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第15話:謎の組織と不思議な人達(2)

 雫の言ったことを信じていないわけではなかった。

 六時間もしない内に学校へ行かないといけないのを面倒だと思いながら夜の道を一人で歩く。今日はもう家に帰ってすぐに寝よう。それで、朝起きたらミライにただいまと言おう。連絡を入れなかったから怒られるかもしれないが、学校とはいえ今日は終業式だから帰りにどこか僕の奢りでどこか食べに行くのもいいかもしれない。・・・・・・それで機嫌を直してくれるといいけど。

 そんなことを思っていた。

 少なくとも、家に着くまでは何も起こらないという前提で進んでいた。そんな根拠はどこにもないというのに。

 だから、この状況を理解するのに大分時間が掛かった。

 僕は今、黒い刀身の剣を持った銀髪の少年と対峙している。それは突然だった。坂を歩いていると道の真ん中に堂々と立つ男の子を見つけた。おそらくは自分と変わらない年齢の少年が僕に向かって言う。

「お前が漆黒の巨兵魔器アニマ・ミーレス操魔師エクソシストか?」

「・・・・・・」

 この場合どう答えればいいのか分からなかった。

 違います、と答えたところで口封じとか言われて攻撃される気がする。だからといって、正直に返事すれば即座にバトル開始となるだろう。それはすごく嫌だ。

「あんたは十世戒教団とか言う胡散臭い連中の仲間なのか?」

 僕は少しでも話を伸ばすために質問に質問で返した。本来ならそんなことしたくはないが、今は時間を稼ぐしかない。両儀相剋器フトゥールムが来るのを。一応、約束だし。

「そうだ」

「どうして、漆黒の巨兵魔器を狙うんだ?」

「闇を討つ。この世の歪みを生み出す魔器を破壊する。それだけのことだ」

 少年は静かに剣を自分の眼前まで持ち上げる。

 冷たい目で自分の武器を見る。

 その奥にいる僕も。

「――――――『灼漿しゃくしょう』」

 少年が武器の名――――――神器を呼んだ。

 真っ黒な刀身が灼熱したように真っ赤に光輝く。

 剣を構えた少年が僕に向かって駆け出す。結局こうなるのかよ!

「来い、《月讀》!」

 僕の呼び掛けに闇夜よりも濃い漆黒の亡霊がグリモワールから出現する。そして、全身に鎧を纏う巨人へと姿を変えた。

「漆黒の巨兵魔器!」

 《月讀》を見た少年が歓喜にも似た声を上げる。

 尋常ではない速度で《月讀》に近づく少年に向かって背中の大剣を抜刀する。

 漆黒の大剣と灼熱の剣が衝突する。ぶつかった衝撃が辺りの木々を揺らす。当然僕にもそれが届く。

「あっつ! あちち!!」

 周りに広がった衝撃は熱気を帯びていた。それもかなり熱い。

 少年の神器は《月讀》の大剣を受けながら火花を飛び散らせる。それが普通の火花と違って蛍のような淡い光を放っているためこんな状況でもすごく美しいと思ってしまう。戦闘中でなければ見入ってしまいそうだ。

 鍔迫つばぜり合いをしながら神器の刀身の赤みが増す。

 すると、《月讀》の大剣に異変が起こった。神器の触れている部分が白く煙を上げ、焼けるようにジュウという音を立てながら大剣に赤い刀身が食い込んでいく。いや、正確には神器が大剣に食い込んでいるわけではない。大剣が神器によって溶かされているのだ。

「《月讀》!」

 すぐさま《月讀》は大剣に闇を纏わせる。闇によって塞き止められ熔解が途中で終わる。神器の進行を止めた《月讀》は剣を無理矢理振るうことで少年を弾く。少年は後ろに飛ばされ、《月讀》も後方へ下がる。

 その際に《月讀》はバランスを崩してよろめく。対して少年は綺麗に地面に着地して再び《月讀》に斬り掛かる。信じられないことに今のは《月讀》が少年を弾いたのではなく、少年が《月讀》を弾いたのだ。

 少年は素早くその懐に飛び込む。

 その直前。

 《月讀》は少年を右拳で殴る。引力の働く闇を纏った拳を。引力とは即ち重力。生身の人間にそれをぶつけるのは少々抵抗があったが、今はそれどころではない。相手は巨人が振るう大剣も受け止め、弾き返す超人なのだ。

 鈍い音と共に少年が勢いよくコンクリートの壁に叩きつけられる。同時にバガンッ! と爆発に似た音が響く。だが、それは少年が壁に当たった音ではない。

 それは、少年が壁を砕いた音だった。

 少年が飛ばされた壁には円型の穴が広がっている。砕けたというより隕石でも落下して出来たクレーターのような形だ。円を描いた穴の周囲は蒸気のような煙が上がり、それを作った剣も同じように白い波を立てている。

 その中に少年は神器を片手に何事もなかったかのようにこちらを見ていた。多少の汚れはあるものの、ダメージを負ったようには見えない。

「完全に受け止めたつもりだったが・・・・・・流石と言うべきか」

 少年が余裕の態度で呟く。

 正直勝てる気がしなかった。こいつは凶暴化したアラナミの時以上に危険な存在だ。雫は一体何をやっているんだ!?

