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第4話:神器と巨兵魔器(2)

 エレベーターの扉が開く。

 現れたのは白い壁の一室。僕の部屋と然程変わらない広さだ。その奥に頑丈そうな扉があり、その横には液晶テレビが壁に埋め込まれていた。伏見先輩は液晶テレビの下にあるボタンを押して近くのスピーカーに声をかける。

「月島先生。見学の生徒をお連れしました。中に入れてください」

 月島、と聞いて一瞬ドキッとするが、スピーカーから聞こえたのは男の声だ。

『その声は伏見くんか。見学の生徒? ・・・・・・そんなのあったっけ?』

「現にあたしの傍にいます」

『ふむ。今日は他に来客があるのだが・・・・・・』

「時間は取らせません」

『・・・・・・断る。面倒だから帰ってもらいたまえ』

 面倒ってなんだよ。この人本当に偉いのか?

「困ります。そう言っていつも逃げてるじゃないですか。新人の前で不安にさせるようなことを言わないでください」

『私の知ったことではない。今、娘と数少ない時間を楽しんでいるんだ。それなのに仕事を持ち込むとはどういう了見だ』

 スピーカー奥の男は逆ギレする。まるで子供だ。てか、娘ってもしかして――――――

 僕が考えるより先に伏見先輩が豹変する方が早かった。

「どういう了見? それはこっちのセリフだ。さっさと開けろ」

『すいません。すぐに開けます』

 ドスの効いた伏見先輩の声に相手は即答する。僕は彼女の背中しか見えないからどんな顔をしているか分からないが、鬼のような表情のをしている気がする。体から変なオーラが流れてるし。

 ドアが横にサッとスライドしていく。伏見先輩は振り返って、

「さ、行きましょう」

「は、はい!」

 僕と陽山は殆ど同時に返事をする。先輩はどうしたの? とでも言いそうな顔で僕たちを見てから部屋へと入っていく。僕たちもそれに続いた。

 そこは広大な空間だった。ロビーなど比べ物にならない。そんな広い部屋の最奥にドラマに出てくるような社長室の空間が不自然にポツリとあった。高級そうな机、座り心地のよさそうなソファ等と、お偉い人が使う部屋としては充分なくらい家具が置かれている。

 しかし、それだけだった。その場所以外はだだっぴろい空間が広がってるに過ぎない。何もない海に浮いている無人島のような孤独感の伝わる部屋だ。

 そんな部屋の主であろう黒縁メガネに無精髭ぶしょうひげの男はソファに座りながらつまらなそうにこちらを見る。ネクタイを緩めてだらりとソファに身を預けている姿はだらしないようにしか見えないが、入室してからずっと僕らから目を放さないようにしている。その隣に位置するソファには――――――

「月島、朱莉・・・・・・」

 彼女を見て警戒する。僕に気づいた朱莉は僕をジッと見つめる。僕は逆に睨み返してやった。

 僕たちの事情を知らない伏見先輩は説明をする。

「月島先生。見学者の永峰春幸と陽山沙月をお連れしました」

 僕たちの名前を聞いた月島氏はほう、と興味の眼差しを向ける。

「永峰春幸・・・・・・彼が例の?」

 そう隣の朱莉に尋ねる。

「はい。お父様」

 お父様って・・・・・・本当に親子なのか。全然似てない。

「それに、陽山家の娘さんか。これは珍しい客が来たものだ」

 陽山のことを知っている? さっきの伏見先輩の反応といい、一体なんなんだ? 陽山の方を見ると月島氏を警戒するような目で睨んでいる。

「伏見くん。彼らの案内は私がしよう。君は戻っていい」

「しかし月島先生、この後来客があるのでは?」

「ああ、それなら心配いらない。あれはウソだ」

「はぁあ!? またですか? ホントいい加減にしてください!!」

「以後気をつけるよ。ほら、さっさと戻りなさい」

 怒りを露にする伏見先輩を軽くあしらう月島氏。その対応に腹を立てた先輩は、失礼します、と不機嫌な声を上げて出て行った。

「初めまして。永峰春幸君。・・・・・・それに陽山家のお嬢さん。私が第二生徒会室室長の月島邦雄くにおだ。そしてこっちが娘の朱莉だ」

 月島氏が自己紹介のついでに娘も紹介する。朱莉は何も言わず軽く頭だけ下げる。

「室長・・・・・・?」

 陽山が首を傾げながら呟く。

 伏見先輩が生徒会で一番偉い人と言うからてっきり生徒会長が出てくると思ったのに。どういうことだ?

