第16話:謎の組織と不思議な人達(3)
諸般のことがあって僕は予定より大分遅い帰宅となった。
時刻は既に午前三時。
今寝ると今度は起きれなくなれそうだ。だからといって登校の時間まで特にやることがない。仕方ないからコーヒーでも飲んで目を覚まそうとキッチンで準備する。二人分。
「一人暮らしの割りに広い部屋に住んでいるな。春幸はひょっとしてボンボンなのか?」
ソファで我が家同然に寛いでいるレーメルが尋ねてくる。ボンボンなんて初めて言われたぞ。
十世戒教団に襲われた僕を助けた彼女は生徒会の指示か知らないがそのままここまで付いて来たのだ。まあ、あんなのを相手にまともに戦える自信がないので護衛して貰えるのなら大歓迎だ。年下の女子中学生に護ってもらうのは格好悪いがこの際仕方ない。
「そういわけじゃないよ。家族で暮らしてたけど両親が仕事で外国に行ってるからそのままこの部屋を僕が使ってるんだ。それにボンボンだったらマンションじゃなくて一軒家に住んでるって」
「それもそうだな」
グラスに入れたブラックのアイスコーヒーを机に並べ、僕はレーメルの正面のソファに腰掛ける。レーメルはコーヒーに口をつけるがその顔は苦い、と語っている。中学生にブラックは無理だったか?
「その様子だと家族とは滅多に会えないのだろう? 寂しくはないのか?」
レーメルが苦味で顰めた顔で唐突にそんなことを聞いてくる。
「そうでもないよ。慣れたし、今は一人じゃないしね」
「なんだ。友人でも泊まりに来るのか?」
「まあ、そんな感じだな」
正確には定住してるけど。しかも隣に部屋で今も眠っている筈だ。起きてこないことを祈るばかりである。説明が面倒だ。
「それよりもその神器を早くしまってくれ。何かそれあるだけで部屋の雰囲気全然違う」
レーメルのすぐ横にはさっきの戦闘で使った日本刀が布に包まれた状態で置かれている。どういう原理かは知らないが《月讀》がグリモワールに出し入れ出来るように神器も虚空から出せたりしまえたり出来る筈だ。布なんかに巻いてないで消せよ。
「無理だ。これは神器ではないからな」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
何せ《月讀》の攻撃さえも無傷だったエドワードを打ち負かす刀が神器じゃないだなんて信じられなかった。それに最初に出てきた時に《月讀》とエドワードの攻撃を触れずに弾いたり、何もない空を蹴って方向転換するはどう考えても普通の人間には不可能だ。
「じゃあ、どうやって戦ってたんだよ。ただの刀で神器使いに勝てるわけないだろ」
「・・・・・・私はミデン・エクソシストなんだ」
「なんだそれ?」
確かエドワードを助けた女もそんなことを言っていたな。両儀相剋器や十世戒教団といい、今日は初めて聞く言葉が多いな。
「なに、知らないのか? ――――――そういえば貴様は操魔師になってからまだ三ヶ月しか経っていなかったな。説明は面倒だから省くが、私は両足と右腕が共通義肢なんだ」
共通義肢を持っているということはレーメルも操魔師なのか。
「更に言えば、私は神器使いでもある」
あれ?
