方様の危機には必ず駆け付けます。

 私が初めてお慕いした人ですから」


 氷巫女はクスクスと微笑し、それだけ言うとフッと気配を消して、その場を去っていった。

 暫く経った後、惨劇の場である広間に衛兵たちが、駆け付けて、事なきを得た。

最強の存在の登場です。

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