第10話:地底に眠るもの(3)
ミライと陽山がいる場所に着くと、機械の残骸が数え切れないほど辺りに転がっていた。
門番がいた広場と違ってここは自然に出来た穴を無理矢理通路にしたような場所だった。照明があるわけでもないのに明るい。よく見ると壁が所々発光している。何か人工物でも埋め込んであるのかもしれない。
二人を見つけるのは簡単だった。
「やあああああっ!」
ミライの怒涛が響き渡る。気合の雷撃を放つとあっさり十体以上の防衛兵器が大破して吹き飛ぶ。頑丈そうな装甲の割りには簡単に破壊される。
「――――――ふっ!」
陽山は一体一体両手に握る剣で斬り伏せ、遠距離から矢を射とうとする防衛兵器を炎で撃退する。
「陽山! ミライ!」
僕が二人の名を呼ぶと同時にこちらに振り返る。
「ハルユキっ!」
「永峰くんっ!」
それが彼女たちに隙を作ってしまった。
「バカ! 戦闘中に余所見するな!」
最初にそれに気づいた高津原先輩が二人に叫ぶ。だが、遅かった。
「きゃっ」
二人に矢が放たれ、神器で何とか防ぐものの吹き飛ばされてしまう。地面を転がる彼女たちを防衛兵器は容赦なく襲い掛かる。
「二人を護れ、《月讀》!」
グリモワールから《月讀》が現れる。本日二度目の召喚に体が重くなる感覚が襲う。呼ぶだけで精神力が消耗するのだ。
「バカが・・・・・・」
隣で先輩が呟く声が聞こえた。
すると、防衛兵器の照準がミライと陽山から《月讀》に変わる。そして《月讀》の巨体に一斉に矢が放たれた。鈍い音が複数に重なって広間に響く。《月讀》はなすすべもなく射たれた反動で後ろに横転する。
「後先考えずに巨兵魔器を呼ぶな。もう少し考えてから意味のある行動をしろ」
先輩の責めるような言葉。そんなことを言われるのは出会ってから初めてだ。
《月讀》の装甲には太い矢がたくさん突き刺さり、当たった部分からヒビ割れしていた。それを見てあのサソリもどきの攻撃力の高さを思い知らされる。
バガンッ! という爆音が突如聞こえた。振り返るとミライと陽山が《月讀》を攻撃してきた防衛兵器の集団を破壊したところだった。
「――――――意味なら、あります!」
「私たちがこうして無事でいられたのはハルユキのお陰よ。無意味なんて言わせない!」
剣を振るいながら戦う二人は自信を持って言う。その言葉に先輩は面白い、というように笑った。
「参ったな。これでは俺が悪人だ――――――いい仲間を持ったな、春幸クン」
「はい」
「では、その仲間の期待に応えようか?」
返事は必要ない。僕は自分の力の名を叫ぶ。
「《月讀》!」
《月讀》は起き上がり、鎧の隙間から覗かせる赤い目を敵に向ける。二人のサポートに回るために指示を出そうすると――――――
カサカサカサ。
虫が壁を這うような音が聞こえた。音源は真上からで、見上げるとそこには大勢の防衛兵器が天井に張り付いていた。
「あー・・・・・・これはまずいかも」
先輩がのん気に眺めながら呟く。それを合図に防衛兵器が《月讀》に向かって降下する。
《月讀》に取り付いた防衛兵器は鋏で少しずつ装甲を破壊していく。《月讀》は振り払おうとするが防衛兵器は中々離れない。一体一体掴んで壁や床に叩きつけたりしていくがどんどん増えてくるためキリがない。
「こいつら一体どこから沸いてくるんだよ」
僕は悔し紛れに呟く。
「防衛兵器は巨兵魔器以上の自己修復機能を持っているんだ。だから倒してもまた復活する」
「そんな・・・・・・」
よく見ると入ってきた時にあった残骸の数が減っていた。今ある残骸も不気味にモゾモゾと動いている。
――――――このままじゃやられる。そう思わざるえなかった。
《月讀》は未だに抵抗しているがそれも時間の問題だろう。僕の体力が尽きればその機能は停止する。そうでなくても中の魔器を破壊されればそこで終わりだ。第二生徒会室で見た《雷火》のように《月讀》の中には操魔師の魂の半分が入っている。つまり《月讀》の敗北は僕の死を意味する。
ミライと陽山も奥で戦ってくれているが、顔には疲労が見え、技にもキレがなくなってきている。それでも防衛兵器はどんどん増えていく。
「高津原先輩は何かないんですか!?」
僕は切羽詰まった態度で先輩に詰め寄る。
