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第5話:陽山家の来訪者(1)

 今日は朝から教室が騒がしかった。

 どこかの誰かがうちのクラスに編入生が来るというどうでもいい情報を持ち込んだからだ。男女共々期待を膨らませながらホームルームが始まるのを心待ちにしていた。

 僕は正直どうでもよかった。それよりも、

「陽山、大丈夫か? 顔色悪いぞ」

「あ・・・・・・大丈夫です」

 陽山は少し辛そうに微笑んだ。今朝から調子が悪いらしい。

「もしかして昨日のあれ?」

 昨日、第二生徒会室で陽山は六メートル近くの巨人に斬りかかったり、電撃を斬撃で弾くという業をこなしたのだ。その時の疲れが出ているのかもしれない。

「平気です。昨日ちょっと夜遅くまで勉強してたから」

「寝不足か。また歴史の本でも読んでたのか?」

「そうじゃなくて・・・・・・その、もうすぐ中間考査だから」

「あー・・・・・・」

 悲しいことに今月末に中間テストが行われる。僕からすれば勉強するには早すぎる気がするがそこが陽山らしいと思った。

「まあ、いいや。辛くなったら言うんだぞ。無理して倒れたらそれこそ大変だからな」

「わかりました。ありがとう」

 それじゃ、と言って僕は自分の席に戻った。教科書を鞄の中から取り出して引き出しに突っ込む。

「中間テストか・・・・・・」

 まだ早いと思ったがそろそろ僕も陽山を見習って勉強した方がいいかもしれない。そう思っていると後ろから肩を叩かれる。

「教科書なんて眺めてどうした? ハルらしくない」

 失礼なことを言いながら沢崎が話しかけてきた。まあ、否定は出来ないけど。

「編入生ってどんな子だと思う? 俺はやっぱり美人だと思うな。ハルもそう思うだろ?」

 目をキラキラと輝かせながら沢崎が言う。どんな根拠だよ、とツッコミを入れたくなるが沢崎の予感は正解だった。僕は敢えて知らないふりをして答える。

「別に。まともだったら美人でも平凡でもいいよ」

「なんだよ。ノリが悪いなー」

「美人だったところでお近づきになれなかったら意味ないじゃないか」

「確かに・・・・・・ハルにしては冷静な判断だな。少しは見直した。でも諦めるのは早いぞ、親友」

 冗談のつもりで言ったのに沢崎は真剣に反応する。めんどくさいな。

 沢崎が熱く語る前に教室の出入口が開いた。幸薄そうな担任の柏木かしわぎが教壇に立つ。その頃には全員が席に着いていた。沢崎のような考えを持った生徒の方が教室には占めていたからだろう。

「おはようございます。えー、知っている人もいるかもしれないけど、今日は編入生を紹介します」

 おおー、と教室に歓声が上がる。

 その声を合図に教室に一人の女子生徒が入って来る。腰より長い黒のロングストレートの少女は紺色を基調にした制服がよく似合っている。彼女は柏木教師の横に立つとチョークを取って黒板に自分の名前を書いていく。

「今日から皆さんと勉強することになりました、秋名未来です。よろしくお願いします!」

 編入生のミライは振り返って会釈する。

 永峰家の居候の彼女は満面の笑みをクラスに向けた。




 編入生の挨拶が終わると同時に担任の柏木にミライの机を倉庫から取って来いと命令が下された。鍵を一方的に押し付けられてから講義するが、お前は秋名の親戚だろ? と適当な理由で教室を追い出された。

 親戚とは便宜上都合がよかったのでそういうことになったのだ。正確にはそうさせられたと言うべきか。

 昨日くたくたになって家に帰ると修山学園の高等部の制服を着て浮かれたミライが僕を出迎えた。理由を訊ねると昼頃に荷物が届いたという。教科書やら制服などと一緒に修山学園の編入手続きに関する書類、生活費が振り込まれたミライ用の貯金通帳。戸籍を弄ったとか他にも犯罪を告白する文章が書かれたメッセージカードも添付されていた。送り主の名は再び僕の両親の名前だった。どれだけ利用されてるんだうちの親の名は。

 仕組んだのはまたしても兄貴だという。迷惑にもほどがある。

 書類通りの指示で今日から学校に通うことになった。ミライの住所が僕と同じになっていたのに教師たちは疑問に思わなかったのだろうか。それより、どうしてミライが僕の家に身を置くことが既に決定しているのか。戸籍が偽造できたならマンションの一室ぐらい用意してやれよ。

