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-A.I.project-   作者: sizk03
2/10

Mission02 【スパイをスパイしてるつもりがスパイされているスパイラル②】


2050.01.22.17:18


 襲撃から逃れたエディは東京中心地から逆の方向に走った。

 途中から道路脇の山に隠れ、追手がないと分かると、急いで本部に連絡を取る。

「襲撃された。オレは逃げ出せたが協力者が捕まった。救出を頼む」

 それだけを言うと通信を切る。

 ハァハァと呼吸を整える。日本の乾燥した冷たい空気が今は心地よい。

 木にもたれ掛かり、上を見上げ、頬に銃を当てて熱を確かめつつ思った。


 カッコいい、オレって最高にクールだ!


 エディがCIAのエージェントになってからまだエキサイティングな仕事はしたことはなかった。今回の襲撃からの逃走が実質初めての銃撃戦だ。我ながら上手く立ち回れたと思う。


 次は仲間の救出だ。

 ヒーローってのはどうしてもこういった場面に出くわしちまうんだな・・・。


 エディは子供の頃からミッションインポッシブルや007などの映画に憧れ、主人公になりきる、心理学で言う所の同一化をしていた。子供の頃はまだ大人は笑っていたが、ハイスクールで粗暴な同級生チームのイジメを懲らしめて警察沙汰になった時、たとえ犯罪者が銃を持って学校に侵入してきても簡単に撃退してやる、と息巻いているのを聞いて両親は彼が本気であると知って慌てた。コレが厨二病か、と。

 とにかく、エディは中二の心のまま成長した。陸軍を経験した後に念願のCIAエージェントとなった頃には、最強のエージェントにオレはなる!と、麦わらの男の様に根拠のない自信を誇大させている。


 ショーンを救出した後・・・、と妄想する。ショーンを拉致した世界の転覆を謀る秘密結社の陰謀を知って、頼もしいチームの援護を受けながら、オレの華麗なアクションで敵を追い詰めるんだ・・・。

 セントラル研究所帰りを狙ってショーンを拉致した、何故だ。

 奴らはオレがCIAと知っていたのか、それとも無差別に襲っているのか?

 敵のアジトから手掛かりを見付けなくては・・・。


 エディはいよいよ物語が始まる気がしていた。


 ツーツーとunknownから着信が入る。本部からの折り返しだ。

「ヘロー!襲撃されたって?災難だったな。お前はどこも怪我はないかい?」

 渋い声のトミーが暢気に尋ねる。トミーは50代で白髪だらけだが頼れるエディのパートナーだった。アシスタントとか作戦を考えるのが得意だ。

「あぁ、どこも怪我はない。それよりショーンが捕まった。救出が必要だ。ヨコタの特殊部隊をスタンバイしてくれ。オレもヨコタに向かう」先ほど考えた敵の事も伝える。


 エディはコンタクトにマップを表示させると横田米軍基地までのルートを検索する。

 思った通りさほど距離はないようだ。車なら10分もあれば到着する。

 何か、カッコよく悪人から奪い取ったバイクで駆け抜けたい所だな、妄想がはかどる。


「・・・よし、OKだ、待機中の隊がいる。

 それと事故現場にいた前後の車は既にGPSで追っているぞ。やつらは賢いな。レッカー車で事故したお前らの車を牽いてるようだ」

「そのためのレッカー車だったのか。途中強引気味に割り込んで来た時に気付くべきだった」

「それからショーンのコネクトで位置情報を確認しておくよ。お前も救出に参加するのか?」

「もちろんだトミー!オレはショーンに救出しに行くと約束したんだ」

 エディは木から背を離すと、葉が枯れて裸になった木の間を歩き始める。常に映画のワンシーンのような立ち振る舞いを意識していた。


「そうかい、お前さんが何でも自分でやりたがるのは知ってるさ。おっと、ショーンのコネクトを通信オフにしてやがる。だが無駄さ。国家権限で強制的にバックドアから位置情報だけオンにしてやる」

「頼もしいな、だが完全に違法だぞ。まぁいい。聞かなかったことにしとくよ」

 エディは軽やかに走り出す。高級車がゆっくりスタートするイメージだ。


「奴らの正体が分かったぞ」トミーが告げると同時にエディのコンタクトレンズに情報が映し出される。

「俺たちと一緒で、セントラル研究所の情報を狙っているテロ組織らしい。活動はつい半年前かららしい。中国共産党のどこからかの手足となって動いている末端組織みたいだ。まとめ役の洪はシンガポール活動していたが目をつけられて、日本に逃げてきたみたいだな」

 短髪のマフィアみたいな風貌の東洋人の顔が映る。空港の入国ゲートでの画像だ。

「オレ達が潜入する情報はどうやって漏れた?」

「それは分からんがハッキングされたんだろうな。なんせウチは攻撃力はあるが防御力はどうしたって劣ってしまう、世界一有名な諜報機関の宿命ってやつさ」

「中国のサイバー軍は凄腕だと聞いた事がある」

「規模もでかいしな。こっちは知恵を絞って何とかするしかない、で、今回、ショーンをさらったテロ組織の情報は日本の警察のデータから引っ張ってきた。よく調べてやがるぜ、俺達が覗いている事も知らずにな」

 トミーが悪そうな顔をしているのが想像できる。だが今はその組織、もしくはその上部機関がどんな企みをしているかが重要だ。


「奴らの企みを阻止してやるぞ!!」

「えっ?企み?」何を言ってるんだ、とトミーが抜けた事を言う。

「そうだ!オレ達が世界を救うんだ!!」

 エディは力強く叫ぶとガードレールを飛び越えた。


 俺のカッコいい姿を見たか、上層部!