「神器使いなのか? ならどうして神器を使わないんだ?」
「私は神柱利器と契約しているからな。その契約神器の立場上いつも一緒に行動しているわけにもいかんから対魔神器用として私専用にこの日本刀を科学部に頼んで作って貰った。特別何らかの能力があるわけではないが、神器や巨兵魔器の攻撃にも耐えられるくらいの強度の名刀だ」
「科学部?」
ここで聞き覚えがある部活の名前が出てきた。
科学部は修山学園にある歴史学部と同じ文科系の部活だ。どこで活動しているか知らないが部員全員がマッドサイエンティストだとか変な噂が多い。しかし、実力はあるらしく何回か聞いた事のない団体から表彰されてたな。
「歴史学部と同様に神器や巨兵魔器の存在を知ってそれに貢献してる連中だ。知り合いがそこにいてな。タダで作って貰った」
「よくこんなものをタダで作ってもらったな」
日本刀なんて、わかりました、と言って作れるようなものではない。金だってバカにならないだろうし。
「ヤツラを動かすのは探究心だからな。連中に興味を持たせることが出来れば作らせるのは簡単だ。生徒会から研究資金として高額な部費を貰ってる上に表でも外の事業で儲けてるから金には困ってない」
表とか言われるとやっぱり巨兵魔器とか神器は裏って扱いなんだ。それを聞くと僕はたいへん嫌な位置にいることになる。憂鬱になりそうだ。いや、なってるか。
「日本刀って探究心をそそるようなものか?」
「ただの刀に興味はないだろうな。ヤツラが興味を示しているのは刀に使われている材質だ」
「材質?」
「材質には共通義肢と同じものが使われている。共通義肢は巨兵魔器の装甲と同じもので出来ていて未だに解明出来ていない物質が含まれているからな。それが実戦ではどのくらい耐えれるのか知りたいのだろう。他にも何かあるかもしれんが」
確かに共通義肢は巨兵魔器と同じ不思議な機能を具えたものだ。興味を持ち、研究するのは別におかしくないと思う。
でも、それじゃあ――――――
「まるで実験台にされてるみたいだな」
「間違いなくされているだろうな。使う度に検査だと言って持ってかれる。利害が一致するのだから私は別になんとも思わない」
「本人がそういうなら別にいいけど」
レーメル自身が納得しているならこれ以上何も言えない。
それにしても、
「科学部ってすごいところなんだなぁ」
それに比べて歴史学部は部費は少ないし、大して活動らしい活動をしていない。部活として扱ってもらえるだけでも奇跡なのに同じ文化部でも全然違う。
「すごいと言えば歴史学部だって負けてないだろ」
「なんで?」
「巨兵魔器を二体、神器使いが一人、神柱利器が一柱――――――いや、最近一人増えたんだったな。これだけの人材に強豪がいる集団なんて普通は生徒会くらいだぞ。第二生徒会の月島邦雄が貴様の《月讀》を回収しようとしたのも歴史学部に戦力が片寄ってほしくないからだと聞いたが?」
「・・・・・・」
強引に勧誘してきたのにはそんな理由があったのか。理不尽過ぎて言葉も出ない。
「まあ、いいや。一回も見てないけど、レーメルの神獣はどうしてるんだ?」
神柱利器と契約した神器使いは契約の証として守護神獣が生まれる。
先程の戦いでは出て来なかったが、今は単に消えてるのか?
「契約神器のところにいる。本当なら使い手の方に寄り付くのだが、何故かアイツは契約神器の方にべったりで私が呼ばない限りずっと向こう側にいるんだ。言う事は聞いてくれるからまだ良いんだが、どうにも腑に落ちん」
「嫌われるようなことでもしたんじゃないか?」
「そんなことはないと思うが――――――いや、まてよ。もしかしてあれか? ・・・・・・それともあれのことか? 寧ろこっちの方が・・・・・・でもそれくらいで嫌われるだろうか・・・・・・」
考えるようにブツブツとい言うレーメル。どうやら心当たりが沢山あるらしい。何だか見たこともないのにレーメルの神獣が哀れになってきた。
「まあ、私のことはもういい。問題は貴様のことだ、春幸」
暫くブツブツ言ってからレーメルが言う。独り言を延々と聞かれたのが恥ずかしかったのか顔を赤らめている。更にそれを誤魔化すようにコーヒーを啜る。その顔はさっきと同じで苦そうな表情をしている。苦いならミルクなりシュガーなり入れればいいのに。僕に子供のようだと思われたくないのか、眠気を抑えるために我慢しているのか。おそらく前者だろうが、時間的に全部も有り得る。
