三月の美術品
初の連載小説です。趣味みたいなものですので、続くかはわかりません。続けれるよう努力いたします
「今日の天気は、雨のち晴れるでしょう」
三月の中旬、少し暖かくなってきた外を歩きながらそのような事を言ってる僕の幼馴染の 月島 ねむ 彼女の言葉に呆れながら、隣を歩く僕、佐々木 藍
「ねむちゃん、今 雨すら降ってないけど、それよりも!ミケちゃん!トミさんのお宅の!猫の!ミケちゃん!捜すんだよね!?」
そんな話を聞いてるのか、ねむちゃんは白い息を はー とだす
「そう、カッカなさるなよ、我が友よ。安心するがよい、猫の活動範囲は限られている。しかも飼い猫だ。野良ネコと出会わないように移動するに決まってる。しかも、この寒さだ。暖かくなってきたからといって、しばらく出ていても…」
そういいながら、また はー と息をだす
「そう、だけど、さ。腰の悪いトミさんの代わりだからさ、早く見つけてあげないと。それに来月からは中三なんだら、中高一貫で、受験勉強は無いにしてもね…ってねむちゃん?どうしたの?」
「見つけた」
「えっ!?」
その視線には道路を挟んで向かい側にある、小さな公園を見つめてベンチに座る若い男の人が猫のミケちゃんだと思わしき猫を膝の上にのせていた
「お前さん。飼い猫かぁ。だから、人懐っこいんだなぁ。かわいいなぁ」
公園のベンチに座っている青年は猫を撫でながら言っていた
少し茶髪の男の人は僕らと歳が近そうに見える ねむちゃんと僕が近づいてくるのを見て、ニコっと笑って
「あの。その。猫なんですが」
僕がハラハラしながら青年に声をかけたら
「あ!この猫ちゃんの飼い主さんっすか。よかったなぁ。お前さん!飼い主さん来たぞ!」
青年は猫を抱き上げ顔を近づけて嬉しそうに言う
「あ、はい。そうです。あ~。よかったぁ」
僕は安心して、青年から猫を預かる
「お兄さん。お悩みありますね」
ねむちゃんが突然そんな事を言って寒そうにしながら、ジャンバーのポケットに手を突っ込こんだ
「え!?な、悩み!??うーん。あるように見える?」
青年はまるで心の中を見られたように動揺し、誤魔化すように笑う
「私には丸見えなんですよ。何かに悩み苦しむ姿が。月島 ねむ」
ねむちゃんは自分の名前を言うと青年の隣に無理やり座った
「冷た」
「ち、ちょっと!?ねむちゃん!?」
猫を抱きながら 僕は動揺を隠せずにいたがねむちゃんが面倒くさそうに僕に言ってきた
「んじゃ、休憩ってことで、藍 あんたも座れ。私は疲れた。ほら、反対側空いてるだろ」
「えっ!?えぇ。で、でもぉ」
「いいよ。座りなよ」
戸惑う僕に対し、青年は場所を少し空けて促してきた
「にしても、悩みかぁ。ん?月島?きみ、さっき月島 ねむ って言った?」
「言った」
「うん?どうかされました?」
ねむちゃんの名前が知られているということはこの人は同じ学校の人、でも顔はあまり見たことがないな、じゃあ、年上かな と僕の考えを遮るように、隣に座っている学校の先輩らしきひとは大きな声をだした
「まって、どっかで、その名前を聞いた気がするんだけど……あぁ!!きみ!去年の文化祭で中学二年の代表作品だして特別賞取った子!!だよね!!」
思い出したようにその先輩は言ったが反射的に僕はねむちゃんに問い詰めたのだ。だってそんな話聞いてないんだから、ねむちゃんは自由人だからフラフラと何処かに行くことはあったが賞をとるような作品作りに時間があったようには思えないからだ
「はぁ?ち、ちょっと待って!去年!??ねむちゃん!なにやってるの!?去年は文化祭の実行委員だったよね?どこにそんな時間が…ってしかも特別賞?そんな、どうやってやってたの!?」
「暇だったから」
僕の問い詰めに対しねむちゃんは即座に答えた
「だって、ほとんどの仕事 藍 がやってたじゃんか、私が作品を出すこと自体知っててやってくれてたのではないのか?」
と続けて言ってきたが、僕の知ってる限りではそんなことなかったと思うんだ、ねむちゃんに仕事を押し付けられたと僕は認識しているのでだから僕の言うことは決まっている
「そんな事聞いてないよ?ねむちゃん」
「そっかぁ。だって聞かれてないからな」