「ない。あったらすでに使ってるさ。俺もいちおう操魔師だけど、君と逢う前に力を使い過ぎたせいで召喚ができない。共通義肢で戦ってもこれじゃ時間稼ぎにしかならないな」
僕は言葉を失う。先輩がいつまでもあそこに篭っていたのはそのためか。僕たちがいたから仕方なく出てきたが、本来ならまだ船の中で休んでいただろうに。申し訳ない気持ちで頭がいっぱいになった。
助けたい。ここにいる皆を全員護りたい。
僕は決意を決めるようにトランクを握る手に力を込める。そしてそれを地面に置いて留め金を外していく。
「何をしている?」
先輩が何か言っているが、今の僕の耳には届かなかった。
先輩は僕に言った。この強化外装は学園が確認した巨兵魔器のどれにも適合しなかった、と。
学園が確認していない巨兵魔器――――――いるじゃないか。
《月讀》。僕の巨兵魔器だ。あまりにも身近すぎて見落としていた。最近手にしたばかりの巨兵魔器を学園はすでに確認して生徒会にも伝わっている。
だが、一ヶ月も地下に篭っていた彼にはそれが伝わっていない。僕はその小さな可能性に賭けた。留め金を外しても開かないトランクの蓋を力任せに引っ張る。
「僕はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ――――――こんなところで、また大切な人を失うわけにはいかないんだっ!」
溝に無理矢理指を入れていたせいで爪が割れる。血が滲み、痛みが伝わってくる。しかし、僕にはそんなことどうでもよかった。
四年前の空港事故。あの時、隣にいた彼女を僕は救えなかった。その時の辛さは今でも忘れらなれない――――――こんな場所で繰り返してたまるか!
「だから、頼むよ――――――開け!」
その言葉に反応してか、蓋は開いた。ゆっくりと自動に開かれるトランクの中には闇が広がっていた。ねっとりとしたドス黒い液体が揺れている。底知れぬ闇の奥へと誘うように。
「これが、強化外装・・・・・・?」
船内で見せてもらったデータと全然違う。もちろん、あの映像のものがそのまま入ってるとは思わなかったが、これではどうすればいいのか分からない。
「え?」
不安になってきた僕にトランクから突然溢れてきた漆黒の液体が流れてくる。触れても濡れた感触はなかった。僕の影に染み付くように揺れながら闇の液体は徐々に広がる。広がった闇はやがて陽炎のように立ち昇り、僕の全身を包み込む。不安はなかった。むしろ、力が漲ってくるような気持ちだ。
陽炎はやがて僕だけでなく、離れた場所にいる《月讀》も包む。
紅い瞳に更なる光が宿り、全てを呑み込む虚無の闇が《月讀》の体に纏わり付く。その闇からアルファベットのようなものから見たことのない記号が光と成って数え切れないほど浮き上がった。さっきまでとは比べ物にならないくらい力が湧き上がる。その力が体を大きく振っただけで《月讀》に張り付いていた防衛兵器を全て弾き飛ばす。
そして、背中に闇色の円型が現れた。《月讀》をも超える巨大な魔法陣が。その円の中には先程《月讀》に浮き上がった文字や記号が配列され、強く発光する。そこから新たな闇が噴出す。やがて、魔法陣から噴出した闇が次第に形を成す―――――――漆黒の悪魔のような翼へと。
四枚の機械の羽を生やした《月讀》は背中の中央にある突起に左手を伸ばし、それを勢いよく抜く。
抜かれたのは剣だった。
飾り気のない鉄の塊のような大剣。テールスタビライザーの延長上のものかと思っていたが、どうやら飛行ユニットの中央に空いた隙間はこれを納める鞘の役目でもあったらしい。
反撃の準備はできた。あとは――――――
「敵を殲滅しろ、《月讀》!」
大剣に光が宿り、魔法陣に使われていたような文字記号が浮き上がる。それが炎のように揺らめいて輝いた。
僕の声に応じて《月讀》は大剣を片手で振るった。攻めてくる敵を斬るというより叩くように攻撃する。剣を振るう度に漆黒の陽炎が尾のように伸び、空気に張り付く。一薙で十数体の防衛兵器が斬り飛ばされ、飛び掛ってきた敵は闇の光を纏った右拳で掃う。左手で斬り、右手で殴る。それを繰り返して《月讀》はやや強引だが確実に進行していく。
「先輩、行きましょう。防衛兵器が復活する前に!」