「僕のこと・・・・・・?」
「そうだ。自分がどうして十世戒教団などという組織に追われているか心当たりはないのか?」
「ないよ。そんなの」
「本当か? 教団の女に手を出したとかしてないだろうな?」
「してねーよ! んなこと!」
女の子と付き合ったこともないのに、今日初めて聞いた凶悪組織の女に手なんて出せるわけがない。それを除いても僕は恨まれるようなことをした覚えなど一切ないのだ。
「なあ、レーメル。十世戒教団って何者なんだ?」
「十人の神器使いを中心とした宗教団体だ」
「宗教団体?」
「天地神理道教は知っているか?」
「まあ、名前くらいなら」
最近テレビでもよく出てくる名前だ。何かと問題を起こす信者を抱えている新宗教の一つである。どこから生まれたのか解らないがその宗教団体は世界規模まで広まっているらしい。
「それが十世戒教団の表の顔だ。神器や巨兵魔器とは無関係の信者を集めて莫大な資金を集めている。だからこちらから無闇に捕まえて尋問も出来ない」
それが目的が掴めない理由の一つか。
解ってるのは教団が探しているのが漆黒の巨兵魔器だということだ。しかも教団を名乗る刺客に僕は襲われた。それが奴らが僕を狙っていることを裏付けている。
「その宗教団体がどうして僕を狙ってくるんだよ」
「そんなの私が知るか」
適当だな、おい。
「案外、昔の考えに戻ったのかもな」
「今と昔は違うのか?」
「昔の教団は神器使いと操魔師が少数集まった弱小組織だったんだ。片手で数えられる程度の下部組織と共に変な実験を行っていてな」
「実験って?」
「神器と魔器を混合させて一つの存在を作ることだ。そこで生まれた存在が――――――」
僕はその存在の名前がなんとなく分かった。実際に会ってるから。
「両儀相剋器」
「そうだ。それの存在を現世に作り出した十世戒教団の名は全世界に広まった――――――そして、世界を敵に回した」
「え・・・・・・」
両儀相剋器は直に見たから解る。それが強力な力だと。だからといってどうしてそれが世界を敵に回すことになるんだ?
「その力が強力過ぎたんだ。巨兵魔器を持つ操魔師が神柱利器と契約して守護神獣を得る。巨兵魔器と守護神獣はお互いに力を供給し合い、能力によっては手薄になる操魔師には神器がある。最強だな。これを脅威と思わない方がおかしい」
陰があれば陽があり、陽があれば陰があるように、互いが存在することで己が成り立つ存在――――――両儀相剋器。
その力が強力であるが故に脅威となる。
「勿論、それには普通の操魔師以上の精神力が要る。世界を敵に回し、襲ってくる刺客を倒すために魔力を放出し続けた教団の両儀相剋器は討伐される前に消滅したそうだ」
消滅、という単語を聞いてゾッとする。
「それ以降は神器使いだけを集めて巨兵魔器の存在を全否定するようになった。魔器は世界の歪みの元凶だとな」
僕を襲ったエドワードもそんなことを言っていたな。
「巨兵魔器とその契約の証である共通義肢の動力源が人の魂だからな。今のヤツラにはそこが気に食わないんだろう。教団でなくとも他者の魂を使って巨兵魔器を操る操魔師を批判する者は多い」
「他人の魂も生贄に出来るのか!?」
初耳だ。
朱莉の《雷火》の中身を見た時からずっと操魔師は自身の魂を使っていると思っていた。動力が人の魂というのは聞いたことはなかったが薄々感じていたから特に驚かない。魔器に囚われた魂の姿はてっきり共通義肢と同じ契約の証だと思っていた。
「その口振りだと貴様は自分の魂を使っているな。別に他者の魂を契約に使う操魔師は珍しくない。その方が効率が良いからな」
「そんな・・・・・・」
効率的だからって他人の魂を生贄にするなんて――――――
「酷いと思うか? でもな、春幸。いくら操魔師になる者が願っても生贄となる者がそれを拒めば契約は成立しない」
「そうなのか?」
「寧ろ操魔師になる者に意志などあまり必要ない。重要なのは生贄になる人間の想いだ。誰かを護りたい、何かを成し遂げたい、そんな強い想いを操魔師の身近な存在が願い、そして望まなければ巨兵魔器の生贄には成れない。だから外野の連中がそいつらを非難するのはお門違いなんだよ」