 もっと危険でスリルのあるオーダーを出したっていいんだぜ!


「いやっ、お前が救いに行くのはショーンだろ?

 なぁ、世界ってなんだ?

 ・・・いい加減、お前の妄想癖にはついていけないよ・・・」


 日も落ちて辺りは暗くなり、寒空に蒼と白を散らした雲が浮いていた。

 その中、彼の勇姿を見ているドローンや偵察衛星、はなく、雲しか浮いてなかった。



2050.01.22.17:35


 車量は多いが少し寂しい雰囲気がする道路沿いの、元はコンビニだった古い平屋建てが、大きな駐車場にポツンと建っていた。敷地外周は高い目隠しフェンスで囲まれている。

 松山建設(株)倉庫、と看板を立てて、それらしい外面を装っているがここはセントラル研究所を破壊する事を目標とした中華系テロリストのアジトだった。


 反社会的な弱小の組織である自覚はある。というか、そう仕立て上げられた組織だと、洪は薄々気付いていた。祖国にとって、少しでも騒ぎが起こせればよし、全員逮捕されても痛くない、ただの都合のいい組織になってしまった。

 今回もスポンサーという名の祖国から情報が送られてきて、さも我々の活動に沿うように、セントラルの情報をCIAのアメリカ人から聞き出すために拉致せよ、と指示されたが、本当はその後の身柄を国同士の取引に利用したいだけなんだろう。

 そもそも、その情報だって祖国のサイバー軍やスパイがCIAから情報を盗んだ不確かなものであった筈だ。それを実際に空港や米軍基地、セントラルを張り込んで決行までこぎつけたのは俺たちだ。リスクばかり押し付けやがって、と怒りが募る。


 作業服を着た部下たちが引きずるように、拉致したアメリカ人を事務所内に連れてくると床に敷いたマットの上に転がす。マットには血の跡が無数についていた。

「やめてくれ、俺は何も知らされていない!!」

 黒い袋を頭に被らされ、手を後ろに縛られたままのアメリカ人は怯えた様に喚いた。

「うるさい、なっ!」

 大男の部下が広東語で言いながら腹を蹴り上げる。そして、グウゥ、と呻き体を丸めるアメリカ人に近づくと黒い袋を乱暴に外し、頬を殴りつけた。


「おい、止めとけ!」

 大陸からやってくる下っ端も質が落ちた。大義も思想も何も持ってない。ただのはみ出し者ではないか、と洪は大男を横に押しのける。


「まずはお前の名前から聞こうか」

 簡易な椅子をアメリカ人の目の前に置くと、ドカッと腰を下ろす。

「俺の言葉が分かるか?」

 アメリカ人のコンタクトには翻訳された英語の字幕が出ている筈だ。

 洪の言葉に、汗をにじませながら頷き返す。

「ボクはショーンだ。ショーン・グレイグ」


「よし、ショーン。お前がCIAなのは知っている。セント・・・

「ち、違うっ!俺はCIAじゃない。カーク博士へのインタビューにエージェントを同行させるように頼まれただけだ!本当だ」ショーンが必死に弁解する。


 洪は手でゆっくりそれ以上を制止すると、バシッ、とショーンの頬を強く平手打ちした。

「オレがまだ話していたろ?次に無断でしゃべったら生皮剥ぐぞ」

 顔をショーンに近づけながら低い声で脅した。ショーンは何度も頷く。

 こういう行為には一つのコツがいる。こちらが冷静にイカれてるのを信じ込ます事だ。


「オレたちはセントラル研究所を潰すために活動する組織だ」

 一旦区切り、ショーンの怯えた表情を見て満足する。

「昔、経済戦争で追い抜いたはずの日本に再び追いつかれようとしている。市場規模が全く違うのにだ。その理由はなんだと思う?・・・セントラルだ。

 セントラル研究所が出来て20年、これまで開発された、スマートフォンに代わるコネクト、水不足を解消する大気還元水、移動通信システム6.0Gと合わさった電波送電など上手くやれば世界を牛耳れるものばかりだ。技術大国たらしめているセントラル研究所、その技術を独占販売しているヤマト、トヨタ、ソニー、パナソニック、それから日本政府。どうだ?セントラル研究所が潰れたら日本は弱体化するとは思わないか?」

 洪は口調に緩急をつけ、質問をぶつけたりして、ショーンに不安を覚えさせようとする。


「だがな、中に入れねぇ。ゲートを無理やり通る事も出来そうにない。それに資材の搬入はすべて、あのSSSって銃を持った物騒な警備会社がやってるからな。隙がねえ。・・で、お前らCIAの潜入があったって訳だ。ショーン、今の状況は理解できたか?すべて話せ、すべてだ!そうだな・・・まずはセキュリティと中の様子について話せ」

 洪は近づけていた顔をゆっくり離し、軽くショーンの頬を叩く。


 ショーンは一度ごくりと喉を鳴らすと、目を伏せながら話し出す。


「セントラル研究所の塀とゲートは二重構造になっていて、正面からは戦車でも突破は困難だとCIAのエージェントは言っていた。ボク達は知り合いの博士へのインタビューとしてアポを取ったんだ。敷地内は一切の撮影は禁止されて・・・」


 突然、部屋が暗闇に包まれる。

 前触れもなく、一切の明かりが消えた。窓には光を通さないシートが貼ってある為にほぼ完全に暗闇だ。


 洪は知っていた。突発的な事柄は、何の意図もなく、意味もなく起こりはしない。その事象は、ある者にとっては不運な、偶然起こった事象でも、ある者にとっては起こるべくして起こる事象である事を。


 洪は即座に脇のホルスターから銃を抜き出す。


 が、そこで、ぞわり、と背中に悪寒が走り、動きを止めた。



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