「ああ、こんなバカでかい施設を学生だけに使わすわけにはいかないからね。部活の顧問のような存在だと思ってくれればいい」

 月島氏は陽山の疑問にぞんざいに答える。

「はあ」

「それよりも春幸君。先日はすまなかった。こちらも事情を把握していなかったとはいえ、君に危険な目にあわせてしまった。朱莉は別に悪気があってしたことではないから許してやってほしい」

 よく言うよ、と内心で悪態をつく。殺されかけたうえに家の中は荒らされて壊れている家具もいくつもあったのだ。ミライにばれないように片付けるのが大変だった。

「家の家具は弁償するよ。本来ならこちらから出向いていくところだが、今回は君に頼みたいことがあったから態々ご足労願った」

「頼みたいこと?」

「是非、君に第二生徒会に入ってほしい」

「はい!?」

 僕は月島氏の提案に思わず声を上げてしまう。

「驚くのも無理はない。だが、君だって何となく判るだろ? 生徒会のメンバーは全員が巨兵魔器アニマ・ミーレスや神器の存在を知っている関係者だ」

巨兵魔器アニマ・ミーレス・・・・・・」

 僕はその名を呟く。昨日僕の前に現れた機械仕掛けの巨人。軍兵器の巨人兵器オートマタとは違うまた別の存在。あれは何のためにあるのだろう?

「本当に何も知らないんだな。君にグリモワールを渡した者は何も言ってなかったのか?」

「すみません」

 別に悪いことなどないのだが、何故か謝ってしまう。

「グリモワールは契約を行うための儀式場です。契約を終えると後はその巨兵魔器アニマ・ミーレスの小型の格納庫ようなものになります。そして、アニマ・ミーレスと呼ばれる巨兵魔器きょへいまきを操る者を操魔師そうまし――――――通常、エクソシストと呼び、巨兵魔器アニマ・ミーレス操魔師エクソシストの呼びかけに応じて出現します。共通義肢イニシエータを通じて」

 淡々と説明した朱莉が制服の袖を肩まで上げる。彼女の素肌が露になり、制服で隠れていた両腕が見えるようになる。よく見ないと判らないくらい人の皮膚と同じように出来た機械仕掛けの腕――――――義手だ。

 今朝彼女を支えた時に触れた感触の正体はこれである。

 朱莉の説明に月島氏は補足を入れる。

共通義肢きょうつうぎし操魔師エクソシストの証だ。朱莉は両腕、君の場合は右目だね。そして操魔師エクソシストが操る巨兵魔器アニマ・ミーレス。これは兵器だ。神器を使う者と戦うための」

「どうしてそんなものが僕なんかに・・・・・・」

 殆ど独り言だったのだが僕の言葉に月島氏が怪訝な顔をする。

「どうして? 巨兵魔器アニマ・ミーレスはランプの精みたいに箱を開けた者の願いを叶えてくれるわけじゃない。ちゃんとした契約儀式を行わなければ操魔師エクソシストにはなれない。君は間違いなく操魔師エクソシスト。その証拠が君の右目の機巧眼だ」