「・・・・・・そうなんだ。でも、自分の魂を生贄にするのと他人の魂を生贄にするのはどう違うんだ?」
「単なる魂の総量だな」
レーメルが控えめの欠伸を漏らす。
「他者の魂を生贄にした場合、消滅するギリギリまで使える。それに対して操魔師自身の魂を使っている者はその五分の四くらいしか魂供給が出来ない」
「どうして?」
「春幸。魂を消費するということはどういうことだと思う?」
いきなり質問されて戸惑う。
「・・・・・・寿命が縮む?」
「違うが、ある意味間違ってもいない。魂が削られるというのはその人間がそうでなくなるということだ」
「どういうことだ?」
「貴様は私を見てどんな人間だと思う?」
また質問か。本当唐突だな。
「・・・・・・ガキ?」
「――――――ここに活発な娘の操魔師がいるとしよう」
僕の言葉を無視して例題を出しやがった。こめかみをピクピクさせていることから怒るのを我慢しているのかもしれない。
「表情が豊かで、友人に家族にも恵まれ、毎日が楽しい生活を送っている。だが、そいつが自分の魂の約五分の三まで消費すれば自分の感情がうまく使えなくなる」
「感情が・・・・・・?」
それを聞いて思い出す。自分の魂を生贄に巨兵魔器を操る月島朱莉はつまらない冗談を言ったり怒ったりするがその表情はいつも冷め切った顔をしているのを。笑ってる姿は友人と歩いている姿を見た時だけだ。
「笑いたくても笑えない。悲しい筈なのに涙を流すことが出来ない。それが少しずつ悪化して最終的には何も感じられなくなり、思考が殆ど停止する。だから、使える魂が残っていても操魔師は使えない。そうする考えすら出来なくなるからだ」
それはどんなに辛いことだろう。
普段が活発な人ならその変化は激しい筈だ。それを見た周囲はそれをどう受け入れるのだろうか。
その人から去って行く人。表情が乏しくなっても親しくしてくれる人。心配してくれる人。色々いるだろう。
しかし、感情を削ってしまった操魔師はどんなに声をかけても解らない。
自分が何を失っているのかを。
その辛さも。
「じゃあ、僕も・・・・・・」
「巨兵魔器を使い続ければそうなるな。更に共通義肢に関しては他者を生贄にしようと操魔師自身の魂を動力にするから消費も激しくなる」
以前に第二生徒会室で月島氏が契約に何を使うか言おうとした時に陽山が取り乱してまで止めたのはこれが理由か。だから彼女はあの時言ってくれたんだ――――――僕を護ると。事情は知らないが使いたくなかった神器まで出して《雷火》と戦ってくれた。僕の魂を減らさないために。
「それにしても」
レーメルが深い息を吐く。
「貴様は無知にもほどがあるぞ。直辰は何も教えてくれなかったのか?」
「高津原先輩?」
どうしてここで彼の名前が出てくるんだ?
「ヤツは主に日本で活動しているが、世界的に有名な操魔師だぞ? 巨兵魔器のことなら今の私より詳しい筈だ」
世界とはまたスケールの大きい。
「たしか、現在確認されている巨兵魔器の中でヤツが今のところ一番強いと言われているな」
「マジで!?」
以前から凄い人と聞いていたがそこまでとは思わなかった。
「学生がそんな強力な巨兵魔器を持ってるってのもおかしな話だな」
「何を言っている。世界の中で一番巨兵魔器を保有しているのは日本の修山学園だぞ」
「それはそれでどうかと思うけど」
何で日本の学校が世界第一位の巨兵魔器保有団体になってるんだ。まあ、普通とは思ってはいなかったけど。
「修山だからそれも当然だろう」
「それって――――――」
どういう意味? と聞こうとしたところで部屋にジリリリリッという懐かしい黒電話の音が流れる。
それはレーメルの携帯電話の着信音だ。
携帯の画面を見たレーメルが訝しい顔をして電話に出る。
「何の用だ?」
相手が誰か知らないが失礼な話し方だな。
「そうだ。今目の前にいる。――――――本当かそれは?」
後は適当に相槌を打ちながら返事をしていく。
通話を終えたレーメルは立ち上がり横に置いてあった日本刀を手にする。
「行くぞ、春幸。準備をしろ」
「行くってどこに?」
まだ時間は四時を過ぎたばかりなので外は真っ暗だ。学校へ行くにはまだ早い。