「あ、ああ」
先輩が《月讀》の暴れっぷりに微妙な反応をする。僕は気にすることなく《月讀》に続く。ミライと陽山に追い着くのは思ったよりも早かった。
「え、《月讀》!? 何これ、かっこよくなってない?」
ミライが驚きの声を上げる。それを遮るように空気を裂く轟音を鳴らしながら《月讀》は大剣を振り回す。あっという間にこの辺一帯の防衛兵器は片付いた。だが、奥からカサカサと歩く音がまだ聞こえる。
「先輩、出口はどこにあるか分かりますか?」
「うん。この丁度この真上へ行けば橋がある。そこからなら防衛兵器を避けて出ることが出来るよ」
「真上・・・・・・」
見上げると先が見えないほど空洞が広がっていた。
「じゃあ、《月讀》なら行けますね」
「そういうこと。よろしく」
飛べんの? とかミライが言っているが無視して《月讀》を屈ませる。大剣を背中に戻し、両手に全員が乗れるように掌を出す。全員が乗ったことを確認してから言う。
「飛べ、《月讀》!」
僕の声で《月讀》の体が宙に上がった。羽の先端が赤く光り、エンジンを噴かせながらゆっくりと上昇する。
「飛んでる飛んでる!」
ミライが興奮して身を乗り出しながら下を眺める。陽山も珍しいものでも見る目で同じように下を覗く。落ちるなよ、頼むから。
一分もしない内に橋が見えた。といっても腐っていて人が乗れば落ちてしまうくらいボロかった。
《月讀》が橋の繋がっている穴の先に手を差し出して道代わりになる。最初に先輩が入って次に僕が続いた。本来ならレディーファーストと言いたいところだが、落ちないように手を差し伸べる役も必要だろう。僕はミライの手を取って穴に引き寄せ、最後に陽山に手を伸ばそうとすると――――――ガンッという音と共に《月讀》が揺れる。
それは、防衛兵器が《月讀》の頭上に落ちて来た音だった。
「何でこんなところに!?」
声を上げたのは先輩だ。本当に予想外の展開なのだろう。
「陽山、飛べっ!」
手を出すがそれが届く前に《月讀》のバランスが崩れて陽山の足場が失われてしまう。陽山は女の子らしい悲鳴を上げながら《月讀》と共に落下していった。
「陽山あああああっ!」
僕は叫びながら穴から身を乗り出して下を覗く。だが、高度がありすぎて下が真っ暗で見えない。どうしよう、どうすればいい!?
僕は突然のことで頭の中が混乱する。すると、カサカサカサと防衛兵器が反対側の穴の壁に張り付いている。それは尻尾に付いた矢を僕らに向けて今にも攻撃しようとしていた。
「どけっ!」
先輩が僕の首根っこを掴んで後ろに引き降ろし、左手を防衛兵器に向ける。機械仕掛けの腕をした手首をドアノブを回すように動かす。その動きに合わせて防衛兵器の体が曲がる。体の中心を軸にして捩れていき、やがて原型を崩して落下していった。
「落ち着くんだ、春幸クン。君が取り乱したら助けられるものも助けられない」
「・・・・・・すみません」
今の先輩の機能はすごいと思ったが、それ以上に僕は自分が恥ずかしかった。先輩の言う通り取り乱せば出るアイデアも出ない。
「《月讀》を呼んでみろ。飛行機能が壊れていなければちゃんと上がってくる」
「はい」
一度深呼吸をする。気持ちを落ち着かせて僕は《月讀》の名を呼ぼうとする、が――――――
ドバッ! と正面にある壁が吹き飛んだ。爆発して砕け散ったわけではなく、壁の一部がそのままの状態で大砲の弾のように飛び出してきた。その速度は一瞬と呼ぶに等しい速さだった。それをミライが僕の横から雷撃を放ち粉砕する。バカンッと音を立てて崩れ落ちていく土の塊を見て安堵する。壁が土だったからよかったものの、これが鉄だったりしたら僕らは即死だ。
「――――――ごほっ、ごほっ。何なのよ!」
「もう少し穏便に済ませられなかったの?」
「地図通りならこの先は空洞だからこれでいいよ」
土煙の向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。土煙が晴れると、そこには壁に大きな穴が空いていた。そこから藍色の巨人が腕をこちらに伸ばしている――――――巨兵魔器だ。
その肩に乗っているのは今朝会った第三生徒会会長、水無瀬薫瑠。そしてその隣には何故か倉嶋部長がいた。