「これは・・・・・・昔、事故で・・・・・・」

 無意識に右目を押さえる。嫌なことを思い出させないでほしい。

「・・・・・・まあ、いい。巨兵魔器アニマ・ミーレスに関する説明はざっとこんなものか。神器に関しては隣の彼女に聞いてくれ。私より詳しい筈だ」

「え?」

 僕は隣の陽山を見る。彼女は申し訳なさそうに顔をうつむけている。

「もしかして陽山も神器に成れるの?」

「・・・・・・ごめんなさい。今は、ちょっと・・・・・・」

 弱々しい声で陽山が呟く。それを聞いた月島氏は鼻をならす。

「それは今は置いておこう、春幸君。君の答えを聞かせてくれ」

「・・・・・・生徒会に入って何のメリットがあるんですか?」

「生徒会に入れば君と君の巨兵魔器アニマ・ミーレスの保護を保障しよう。君が危ない目に合えば助けるし、巨兵魔器アニマ・ミーレスが破損すれば修理をする」

「その代わりに僕に何をやらせる気です?」

「察しがいいね。保障を約束する代わりに生徒会の仕事の手伝いと君の巨兵魔器アニマ・ミーレスの研究をさせてほしい」

「生徒会の仕事って・・・・・・」

 ろくな想像が出来なかった。一般的な生徒会の仕事は勿論するのだろう。だが、危ない目に合えば助けるとは、つまり僕に危険なことをさせるということだ。そんなの、

「お断りします」

「ほう、何故だい? グリモワールは確かに持ち歩きするなら便利だが、もしも壊れるようなことがあれば白昼堂々と巨兵魔器アニマ・ミーレスが人目に晒す事になるぞ。生徒会うちの格納庫に保管する方が絶対安全だ」

「それなら生徒会あなたがたが全力で情報を隠蔽いんぺいしてくれるでしょ? 僕は普通に学生生活をしたいんです」

「ふむ。普通の学生生活・・・・・・ね」

 何か意味あり気に呟く月島氏。何が言いたいんだ。

「残念だが、事態は確実に動き出している。君は傍観者ですらいられない」

「どうしてです?」

「君は契約儀式がどうやって行われるか知っているか? 何を必要とするか分かっているのか?」

「知りません」

「契約儀式は――――――」

 月島氏が説明をしようとする直前、

「やめてくださいっ!」

 隣に黙って座っていた陽山がいきなり立ち上がり声を荒げる。

「あなたたちはそうやってまた犠牲者を増やすんですか!? お願いだから永峰くんを巻き込まないでください!!」

「陽山・・・・・・?」

 いつも大人しい彼女にしては珍しい。何が彼女をそうさせているのか。その態度に顔色変えずに月島氏は言う。

「本物の傍観者がよく言う。君の噂は私の耳にも届いてるよ。上位の神器を継承したのにも関わらずその力を使おうとしないとね。神器使いの名家が聞いて呆れる」

 神器使いの名家。

 先程から月島氏が陽山に対して機嫌が悪いのはもしかして敵同士だからか。

「あなたには関係ない。永峰くん、帰りましょう。ここにいたらダメです」

 僕の腕を無理矢理引っ張って立たせる陽山。こんな強引な陽山は初めてだ。思わず面食らってしまう。

「《雷火》」

 朱莉が小さく自分の巨兵魔器アニマ・ミーレスの名を呼ぶ。僕たちの道を塞ぐように全長約六メートル程の黄色い巨人が入口の前に現れた。

「勝手なことをされては困るな」

 振り返るとメガネを弄りながら不敵な笑みを浮かべる月島氏と掌からナイフを伸ばした朱莉が悠然とソファから立ち上がる。

「どういうつもりです?」

「なあに、折角の機会だ。このまま別れるのはつまらない――――――だからゲームをしよう」

「ゲーム?」

「そうだ。ルールは簡単。どちらかが降参するか、戦闘不能になるまで」

「ふざけないでください」

「ふざけてなんていないさ。私は君の巨兵魔器アニマ・ミーレスを見るために今日のスケジュールをすべてキャンセルしてきたんだ。これくらい付き合ってくれよ」

 心底楽しそうに言う。これから遊びに行く子供と変わらない笑み。

「なら、こうしよう。君が勝てば生徒会に入らなくていい。負ければこちらの条件を呑んでもらう。これならやる気でるだろ?」

 その声を合図に朱莉の巨兵魔器《雷火》が僕たちに歩み寄る。僕はポケットに手を入れ、グリモワールを掴む。しかし、その前に陽山がそれを手で制した。

「私がやります。永峰くんはその隙に逃げて」

「陽山?」

 陽山が《雷火》に向かって一歩進む。

「確かに、私は傍観者です」

 もう一歩。

「この力を振るうことで誰かが悲しい思いをする。そんな現実を受け入れなくて」

 更にもう一歩。

「でも、動かなくちゃいけない。今迷えば、それで傷つく人がいるから」

 そこで立ち止まる。

「動かなければ守れない未来げんじつがある。だから――――――」

 陽山は両腕を水平に伸ばす。広げた掌が紅蓮の炎に包まれる。

「『焔迦えんか』!」

 その力の名を叫ぶと、それは形を成す。炎から現れたのはそれと同じ色を帯びた刃渡り一三〇センチ以上の片刃の剣。それが左右に一振りずつ現れる。刀身に炎を纏った直剣はわずかに透き通っていた。