「これで終わりにする」

 少年が神器を構えて《月讀》に飛び掛る。体勢を整えた《月讀》も拳に闇を乗せてそれにぶつける。

 刹那。

 その間に影が割り込んだ。

 影はブロンドの髪をなびかせて少年の剣を手にしていた長い棒で薙ぐ。同時に片足で《月讀》の腕を払った。正確にはその動作をしただけで実際にはどちらにも触れていない。見えない力によって《月讀》と銀髪の少年は弾かれる。

「双方、武器を納めろ! これ以上の戦闘は第一生徒会、レーメル・クラウンゼルグが許さん!」

 僕らの前に現れたのは金髪碧眼の少女だ。

 着ている制服から修山学園の中等部と判る。身長は一五〇センチにあと少しで届くくらい。左右真横に結ばれた金髪のツインテールに小柄な体格を見ると年齢よりも幼く感じる。名前からして留学生か、日本に家族が籍を置いているかのどちらかだろう。第一生徒会に在籍ということは案外後者の方かもしれない。それだけならまだ普通の範囲内である。

 ただし、その手にしているものが普通から外れていた。

 日本刀。

 長い棒だと思っていたそれは鍔のない漆黒の鞘に納まった刀だった。長さは丁度少女の身長と同じ――――――いや、もしかしたら少しだけ刀の方が長いかもしれない。

 レーメルと名乗った少女は左手で鞘を握って右手を刀の柄に置き、いつでも抜刀できる姿勢を取る。そして銀髪の少年を睨みつけて言う。

「貴様。十世戒教団のエドワード・サンフリットだな?」

「そうだと言ったら?」

「貴様らの目的を洗いざらい吐いてもらう」

「断る」

「だったら自分から話したくなるようにしてやるまでだ!」

 刀を鞘に納めたままレーメルはエドワードと呼んだ少年に向かって突撃する。エドワードも灼熱の剣を構えてレーメルに刃を向けた。お互い間合いに入ったところで剣を動かす。ギンッ! と鉄と鉄がぶつかる音が響き渡る。《月讀》の時のように鍔迫り合いになることはない。

 鞘から抜かれたレーメルの刀が暗闇で閃く。エドワードはそれを剣で受け止め、押し退ける。簡単に弾かれて後方にバックしたレーメルは止まることなく足を前へ踏み込む。自分の身長以上の武器を空気に滑らせるように振るう。エドワードはそれを剣の構えを反対に変えて受け流し、柄頭をレーメルの腹へとぶつけようとする。しかし、それ以上の動きでレーメルは体を捻り、攻撃をかわしてから鞘でエドワードの横顔を殴りつけた。

「ぐっ・・・・・・」

 エドワードが顔を顰めながらレーメルを睨む。レーメルが鞘に刀を納めて再び攻撃に入ろうとする。口の中が切れたのか、エドワードが血を地面にペッと吐いて剣を横薙にレーメルに振るう。それを跳躍してレーメルは避ける。人間では有り得ない高さまで飛び、鞘に納まった刀を構える。

「避けることの出来ない空中に逃げるとはな・・・・・・舐められたものだ」

 エドワードの言う通りだ。空中では身体能力の上がった神器使いとはいえ、攻撃を避けることなど出来ない。先程のように器用にかわすのも難しいだろう。例え出来ても落ちる場所が決まっている以上行動は読まれてしまう可能性もある。それとも落下する勢いに任せて叩き斬るつもりなのか?