やっぱり、僕の見立ては合っていたようだ。ねむちゃんは僕の隣で作品を制作していたのだ
与えられてた仕事を僕と一緒にやってるというねむちゃんなりの認識の仕方だ。それに僕は気づかなかったいや、気づけなかった。ごく自然に、僕の隣で、絵を描いていたのだから
「ところで、あの絵の制作時間はどのくらい?絵具使ってないって聞いたからさ」
青年はねむちゃんの方を向き、聞いてきた。そういえば絵具とか使ってなかったなと僕も思い出す。ねむちゃんは少し考えように上を向き、僕と青年を交互に見てから言った
「あー。放課後の時間にちょっとづつやってたからなんとも。そうっすね。絵具とか画材は一切使ってないね。シャーペンとか色鉛筆とか……あ、クレヨンやクーピーも使ったかな?覚えてないや」
「え!?使ってないの?俺含めてみんな水彩とか油絵とかなのに。なにか使ってるかとてっきり」
ねむちゃんの回答は青年にとって求めているものではなくて驚きが隠せないようだった
「作品を、絵を描くのに、そんな普通じゃつまらないと思ってたんで。たぶん…?」
だんだんと自信がなくなっていくように、いや、ねむちゃんにとっては当たり前の考え方だから説明がうまくいかずに話していく。そんな ねむちゃんに対し青年は、いや、先輩かな?先輩は少し、苛立ちを隠せずに問い詰める
「でも、あんな風に描けるのは何かしたに決まってる。色鉛筆だけで写真みたいに綺麗な光沢できないよ?それに、あの絵は、どこにあるの?先生にあげたって話しも聞いたからさ。俺、もう一度見たくて、君みたいな才能ある子の絵はいい刺激になりそうでさ、俺……今、スランプみたいな感じで、さ、こんな見た目でいい作品描いても、高校も先輩に何かしら言われちゃって…」
その先輩は、問い詰めよりもだんだん自己嫌悪になりながら話していく
僕に背を向けているけれど、その背中は自信をなくしてしまった人の感じが伝わってくる。とても冷たい風が僕たちの間に流れていく
「それで、俺、来年?もう今年か、4月には高1なわけだし、このまま絵描いてていいのかなって最近思うようになっちゃって、さ、な~んか、学校行きたくないなって思うわけ!それが、自分らしくないってわかったら次はどうしたいいか悩むわけ!……なんだけど……」
その後、先輩は前へ向き続きを話すことはなくなった。僕の膝にいるミケちゃんは丸くなり寝ている、そんなミケちゃんを先輩は優しそうな目で見つめ、ゆっくりを触る、 ピクリ と耳が動くが気にせず気持ちよさそうにあくびをひとつする。
「猫は、活動範囲がある」
唐突に ねむちゃんが言う
「活動、範囲?」
先輩が不思議そうに ねむちゃんを見る。動物が持つ限られた活動範囲もしくは区域、たしか、猫の範囲は直径約500メートルだったはず、分かりやすく言い換えるなら
「テリトリー」
ねむちゃんが続けて言う
「人と人の間、もしくは、心の距離、人は相手にどこまで踏み込んで話していいのか常に探っている、大丈夫な人、何言っても反論しない人、そんな相手を見つけると人は、上に立とうとする。それは優劣、もしくは、カースト、聞いたことがあると思うが、自分のクラスなどで先生に物怖じしない人はいるだろ?そういうやつ程、授業中でもなりふり構わず言う。そういうやつがクラスの中でカーストが上。だったりする。テリトリーが広く、心の距離が近い、即ち、自分の領土であり好き勝手が許される、ということだ」
そういうと、ねむちゃんはベンチから立ち上がり、僕と先輩の前に立った
「あんたは、私らが年下とわかったらグイグイ言い寄ってきた、挙句、絵を見してくれ?やさしそうな反面、私の言ってることにも何にも理解しなかった、いや、しようとしなかったそして、自分が相手に言ってることを高校の先輩に言われ、気づいた。自分が『なぜ、言われないといけないんだ』と、それから、怖くなった。今まで、仲良くしていたクラスメイトでさえ、疑うように、そしていつの間にか一人になることを、先輩から、何か言われるんじゃないかと、そして、あんたはだんだんと人を恐れていくよになった。その結果が、去年のあの、絵だ」