 ミライのように剣の姿になるわけはなく、剣をしっかり握っている。

「双剣型の神器『焔迦』。これが陽山家の宝剣か。しかし、実体を完全に保てていないということは仮契約状態なのか? 継承したという情報はどうやらデマだったようだな」

 月島氏が揶揄やゆするように呟く。

 それを掻き消すように陽山が叫ぶ。

「永峰くんは私が守ります!!」

 炎剣を構えて《雷火》に飛びかかり、人間技とは思えない動きで斬りつける。しかし、《雷火》の腕にあっさりと弾かれる。蹴っ飛ばされたサッカーボールのように十メートル以上もバウンドして地面を転がる。

「陽山っ!?」

 僕は慌てて彼女に駆け寄ろうとする。すると、

「だい、じょうぶ・・・・・・です」

 陽山は剣を杖代わりにして立ち上がる。

 おかしい。何故あんな巨体に殴られて十メートルも吹き飛ばされたのに立つことが出来るんだ? 傷もちょっと唇を切ったくらいで外傷らしきものは見当たらない。彼女は本当に僕と同じ人間かと疑ってしまう。高等部入学当初からの友人だけあって今の光景はショックが大きかった。

「神器の加護だよ」

 月島氏が僕の考えを読んだみたいに言う。

「神器の加護?」

「神器使いとは神器に認められた使い手のことを言う。神器は自分を使う人物をより扱い易くするために身体的にも力を与える。でなきゃ、あんな華奢な子が自分とあんまり変わらない大きさの剣なんて振り回せないだろ」

 なるほど、とのん気に納得してしまう。

「このままでいいのか、永峰春幸?」

「え?」

「ほら、さっさと助けないと彼女死んじまうぞ」

 陽山は未だに剣を杖にしたまま立っていた。遠くからでも判るくらい肩で息をしている。神器というのはそれほど体力を消耗する代物なのか。それともさっきの攻撃が効いているからなのか。どちらにしてもピンチに違いない。

 対する《雷火》は頭上に青白い閃光を集めている。昨日、僕に向けて撃った攻撃だ。体験したからこそ解る。あれがどんな危険な攻撃か。

「陽山、逃げろ!!」

 叫ぶが、陽山は逃げるどころか剣を構え直す。どうやらあれを受け止める気でいるらしい。

 無茶だと思ったが、止めるにしても陽山は耳を傾けないだろう。普段は大人しい性格なのだが、彼女はこれと決めたら最後まで突き通す頑固者でもあるのだ。走っても間に合う距離じゃない。

 後ろを振り返る。朱莉が僕の行動を予想してナイフをこちらへ向けている。これだけ近かったら流石に昨日みたいに避けられない。

 だったら――――――

「何をしている?」

 僕の異変に気づいた月島氏が訊ねてくる。

 僕は答えずに右目の機能を解放する。

 答えは簡単。

「今だ陽山! 剣を振れ!!」

 陽山は一瞬驚いて両目を見開くがすぐに行動を実行した。炎剣がクロス状に空気を斬りつける。クロスした刀身に《雷火》の電撃が直撃する。いや、正確には電撃が来る場所に陽山は剣を振り上げたのだ――――――僕が視た未来の通りに。

 炎剣と電撃がぶつかり合い、弾け飛ぶ。僕はこの隙を逃さなかった。

「出て来い、《月讀つくよみ》!」

 ポケットから取り出したグリモワールの蓋が開く。中身は深い闇。そこから闇色の亡霊が飛び出す。やがてそれはしっかりとした形となり、漆黒の鎧を纏った巨兵となる。

「これが永峰春幸の巨兵魔器アニマ・ミーレスか」

 僕の巨兵魔器を見た月島氏が驚くわけでもなく穏やかな口調で言った。

 隙が出来た《雷火》に《月讀》が体当たりをする。まともに喰らった《雷火》はバランスを崩して壁に激突した。だが、《雷火》の装甲にはきず一つ付いていない。どれだけ強度が高いんだ。

