エピローグ
王都の郊外、丘の上の向こうに剣士イージンを含む集団がいた。
チーム『赤い靴』。その集団の名前である。
剣士、女騎士、女魔法使いという、どうみても典型的なハーレムパーティであった。
そのチームと相対するように立つ一柱の魔人。その名を激情之魔王たる魔王ジャック・ザ・ハートという。
魔王は剣士イージンからチタンコーティングの黒剣を受け取り、満足そうに頷いた。
「黒剣か――、とても中二らしい良い剣だが、いいのか?」
「この剣はシーナが提供した素材で作っている。あぁ。いい女のことを忘れるにはちょうど良いだろう?」
それは、魔王ジャックに対する報酬だ。
「これでお前も、あの乙女鉱山シーナも、世界各国の人間も、ガソリンプールごときと魔王たる我が熱核爆裂弾のどちらが強い攻撃なのか、思い知ったことだろう。そして世界中の人々は我に恐怖するのだ――。なるほど。目撃者を増やしながら攻撃するとは、さすがは黒剣などという酔狂なものを持つ中二の剣士だ。俺は――、久しぶりに大魔法を使えて満足だったぞ――」
「……」
どうやら、魔王ジャックは今回、剣士イージンが煽ったせいで、あの砦を『再度』破壊したらしい。
「しかし、なんと『2回も』爆破されるとはな。あの砦も災難なことだ」
「――ありがとうございます」
「なに、黒剣の対価だ。この黒光り! 中二の心が揺さぶれる! 最高じゃないか。そして俺の恐怖が周囲に広まるのも心地よい。ありがとうもなにもないだろう?」
イージンの周囲にいる女騎士と女魔法使いは不服そうだが、さりとて魔王に何かを言って機嫌を損ねられたらイージンの剣がない以上敗北は必至であり、余計な動きをすることは躊躇われた。
「あぁ、しかしお前を象徴する黒剣がなくなって、お前はこれからどうするのかね?」
「どうするのか? というと?」
「剣を持たない剣士というのも中二的だな。確か――そう、確かパラチオンという北の国に、難しい手と書いてナンデと呼ばれる武術を使う一族がいるという。その一族はアイテムボックスに剣を所持したまま、その剣とおなじATKダメージを与えるという技があるそうな……」
「そ、それは……」
「――ではな。面白そうな対価があるならまた俺は現われよう。その魔笛はまだ貴様のものだ。世界を破壊する力が欲しいのであれば適当に吹くが良い。では、さらばだー」
「ちょ、ちょっと……」
イージンが止めるもむなしく、魔王ジャックは灰になると風と共に消えてしまう。
呆然と眺めるイージンに、隣にいる女騎士が呟いた。
「あぁ、これはもうパラチオン王国にいくしかないね」
女魔法使いも頷いた。
たしかパラチオン王国はカタルニ民国の北にある国家のはずだ。
魔界へと続く魔の森と隣接しており、冒険者の仕事は事欠かない。
そして、パラチオン王国は聖女が多数いることでも有名であった。
あえて言うなら、聖女というのは美しい女性であるという。
「なら――、みんなであのセリフを言うしかないね!」
3人は頷きあった。
「「俺たちの冒険は、これからだ――」」
(完)




