プロローグ 現代世界に別れを告げて
初投稿です。
何年も前に書いた小説を投稿します。完結保障です。
プロローグ 現代世界に別れを告げて
三村隆景は極めて凡庸ながら、あらゆる物事に興味を示し、中途半端な知識を身に着けていた。
広く浅く知識を求道する者なのだ。隆景は普段はショッピングモールなどの商業施設で働いていた。
夜まで仕事に没頭し、大都会の片隅を往来する。しかし、隆景は鬱屈としていた。
退屈な日常に辟易としていた。求道者を名乗る自分には現代世界は詰まらな過ぎる。
そして隆景自身の能力の成長限界値の低さ。どれだけ研鑽を積んでも話にならない。
また、隆景は時折、思考停止状態に陥る。何も頭の中で浮かばないのである。
何の才覚も無い、ただ興味の幅が広いだけの無能……それが三村隆景の周囲の評価である。
その為、誰も隆景を評価しない。周囲を圧倒する才覚が欠如していた。
「俺には何の才覚も無い……」
うっすらと涙すら浮かべ、独り言をぶつぶつ呟きながら、三村は例えようのない怒りを押し殺していた。
青年期に入り、無能な自分にも嫌気が差していた。今年22歳になって、
隆景は人間皆平等と言う言葉が嘘だと言うのに最近気づいた
最近、巷で流行っている異世界転生の小説を息抜きに暇さえあれば読み続けていた。
仕事の帰り道、隆景は異世界転生の小説を片手に読みながら夜道を歩いていた。
隆景が、器用にページをめくりながら、横断歩道を渡ろうとしたその時だった。
酒に酔った運転手が運転する大型トラックが、暴走し、さながら巨象が蟻を踏み潰すかの如く、
往来する人々を曳いている。隆景は奥底に眠る正義感に駆られ、咄嗟に飛び出し、
迅速な動きで逃げ惑う人々を逃がそうとする。お蔭で、犠牲者は少なかった。
隆景の行いが、多くの人々を救ったのだ。後に隆景は英雄だと持て囃されるのだが。
彼の知らぬところだった。その勇気は比類なきもの……隆景の正義感は尋常ではない。
しかし、その代償は果てしなく計り知れないものだった。一人、横断歩道に取り残された隆景は、
大型トラックに勢いよく弾き飛ばされた。その刹那――走馬灯のこれまでの出来事が蘇る。
才覚の無い自分に絶望する自分。自分を見捨てた親に対する悲しみ。学生時代の悪質な苛め。
いい思い出が何一つない……救われたい。隆景は心底から思った。
そうした思いが暫し逡巡し、隆景は呆気なく現代世界に別れを告げた。
話の間隔が短いですが、よろしくお願いします。