「どうして部長と水無瀬会長が!?」
僕が驚きの声を上げると二人はこちらの存在に気づく。
「ほら、アタシの予想通り。目標を発見できたわ」
「偶然でしょう?」
嬉しそうに言う水無瀬会長に冷たく答える倉嶋部長。何がなんだか僕には解らない。
「あなたたち、すぐに外に出るわよ。和真君も栞さんも君たちの帰りを待ってる」
「あいつら無事なんですか?」
「ええ、今頃部室で作業中よ」
作業中? 何の作業だろう。そんな疑問を尋ねる前に事態は更なる悪化が訪れる。
「ちょっと、水が流れてるじゃない。一体どんな無茶したのよ!?」
「アンタが直辰が、直辰が、って急かすからでしょうが!!」
「ちょ、後輩の前でやめてよ!!」
倉嶋部長が顔を真っ赤にして叫ぶ。どういう経緯かは分からないが二人は高津原先輩を心配して助けにきたようだ。
だが今はそれどころではない。部長たちの背中から水が溢れている。どうやらどこかの溜まった水を掘り出してしまったらしい。巨兵魔器が蓋のようになっているお陰であまりこちらに流れていないがその勢いは凄まじそうだ。
「早くそっちの道から外に出て!」
「待ってください。まだ下には陽山がいるんです!」
「陽山って陽山沙月のこと? この真下にいるのね?」
「はい、そうです」
「分かった。アタシが助けにいくからアンタたちはさっさとそこから逃げなさい」
「でもっ――――――」
水無瀬会長に反論しようとすると高津原先輩が僕の肩を掴む。
「沙月クンは薫瑠に任せて俺たちは行こう」
「でも・・・・・・」
「行きましょう、ハルユキ。ここにいたらあの人たちの邪魔になるわ」
邪魔になる。その言葉に僕は衝撃を受ける。
「・・・・・・わかった」
僕はそれでも残ろうと思ったが、ミライの言葉でその考えがあっさり砕ける。僕は先輩たちにとって足手纏いなのだ。
くそっ、と心の中で吐き捨て、グリモワールに《月讀》をしまって僕は迅速に脱出した。足手纏い、と頭の中に出てきた自分の言葉を掻き消すようにがむしゃらに走って。
僕たちが外に脱出してから十分が経った。たった十分だが、それが僕には無限の時間に感じられた。
外に出た頃には夕日が沈みかけていた。時間と共に茜色の陽射しが低くなり、その影が車庫を閉めるシャッターのように見えて僕の心を不安にさせる。夕日が完全に沈んだら陽山も水無瀬会長も出て来れなくなる。そんな気がした。
「ハルユキ」
ミライが僕の名前を呼ぶ。僕はそれにどう反応していいか困った。
「いつまでここにいるの? 休まないとぶっ倒れるわよ」
僕のいる場所は脱出した出口から十メートルほど離れた岩場だ。僕はそこにある大きな石に腰掛け、脱出してからずっと洞窟の穴を睨んでいる。
「陽山が帰ってくるまで僕はそんなことはできない」
「そうやって気張ってるハルユキを見たら、サツキが心配することくらい解るでしょ?」
知っている。彼女は自分のことよりも他人のことを心配する性格であることを。大袈裟に僕の指に巻かれた包帯を見ればどんな反応をするのかも手に取るように解る。今の僕を見たらすぐに駆け寄って来るだろう。
「今日はハルユキのお陰で全員が助かったんだよ? サツキたちより先に休んでたって誰も責めないって」
「・・・・・・違う」
僕のお陰で全員が助かった? そんなの違う。ミライと陽山がいたから、高津原先輩が力をくれたから、倉嶋部長と水無瀬会長が救出に来てくれたから、助かったのだ。
「僕は何もしていない」
僕は《月讀》をうまく操れなかったせいでミライと陽山に無駄なダメージを負わせてしまった。《月讀》自体も僕の半端な命令のせいで無駄な損傷を与えてしまった。自殺もいいところだ。
「僕は全員を救えていない」
「そんなことない。ハルユキは頑張ったわ。皆助かったんだからいいじゃない。サツキはまだ戻らないけど、きっと助かるわ」
「違う。そうじゃない」
高津原先輩と倉嶋部長は僕が知る中でも信頼できる存在だ。その二人が水無瀬会長を買っているから信じられる。だが、僕が悔やんでいるのはそんなことではない。
「僕は助かりたかったんじゃない――――――」
涙が出てくる。そんな顔を見せたくなくて項垂れる。
「自分の手で皆を助けたかったんだ」