 勿論僕の攻撃はこれだけじゃない。起き上がろうとする《雷火》の肩――――――すなわち雷撃を放つアンテナを掴む。これさえ破壊すれば遠距離攻撃は出来ない筈だ。

 刹那。

「避けろ!」

 僕の命令で《月讀》は巨体なのに敏速な動きで《雷火》から離れる。その瞬間電撃がさっきまで《月讀》がいた場所を襲い掛かる。しかしもうそこには敵はいないため、《雷火》は自分の電撃をモロに浴びてしまう。

 黄色い鎧は黒焦げになり、全身が所々ひび割れてる。肩のアンテナも片方がへし折れ、もう一方はバチバチと電気を鳴らしながら煙を上げている。

「行動の予測・・・・・・いや、未来を視る力。それが君と君の巨兵魔器アニマ・ミーレス機能のうりょくか」

 後ろで月島氏が呟く声が聞こえた。

 四年前に得た義眼の機能。それは三秒後の未来を視る力が備わっていた。たった三秒。それでも未来は変えられた――――――僕たちの勝利の未来へと。

 終わった。そう思った時、僕の背後でドサッと何かが倒れる音がした。

「朱莉!」

 振り返るより先に月島氏が自分の娘に駆け寄っていた。朱莉は自分の両腕を抱くように倒れている。どういうことだ?

 朱莉は苦悶の顔を浮かべて僕の方を見る――――――いや、違う。

 巨兵魔器の方へ向き直ると《雷火》の腕がモゾモゾと動き、肩のアンテナが光を放っている。――――――もう一度電撃を撃つ気だ。

 危険を察した《月讀》は拳を《雷火》へと振り上げる。振り下ろされた拳は疵ついた鎧を砕くには十分過ぎる威力だった。装甲は剥がれ落ち、中身が露になる。

「何だ・・・・・・あれ?」

 中に収められいたのは巨大な石だ。それが手足や首の部分に管のように伸びている。

 何故人型の巨大兵器が巨兵魔器と呼ばれているのか、やっと解った。この世のものとは思えなくらい美しい結晶が魔器。それを動力に動く巨兵。だから、巨兵魔器。

 だが、《雷火》の装甲と同じ装甲の結晶の中に純粋に美しいが故にはっきり写るものがあった。死んだように白い肌の全裸の少女。全身が透けていているのに、その両腕だけが生身のようにはっきり見える。

 《雷火》と同じ姿勢で目を閉じて横たわっている少女は朱莉と同じ顔をしていた。

「何であの中に朱莉が・・・・・・?」

「朱莉の半分だ」

 僕の呟きにいつの間にか隣にいた月島氏が朱莉を抱きかかえたまま答える。

「半分?」

「彼女の魂と《雷火》は一心同体なんだ。もし《雷火》が破壊されれば朱莉も死ぬ」

「なっ!?」

 僕は絶句した。後もう少しで朱莉を殺すところだったのだ。

「あんた何で止めないんだ!? 自分の娘だろ!!」

「君は操魔師エクソシストになってまだ一日。それに比べて朱莉はもう何年も前に《雷火》と契約している。普通ならどっちが勝つかなんて素人でも分かる。それに自分の攻撃だから耐性もある。そこまでひどくはない。しばらくすれば目を覚ますだろう」

 月島氏には勝つ自信があった。今日ここに陽山が一緒に来たことと《月讀》の機能を知らなかったのが彼にとっての敗因だ。

「勝負は君の勝ちだ。好きにするといい。生徒会に入る気になったらいつでも来たまえ。歓迎するよ」

 そういって部屋から朱莉を抱えて部屋を出て行った。

 いつの間にか僕の傍まで来ていた陽山が未だに警戒するような目で月島親子が出て行ったドアを睨んでいる。それを見た僕はブッと噴き出してしまった。

「ど、どうしましたかっ!?」

 陽山がオロオロとしながら僕を見る。

 今日は怖いこともあったけど、陽山の意外な一面を見れてどうでもよくなってきた。

「なんでもない。じゃあ帰ろう」

「えっと・・・・・・」

 どこに? と首を傾げる陽山に苦笑して答えた。

「決まってるだろ。なんたって僕らは歴史学部だからな」

 少し驚いた顔をしてすぐに綻ばせる。

「はい――――――!」

 子供のように、見ている者をすべて幸せにするような笑顔に。

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