 倉庫に着いた僕は扉の鍵を開ける。老朽化の進んだ扉は嫌な音を立てて開いた。少々埃が立った空気に顔をしかめながら使えそうな机を探す。

「何で僕がこんなことをしなくちゃならないんだ。本人にも来させろよ」

 愚痴を零しながら倉庫の奥へと進む。普段は体育に使う用具が入れてあるため、あまり使わない机は隅の方に押し込まれていた。

用具を横に押しやりながら机のあるところまで辿り着く。意外に使えそうなものが多かった。埃を落とせばの話だが。

 とりあえず手頃なのを掴んで引っ張り出そうとする。だが、何かに引っ掛かっているのかうまく取り出せない。もう一度強く引っ張る。

 刹那。

「うわっ」

 突如、倉庫内に突風が流れ込んできた。その勢いで掴んだ机ごと床に倒れる。舞った埃が肺に入り思いっきりむせる。

「な、なんだ!?」

 未だに止まない強風に耐えながら上半身だけ起き上がる。出入口を見るとそこには一組の男女が立っていた。

 肩よりまっすぐ伸びた長髪にハンサム顔の少年と、優しいお姉さんといった感じのおっとりとした顔つきと雰囲気の女生徒。女生徒は長い髪の毛を一つに纏めて肩に乗せている。この美男美女がカップルだったら恋愛モノの少女漫画の主人公に抜擢されてしまいそうだ。ネクタイとリボンの色から高等部の三年生と判る。

 目が合うと同時に風が収まる。もしかしてあの二人がやったのか?

「驚いた。まさか人がいるなんて思わなかったよ」

 驚いたと言いながらもケロッとした顔を男子学生が見せる。その顔が妙に様になっていて僕は思わずムッとする。対して女生徒は僕に歩み寄り手を差し伸べる。

「大丈夫?」

「あ、はい」

 手を受け取って立ち上がる。

 何故だろう。この人は何かが違う。そんな気がした。でも、僕は以前にもこれと同じものを感じたことがある。どこでだろう?

 女生徒は僕を立たせると周囲をキョロキョロとする。

「どうしました?」

「えーっとですね・・・・・・あ、あった!」

 パタパタと靴を鳴らして少し離れたところに転がったボールを退かして手を伸ばす。そこから輪ゴムのようなものを拾い上げる。

祐哉ゆうやくん、ありましたよー」

 そう言って高々と手にした輪っかを掲げる。

 よく見るとそれは髪留めだった。無地の赤色。どこにでも売っていそうな代物である。

「ありがとう、辰実たつみ

 祐哉と呼ばれた少年が笑顔で返す。それに彼女は答えるように彼の元に駆け寄る。

「はい」

「ありがとう」

 辰実が小さな髪留めを態々両の掌に乗せて渡す。祐哉は髪留めを摘み上げて伸びた髪を束ねる。男のロン毛はあまり女子に好かれないと聞くが、この人にはやはりそれが様になっていた。

 結び終えると同時に祐哉が咳き込む。大丈夫? と辰実が彼の背中を擦っていた。

「風邪ですか?」

「いや、埃っぽいところが人一倍苦手でね。普段ならこんな場所には来ないんだが、大事な物が風にあおられてしまってね」

 自分の結んだ髪をヒラヒラとさせながら微笑を浮かべる。髪留めはよく見ると古びていて随分と使い込んであるのが判る。

「君の方はこんなところで何をしてたんだい?」

「僕は編入生用の机を運ぼうとしてたところです」

「編入生? この時期に珍しい・・・・・・それじゃ頑張ってね、永峰春幸くん」

 そう言い残して優雅に背を向けて歩き出す。辰実も軽く頭を下げてそれに続いた。

「あれ、僕名前言ったっけ?」

 僕は首を傾げる。もしかしてどこかで会ったか? いや、あんな顔忘れる筈がないし・・・・・・。

 そんなことを考えているとチャイムの音が鳴り響いた。それ聞いて僕は埃を掃うのも忘れて慌てて教室に駆け込む。埃まみれの僕を見た教師は不愉快な顔で、埃を落としてこい、と命令して教室から追い出した。当然と言えば当然なのだが、どうにも腑に落ちない。特に僕の席を占領したうえに僕のことを見て笑っていたミライとか。

 僕はトボトボと埃を落とすために校舎を出た。

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