自分の失態。それでいてこの傲慢さ。僕はとことんバカだ。それでも、やはり思ってしまう。あの時こうしておけば良かった、と。あの時、洞窟内で陽山の手をちゃんと伸ばしていれば彼女もここにいたのだ。――――――四年前のあの時、ちゃんと僕が護ってあげれば秋菜は普通に学生生活が送れたのだ。
僕の選択はどこまで行っても失敗ばかり。ホント、自分で自分が嫌になる。
「そんなの誰だって思ってるよ」
え、と僕は顔を上げる。
「誰だって皆のヒーローを求めてるし、誰だって皆のヒーローに成りたいって思ってる」
そうミライは自信に満ちた顔で言う。
「だから、皆助け合うのよ。完璧な個人なんていない。皆が集まってお互いを助け合えば完璧な仲間が出来ると思わない?」
「はい」
答えたのは僕じゃない。ミライの後ろから長い黒髪を後ろに結んだ少女が現れる。
「自分一人では限界があります。だから――――――もう少し頼ってください。私も永峰くんの力になりたいから」
陽山が僕に力を分けるように笑う。今の僕にはそれがとても眩しかった。
「そんなの、陽山だって同じじゃないか」
僕が《雷火》に襲われそうになった時、偶々居合わせただけで僕を逃がすために剣を取ってくれた。陽山家で祐哉に殺されそうになった時、寝込んでいたのに無茶して僕を助けにきてくれた。僕だって、陽山の力になりたかったのに――――――
「そうですね。だったら怒ってください。永峰くんが今度同じことしたら私も怒りますから」
顔は変えずに、それでいて芯のある言葉を告げる。
そして、陽山はポケットから水玉模様の可愛らしいハンカチを取り出して僕に差し出す。
「涙を拭いてください。皆助かったのに、永峰くんだけ苦しんでるのは間違ってます」
僕は素直にハンカチを受けとって涙を拭う。
その間に陽山は鞄から箱を取り出す。出発前にサンドイッチを入れたと言っていたパックだ。鞄は水で濡れたが、パック詰めされたサンドイッチは無事だったらしい。
「中では食べれなかったから・・・・・・よかったらどうぞ」
僕は端にあるサンドイッチを取って口に運ぶ。ミライも僕の隣のを取って頬張る。
「あの・・・・・・どうですか?」
陽山がおずおずと遠慮がちに呟いた。
「うん・・・・・・おいしいよ」
陽山は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。僕もそれに救われたように笑顔になる。ミライもそれにつられて顔を綻ばせる。
全員が助かって、こうして笑い合える。
今はこの時間を素直に喜ぼうと思う。
それが、僕らの幸せだから。
全員が無事に洞窟を脱出してから数時間後。
仕事の報告を終えてから高津原直辰は第三生徒会室を早々に出る。これ以上由貴美を待たせると何をされるか考えただけでゾッとする。
だが、その前に彼にはやって起きたいことがあった。
携帯電話を開き、電話をかける。この結果を誰よりも聞きたがっているあの男に。
男は思ったより早く電話に出た。
「お久しぶりです――――――ええ、ちゃんと彼に渡りましたよ」
指示された通り行動したことを伝える。報告を聞き終えると相手の満足ような声がスピーカー越しに伝わってくるのが解った。二、三簡単に言葉を交わしてから最後に挨拶をする。
「では、また何かあれば連絡してください――――――真堵さん」
追伸。
倉嶋部長が洞窟で言っていた『作業』は僕らの今度のテスト範囲の問題集を解くことだった。倉嶋部長が趣味(?)で製作した問題をプリントにしてその後の僕らもやる羽目になった。
理由は単純で、来週にテストを控えているのにも関わらず立入禁止の場所に入ったからだそうだ。生徒会の管轄なので揉み消してあげる代わりに全員が泊りがけで勉強会をすることになってしまった。揉み消す理由が何故テスト勉強なのか不明だが、逆らうことが許されなかったのは言うまでもない。
そのお陰(?)で全員の成績が良くなっていた。学年の順位も全員上がったが、何故か僕だけ順位がいつもの五位くらいしか上がらなかった。当然ながら後ろから数えた方が早い。
そのことが気に喰わなかったのか、僕だけ倉嶋部長によって期末テスト対策の特別メニューの勉強プログラムが組まれた。
やれやれ。