「――――――教団がまた現れた」
目的地は意外に近場だった。
僕の住んでいるマンションから五〇〇メートルくらい離れている場所にある公園。そこが十世戒教団が現れた場所だという。
「レーメル、速い。速いって!」
「この程度のことで弱音を吐くな!」
「弱音じゃねーよ! お前が神器の力使ってるから追いつけないんだって!!」
目的地に着く前に僕は荒い息を吐いていた。
それほど遠い距離ではないとはいえ、マンションから階段を全力で降りて全力で道路を走っているのだ。息だって切れる。寝てないってのもあるけど。
それに対してレーメルは今神器を持っていないとはいえ、その身体には神器の加護によって身体能力が上がっている。この程度で疲れることなどないのだ。
「第一、教団の目的は漆黒の巨兵魔器じゃないのかよ! 何で僕が態々敵に会いに行くことになってるの!?」
「仕方ないだろ。人手が足りなんだ」
「人手が足りないからって襲撃されたばかりの僕まで巻き込むな!」
「グダグダとうるさい! それに、今教団の相手をしているのはお前の知り合いだぞ」
「え?」
そういっている内に目的地に着いた。
僕たちが来た時は酷い有様になっていた。設置された遊具が不自然に歪み、地面や壁が円型の穴が開けられている。何をどうやったらこうなるのか不思議でならない。
公園の中心で今も戦い続けているのが二人。その一人が――――――
「陽山!?」
両手に炎を纏った剣を目の前に振り上げる。その軌道上にいた女が後ろに跳躍してから手にしている長い槍を空中で陽山に向かって突きをする動作を取った。それを見た陽山は転がるようにその場から離れる。すると、地面がドンッ! と陥没する。僕が余裕で入れるくらい深い穴だ。
「そこまでだ十世戒教団!」
レーメルが槍を構える女に向かって叫ぶ。夜の公園にはレーメルの声がよく響いた。
しかも、その槍女はつい一時間ほど前にエドワードを助け、学校の通学路を破壊した奴だ。こちらに気づいて、見つかっちゃったあ、とでも言ってそうなうっかり顔を見せる。
「永峰くん!」
こっちに気づいた陽山が僕の名を呼ぶ。その隙に槍女は何も言わずに背を向けて逃げるように駆け出した。
「逃がすか。沙月、春幸から絶対離れるな!」
そういってレーメルが槍女を追って闇へと消える。
それを見送った陽山が『焔迦』をしまって僕のところまで駆け寄って来る。
「大丈夫ですか!?」
「それはこっちのセリフなんだけど・・・・・・」
自分よりも僕のことを心配するあたりが陽山らしい。
「とりあえずここを離れよう。誰かに見られたら大変だ」
こんなボロボロの公園にいるところを誰かに見られたら間違いなく僕らがやったと思われる。この年で警察に厄介になりたくはない。
すぐに離れようとした時、声が聞こえた。
「――――――その必要はありません」
公園の入口に男が佇んでいた。
髪をオールバックにまとめ、きっちりとスーツを着こなした男性がこちらを向いていた。眼鏡越しで僕らを見据え、辺りの惨劇を見向きもせずに近づいてくる。
「永峰春幸様で間違いありませんね?」
きつい目つきとは裏腹に丁寧な口調で尋ねてくる。
「・・・・・・そうですけど、あなたは?」
「十世戒教団です。おなたにご同行願いたい」
男が片手を上げる。それを合図に公園内に三人の男女が飛び込んできた。その手にはそれぞれ武器が握られている。素早い動きで僕の背後に回る。背中に何か冷たいものが押し付けられるのを感じた。陽山も喉元に刃が向けられ、身動きが出来ない。この動き――――――三人共神器使いか!?
「抵抗はしないでもらいたい。でなければ我々は連れて行っても意味のない陽山沙月をここで処分しなければならない」
「・・・・・・」
僕は黙って目の前の男を睨む。
この男は僕のことをよく知ってるようだ。陽山を人質にすれば僕が何も出来ないことを。
「いい答えです」
男がそういうとバチッと音が聞こえる。それと同時に陽山が地面に倒れた。
「お前!」
「安心してください。眠っていただいただけです」
よく見ると陽山の後ろにいた女の手にスタンガンが握られていた。
「貴方も暫く眠っていただきます」
スタンガンを持った女がそれを僕の首に押し当てる。
バチッと鳴ると同時に僕は気を失った。