 エドワードは落下するレーメルを下から剣を打ち上げるように斬りつける。剣の刃は真っ直ぐにレーメルへと向かっていく。そして剣がレーメルの体を斬りつける。

 その瞬間。

 レーメルが空中から消えた。エドワードの剣は再び空回りする。一方でレーメルは空を蹴り、剣の軌道から離れて地面に着地する。無防備になったエドワードのすぐ傍を。

「な、に・・・・・・!?」

 エドワードの表情が驚愕に変わる。

 それを合図にレーメルは鞘から刀を抜き、その勢いそのままエドワードにぶつける。

 鞘から素早く抜き放つ動作――――――抜刀術。

 一撃必殺と呼ばれる技をまともに受けたエドワードは四メートル近く離れている壁にノーバウンドで激突する。そして、壁に蜘蛛の巣のようなヒビを作ってから地面にずるずると背中から滑るように地面に落ちる。

「甘く・・・・・・見ていたな」

 エドワードが壁にもたれながらそう低く呟く。

 斬り傷はない。あの僅かな時間でエドワードはレーメルの攻撃を防いだのである。完全に受け切れなかったから吹き飛ばされたのだ。

「ふん。貴様でなくとも私のような小娘に最初から全力を出す輩などいないからな」

「いや――――――次からは全力で相手をさせてもらう」

「次?」

 レーメルが刀を鞘に納めて再び抜刀の姿勢を取る。

「次、という選択肢は貴様には既にない」

「そうかな?」

 エドワードの口元が歪む。

 同時に道路から外れた木々の間から人影が飛び込む。それはエドワードを庇うように僕らの前に立ちはだかった。

「えどわーどさん、大丈夫ですかあ?」

 なんとなく菊池に似た雰囲気の奴が出てきたな、と思った。

 現れたのは綺麗に切り揃えられた前髪のロングストレートの少女。癖毛なのか所々髪が似たように跳ねている。小柄だが手足がすらりと長く、腰の位置も高い。

 更にその手には二メートル以上の槍が握られている。間違いなく神器使いだ。

「ダメじゃないですかあ。相手はミデン・エクソシストの神器使いなんですから、手加減するなんてありえませんよお」

 少女は呆れたように言う。聞きなれない単語が出てきたが今はそれを訊くことも出来ない。

「そうか」

 ぶっきらぼうにエドワードが答える。

「そうかって。知らなかったんですかあ?」

「あまり興味なかったからな」

「それじゃダメですよお。見た限り今なんて本命を持ってないじゃないですかあ。折角の討ち取るチャンスを逃すなんて勿体ないですよお」

 それを聞くとレーメルはどうやら有名人のようだ。戦いを見たから解るが、レーメルは年齢からは信じられないくらい強い。まあ、修山学園の敵である教団が実力者の名前を覚えていてもおかしくはない。

「問題ない。今興味を持った」

「今じゃ遅いですよお」

「次に会う時は本気でいくさ」

「おい、貴様ら」

 こちらを無視して話を進める二人にレーメルが冷たい声で呼ぶ。

「敵を前にして余裕だな。貴様もそこに転がる仲間と同じようにしてやろうか?」

 レーメルが挑発するように言いながら刀を構える。僕も警戒して《月讀》をいつでも動かせるようにする。

「それは勘弁してほしいですねえ。あたしは誰かを庇いながら戦うなんて出来ないですからあ。・・・・・・だからあ――――――」

 少女は槍をクルクルと回してから刃を地面に突き立てる。

 瞬間。

 ガゴンッ! と地面が揺れた。

「な・・・・・・っ!?」

 まるで地面に吸い込まれるように体がよろめく。レーメルは地面に日本刀を突き刺して何とか立っている。

「今はここでさよならとしましょう」

 言うと教団の二人が視界の上へと上がる。

 ――――――違う。僕が下がっているんだ。

 アスファルトが砕け、地面が地面を呑み込むようにその地に立つ僕とレーメルごと沈めていく。地面が陥没しているのだ。しかもここは山の斜面を道として作った場所だ。そんなところに穴なんて作れば――――――

「土砂崩れ――――――!?」

 突如現れた穴に落ちると思いきやそのまま滑るように土の坂を転がる。僕は視界の端で《月讀》が同じように横転するのが見えた。転がりながら慌ててグリモワールに《月讀》をしまう。自分の巨兵魔器に潰されるなんて笑い話にもならない。

「捕まれ!」

 レーメルが手を差し出しながらこちらに跳躍してくる。その手を取ると、木から木へと器用に飛び移りながら土砂崩れから逃げていく。被害に遭ってない場所に着地してレーメルは僕を降ろす。自分よりも小さな女の子に担がれる日が来るとは思わなかった。

「ありがとう」

「構わん」

 レーメルはそういいながらずっと視線を真っ直ぐに向けている。

 僕も同じ方向を見る。

 土砂崩れが起こったのは僕らがいた場所から周囲十メートルくらいのところだけだ。それでも、そこだけごっそりと土が削られているため、人が行き来するのは不可能。勿論、通学用のバスも通れるわけがない。更に下へ流れた土砂も片付けなければ道があっても通行することが出来ない。

 当然、これを作った本人はすでに姿を消していた。

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