ねむちゃんはそう言いながらその先輩に人差し指を向ける、いや、指した。そのまま、仁王立ちをして胸をはるように威張っていた。その姿を見た先輩はびっくりするように目を見開き、すぐに、目を細めた、まるで心の中の何かがさっきの言葉で的を射抜いたように。
「……」
「え?」
なにか聞こえた、が
「…なんでもないよ?……でも、俺ってそういうやつかも。せんせーの話、聞いてるようで実際聞いてなくて、なにかしていたくて、誰かと話していたくて、見てほしかったのかも、しんないね?」
その先輩はそれと向き合うように話す
「だからこそ、あんたには、テリトリーが必要。その顔に見合わぬ、眉間のしわ が取れるならそれに越したことはない!新しい環境に行くと思って行け。どうせ、私らと顔を合わせるかもしれないが、心の距離の測り方を知れば、おのずと、付き合いのいい人が寄ってくる。あんたは顔がいいんだ。それに絵も上手だ」
そう言って ねむちゃんは公園を出ようと くるり と後ろを向き歩いて行く
「え!?あ、ま、待ってよ!ねむちゃん!」
「何してる。早くその猫、届けるぞ」
ねむちゃんは振り向かず言ってくる。おいて行かれそうになって慌ててミケちゃんを抱きかかえ直して行こうとしたら
「ありがとね。俺、ちゃんと見るよ。周りだったり、人のこと。改めて、相手の接し方考えてみるよ、あ!そうだ、俺、まだ、名乗ってなかったね、俺、三葉 瑠衣 よろしくね。ねむちゃん、と……」
「あ!ぼ、僕は、佐々木 藍 です。それではまた!」
「あおいくん?うん、また学校でー!」
その先輩、いや、瑠衣先輩は手を大きく振りながら、笑顔で、すがすがしい顔をして、僕らに言った『また、学校で』と、そんな先輩が知り合いになって僕は少し、笑ってしまった
「口元がにやけてるぞ」
「え?そ、そう?だって、いい先輩じゃん。僕 あんな先輩が知り合いになれてうれしいよ。ねむちゃんはうれしくないの?」
「さあな」
そういうと ねむちゃんは早足で、進んで行った
「ねむちゃん!? 待ってよ~!」
僕の情けない声が少し肌寒い空気に、流された。三月に潜む心の闇、誰もが抱える小さな悩み、あの先輩の心の天気は晴れただろうか、虹もかかっているといいな、そう思い、僕は ねむちゃんの後を追う
4月に入って、すぐに美術の展示会があった。
新入生を迎えるための入学式であり、学校全体の文化部が新たな1年生を迎えるために、用意してある展示品が一斉に並んでいた
その中でも一番、ひときわ目に留まる作品があった。それは、美術部の作品だった。一年生から二年生へ、そして三年生から高校1年生へと、新たな学年に上がり月初めにその絵を飾る。もうそこから評価は始まってるみたいだった
「この絵…。すごいね!」
僕が見たその絵は、何人もの人が魅了されていた
「そうか。早く教室行くぞ」
「えぇ!?ちゃんと見ないの?すごいよ。こんなに人が集まってるなんて見たことないし、こんなすごい作品、誰が描いたんだろうね?気にならないの?」
「ならないな」
ねむちゃんは興味なさそうにその作品を素通りして行った。どの作品にも目を留めずに
前を歩く幼馴染に追いつくように僕も、その作品から離れて行った
なぜだか、あの絵は心が温かくなるような作品に感じた。そういえば、あの絵の題名ってなんだっけ
頭で記憶を探しても、見えなったな、と思い帰る時にでもきちんと見ようと決めたがこの後にある膨大なスケジュールのせいでクタクタになりながら家に帰り、次の日にはその作品だけがどこかに行ってしまったようだ。噂によるとその作品を描いた人がどこかの病院に譲ったらしいと聞いたが定かではないようだ。でもたかが学生の作品だ、そう誰かが言ってそれからその絵の噂はだんだんと聞かなくなった
「絵がひとりでに歩くわけがないが、心を込めればどんな物でも魂が宿るらしい。まぁ。どうでもいいが。でも、なにかに挑戦すること新たに何かを始めること、続けることにも、共通点はある。それはスランプであり、諦めであり、ましてや、愛がなくなること。こうしてなにかをするにはそれに対する愛がないと成り立たんからな。その根本が何かわからんとすぐに暗闇が襲う、そして、消えるのだ。何が?お前の中にある何かが」
最後まで読んでくださってありがとうございます。至らぬ点がまだまだありますが精進していきます
ありがとうございました。